COLUMN

第24回 ここ数日のあれやこれや

●2013年2月27日水曜日(937日目)

 以前から友人の友人という関係で名前を存じ上げていた俳優の栩野幸知さんの来訪を受ける。
 栩野さんは、演技者であり、さまざまな映画などで刺青のメイクアップアーチストもされていて、時代考証もしていていろいろな小物類のコレクションを持っておられる。
 なにより栩野さんは呉市出身、広島育ちでおられる。どうも友人関係から、僕らが呉を舞台にした映画にトライしているという話を聞き込んで、ぜひ一度仕事場を覗いてみたい、といってやってこられたのだった。
 栩野さんのことは、実はまったく別々の知人2人から噂を聞いていて、あまりにもたびたびお名前をうかがっていたので、こちらとしても一度お目にかかってみたいものだと思っていたのだが、直にお目にかかってみると、お父さんが叩き上げの海軍特務士官、お母さんが呉の海軍軍人向け下宿の娘さん、栩野さんご自身はそうしたご両親が人生後半に差しかかってから設けられたお子さんであり、古い海軍時代の呉の雰囲気をいろいろと聞き知って、その身の内に携えておられたのだった。
 栩野さんのお話をうかがってみて、こうのさんの「この世界の片隅に」の中で海軍軍人、軍属たちの服装で腑に落ちないところがあった部分いくつかが、すっと理解できた。
 本来演技者である栩野さんは、呉弁の女性言葉の発声を実演して聞かせてもくれた。こちらではもうひとつよくわからなくって、スタッフ間でああでもないこうでもないとひと悶着していた、もんぺの紐の取り回し方についても教えてもらうことができた。
 栩野さんは、最近作られた戦時中を舞台にした映画に参加中、登場する女学生がもんぺばきで設定されていることを知って、想定されている女学校の階層だと、むしろもんぺなんてはいてないのじゃないか、と反論したのだといわれた。
 「当時の女性はズボンなんかもよくはいてますよね」
 「お嬢様学校だと、みんなでお揃いのズボン作ったりしてね」

●2013年3月1日金曜日(939日目)

 前に書いたNHKの短編アニメーション『花は咲く』の打ち上げの会。
 こうの史代さんもみえた。
 こうのさんはあまりアルコールを嗜まれず、もっぱら梅酒。こちらは帰りの車の運転があるので、ノンアルコール・ビール。
 完成した『花は咲く』は、こうのさんのキャラクターをアニメーション化した第1号なのではないかと思うのだが、いわゆる白箱のDVDを観たこうのさんの感想。
 「わたし、自分の絵を初めて客観的に見たんですよね。なんか○○○いなあ、と思っちゃって」
 「わたしの描くビンボー臭い猫を、よくまあまんまビンボー臭く描いてくださって」
 こうのさんの筆致をできるだけ取り入れようと一同苦労したので、これらはすべて褒め言葉なのだった。
 ところで、こうのさんは最近「猫を飼いたい」といっておられるのだが、その理由を飲みながら(梅酒とノンアルコールビールなのだけど)うかがうと、
 「最近、鼠がよく出るんで、獲ってもらいたいから」
 という愛玩よりも生活のため、という感じがいかにもこうのさんらしかった。
 こうのさんの向かいに座った浦谷さんが、
 「何か趣味ってお持ちなんですか?」
 と聞いた返事、
 「んー、最近は博物館とか行っていろいろ見たりするんですけど、全部マンガと結びついてるみたいな感じもしますねー。これは使える、とか」
 というあたりもこうのさんらしいのかもしれない。
 宴会がお開きになったその場で、グラスを脇へ押しやってキービジュアルの打ち合わせが始まってしまう。まるで、のんびりできなくって申し訳ないです。

●2013年3月3日日曜日(941日目)

 最近、とにかく映画はよく観るようにしてる。寝る前にDVDを見始めて、わりとすぐに寝てしまうのだが、明け方頃に起き直して、終わりまで観る。今年に入ってここまでで44本観た。何本かはくり返し2回以上観てるのだけど、それは勘定に入れないで。
 中に戦争映画だとかも混ざっていて、考えさせられてしまう。多くの戦争映画には、すごくサディスティックな敵役が出てきて緊張感を生み出していたり、そうでないものでは、戦争が一種の麻薬であるらしい兵士として以外生きられなくなってしまった人物だとかが出てくる。こういうのが、ファンタジーみたいにしか見えない感じがする。
 多分、戦争をおっぱじめてしまった責任者として断罪されなければならない特定の人物も当然存在するのだろうけれど、戦争という状況に巻きこまれてしまった一個人にとっては、多くの場合それは逃れられない不条理な災厄として感じられたものだったのではないだろうか。

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