そうしたあいだにも、短い仕事をいくつか手がけたりもしている。
ひとつは2012年の8月から9月にかけて作ったトヨタ自動車のコンセプト映像「約束への道」で、この頃は、『この世界の片隅に』の絵コンテもかなりできあがっていつつ、それを画面にしてゆくスタッフが揃っていなかった時期で、そのあいだを突いて急ごしらえの編成で1本作ってしまおうというのだった。
この仕事を引き受けてきた丸山さんがこちらに振ってきつつ、添えた軽い条件は、
「いつもの片渕くんのキャラでやって」
というものだった。
「片渕くんは『アリーテ姫』みたいな『マイマイ新子』みたいなキャラクター・デザインで売ってゆけ」
いうのが丸山さんの考え方だった。なので、長年の相方である浦谷千恵さんにキャラクターのラフデザインを頼み込み、作画監督にはいつもは『GUNSLINGER GIRL.』などのクールなキャラクターを描く阿部恒くんにお願いした。片渕・浦谷・阿部は一時期虫プロダクションで机を並べて『うしろの正面だあれ』などを作っていた仲だったりする。
企画側との最初の打ち合わせが8月13日で、9月26日完成。5分半ほどの短編で、合計78カット。
この『約束への道』ができてひと月経った10月中旬に、丸山さんからまたもや、
「短いのをもう1本」
と、いわれてしまった。本来ならば『この世界の片隅に』のパイロットフィルムを作り始める予定になっていた頃合いだったので、さすがにそれは、とも思ったのだが、話を聞いて引き受けざるを得なくなった。というのは、今度の「短い仕事」は東日本大震災の復興支援ソングをアニメーションで映像化するという仕事だったからだった。この連載の第19回でも触れたように、宮城出身の丸山さんの思いはよくよく理解しているつもりでいる。自分としての思いもあった。
丸山さんは、ここでもまた、
「片渕くんらしく、『マイマイ新子』みたいなキャラで」
と、注文してきたのだが、自分なりの考えは別のところにあった。
というのは、こうの史代さんの中にも、漫画ゴラク誌に「日の鳥」を連載するなど、東北を応援したいという気持ちが並々ならずみなぎっていることを知っていたからだ。こうのさんを巻き込んでしまいたいと提案して、それが通った。
この企画の話をはじめてこうのさんにもちかけたのは、11月8日のことだった。MAPPAの制作プロデューサーの大塚学と2人で相談に行った。当時、こうのさんがウェブ上で連載していた『ぼおるぺん古事記』の「その二十三. さちさち その二」の欄外に、
「さっき高円寺で、片渕さんと大塚さんと会って来た。ん〜、これは…うまく事が運ぶといいのだが」
と、こうのさんが書いているのは、この時のことだったりする。
こうのさんには、短編映像の核になるアイデアを何かお願いしたつもりだったが、1週間後にこちらのスタジオにやってきたこうのさんは、絵コンテを携えていた。
「最後の方はここへ来る電車の中でまだ描きながら来ました」
というそれは、8等分に折ったA4の紙を使って8マス分ずつラフな絵を描いたのが8枚。映像の絵コンテではなくて、ご自身がマンガを描くときに最初のアイデアの下書きとして描く方法なのだった。
ここからこちらでいろいろ練ったり、またこうのさんと相談したりして、映像用の絵コンテを作り、これを撮影した映像を音楽にはめて仮編集してみたのが12月24日。
音楽は、既存曲なのだが、12月10日に作曲者の菅野よう子さんと打合せをし、できるだけたどたどしい感じの声の歌い手を使いたい、そのほかお願いして、菅野さんからは、じゃあ、歌い慣れてはいなけどマイク前経験があって声が出るのは子役さんだから、みんなで手分けして、一番いい子役の子を探して、ということになった。
今回は4分54秒と曲の長さを厳密に決める必要もあったので、菅野さんに編曲し直したデモを作ってもらった。数日後届いたデモでは、まだ見つからぬ子役の代わりに、菅野さん自身が歌っていた。
このデモに合わせて絵コンテを編集し、微調整して、12月25日絵コンテ完成。震災からまる2年が経過したところで述べられることはなんなのだろう、というところから思いを起こして、形が整うまでにここまでかかった。『この世界の片隅に』の取材のために広島を訪れたりもしながらのことだった。
作画の打合せは年明けの2013年1月4日から7日にかけて行った。ただ、一番多いカット数の原画を受け持った浦谷さんだけは身内でもあるし、12月中からすでに着手してもらっていた。
1ヶ月かけて原画が上がり、動画、仕上、撮影のみなさんに苦労をかけて、これを書いている今日(2月18日)が、全カット完成したオールラッシュになる。
完成すればNHKで放映される予定なのだが、放映日などはまだ未定。
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