COLUMN

第196回 『輪るピングドラム』色彩設計おぼえがき その21

9月になっていろいろ仕事が一気に佳境に入ってきてます。TVシリーズ『聖闘士星矢Ω』は全体の半分まで来ましてちょうど折り返し。2クール最後の盛り上がり&3クール目からの新展開の立ち上がりがぶつかり合い中。そして12月15日全国一斉公開となる劇場最新作『ONEPIECE FILM Z』も10月末の完成を目指して猛然とスパート、一気に加速中であります。
さらに現在、来春1月からオンエアの新作TVシリーズにも参加中でして、こちらももうすぐ1話の編集&アフレコとなるところ。そんな盛りだくさんな9月、そして10月へと向かっている僕であります。
で、それくらい忙しくなると、どうしても食事が不規則になりがち。ずっと座ってるとそれはそれでお腹は空くのでついつい間食。さらには運動不足が重なって、イイ感じで体重増加中。ああ、半年前、折角80キロ割ったって喜んでたのに(泣)。
でも、この状況でヘンなダイエットとかして体調崩すと仕事に差し支えるので、そこはもう心身共に仕事に捧げるってことで、したがって徐々に(物理的に)人間が大きくなっていく、そんな秋の入り口であります。ああ、天高く馬肥える秋。なんとも……。
さてさて。

第18話 だから私のためにいてほしい 絵コンテ・演出/山内重保 色指定/大塚奈津子

ゆりの名を使って陽毬と苹果を誘き出し誘拐し、建築中のビルの屋上に閉じ込めて冠葉をおびき出した多蕗。対峙する冠葉と多蕗。宙づりの工事用ゴンドラには陽毬。そのゴンドラに仕掛けた爆薬が、1本また1本とゴンドラのワイヤーを断っていく。最後の爆薬が炸裂しゴンドラが地上へと落下する。そのゴンドラからすんでのところで陽毬を助けあげたのはなんとその多蕗なのであった。そんな18話。

「山内さんに18話お願いしようと思うんだけど、どう思う?」と幾原監督。シナリオは読んでて内容は分かってたので「感情で引っぱっていくシナリオだから山内さんにはまさにうってつけなんでは?」と僕。ということで、18話は、山内重保氏が絵コンテ・演出でありました。幾原監督にとっては東映時代の大先輩であり、師匠であり、恩師。そんなやりにくい(笑)山内さんにこの18話をお願いしたわけですが、さすが見事に素晴らしい1本となりました。
冒頭、アヴァンタイトルで語られる少年多蕗の生い立ちのシーン。モネの「日傘を差す女」をモチーフに油彩調にまとめられた美術にそこへ五線譜が入り込んでくるという、もういきなり何かを予感させる画面に。作画にしたのは少年多蕗の手とピアノ、そして鳥。鳥かごは3Dで作ってあります。この五線譜も越阪部さんにお願いしました。それを美術に合わせて僕が色の調整を施してます。
ところで、この五線譜でどなたかピアノ弾いてみた方っていらっしゃいます?(ニヤリ)

この話での大きな衝撃のひとつは、やはり「こどもブロイラー」でしょう。
こどもブロイラー……架空も架空、ひょっとしてTV的に大丈夫か? くらいな設定の施設であります。でもこれが今作品では実に重要なモノでありました。で、この初出がこの18話。前々からチラッとは映ってたけど、どんなモノかを説明してるのはこの話が初めてでありました。
子供ブロイラーの空間は基本2D描きでありますが、ふたつの大きな換気扇とベルトコンベアー、そしてこどもブロイラーの心臓部・こどもシュレッダーは3Dで作ってあります。そして印象的な膝を抱えて体育座りをするピクトグラムたちは越阪部さん作。「こどもシュレッダーは電動シュレッダーみたいな感じで、上から落とされたのが砕かれてキラキラ中に落ちるんですよ」と幾原監督。3D造形を担当してくれたグラフィニカの金子氏と何度もやりとりしまして、砕かれた破片が舞い落ちる感じのニュアンスとか、回転する刃の鋭さとか、一連のカットをかなりスケジュールのギリギリまでかかって作り込んで行きました。あ、ちなみにベルトコンベアはサンジゲンさんの作。9話で使用したモノをそのまま使わせてもらってます。
しかしまあ、さすがにまんま放送することはTV局的に憚られたのか(あるいはプロデューサーの判断か)、本放送時には映像にいろいろ画像処理施されておりました。また壁に書かれた「こどもブロイラー」の文字が一部消されていたり、とか。というわけで、完全版をご覧になりたい方は是非、Blu-rayかDVDのお買い上げを!(宣伝でした(笑))

さて。
現在の多蕗のシーン。屋上でのシーンは、夕焼け〜日没後の残照〜夜〜照明の中の夜、と時間がじっくりと移っていきます。色彩設計としてはその時制合わせ、美術合わせでやはりじっくり色を作りました。「いつもの夜じゃない、なんかもうひとさじ加えた夜色考えて」と山内さん。多蕗の想い、冠葉の想い、陽毬の想い、そして苹果の想いが入り交じった、ちょっと重たくてひねりのある夜色、でしょうか? なので、夕景の美術の影に使われてたムラサキを引っぱってきて、それをキャラクターの影色に加えていきました。夜の美術に馴染みつつ、それでいてキャラクターが心持ちにじんで持ち上がるような、そんなバランスを狙っています。
この屋上の美術、床と壁全体に、刷毛で殴り描いたようなペンキのかすれが施されていますが、これも山内さんのアイデア・注文で、淡泊にならないエモーショナルな美術ができあがってます。まさに、多蕗と冠葉の感情がぶつかり合って、陽毬の冠葉への想いがあふれ出る、そんな場所にふさわしい空間になりました。
宙づり状態での陽毬=冠葉のシーンでは、それぞれのバックの背景の色味方向を演出、美術、色彩設計で決めていおいて、その上で僕がガッツリ色変えを作ってます。撮影さんへは、にじみの度合いも含めて、キャラと背景を合わせて処理を加えて組み上げたサンプル画像をお渡して、それに合わせて作り込んでもらいました。
最後のシーン、3兄弟と苹果がライトの下で寄り添うシーンでは、安堵感と柔らかさが出るように、いわゆるノーマルの色味そのままで影色だけ少し濃いめに落としています。撮影さんにキャラクターの影の境界にグラデーションを施してもらってます。これもあって柔らかい、ホッとする画面になりました。
そうそう、この18話でペンギン1号が密かにエロ本と決別してます!(笑) その辺も含め、人々の(ペンギンも)心が大きく動いた、そんな18話でありました。