COLUMN

第197回 『輪るピングドラム』色彩設計おぼえがき その22

「暑さ寒さも彼岸まで」ホント昔の人はいいコト言いますな。残暑がすっかり終わってしまい、一気に秋な今日この頃です。夏が終わってしまった! とお嘆きのあなた、いえいえ違いますよ、秋がいよいよ始まったのです!
なんにでも見方はふたとおりあって、そのどっちから見るかが実は結構ポイントになる局面は多いです。それはアニメの制作の現場でも同じ。画面や芝居を作る面においてだけではなく、スケジュールの面においても、その見方を変えることで拡がっていくことは多いはず。
ほら「あとひと月しかない!」じゃなくて「まだひと月ある!」。これです!
……はい、がんばります(号泣)。

さてさて。

第19話 私の運命の人 絵コンテ・演出/後藤圭二 色指定/秋元由紀

なんとか退院できた陽毬を囲んですき焼きパーティな高倉家。一方多蕗はゆりのもとを離れ行方不明に。ひとまず嵐は去ったかに見えたが、行方不明なはずの両親と冠葉の密会、怪しげな眞悧、不安な要素はさらに少しずつ大きくなっていく。そんな高倉家、陽毬の前に現れた真砂子。陽毬に自分こそ高倉冠葉の妹であると告げ、陽毬の閉ざされた記憶の扉をこじ開けようと急襲する。かくして陽毬は自分の本当の生い立ちを思い出していく……。そんな19話。

いよいよ物語は終盤へ向けて動き出します。シリーズの中では次に来る大きなうねりの前の橋渡しな1本。色彩設計的には静かに淡々と組み上げていった1本です。でも19話ラストはみんなビックリ(笑)な動的なシーンが待っていて、いよいよ「来るのか!」って感じを予感させる、そんな流れを作ってます。
まずは冒頭シーンのビックリ。全話あれだけ居所を知らないと言い続けてた冠葉があっさり両親と会ってるという(笑)。で、その密会の場が「荻窪の味 リナちゃん」というラーメン屋さんでありました。
「どこかいいラーメン屋さん、ない?」と幾原監督。カウンターで並んで座って、というシーンのプランが先にあって、その芝居に合うラーメン屋さんを探す、というところから始まりました。荻窪にカウンターがメインのラーメン屋さんはたくさんあるんですが、たいていどのお店も間口が狭く奥に長い作り。それだとなかなか思うようなカメラアングルや芝居が組めません。それに何より画面に要らぬ圧迫感が生まれてしまいがち。で、自然と某ラーメン屋さんへと絞られていきました。というか、実際のところ、ほぼ最初に僕ら何人かの頭にすぐ浮かんだのはそのお店だったのですね。通りに面していてカウンターの背面がほぼ全部ガラス戸で出入りできる感じの構造。そして魅惑的なカウンターの折れ曲がり(笑)。
制作の加賀谷さんがさりげなく写真を撮りに行きまして、ご主人にさりげなくお話しして、さりげなく承諾(?)をいただいてきました(笑)。で、でき上がったのが「荻窪の味 リナちゃん」でありました。
でもね、監督以下先の話解ってる僕ら数名は若干不安だったのですよね。「あああ〜、ヤバイ〜! あとでこの店で死体が見つかるんだけど。大丈夫なの? まんま出しちゃったけど(汗)」

雨のマンションのゆり。このシーンは2人のビミョウな関係のバランスが壊れてしまった寒々しさを狙っています。窓外の雨に照明消した室内のグレーなモノトーンな色調。ゆりの着ているカットソーもグレーです。そんなモノトーンにカーテンとソファの赤がさらに虚無感を引き立ててます。間に挟まれる回想シーン、多蕗と一緒の喫茶店のシーンは、同じ雨でも柔らかい暖色系の室内照明でしっかり対照的。この回想が挟まれてさらに寒々しい空気が感じられます。
高倉家のすき焼きパーティのシーンは、もうなんと言っても「お肉命!」。まずはよい作画。そして色。さらに特殊効果の絶大な支援力! ちなみに僕はこんな日のために、年に1回は高いお肉のすき焼き食べに行ったりします!(半分はホント(笑))
3ちゃんからペンギン1号2号へ贈られたプレゼントはラッコとタツノオトシゴの毛糸の着ぐるみでありました。まあラッコはすぐに茶色! って決まったんですが、問題はタツノオトシゴ。「タツノオトシゴっていったい何色?」という素朴な疑問から始まって、インターネットの画像検索しまくってかなりの資料に目を通したんでありますが、ん〜、正直リアルな色にすると地味すぎてまったくなんだかわからない(笑)。だったらいっそ全然違う色にしちゃおう! ってことで、目をひくムラサキにしてみたのでした。だって、なんだかわからないんだったら、ラッコと並んでセットでかわいい方がいいですよね? そんなワケで、ムラサキ色のタツノオトシゴ誕生でありました。

そして驚愕のラスト。何が驚愕かって、なんであの球?(笑) しかもトラックで運んできて、ねえ(笑)。
その球ですが全て3Dで作ってもらってます。素材感のテクスチャーは僕の方で選びました。ツルっとしてて重くてビッシリずっしりな感じ。実はこの手の3Dの物体を2Dの画面に置くのは難しいです。一番気になるのは接地感。3Dさんが最初に出してくれたものに僕の方でだいぶダメ出しさせていただいて、球体下部の影質感とか接地影の大きさや段階的な濃度などなど、なんとなくこれなら大丈夫? なところまで時間と予算の兼ね合いの中で作り込んでもらってます。こういう単純な形のものが単純な動きをする、ってのは、実はいろいろ粗が目立ちやすいのでホント難しいですね。実地にいろいろ体験しながら、日々学習ですね。ホントそう思うのであります。
それにしても陽毬、隣のぷち公園に面したあの巨大換気扇、毎日見てたんだろうに、今まで全然思い出さなかったの、か、ねえ?(笑)
そうそう、このゆりのマンションの鍵、実は僕の住むマンションの鍵をモデルに使ってます。最初に資料で用意された鍵が普通のシリンダー錠の鍵で「そんなピッキングし放題な鍵はこういうマンションではあり得ないでしょ!」ってことで僕んちの鍵を。……あ、僕の住んでるのはこんな豪邸マンションじゃないですからね! 念のため(笑)。