4月開催のイベントは会場にお客さんに入っていただくかたちの企画となります。イベントタイトルは「第173回アニメスタイルイベント 撮影監督トーク 泉津井陽一・脇顯太朗」。ゲストはアニメスタイルイベントでお馴染みの泉津井陽一さん、『ソードアート・オンライン -アリシゼーション- 』等を手がけた脇顯太朗さん。2人の撮影監督にアニメの撮影について語っていただきます。
開催日時は2021年4月4日(日)。会場は新宿のLOFT/PLUS ONEです。開演は13時からです。今回も先行してロフトグループによるツイキャス配信を行い、その後にアニメスタイルチャンネルで配信します。
チケットは「会場でのイベント入場料+ツイキャス配信視聴」と「ツイキャス配信視聴」の2種類を用意します。アニメスタイルチャンネルでの配信は、同チャンネルの会員の方が視聴できます。チケットに関して詳しくは、以下にリンクしたLOFT/PLUS ONEのページをご覧になってください。
LOFT/PLUS ONEを含むLOFTの会場は厚生労働省が定めた、新型コロナウイルス感染症に関するガイドラインを遵守し、さらにガイドラインよりも厳しいLOFT独自の基準を設けて、万全を期してイベントを開催しています。
来場されるお客様にはマスクの着用、手指の消毒をお願いしています。消毒液は会場に用意してあります。また、体調の優れないお客様は来場をお控えください。
同じく新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止の観点から、今回のイベントは通常の半分ほどの人数で定員となります。また、飲食物についてはお客様がカウンターで注文し、その場で代金を支払うキャッシュオン形式となります。
■関連リンク
LOFT/PLUS ONE
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/plusone
アニメスタイルチャンネル
https://ch.nicovideo.jp/animestyle
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第173回アニメスタイルイベント | |
開催日 |
2021年4月4日(日) |
会場 |
LOFT/PLUS ONE | 出演 |
泉津井陽一、脇顯太朗、小黒祐一郎(司会) |
チケット |
現場+配信視聴/1,500円 配信のみ/1,300円 |
■アニメスタイルのトークイベントについて
アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。
アニメ様の『タイトル未定』
292 アニメ様日記 2020年12月27日(日)
2020年12月27日(日)
早朝の新文芸坐に行って、オールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol.128 湯浅政明のセカイ」の終幕を見届ける。昼間はワイフと散歩。散歩の途中で目の前に黄色いIKEBUSが止まったので、乗ってみる。IKEBUSが走るのは池袋だけ、つまり、走るのは僕達が知っている場所だけなのだが、バスから見る池袋の街は新鮮で楽しかった。事務所でキーボードを叩いた後、グランドシネマサンシャインで『えんとつ町のプペル』を鑑賞。映像はなかなかの見応え。特にプペルの頭部の造形がよかった。お話にはあまり乗れなかったけれど、隣にいた親子連れの母親が、映画の半ばから泣きながら観ていたようだ。
2020年12月28日(月)
仕事納めの日。午前中に散歩。午後は用事を片づける。新文芸坐で「ゾンビ〈日本初公開復元版〉」を観るつもりだったのだが、夕方までに出さなくてはいけない書類があるのに気づいて断念。書類を書いた後、「Blu-ray Perfect Soldier Box発売記念 装甲騎兵ボトムズ展×マルイ」に。
2020年12月29日(火)
散歩に行ったり、事務所でキーボードを叩いたり。仕事納めをしたのは会社であり、僕自身はやらなくてはいけない作業がある。ワイフとグランドシネマサンシャインで「ワンダーウーマン 1984【IMAXレーザーGT字幕版】」を観る。冒頭の過去シーンだけで、入場料分以上に楽しめた。
2020年12月30日(水)
池袋から代々木公園まで歩く。事務所に戻ってデスクワーク。その後、駅前の喫茶店で打ち合わせ。新文芸坐で「コンボイ」(1978・米/111分/BD)を観る。プログラム「両作品日本最終上映! サム・ペキンパー骨太2本立て コンボイ | 戦争のはらわた」の1本。「コンボイ」は自分が中学生の頃に公開された映画で、宣伝は何度も目にしていたが本編は未見。どんな内容なのかほとんど知らなかった。ああ、なるほど、こういう映画なのか。序盤のシネスコ画面で走るトラックが、映画ならではのダイナミックさでとてもよかった。主人公達と対立する保安官の男性がいるのだけど、外見から「吹き替えでは富田耕生さんに違いない」と思って、事務所に戻ってからWikipediaで確認したら、やはり吹き替え版では富田耕生さんが演じていた。
アニメ『池袋ウエストゲートパーク』の2話以降を観る。1話を観た時は「なんだか違うなあ」と思ったけれど、続けて観ると、ちゃんと「池袋ウエストゲートパーク」になっていると思えた。
2020年12月31日(木)
昼までに年内の作業を終わらせる。ここ数年、大晦日はコミックマーケットの最終日でドタバタしていたのだけれど、今年は冬コミがなかったので、久しぶりに時間に余裕のある大晦日だ。午後から都内のホテルに行くつもりだったのだけど、ワイフが発熱し、様子をみることに。熱が下がったので、夜になってから出かける。高級なホテルではないけれど、快適。年越し蕎麦もいただいた。
2021年1月1日(金)
明けましておめでとうございます。朝はホテルの正月御膳。昼前にチェックアウトしたけど、2泊か3泊すればよかった。大塚のれん街の寿司居酒屋が開いていたので、ちょっと呑んでから帰宅。「今年の元旦は家のことは何もしない」のを目標にしていたので、おせちも餅も買っていない。
2021年1月2日(土)
早朝から事務所に。とにかく原稿に手をつける。前から行きたかった区役所ビル内の中華料理屋でランチ。三が日だけあって他の客はほとんどいなかった。グランドシネマサンシャインで『劇場版 生徒会役員共2』を鑑賞。劇場作品らしさは薄く、整理されずにエピソードが並んでいる感じなんだけど、その大胆な作りも『生徒会役員共』らしいかな。僕が見た範囲では観客は全て男性で、上映中にクスリと笑いが起きていた。
原作「鬼滅の刃」を最終巻まで読んだ。連載の最終回は読んでいたけれど、単行本では連載の最終回の後にエピローグがいくつもあり、特に最後のエピローグが素晴らしかった。
第699回 大塚康生様(1)
3月15日——大塚康生さんが亡くなられたとのことでした。大塚さんの話はこの連載で何回も語ってきたし、略歴やアニメ界に残した功績などはWikipediaで調べてください。とにかく大塚さんが亡くなったのです。
『大塚康生画集「ルパン三世」と車と機関車と』(玄光社刊)に寄稿した板垣の色紙にも描いたように、テレコム入社試験中の大塚さんのニコニコ顔はいまだにハッキリ脳裏に焼き付いてます。「ここ(テレコム)に入れば、大塚さんに教えてもらえる!」と試験課題の『未来少年コナン』(のポーズを5つ描く)も無我夢中で描いて、その後即面接。今さっき上げた俺の『コナン』数枚を見ながら「試験はどうだった?」のニコニコの大塚さん。「……面白かったです!」と自分。すると大塚さん、あっさり「まぁ、こんな面接なんてやってもあんまり意味ないから、何か訊きたいことがないなら帰っていいすよ」と。面接は3分で終わり(たぶん5分はかかってません)。で、2〜3週間もしないうちに合格通知が届き、1994年3月15日に入社(たしか4月じゃありませんでした)。そして大塚さんによる研修が始まりました。結果から話すと、おそらく正式に大塚さんご本人による研修を受けたのは、自分の代が最後だったと思います。次の年の研修から、大塚さんからその当時の我々の先輩方へとその任が引き継がれ、大塚さんはちょっと離れたところからの顧問的な位置に就かれました。
すみません。途中ですがまた時間切れのようです。大塚さんの話は来週以降も続けさせてください!
第202回 妖怪がいる日常 〜夏目友人帳〜
腹巻猫です。3月30日に開催が予定されていた蒔田尚昊(冬木透)作品の演奏会「歌の世界」が無観客公演となり、映像配信されることになりました。映像音楽以外の冬木透(蒔田尚昊)作品が聴ける貴重な機会です。チケットは1000円とお求めやすい価格ですので、ぜひどうぞ。
詳細は下記URLを参照ください。
https://www.maita-sekai.com
3月7日に配信された「水木しげる生誕祭」の中で、『ゲゲゲの鬼太郎』の新作劇場アニメと『悪魔くん』の新作アニメの制作が発表された。妖怪ブームはまだまだ続くようだ。
今回は、妖怪が登場するアニメ『夏目友人帳』のサントラを聴いてみよう。
『夏目友人帳』は緑川ゆきの漫画を原作に2008年7月から9月まで放映されたTVアニメ。第2期となる『続 夏目友人帳』が2009年1月から3月まで放映され、その後、2017年までに第3期〜第6期が作られた。2018年には劇場版第1作を公開。今年2021年には『石起こしと怪しき来訪者』が劇場上映されている。根強い人気を持つ作品だ。
主人公は、普通の人には見えない妖(あやかし)の姿を見たり、声を聞いたりすることができる高校生・夏目貴志。若くして亡くなった祖母・レイコも妖を見ることができ、妖と勝負して勝った証に「友人帳」に名前を書かせていた。レイコが遺した友人帳を手にした夏目のもとに、「名前を返せ」と訴える妖が集まってくる。夏目は妖たちに名前を返すことを決心し、招き猫に憑依した妖怪・斑ことニャンコ先生とともに、妖とかかわり始める。
妖怪退治の話ではなく、妖怪に名前を返し、解放する物語であるのがユニーク。人に危害を加えようとする妖怪もたまに登場するが、どちらかといえば、ユーモラスな妖怪やけなげな妖怪が多い。妖怪も人間と同じように悲しんだり、悩んだりする存在として描かれている。
物語の舞台が、山や川や草原に囲まれた自然豊かな土地であるのが、とても印象的である。筆者の出身は高知だが、幼い頃(1960年代)は家のまわりは畑や田んぼばかりだった。目の前が畑で、その向こうは小高い山、家のすぐそばを川が流れ、虫や小動物が無数にいた。そんな故郷の原風景を思い出させる。
音楽は吉森信が担当。広島県出身で、90年代からモダンチョキチョキズ、ヒカシューなどのバンドやセッションに参加しながら、ミュージカル、舞台にも出演していた。作・編曲家、鍵盤奏者として幅広く活動する音楽家である。
『夏目友人帳』の監督・大森貴弘とはバーで知り合い、TVアニメ『恋風』(2004)、『学園アリス』(2004)、『BACCANO!』(2007)などの作品を一緒に作ってきた。つきあいが長いこともあり、『夏目友人帳』の音楽は「すごく自由に作らせてもらった」という。
音楽はゆったりした、素朴なサウンドのものが多い。妖怪アニメっぽい不気味な曲や怖い曲はほとんどないし、あっても、重たくない。美しく描かれた自然の風景に溶け込むような音楽である。が、そんな中に聴いただけで笑ってしまうようなユーモラスな曲があって、これが本編でも効果を上げている。
本作のサウンドトラック・アルバムは2008年9月に「夏目友人帳 音楽集 おとのけの捧げもの」のタイトルでアニプレックスから発売された。
収録曲は以下のとおり。
- きみが呼ぶ名まえ〜夏目友人帳のテーマ
- 草躍る風の響き
- めぐる夏の便り
- にゃんこらせっ。
- ゆるやかな畦道で
- 夏・窓・開けっ放し
- おうし座の怪人
- 闇夜に潜むものあり
- 百鬼夜行〜妖怪大行進
- 荒ぶる神の降臨
- ほのかな記憶
- 雨夜の月のように
- 百雷の神楽
- きみに触れた光
- 暖かい場所(歌:夏目貴志=CV:神谷浩史)
- 一斉の声(TVサイズ)(歌:喜多修平)
BGM(劇中音楽)14曲を収録。最後の2曲は夏目のキャラクターソングとオープニング主題歌のTVサイズである。
『夏目友人帳』には、胸がキュンとなるエピソードやしんみりするエピソード、ほっこりするエピソードなど、いわゆる「いい話」が多い。そういうエピソードで流れるしっとりとしたピアノ曲やストリングスの曲が印象に残っているファンが多いだろう。
しかし、この「夏目友人帳 音楽集 おとのけの捧げもの」にそういう曲を期待すると裏切られる。とぼけた曲やユーモラスな曲、情景描写的な曲がほとんどなのだ。ネットには「聴きたかった曲が入ってない」という感想も見られる。
実は、多くのファンが期待する「泣ける曲」や「癒やされる曲」は、第2期のサントラ盤「続 夏目友人帳 音楽集 いとうるわしきもの」に収録されているのである。第1期と第2期は放映時期も近く、第1期の音楽は第2期でも使用されている。1期と2期はセットと考えてよいだろう。サントラ盤も同様だ。
筆者が思うに、第1期のサントラは妖怪がいる風景をイメージしたアルバム、第2期のサントラは夏目と妖怪や友人たちとの物語をイメージしたアルバム、と作り分けているのではないだろうか。
では、第1期のサントラはつまらないかというと、そんなことはない。むしろ、筆者はすごく面白いアルバムだと思った。「泣ける曲」や「癒やされる曲」が入ってないから聴かないというのでは、あまりにもったいない。
1曲目「きみが呼ぶ名まえ〜夏目友人帳のテーマ」は本作のメインテーマ。ピアノとアコーディオン、ストリングスなどが奏でるノスタルジックで美しい曲だ。本編では、第2期のサントラに収録されたピアノがメインの変奏「きみが呼ぶなまえ〜夢のつづき」のほうがよく使われていた。
トラック2「草躍る風の響き」とトラック3「めぐる夏の便り」は自然豊かな風景がイメージされる曲。「草躍る風の響き」では弦楽器のアンサンブルが風にゆれる草の音や木々の葉ずれの音に聞こえる。メロディよりも音色を重視した、ドビュッシーやラベルの音楽を連想させる曲だ。「めぐる夏の便り」は、ピアノとクラリネット、ストリングスによる穏やかな曲。のんびりした田舎の情景が眼に浮かぶ。中間部は淋しい曲調に転じてしんみりさせるが、また穏やかな曲調に戻って終わる。夏の日、自然の中を歩いているような気分になる。
続く、トラック4「にゃんこらせっ。」とトラック5「ゆるやかな畦道で」は、筆者が本アルバムの中でも特に気に入っている曲。「にゃんこらせっ。」はニャンコ先生のテーマで、ファゴットなどの低音の木管楽器がとぼけた演奏を聴かせる。毎回のようにニャンコ先生のコミカルなシーンで流れていた。「ゆるやかな畦道で」は笛が奏でる脱力系のメロディがたまらない1曲。メロディオン(鍵盤ハーモニカ)やパーカッションが加わり、さまざまな音が風景を満たしていく。曲の中に豆腐屋のラッパが聞こえてくるが、これはレコーディングのとき、休憩時間に外出していたら、たまたま豆腐屋が通りかかったので、とっさに声をかけて吹いてもらったのだという。ユーモラスに聞こえるが、こういう曲も心休まる「癒やしの曲」だと思う。
トラック6「夏・窓・開けっ放し」がまた不思議な、ほとんど効果音のような曲。聴けばわかるが、蚊が飛ぶ音を模した曲である。メロディもリズムもなく、蚊の音だけが空中を行き交う。
その次の「おうし座の怪人」も筆者が気に入っている曲で、つまづくようなピアノと口琴などの民族楽器、ホーメイなどがセッションをくり広げる。アバンギャルドなのかコミックなのか、とにかく型にはまらない音楽である。この曲は妖怪の登場場面にたびたび使用されたほか、冒頭部分がアイキャッチに使われている。
トラック7「闇夜に潜むものあり」は弦楽器を中心にしたサスペンス曲。夏目が妖怪に追われるシーンなどに使われた、おなじみの曲だ。不気味でコミカルな「百鬼夜行〜妖怪大行進」、強力な妖怪の脅威を感じさせる「荒ぶる神の降臨」と、妖怪登場曲が続く。
トラック11「ほのかな記憶」はハープのアルペジオに後半からチェロの瞑想的な旋律が重なる曲。タイトルどおり、回想場面にたびたび使用されていた。
トラック12「雨夜の月のように」では、ピアノとフルートが、乱れる心を描写するような緊張感のある演奏を聴かせる。この曲は第8話で蛍の妖怪が「あの人に会いたい」と言って夜の沼へ行くシーンに流れていたのが印象的。
第6話の妖怪たちの祭りの場面に流れたトラック13「百雷の神楽」を経て、BGMパートのラストの曲へ。
トラック14「きみに触れた光」は、さざ波のようなピアノソロが続く、幻想的な美しさを持った曲だ。7分という長い演奏時間を、ほとんど明解なメロディを奏でることなく、ドラマティックに展開することもなく、ひたすらピアノの音色を聴かせる(ピアノ演奏は吉森信)。5分を過ぎて、舞い踊る光を思わせる美しい曲想に変化。解き放たれたようなさわやかな印象を残して終わる。夏目から名前を返してもらった妖の姿が思い浮かぶ。
「夏目友人帳 音楽集 おとのけの捧げもの」は、物語を意識したサントラではない。夏の日、風の音や虫の音を聞き、遠雷を聞くように妖怪の気配を感じ、夕立にあうように妖怪と出会い、妖怪が通り過ぎたあとに残された想いにそっと触れる。そんな、妖怪がいる日常のひとときを切り取ったアルバムだと思う。物語的な癒やしや感動を求めると物足りないかもしれないが、すごく豊かな音が詰まったアルバムだ。
できれば、さしせまった用事のない夏の午後に、リラックスした気分でこのアルバムを聴いてみたい。ニャンコ先生や妖怪がふらりと現れるかもしれない。蚊はちょっと困るけれど。
夏目友人帳 音楽集 おとのけの捧げもの
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続 夏目友人帳 音楽集 いとうるわしきもの
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第328回 あなたにとってセガとは???
佐藤順一の昔から今まで (15)「レイ、心のむこうに」と「ネルフ、誕生」
小黒 この頃のお仕事に『新世紀エヴァンゲリオン』がありますね。
佐藤 お手伝いしていますね。
小黒 甚目喜一のペンネームで絵コンテを担当された。これは、佐藤さんにとっては大きい仕事ではないのですか。
佐藤 いや、大きいですね。こう言ってはなんですけど、庵野さんの作品に、自分が合うとはカケラも思っていなくて。一生接点がない人だろうと思っていた。
小黒 最初に庵野さんに会ったのが「アニメージュ」の座談会ですか(前出の「アニメージュ」1993年5月号の記事)。
佐藤 そうなんです。庵野さんが『セーラームーン』をお好きということで座談会を組んでいただいたことがあって。
小黒 僕が企画した記事だと思います。
佐藤 お世話になっています(笑)。それで、お好きならばということで、原画や絵コンテをやっていただいたりしました。でも、庵野さんが作っておられる作品、例えば、『王立宇宙軍』みたいな作品に、自分の居場所があるとはとても思えず。「逆はないな」と感じていたんですね。
小黒 なるほど。
佐藤 庵野さんが原画描いたのは、レンジみたいなものでダイモーンの卵を生成するところです(編注:103話「やって来たちっちゃな美少女戦士」)。多分、あの辺のシステムのデザインも込みでやっていて、『エヴァンゲリオン』ぽいテイストを感じますね。あとは、ウラヌス、ネプチューンの変身バンクの絵コンテを、やっていただいているかと思います。
小黒 話を戻すと、庵野さんの作品に関わることはないだろうと思っていたんですね。
佐藤 『エヴァンゲリオン』っていうの作ってるんだよって聞いた時には、「ああ、関係ないだろうな」って思っていましたね(笑)。
小黒 『エヴァンゲリオン』は、どういうかたちでオーダーがあったんですか。
佐藤 話を頂いたのは大月(俊倫)さんからだったかなあ。こういうものは貸し借りなので、『セーラームーン』の原画とかをやってもらった以上、やらないっていう選択肢はなかったですよね。それで引き受けることして、打ち合わせに行ったという流れだったと思います。
小黒 どんな打ち合わせだったんですか。
佐藤 どんなだったかなあ。結構身構えて行った気がするんですけど。最初に企画書をもらって、そこに各話がどんな内容なのかざっくり書いてあって、シリーズ中盤に全編ラブコメのデート話があったんですよ。それで「あ。そっちね!」と思って少し気が楽になったり。
小黒 ハハハ(笑)。
佐藤 だから、最初にやった第伍話(「レイ、心のむこうに」)で上げたのが、少し笑いにシフトしたコンテだったんです。カップラーメンにカレー入れて食べる辺りにテイストが残ってますけどね(笑)。
小黒 やわらかい感じだったんですね。
佐藤 そうですね。「笑ってください」という感じのコンテを持って行ったんですけど、「違う。こうではない」と。「もっとATG(日本アート・シアター・ギルド)な匂いなんです」と言われて、「勘違いしてました」と直したんですね(笑)。
小黒 それで、シンジがレイを押し倒した時の目のアップとか、レイの部屋の乾いた感じになるわけですね。
佐藤 そうなんです。シンジが、綾波に見つかってアタフタするところを、最初は松本零士がやる「わたわた」のような感じのコンテにしてたけど。
小黒 ああ、それは違う(笑)。
佐藤 そういうんじゃなかった。松本零士パロが効かなかった(笑)。
小黒 でも、ミサトがカップラーメンにカレーを入れるのは、OKだったんですね。
佐藤 そこは何故か(笑)。それまでダメにしちゃ可哀想だろうっていうことで残してくれたのかもしれないけど、OKにしてくれましたね。
小黒 なるほど。
佐藤 あの辺は探り探りやってますね。
小黒 シンジがエントリープラグの中にいて、ゲンドウと綾波が話してるのを見ていると、綾波が凄く可愛くピョンと飛び降りて。
佐藤 ピョンとね。
小黒 そして、ゲンドウがにこやかに話をしてるんです。
佐藤 (笑)。
小黒 あれ、今振り返るとNGですよね。
佐藤 まあね。今考えれば「そうじゃあない」(笑)。
小黒 でも、あの「ピョン」がいいんですよ。ピョンが(笑)。
佐藤 そうですね。必要かなと思ってやったけど、今思うと違ったな。
小黒 あれは、シンジの目には、そう見えていたということですよ。
佐藤 そう見えたんですよね。心理描写(笑)。
小黒 心理描写として解釈したい。
佐藤 そうに違いない。エントリープラグが見せた幻である。
小黒 で、佐藤さんはその後も、『エヴァンゲリオン』のリアル回担当として、4回コンテを描くわけですね。
佐藤 ですね。ロボットの出ない回ですね。
小黒 何か印象的なことはありますか。
佐藤 印象的なこと……。ちょっと気合が入った日常担当なので、細かな芝居を入れたくなるんですけど、庵野さんから「ちょっと枚数がかかりすぎるので」と言われて(笑)。「そういうことも考えるんだな」っていうのは思いましたね。やりたいようにガンガンやってるわけではなくって、全体の予算とか、フロー管理を含めてやるスタイルなんだな、とその辺で知ったりとかね。
小黒 最初に第伍話を描いて、次に第四話「雨、逃げ出した後」をやるわけですね。
佐藤 はい。
小黒 第四話の最後、シンジとミサトが無言で見つめあうところは、庵野さんが秒数を足したんでしたね。
佐藤 足してますね。
小黒 佐藤さんは何秒ぐらいにしたんですか。
佐藤 どうでしょうね、あれ。最終的に60秒でしたか。
小黒 絵コンテだと60秒になっていますね(編注:絵コンテでは60秒。それが実際の映像では約50秒になっている)。
佐藤 多分ね、今考えても自分で勇気を持ってできるのは、30秒がいいとこじゃないですか。20秒でも、勇気を振り絞ると思います。(ここまでだと思って)ストップウォッチを押しても、「え、まだ13秒?」ぐらいの感じだと思いますね(笑)。
小黒 第拾伍話「嘘と沈黙」の、結婚式の場面で「3つの袋が」と言ったり、「てんとう虫のサンバ」を歌ったりを一瞬だけ見せる辺りもいいですね。あの切り取り方が素晴らしかったです。
佐藤 あの辺は、それが『エヴァンゲリオン』のテイストだと思ってやってると思います。ブツッと切ってくというか。
小黒 長く撮ったものを、編集したような。
佐藤 そんな感じ、そんな感じ。
小黒 第拾伍話のコンテは夜道のシーンで加持がミサトを引き寄せて口づけをし、その後で、ミサトが手を回すのか回さないのか、クエスチョンのままコンテが終わってるんですよね。
佐藤 はい。庵野さんによる「熟考します」というおまけが付いてた(笑)(編注:佐藤さんの「この時 ミサトの手は垂れさがったままか 加持の背に回しているか⋯⋯どっちだ?」というト書きに対して「これは熟考します」というコメントが付けられている)。
小黒 (笑)。
佐藤 完成した映像だと手を回しかけて、下ろすっていう流れになってる。
小黒 そして、佐藤さんの持ち味が恐らく最大に発揮されたのは第弐拾壱話「ネルフ、誕生」ですが、覚えていらっしゃいますか。
佐藤 覚えてます。いやーな回でしょ。リツコの母とかのいやーな感じが出る回ね。
小黒 あと、ユイが出ますね。ユイの出番は大半がこの回です。
佐藤 ああ、冬月とユイの回だ。
小黒 最初にユイが登場した場面のコンテが素晴らしいんですよね。数カットしかないのに、冬月が彼女を好きになったのが分かる。ユイを見つめる冬月のカットの「魅かれたか⋯」というト書きがいい。
佐藤 そうそう。教授と生徒の関係でありながらね。深読みが、どんどんできるシナリオだったので(笑)、思わせぶりな描写をいっぱい入れています。時系列としては後ろで、ユイと冬月が話をしている場面がありましたよね。シンジが生まれてて、子守りかなんかしてるのかな。なので、乳が張ってるんですよ。
小黒 冬月がユイの胸元を見る場面ですね。場所は芦ノ湖畔です。
佐藤 うんうん、若干無防備な感じの胸が見えるみたいなとこね。
小黒 ユイが子供を産んで無防備になったことで、冬月は嫌悪感を感じているんですね(編注:絵コンテのト書きには「嫌悪をあまり露わにせず」とある)。佐藤順一、絶好調ですよ。
佐藤 いやいや、ちょっと待って(笑)。言うたら、心理的には寝取られですからね。あそこは自分でも割と好きなところなんですよ。色々と業(ごう)が見えて、好きです。
小黒 芦ノ湖畔のシーンのコンテは、第弐拾壱話の時に描いてるんですか。
佐藤 そうだと思いますね。
小黒 つまり、オンエアの時にはカットされて、その後に追加されたということですね。
佐藤 え、本当? オンエアの時は違うんですか。
小黒 オンエアの時にはなかったんですよ。あのシーンは『DEATH』が初出で、ビデオフォーマット版から第弐拾壱話に入っています(編注:現行の単品DVDでは「ビデオフォーマット版」の第弐拾壱話にそのシーンが入っている。配信されている第弐拾壱話は「オンエアフォーマット版」であるため入っていない)。ビデオフォーマット版用に改めてコンテを描いた可能性もありますよ。
佐藤 あ、そうなんですね。記憶は曖昧だけど、最初のTV放映版のために描いたんじゃないかなあ。
小黒 第弐拾壱話ぐらいになると、庵野さんから演出的にこうしてほしいというオーダーはあまり出ていないんですね。
佐藤 そうですね。南極に行く観測船のつくりが全然分からなかったので、その説明はしてもらったような気がしますけど。
小黒 劇場版はいかがでしたか。絵コンテを担当されたのは『まごころを、君に』(劇場・1997年)のシンジとアスカの室内でのシーンですよね。
佐藤 言い争いをして、コーヒーをこぼしたりするところですね。
小黒 そうです。シンジとアスカがテーブルの周りを回るところで、足元まで入れてたカットから連続した芝居で3回もアングルを変えているのが大変だったと、そのシーンの作画監督を担当した平松(禎史)さんが言っていました(編注:「アニメスタイル013」の『さよならの朝に約束の花をかざろう』特集の取材記事)。
佐藤 そうでしょうね。大変なことをやりたい時期でしたね(苦笑)。でも、その頃になると打ち合わせをしつつも、「何をどう求められたのかな」って思いながら探り探りやった記憶がありますね。
小黒 なるほど。
佐藤 劇場版だと「こういうことやってみようかな」というモチベーションよりも、「間違わないようにちゃんとやんなきゃいけないな」といった気持ちのほうが強かったかもしれない。
小黒 『エヴァンゲリオン』全体としての印象は、どうでしたか。
佐藤 『エヴァンゲリオン』全体としてかあ……。自分がこういうモノを作ることはないと思っていた作品ですよね。あとは「作られ方」や「現場の在り方」が印象に残ってますよね。誰かがそう言っているのを直接聞いたわけではないんだけど、「この『エヴァンゲリオン』で、俺らが庵野秀明を盛り上げていくぞ」というモチベーションが現場にあると感じていたんです。そんな現場は東映にはなかったし、聞いたこともなかった。それが新鮮でしたね。そういう目標で団結していたのも興味深かったし、そういう現場って強いよなと思いました。それは、作ろうかと思って作れるものでもないので、人徳がそうさせるんだなあとも思ったり。
小黒 では、第2回のインタビューはこのぐらいで。次の取材は『セーラームーンSuperS』から『プリンセスチュチュ』辺りまでですね。
佐藤 まだまだ長い道のりですね。よろしくお願いします。
第698回 さらに忙しいのはもっと良いこと
『蜘蛛ですが、なにか?』EDの話を、と思っていたのですが、忙し過ぎてちょっと今回もまたお茶濁し(汗)!

そういえば『蜘蛛ですが、なにか?』の次回エンドカード(5秒)の「次回、〜お楽しみに!」は板垣が書いた文字をそのまま使っています。V編の現場でフォント位置の参考として提出したつもりが、まんま使用されてしまいました(汗)。で、次回こそはちゃんと書きます!
アニメ様の『タイトル未定』
291 アニメ様日記 2020年12月20日(日)
2020年12月20日(日)
ワイフとIKE・SUNPARKのファーマーズマーケットに。雑司ヶ谷を少し歩いて、お洒落パン屋とお洒落コーヒー店で買い物をして、それを南池袋公園で食べる。実に日曜日らしい日曜日。その後は事務所でデスクワーク、駅前の喫茶店で打ち合わせ、事務所に戻ってデスクワークと、あまり日曜っぽくはなかった。取材の予習で『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』『機動戦士ガンダムNT』を配信で観る。
2020年12月21日(月)
新文芸坐の正月興行「黒澤明生誕111年 三船敏郎生誕101年 銀幕に甦れ! 黒澤&三船 日本映画最高のコンビ〈東宝編〉」のチケットをネットで購入。今回のプログラムのチケットは全席指定制だ。ワイフと行く分を含めて4つのプログラムを購入した。4つとも行けるかな。「この人に話を聞きたい」取材の予習は続く。
2020年12月22日(火)
この日の仕事は取材の予習、零細企業の社長らしい作業、それから、編集長っぽい仕事。夕方は吉松さん、ワイフと食事。がっつり食べる。
2020年12月23日(水)
年末らしく、用事が山盛り。打ち合わせの前に、上石神井から井荻まで散歩。このルートを歩くのは久しぶりで新鮮だった。井荻のスタジオで打ち合わせ。取材の予習で『ソードアート・オンライン アリシゼーション』を視聴。前にも観ているが、ふた回り目のほうが面白い。進行中の書籍の数を数えたら、14タイトルもあった。
2020年12月24日(木)
旭プロダクションで「この人に話を聞きたい」の取材。第210回は撮影監督の脇顯太朗さんだ。面白い取材になった。取材内容を大きく分けると「脇さん個人の話」「仕事歴」「脇さんのアニメーションについての考え」であり、原稿にする上で色々なまとめ方が考えられる。まとめがいのあるインタビューともいえる。年内の取材はこれにて終了。
2020年12月25日(金)
散歩は毎日続けている。今日は仕事の合間に池袋から東中野まで歩いた。その後で中野で開催されている「1980年の世界」というイベントを見に行った。1980年の雑誌等を展示するという企画で、展示を見ている間、既に存在しない自分の実家に帰ったような気分だった。ワイフから、クリスマスプレゼントで手編みのニット帽とマフラーをもらった。今年もワイフは沢山のニット帽を作ってくれて、合計で6つのニット帽をもらった。
「あれとこれのテープ起こしが年内に間に合わないなら、正月休みはあの原稿を進めよう」と思ったけれど、いやいや、自分から正月の仕事を増やすことはないだろうと考え直す。
2020年12月26日(土)
午前中は新文芸坐で「ペイン・アンド・グローリー」(2019・スペイン/113分/DCP/R15+)を鑑賞。ワイフの希望で、どんな内容かまるで知らないで観たのだけど、かなりよかった。映像と語り口がよく、映画として満足感が高かった。落ち着いたこの映画にしては演出がオーバーな部分があって、そこで苦笑したのだけれど、最後まで見るとその演出がおかしくなかったことが分かるという仕掛けがあり、それも面白かった。
昼飯とデスクワークをはさんで、また、新文芸坐に。花俟さんとアニメスタイルのオールナイトについて打ち合わせ。夕方はグランドシネマサンシャインで『ジョゼと虎と魚たち』を観る。自分は実写映画版が好きだったので、色々と面食らうこともあったけれど、若い観客に向けて作るならこれもありだろうと思う。画面構成がよかった。画面設計の役職で川元利浩さんがクレジットされていたが、どこからどこまでが川元さんの仕事なのかが気になる(後日追記。ジョゼの部屋と恒夫のバイト先は3DCG。その部分も川元さんがチェックはしているが、レイアウトを描いたのは他のシーンだそうだ)。
夜は新文芸坐で「新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol. 128 湯浅政明のセカイ」を開催。今日は映画鑑賞、打ち合わせ、トークの聞き手で三度も新文芸坐に行った。湯浅さんと顔を合わせるのは久しぶり。『MIND GAME』の頃にアニメスタイルが作った湯浅さんイラストの缶バッジが湯浅さんの手元にないと聞いたので、事務所にあった分をひとつ差し上げた。オールナイトの入りは7~8割。今回も作品初見の方が多かった。『MIND GAME』は6割くらい、『夜明け告げるルーのうた』と『夜は短し歩けよ乙女』は3割くらいが初見だったはず。トークで湯浅さんが「これからアニメ界を去るかもしれないが、また戻ってくると思う」と言っていたのが印象的だ。
第327回 SDGsなのです。
アニメ様の『タイトル未定』
290 アニメ様日記 2020年12月13日(日)
2020年12月13日(日)
仕事の合間に、TOHOシネマズ池袋で『劇場版 Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット- 前編』を鑑賞。黄瀬和哉さんがキャラデザイン(共同)、絵コンテ(共同)、演出(共同)、作画監督(共同)、総作画監督(単独)を兼任していたのがトピックスのひとつ。夕方から吉松さんとSkype飲み。飲みと言いつつ、禁酒中なのでノンアルコールビールで。
2020年12月14日(月)
ワイフとグランドシネマサンシャインで『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』を【IMAXレーザーGT】で観る。ワイフはこれが初見。自分は二度目の鑑賞だった。公開が始まった頃に『鬼滅の刃』のIMAXが、フルサイズIMAXだという発言をSNSで見かけて、ずっと気になっていた。それを確認するのも今回の目的だった。結論から言うと、画面比率は通常上映と同じ16:9だった。考えてみたら当然なんだけど、確認できてよかった。
改めて『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』を観て思ったのは、娯楽作としてよくできているということ。盛り上げるべきところをしっかりと盛り上げている。個々のシーンや描写に充分な尺をとっていて、物足りなさを感じさせない。それから、煉獄杏寿郎というキャラクターは1980年代や90年代のマンガやアニメでは(ひょっとしたら1970年代のマンガやアニメでも)パロディの対象になったタイプだと思う。つまり、マジメであり、正論を口にし、それを実行しようとするタイプ。そういうキャラクターは何時の頃からか、茶化される対象になっていた。時代がひとまわりして、そういったタイプが「好ましい存在」になったということかもしれない。
「週刊少年ジャンプ」で「チェンソーマン」が完結。少年マンガとしては衝撃的な終わり方だったが、もっと残酷な結末を迎えるかとも思っていた。僕が「チェンソーマン」がもっと続くだろうと予想していたのは、主人公のデンジにはまだ「吐き出すこと」があるだろうと思っていたからだ。連載終了と共に第2部が「少年ジャンプ+」で連載されることが発表されたが、僕が望む展開になるかどうかは分からない。とにかく、ここまで充分に楽しませていただいた。
2020年12月15日(火)
としまみどりの防災公園(IKE・SUNPARK)のEAT GOOD PLACEで、ワイフと朝食。最近開店したばかりの店だ。秋まで続けていた早朝散歩で、工事中の建物を見ながら、どんな店になるのか、よくワイフと話しあっていた。料理は美味しいし、店は広くて綺麗。観光地にある店みたいだ。いや、遠方から来た人にとっては、ここは観光地なんだろうけど。
もうひとつ、外食の話題。SNSで池袋の松屋の三軒が閉店することを知る。少しばかりショックだ。事務所の近くの吉野屋も最近、閉店した。
2020年12月16日(水)
15日(火)と16日(水)は「川元利浩アニメーション画集」のコメントのための、川元さんへの取材。長いインタビューになるのは分かっていたので、最初から2日かけてやるプランだった。
2020年12月17日(木)
仕事の合間に、新文芸坐で「アルプススタンドのはしの方」(2020/75分/DCP)を観る。「”主人公”じゃない青春だから愛おしい のぼる小寺さん | アルプススタンドのはしの方」の1本。高校野球の応援に来た学生達の物語で、カメラは客席のみを撮り、試合をやっている選手は映さないというコンセプトの作品だ。後で知ったのだけど、戯曲を映像化したものなのだそうだ。確かに舞台でできる内容であるのだが、映画ならではの臨場感を感じる場面があった。
2020年12月18日(金)
「佐藤順一の昔から今まで」の取材の予習で『ストレンジドーン』『ゲートキーパーズ』『ゲゲゲの鬼太郎 おばけナイター』『スレイヤーズぷれみあむ』『地獄堂霊界通信』等を視聴。『地獄堂霊界通信』はこんなこともあろうかとDVDを購入していたのだけれど、ネット配信にあったので配信で観た。13時から取材スタート。今回の取材は『美少女戦士セーラームーンSuperS』の話題から。今日の取材分が世に出るのは早くて来年の2月だ(と、この時には思ったけれど、早くて3月末になりそうだ)。
2020年12月19日(土)
「杉並マンガアニメ祭」のトークイベントで、吉松さんの聞き手を務める。トークは吉松さんの学生時代から現在までを振り返るというもので、僕が気にしたのは時間内に話をおさめることぐらい。後半は展開を早くして『宇宙よりも遠い場所』まで辿り着いた。その後、吉松さん、ワイフと西荻窪に移動して無期休業直前のササユリカフェに顔を出す。イベントの打ち上げで、近くの魚料理の店で飲んで食べる。
第697回 忙しいのは基本良いこと
『蜘蛛ですが、なにか?』EDの話を、と思っていたのですが、忙し過ぎてちょっと今回はまたお茶濁し(汗)!
第201回 1アルバムで3度おいしい 〜デカダンス〜
腹巻猫です。楽しみにしていた「向田邦子没後40年特別イベント 風のコンサート」が無観客開催となり、2月27日から動画配信されました。さっそくチケットを買って鑑賞。バイオリン、チェロ、ピアノだけの編成ながら、みごとなアレンジと演奏に感動しました。オリジナルの劇音楽は小林亜星作曲の「過ぎ去りし日々」(「向田邦子新春スペシャル」テーマ曲)だけですが、純粋にコンサートとして聴きごたえがあります。3月10日までの配信なので、興味のある方はお早めにどうぞ。
向田邦子没後40年特別イベント
https://members.tvuch.com/member/mukoda/
最近気になっている作曲家の一人が得田真裕である。
2018年のTVドラマ「アンナチュラル」、2020年のTVドラマ「MIU404」。この2作の音楽を手がけたのが得田真裕だった。「アンナチュラル」ではブルガリアンボイス、「MIU404」ではイーリアンパイプスやティンホイッスルなど、現代の日本を舞台にしたドラマなのにヨーロッパの民族音楽を取り入れた音楽がユニークで、「ん、なんだこの音楽?」と思わせる。それが奇をてらったわけではなく、ドラマのテーマに沿っているのだから感心する。
得田真裕は1984年生まれ、鹿児島県出身。幼い頃からピアノを習い、少年時代にはバンドでギターを弾いていた。長崎大学教育学部芸術文化コースに進学し、在学中に作曲家になることを意識する。卒業後、神戸のゲーム会社を経て上京。数々の映像音楽を手がける作曲家・菅野祐悟に師事し、映像音楽の作り方を現場で学んだ。
これまで手がけた作品は、TVドラマ「花咲舞が黙ってない」(2014/菅野祐悟と共作)、「家売るオンナ」(2016)、「女の勲章」(2017)、「監察医 朝顔」(2019)、劇場作品「約束のネバーランド」(2020)など。今やゴールデンタイムのTVドラマを多く手がける売れっ子作曲家の一人だ。
アニメ作品は『戦国BASARA Judge End』(2014)、『重神機パンドーラ』(2018/眞鍋昭大と共作)、『キングスレイド 意志を継ぐものたち』(2020)、『デカダンス』(2020)くらいで、まだ数は少ないが、これからアニメでも売れっ子になっていくに違いない。
そんな得田真裕の作品から、今回は『デカダンス』の音楽を聴いてみよう。
『デカダンス』は2020年7月から9月まで放送されたTVアニメ。
環境破壊と文明の崩壊が進んだ未来の地球。絶滅寸前の人類は、移動要塞「デカダンス」の内部に住み、荒野をさまよっていた。地上にはガドルと呼ばれる怪物が生息し、人間やデカダンスを襲ってくる。
幼い頃にガドルに襲われて父と右腕をなくした少女ナツメは、成長してガドルと戦う戦士グループ「かの力」の一員になることを希望する。が、願いはかなわず、デカダンスの外壁を保守する装甲修理人として働くことに。不愛想なベテラン修理人カブラギの下で働き始めたナツメは、カブラギがかつてスゴ腕の戦士だったことを知り、自分にガドルとの戦い方を教えてくれと頼みこむ。しかし、カブラギはナツメに知られてはならない秘密を持っていた。
文明崩壊後の世界を舞台にしたSFアクションもの……かと思いきや、サイバーSFの要素が入った、ひねりの効いた作品である。人間の世界とサイボーグの世界、ふたつの世界で物語が進み、しだいにふたつの世界が密接にからんでくる。
得田真裕の音楽も、人間の世界とサイボーグの世界、ふたつの世界をテーマに書かれている。さらに、ナツメとカブラギの心情に寄せた音楽も柱のひとつになった。テーマごとにサウンドの異なる音楽がひとつの作品の中で共存しているのが本作の特徴である。それぞれのテーマを表現するサウンドに得田真裕らしい工夫がこらされている。
本作のサウンドトラック・アルバムは2020年10月にKADOKAWAから発売された。2枚組45曲入り。主題歌は収録されていない。
2枚組のうち、ディスク1は物語の舞台を表現する音楽や日常シーンの音楽、心情曲などを中心にした内容、ディスク2はサスペンス曲やバトル曲を中心にした内容だ。いわば、ディスク1が「ナツメ修行篇」、ディスク2が「激闘篇」とでもいうべき構成。ディスク2のほうがSFアニメらしい派手な曲が多いが、得田真裕らしさが感じられる面白い曲が多いのはディスク1だと思う。
ディスク1を聴いてみよう。収録内容は以下のとおり。
- The other side
- The other side -floating mix-
- DECA-DENCE
- Solid Quake
- Crack down
- Prison of despair
- Hope for the future
- Tankers’ dwelling
- Rapid progress
- Peaceful days
- Crazy Creepy
- Smug emotion
- Like dystopia
- Strategic method
- A ray of light
- First trigger
- First trigger -Natsume’s determination mix-
- Noise of insecurity
- Anarchistic real
- Ambivalent emotion
- Breaking trust
- Deadend
- Well done!
1、2曲目の「The other side」と「The other side -floating mix-」はサイボーグの世界に流れるテクノポップ風の曲。80年代のゲームミュージックを思わせるが、アタック感を抑えたサウンドでやわらかい雰囲気に仕上げている。耳にやさしいテクノ、とでも呼びたくなる音楽である。
同じテクノサウンドでも、トラック4〜6の「Solid Quake」「Crack down」「Prison of despair」になると、ディストピアを思わせるノイジーなサウンドになる。トラック1から6までの流れは、アニメ本編を最後まで観てから聴くと「そういうことか」と思わせるうまい構成だ。
トラック3の「DECA-DENCE」は本作のメインテーマではなく、劇中に登場するゲーム「DECA-DENCE」のテーマ音楽。作品としての「デカダンス」のメインテーマはディスク2に収録された「DECA-DENCE’s Spear」という曲で、バトルシーンなどに使われた壮大な音楽である。
筆者が特に面白いと思った曲は、トラック9「Rapid progress」とトラック10「Peaceful days」。イーリアンパイプスやティンホイッスルなどを使ったケルトミュージック風の曲だ。第1話でナツメが甲板修理を始める場面に「Rapid progress」が流れたときは、「おおっ」と身を乗り出してしまった。
話がそれるが、サントラのミュージシャンクレジットを見るのが筆者の愉しみのひとつである。どんな楽器を誰が演奏しているかわかるからだ。楽器編成を知ることは音楽を読み解く手がかりになる。
『デカダンス』の音楽では、一般的なオーケストラ楽器に加え、アイリッシュフルート、アイリッシュホイッスル(ティンホイッスル)、イーリアンパイプス、フィドルといったアイルランド(ケルト)の民族楽器が使われている。人間の世界を表現する音楽にケルトミュージックが取り入れられているのが、本作の音楽的工夫だ。
得田真裕のインタビューによると、サイボーグの世界との違いを際立たせるために、より原始的な音として民族楽器の使用を考えたのだという。
ケルト的な音楽はファンタジー作品でよく使われる。いにしえの音楽を思わせ、ときに神秘的でもあるサウンドが、ファンタジーの世界にマッチするのだ。しかし、ケルトミュージックには温かく、情熱的な一面もある。『デカダンス』の音楽には、その温かい面が生かされている。
トラック12の「Smug emotion」はユーモラスなシーンによく使われた曲だが、これも温かいタッチのケルト風の曲。こういう曲を生ギターとベース、ピアノ、パーカッションなどでポップに作ってもよいはずだが、ケルト音楽を持ってくる発想がユニークであり、物語の上での必然性もある。「うまいなあ」と思うところだ。
そして、音楽の3番目の柱である、ナツメとカブラギの心情に寄せた曲。
トラック16「First trigger」と「トラック17「First trigger -Natsume’s determination mix-」は、ナツメやカブラギが、それまでの自分を変えようと決意し、行動を始める場面に流れる曲だ。ピアノソロから始まり、ストリングスがそっと加わって、しだいに盛り上がっていく。後半は弦楽器が主旋律を受け持ち、心が解き放たれるような感動的な曲調に展開して終わる。ナツメやカブラギの心情の変化を音楽が巧みに表現している。
トラック18「Noise of insecurity」はアイリッシュフルートとフルートがメロディを奏でる淋しげな曲。第10話で自信を失ったナツメを「かの力」の女戦士クレナイが励ます場面に流れている。
同じ第10話でナツメが父の死の真相をカブラギから聴く場面に流れたトラック19「Anarchistic real」は、ピアノとストリングスによる悲しみの曲。第7話のラストでナツメとカブラギが夕焼けの中で語らう場面も忘れがたい。
こうした心情寄りの音楽は生楽器中心のオーソドックスなサウンドで書かれていて、ナツメやカブラギの心情がまっすぐに伝わってくる。ほかの曲とのバランスを考えると自然にこういう編成と曲調になるだろうと思ってしまうが、音楽作りには時間がかかったそうだ。
心情を描く音楽は、人間の世界とサイボーグの世界、どちらの世界にもフィットする音楽でなければいけない。音を慎重に選ぶ必要があった。結果、選んだのがピアノやフルートなどの、人間の息遣いや手の感触が感じられる楽器だった。人間の心情をストレートに描くには、古典的でシンプルな楽器編成と曲調がふさわしいということだろうか。
筆者が特に印象深い曲がトラック20の「Ambivalent emotion」である。ストリングスと生ギターとピアノによる抑えたタッチの心情曲で、思うままにならない悔しさや、やりきれなさが伝わってくる。第4話でカブラギが戦場に出ようとするナツメを止める場面など、もっぱらカブラギの心情を表現する曲として使われた。本作の主人公はナツメよりもカブラギであり、そういう意味でも重要な曲である。
カブラギの秘密に触れたナツメの衝撃をイメージさせる「Breaking trust」「Deadend」を挟んで、最後のトラック23は「Well done!」。第4話で「かの力」の一員になることができたナツメのよろこびを表現する曲として使用された。明るく希望にあふれた曲調でディスク1を気持ちよく締めくくる。
物語は後半に入って波乱の展開になるが、それはディスク2で。ディスク2では、勢いのあるカッコいいバトル曲を聴くことができる。
「デカダンス」のサウンドトラック・アルバムは、ディスク1とディスク2で味わいの異なる、2度おいしいアルバムである。いや、サイボーグ世界、人間世界、心情ドラマの3本柱で作られた音楽は、1アルバムで3度おいしいと言うべきだろう。
デカダンス オリジナルサウンドトラック
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第326回 銭湯お好きですか?
佐藤順一の昔から今まで (14)『魔法使いTai!』と「ぶらり信兵衛 道場破り」
小黒 ここから、コアなアニメファン向け作品の話題が続きます。まずは『魔法使いTai!』です。これはどういうかたちで企画が始まったんですか。
佐藤 これはトライアングルスタッフの浅利(義美)さんから「オリジナル企画なあい?」と言われたところから始まっています。セルビデオについてあまり知らなくて、どういうものがどう売れるのかっていうことも分かっていなかった。バンダイビジュアルでやる企画だったので、プロデューサーの寺田(将人)さんに色々話を聞いたら「メカと美少女」というキーワードがあったので、そこから考えました。
小黒 売れるものにしようというところから始まっているわけですね。
佐藤 そうですね。「パッケージで売れるものはこうである」という情報をもらって、それをヒントに作っていくプロジェクトでしたね。伊藤郁子さんのオリジナルキャラクターでやりたかったので、口説いて。
小黒 『ユンカース』の時は東映の社員として外の仕事をやったっていうことですよね。
佐藤 そうですね。
小黒 でも、『魔法使いTai!』は違うんですよね。
佐藤 そうです。でも、仕事の受け方はどうだったかなあ。
小黒 クレジットでの役職は原案・絵コンテ・総指揮ですね。
佐藤 『ユンカース』の終わり頃には、東映制作部の部長が元の人に戻ってるんですよ。なので、東映の人間として外の仕事をやって、ギャラを東映経由でもらうかたちにはしてないと思います。単純に「外でこういう仕事をやりますけど、東映の仕事もやります。迷惑かけないようにやります」という交渉の仕方をしたかな。
小黒 そして、籍は東映にあるので、やってることは監督だけど、役職は総指揮にしたということですね。
佐藤 そうですそうです。
小黒 板野(一郎)さんがアバンに参加していたり、メカニックデザインが前田真宏さんだったりと、佐藤さんの普段の作品とは顔触れが違うというか。
佐藤 そう(笑)。知らない人だらけですからね。
小黒 脚本の小中(千昭)さんも、この時点では佐藤さんとはあまり縁のない、マニアックな作風の方ですよね。
佐藤 そうです。本当に全然知らない人ばっかりですが、それは僕が東映にいたから知らないだけで、外の人達は皆さんで繋がりがあって。この作品に合う人を、ちゃんと連れてきてくれているので、特に文句を言ったりはしない(笑)。
小黒 夢のあるチームでしたね。
佐藤 そうですよねえ。
小黒 『魔法使いTai!』が佐藤さんの仕事歴の中でちょっと変わってるのは、肉感的というか、ちょっとエロいこと。
佐藤 はいはい。
小黒 どこまでが佐藤さんの趣味性か分からないけど、オタク心を掴みに行ってる作品なわけですよ。
佐藤 (苦笑)。
小黒 普段は職業人として作品を作っている佐藤さんが「自分の好きなのはこれだよ」というかたちで作ったように見えるんですがどうでしょう。
佐藤 いや、好きなものをやってるのは確かなんですけど、オタク心を掴みに行ってるのは伊藤郁子さんかもしれないですよね(笑)。
伊藤さんと僕で一番違っていたのは沙絵の描写でした。個人的には沙絵が大好きなタイプの子なんですけど(笑)。『ステップジュン』の高田先生とかに通じる、得体の知れない、よく分からないことを考えてる女の子って凄くいいなと。
小黒 そうなんですか!? そこで繋がるの?(笑)
佐藤 そうそう。マイワールドにいて、オタオタすることもあって、見ていて飽きないみたいな。そして何かにつけて一生懸命でぶれないところも大事なんだろうと思います。そこに伊藤郁子さんが「どうして沙絵が高倉先輩を好きなのか全く分からない」って言いながら、納得できる要素を足していってくれるような。
小黒 なるほど。
佐藤 『キャンディ・キャンディ』の「丘の上の王子様」みたいなものがないと、伊藤さんは沙絵が描けない感じだったので、ジェフ君という魔法使いを出すことになったり。小中さんが伊藤さんと感覚が近かったので、お二人は意思疎通が早かったとは思いますけどね。
小黒 実作業として、佐藤さんは全話のコンテを描いて、レイアウトチェックをしてるんですね。
佐藤 一応しました。
小黒 で、原画チェックは演出さんがやってる。
佐藤 はい。
小黒 もの凄く、佐藤順一アニメになってるのは、伊藤さんの力ですか。
佐藤 そうですね。絵コンテにない動きを含め、画のコントロールは伊藤さんがやってくれています。ギャグや笑いも、伊藤さんのアイデアで入っていました。
小黒 レイアウトは、佐藤さんと伊藤さんと各話演出が見ていたんですか。
佐藤 そうです。各話演出が見た後に、僕のところに回ってきて、その後に伊藤さんがキャラクターの修正を入れて原画に戻すという流れだったと思いますけどね。
小黒 それで、佐藤さん自身はどのぐらい主人公に投影をしてたんですか。
佐藤 『魔法使いTai!』の沢野口沙絵は投影よりも、思い入れが強かったですね。終わってから感じるんですねえ。凄い喪失感が来るんですよ(苦笑)。なんかの錯覚なんだろうけど、「もうこの人の絵コンテを描けない」ということを、滅茶苦茶つらく感じる瞬間があって(苦笑)。どっちかというと、好きな人にもう会えなくなる切なさに近いものがあるのに、自分でもびっくりした。
小黒 アニメファンぽいなあ(笑)。
佐藤 そうそう。自分でも「なんでこんな気持ちになるの」みたいな部分が。その後だと『カレイドスター』の苗木野そらっていうキャラクターで、また同じことを思って。たまにこういうのくるよなと。好きすぎるとそうなる。
小黒 なるほど。高倉に、ご自身を投影してないんですか。
佐藤 そこは別に投影してないですね。
小黒 モデルになっているとしたら、外見だけですか。
佐藤 そうです。高倉成分はそんなに自分の中にはないはずなんですけど。
小黒 じゃあ、妹がいるのもたまたまなんですね。
佐藤 そうですね。妹キャラクターは使い勝手がいいので、どんな作品でも入れがちですけどね。
小黒 高倉は佐藤さんがモデルだと聞いていたので、そのつもりで妹を出しているのかと。
佐藤 その思いはなくはないかもしれない。だけど、高倉の妹に自分の妹そのものを投影しているわけではないんです。
小黒 当時のインタビューの話ですが、『魔法使いTai!』に毎回妄想シーンがあるのは「ぶらり信兵衛 道場破り」(TVドラマ・1973年)のおぶん(編注:同ドラマに登場する町娘)の妄想が元ネタだというのを見抜いたのは、多分、日本で僕だけだと思うんです。
佐藤 まさにその通りです。ヘヘヘ(笑)。
小黒 「ぶらり信兵衛 道場破り」は、お好きだったんですね。
佐藤 そう、好きですね。ドラマは刑事もの、青春ものや時代劇も見てましたし。「信兵衛」は面白かったですよね。
小黒 他にはない感じの作品でしたねえ。
佐藤 ないですね。しかも、作劇上、おぶんの妄想はないほうが尺的にも助かるにも関わらず、必ず入れているところがよかった。「TV番組でそういうことって大事だな」と思ったんです。そういうところでも勉強になってますからね(笑)。
小黒 『魔法使いTai!』の1話は行って戻るだけの話ですね。佐藤さんがやりたかったのは、お話がなくてもアニメは成立するんだということでしたね。
佐藤 「キャラクターで観れるはずである」ということですね。
小黒 脚本はどうなっていたんですか。
佐藤 プロットは僕で、1話のシナリオは遠藤明範さんに書いて頂いてるんです。それを補足、修正しながら絵コンテにしてましたね。それを小中さんが、「ちょっと1回文章にしてみる」と言って書いてくれたのが、世の中に出ている1話のシナリオかもしれないですね。
小黒 なるほど。
佐藤 通常は脚本段階で「こんな事件がこうあってこうなる」と進めていくんですけど、まずそこを求めないで、キャラクターに集中するだけで作っていくのが、遠藤さんはつらかったかもしれないなあと思います。
小黒 遠藤さんが書いた脚本も、事件らしい事件が起きない内容ではあるんですね。
佐藤 プロットがそうなので。
小黒 プロットは佐藤さんが全部を書いたんですか。
佐藤 そうですね。全6話分を書いています。言ってみれば構成ですけどね。
小黒 小中さんのシナリオはいかがでした。
佐藤 「女の子の描写がお上手」って言うと違うのかもしれないですけど、自分と求めるものが近くて、そういうところは助かったというか、勉強にはなりました。明確に言語化してたわけじゃないですけど、女の子の描写をする時に「分かりすぎると、なんか嘘っぽくなる」というのは、常々思っていたんですよ。「なんでここで泣いちゃうのか分からないんだけど、泣いちゃうな」という描写のほうが、本当っぽくなる。小中さんの書かれるホンはそうだったんですよね。小中さんも「分かるように書いちゃうと嘘っぽくなるんだよね」とおっしゃっていて、大変意見が一致するところでもありました。魔法とかに関しても、造詣が深かったので、小中さんの知識に頼って、色々と描写を入れていただいてます。魔法に関して、こちらからは何も出してないんですよね。あとは、参考に小中さんが書いたシナリオをもらったけど、全部ホラーだったんで怖くて読めなかった。
小黒 ハハハハ(笑)。
佐藤 ねえ。シナリオの段階で怖いんだから、大変なもんだって思いましたけど。
小黒 『魔法使いTai!』の反響はどうだったんですか。
佐藤 『魔法使いTai!』は観た方達に割と喜んでいただいたんですけど、後半の発売が相当遅れていきましてですね(苦笑)。毎月リリースのはずが、2ヶ月空き3ヶ月空きになったこともあってか、途中で「少し失速した」と言われてたね。
小黒 当時、「マニアの人に向けて作ったのに、親戚の子供が喜んでいた」と話されていましたね。
佐藤 そういうことはよくありますけれども(笑)。『魔法使いTai!』の時もありましたね。
小黒 ちゃんとお色気アニメになってたと思いますよ。
佐藤 頑張ってお色気を出しましたから。
小黒 それでいうと、佐藤さんにとっての女性のポイントは「太腿」なんですね。
佐藤 あとは膕(ひかがみ)辺りを使うことが多いかもしれない。
小黒 ひかがみ?
佐藤 膝の裏ですね。膝裏が多めです(笑)。
小黒 ちょっと話が戻りますけど、『セーラームーン』は、そんなに当たるとは思わないで始まったとして、その後の反響についてはいかがでしたか。
佐藤 日常的に実感できるぐらい人気が出たのは、驚きましたよね。一番驚いたのが、TV番組の最後に、次の番組の出演者が出てきて、「次の番組はこれ」と言うのがあるじゃないですか。
小黒 はいはい。
佐藤 「『ビートたけしのTVタックル』、このあとすぐ」と言うところで、ビートたけしが「このあとは『セーラームーン』」と言ったのが、衝撃でした(笑)。
小黒 別に『セーラームーン』やるわけじゃないのに。
佐藤 そう。次はビートたけしの番組なのに、ギャグとして『セーラームーン』と言ったのが衝撃でした。「おお、たけしも使ってる」と、嬉しいような驚くような気持ちになりました。
小黒 時代の番組でしたもんねえ。
佐藤 あとは、作品が動いていっちゃうと、どんどん手を離れていくので。ミュージカルとか色々展開していくと、「みんなが楽しんでくれていていいな」と思うぐらいですね。
第696回 『蜘蛛』EDの話
で、ようやくエンディングの話。まず曲作りはOP・EDとも音楽制作のKADOKAWAさんより「どのように?」と訊かれて
OPは「人前(アニメファン以外の方々)で堂々とカッコよく歌えるアニソンで!」
EDは「逆にどんなのがご希望ですか(訊き返し)?」
的なやりとりがあったような? OPは抑揚のある(ドラマチックな)アニソン。毎作、たいてい出す注文です。あと、とにかく「カッコよく」と。蜘蛛子というキャラクターから「カワイイ〜ギャグ・コメディ作品」を目指す方向も可能性としてはあるわけで。実際、時系列では後になりますが、1話のアフレコ時に「カッコいい作品を作りたいのです」と言うと、「私(蜘蛛子)」役・悠木碧さんも、「え?」と意外そうでしたし、そこは主題歌制作のKADOKAWAさんからも提示されてしかるべき議題だったのです。で、自分は迷わず「カッコよく!」と。今作『蜘蛛ですが、なにか?』、感触としては悠木さんにも出演していただいた『ベン・トー』に近いんですよね、俺が目指したギャグと真面目・カッコいいのバランスが。自分の中で
ギャグ(笑い)とカッコいいって表裏一体である!
と思ってるとこがあって、『ベン・トー』と同じくそれを目標にして作ってます。余談ですが、何年か前に『てーきゅう』のインタビュー取材を受けた際、『てーきゅう』の感想を尋ねると、その記者さんから「カッコいいアニメだ」と返ってきてとても嬉しかったのを思い出しました。
で、EDはというと、KADOKAWAさんからの提案が「蜘蛛子(cv.悠木碧)の電波ソングでいきたいです!」と進言され、板垣は「それ、いいですね!」と。そして、あの曲が上がってきたのでした。
アニメ様の『タイトル未定』
289 アニメ様日記 2020年12月6日(日)
2020年12月6日(日)
トークイベント「第171回アニメスタイルイベント 20周年記念飲み会 アニメ兄貴のこれを観ろSP!」を開催。沓名君も喋りたいことが沢山あるし、僕も沢山あって、駆け足で話を進める。沓名君と僕の作画マニアとしてのジェネレーションギャップについて話をして、吉松さんに突っ込んでもらうつもりだったのだけど、それについてはまたの機会に。
僕がトークで挙げたタイトルは以下のとおり。メインの部分は「ベストアニメ」ではなくて「教養として観たいアニメ」だ。「アニメ様のお勧め1980年代アニメ」は「教養として観たいアニメ」とは別のセレクト。
…………
アニメ様(小黒祐一郎)が選んだ「アニメファンなら教養として観ておきたいアニメ」
1『銀河鉄道の夜』
2『王立宇宙軍 オネアミスの翼』
3『伝説巨神イデオン』
4『アルプスの少女ハイジ』(&『母をたずねて三千里』『赤毛のアン』)
5 今 敏の劇場監督作品全部
6『うる星やつら2 ★ビューティフル・ドリーマー★』
7『機動警察パトレイバー2 the Movie』『GHOST IN THE SHELL』『イノセンス』
8『宝島』、劇場版『エースをねらえ!』、『あしたのジョー2』
9『トップをねらえ!』『新世紀エヴァンゲリオン』
10『ふしぎの海のナディア』
11『ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日』
12『魔法少女まどか☆マギカ』
13『海獣の子供』
14『佐武と市捕物控』
15『MIND GAME』
16『千夜一夜物語』『クレオパトラ』『哀しみのベラドンナ』
17『太陽の王子ホルスの大冒険』『長靴をはいた猫』『どうぶつ宝島』
18『傷物語』三部作
19『デジモンアドベンチャー』劇場版第1作、『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』
20『さらば宇宙戦艦ヤマト ―愛の戦士たち―』、劇場版『銀河鉄道999』
21『NARUTO』30話、71話、133話
22『機動戦士ガンダム』劇場三部作、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』
23 『ルパン三世』第1シリーズ、『ルパン三世』劇場第1作、『ルパン三世 カリオストロの城』、TVシリーズ『ルパン三世』145話、最終話
24 『人狼 JIN-ROH』
25 『迷宮物語』『ロボットカーニバル』『MEMORIES』
26『VAMPIRE HUNTER D』
27『AKIRA』
28『THE 八犬伝 [新章]』4話
29『未来少年コナン』『ガンバの冒険』
30 映画『クレヨンしんちゃん』第1作から第10作
「アニメ様のお勧め1980年代アニメ」
『きまぐれオレンジ☆ロード』の43話「傷心のひかる! 追いかけて冬海岸」
『とんがり帽子のメモル』10話「みんなそろって忘れ草」、25話「二人を結ぶ風の手紙」
『御先祖様万々歳!』
『超神伝説うろつき童子』初期三部作、『真・超神伝説うろつき童子 魔胎伝』上・下
『魔法の天使 クリィミーマミ』『魔法のスター マジカルエミ』の望月智充回
『魔法のスター マジカルエミ』の「蝉時雨」
『エスパー魔美』の桶谷脚本回、原恵一演出回
『妖獣都市』
…………
2020年12月7日(月)
午前中に散歩。13時からZoom打ち合わせ。「アニメスタイル016」についても話す。その後、編集中の書籍のスケジュールを作り直したり、印刷会社とやりとりしたり、取材のアポ取りを進めたり。
「佐藤順一の昔から今まで」の取材の予習で、バンダイチャンネルで配信されている『夢のクレヨン王国』を1話から観る。ストンストン役って竹内順子さんだったのか。アラエッサ役の坂田おさむさんもいい味を出している。それはともかく、意外と(よく考えたら意外じゃないけど)佐藤順一さんのカラーが濃い。5話はエンディングを観る前に「あ、この回は佐藤さんのコンテだ」と分かった。今まで目を通していなかった原作をKindleで購入。
突然だけど、今ならDVDやBlu-rayからのキャプチャーと画像補正を駆使して「荒木伸吾 本編カット画集」が作れるよなあ、と思った。誰が作るんだとか、許諾はおりるのかとか、ビジネスとして成り立つのかとかは置いておいて。
2020年12月8日(火)
作業の合間に事務所の片づけを進める。例によってゴミがかなり出たけど、全然片づいたようには見えない。Amazonから届いた段ボール箱を開けた。やたらとでかい箱だと思ったら、「マクロス 河森正治デザイナーズノート」と「長靴をはいた猫 Blu-ray BOX(初回生産限定)」が入っていた。
Amazon prime videoで「激突! 殺人拳」を観る。先日の「直撃地獄拳 大逆転」はこの映画の続編なんだけど、かなりテイストが違う。
2020年12月9日(水)
ワイフと代々木公園を歩く。散歩中に体調が悪くなり、午後に病院へ。検査してもらったけれど、原因は分からず(原因が分かるのは2021年の2月だ)。この歳になると色々と身体に問題が起きる。病院の後で映画もどうかと思ったけれど、新文芸坐の16時30分からの回で「カセットテープ・ダイアリーズ」(2019・英/117分/DCP)を観る。ヤンチャな主人公が活躍するヤンチャな映画だと思い込んでいたけど、そうではなかった。表現には新しさがあるけれど、物語の作りは古典的。いや、古典的なのが悪いというわけではない。役者がよかった。特にヒロインと主人公の幼なじみ。
取材の予習で『プリンセスチュチュ』の再視聴を開始。今回はBlu-ray BOXで観る。
2020年12月10日(木)
スケジュールを確認したら、池袋の『映画プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日』の上映がこの日までだったので、グランドシネマサンシャインで鑑賞。
2020年12月11日(金)
仕事の合間に新文芸坐で「晩春」(1949/108分/DCP)を観る。「開館20周年記念(1)小津安二郎監督生誕&ご命日 東京物語 | 晩春」の1本(正確には(1)は丸数字)。いやあ、面白かった。この映画は前にも観ているけど、前回はそのよさを十分の一も分からなかったんじゃないか。とにかく、原節子さんが演じているヒロインがいい。色気という言葉は適切ではないし、エロスと言うのも違う気がするけど、とにかくいい。ヒロインにも、笠智衆さんが演じる父親にも感情移入ができた。演出的については「解釈をしたくなるカット」も沢山あって、それもよかった。事務所に戻って、Wikipediaでこの映画のページを見た。「評価・批評」の項で「壺のカット論争」が話題になっており、これも面白かった。
2020年12月12日(土)
ワイフと徒歩で北区の飛鳥山公園に。飛鳥山公園で紅葉を見てから、近くで食事。浅見光彦シリーズに登場するらしい和菓子屋に寄ってから、旧古河庭園を歩いて、霜降銀座商店街で買い物。山手線で駒込駅から池袋まで移動して、新文芸坐で「東京物語」(1953/135分/DCP)を鑑賞。これも「開館20周年記念(1)小津安二郎監督生誕&ご命日 東京物語 | 晩春」の1本。自分が新文芸坐で「東京物語」を観たのは、多分、これが三度目。「晩春」と違って、今までの鑑賞と印象は変わらなかった。この日が新文芸坐20周年の日で、ロビーで花俟さんにお祝いの言葉を伝える。
第325回 映画「あの頃。」を観ました!
佐藤順一の昔から今まで(13)『セーラームーンS』と『マクロス7』
小黒 話は前後しますが、佐藤さんは『セーラームーン』の45話「セーラー戦士死す! 悲壮なる最終戦」で絵コンテを担当している。これは『ユンカース』の制作に入ってる最中に描いてるわけですね。
佐藤 そうですね。
小黒 その頃は脚本打ちには参加されていなくて、思いもよらない壮絶な内容の脚本を受け取ったということになるんでしょうか。
佐藤 ええ!(笑) そうです、そうです。(声が裏返りそうになりつつ)「本当にこれやるの!?」っていう感じのものが上がってきたので、びっくりした(笑)。
小黒 当時、「こういうものから一番遠いところにあるものを作っていたはずなのに」とおっしゃっていました。
佐藤 「どうしちゃった?」って、やっぱ思いますよね(笑)。だけど、やるなら、しっかりやるしかないしなあ、という感じでしたね。
小黒 でも、ご立派な出来でしたよ。「佐藤順一絵コンテ全集」を出版するなら、ぜひともこの話のコンテは入れたい。
佐藤 どちらかというと、出発する前に、うさぎが作ったカレーを食べる場面のほうが、生き生きしてますよね(笑)。
小黒 『セーラームーンS』の話をうかがう前に、幾原邦彦監督について聞かないわけにはいかないんですが、新人の頃から見どころのある若者だったわけですね。
佐藤 まあ、そうですね。どう見どころがあったかは正確には覚えてないですけど。
小黒 (笑)。『もーれつア太郎』放映時に、佐藤さんは「幾原というやつが見どころがあるので「アニメージュ」に取り上げてくれ」と僕に言ったんですよ。大々的に取り上げることはできませんでしたが。
佐藤 どうしてそういう依頼したのか、ちょっと覚えてないですけど。日常で喋ってることが小生意気だったんでしょうね(笑)。
小黒 そして、『S』で『セーラームーン』に戻ると、佐藤さんは各話演出として参加です。いかがでしたか。
佐藤 やっぱ、各話演出が自分の性に合ってるなって思うんですよね。監督よりも各話演出で入って好きにやりたいなっていうとこがあるんで、結構テンション上がりましたね。『セーラームーンS』の1話(通算話数では90話。サブタイトルは「地球崩壊の予感? 謎の新戦士出現」。以下、『セーラームーン』の話数で特記なきものは通算話数)は、レイちゃんが神社で襲われるやつで、安藤(正浩)さんが作監をやった話数ですよね。
小黒 そうですね。
佐藤 あの時、シリーズ構成会議に呼ばれて、シリーズディレクター的な発言を求められたりもしたんですよね。『R』がドラマ寄りだったので『S』は方向性を戻したいということを言われたりもして、愉快な方向にするんだったらこうかなと、考えながらやったかもしれないです。
小黒 なるほど。佐藤さんは、劇場版『R』(『劇場版 美少女戦士セーラームーンR』)をご覧になられて「あ、これかあ!」と思って、『S』の最初のエピソード(90話)で肉体に関する表現を取り入れるんです。
佐藤 ああ。レイちゃんが磔にされたり、うさぎがブローチを取られたり。
小黒 そうです。佐藤さん風に劇場版『R』を咀嚼するとこうなるのかと思いました。その後の104話「友達を求めて! ちびムーンの活躍」では、伊藤(郁子)さんと組んで、最初のシリーズで幾原さんがやったようなギャグ回をやって、幾原さんの得意技をどんどん潰していくというですね。
佐藤 そうだった! そういう狙いでやっていたんですよ。
小黒 そうですよ。物凄く怖い先輩ですよ(笑)。
佐藤 (笑)。確かにそうだった。そのことを忘れてた。
小黒 やってたでしょう? 『SuperS』(『美少女戦士セーラームーンSuperS』)の最初のエピソード(128話)で、幾原さんがアバンギャルドなものを作っていて、佐藤さんはアフレコ現場で「これは真似できない」と言ってたんですよ。
佐藤 確かにそういうつもりはありました。フフフ(笑)。
小黒 この記事を読んでる人に説明すると、佐藤さんが土台を作って『セーラームーン』は始まったんだけど、そのベースの中で、飛びぬけた仕事をしていた幾原さんが2代目のシリーズディレクターになった。そして、『S』で帰ってきた佐藤さんが、幾原さんの得意なところ、尖ったところをコピーして、追い抜いていこうとした。そういうストーリーですよ(笑)。
佐藤 そうそう(笑)。
小黒 だから、「ちびムーンの活躍」は立派なギャグ回でしたよ。
佐藤 そうでしたね。「やりたい放題とはこのことか」という感じがありますよね。狙いまくりですよね。大人力(おとなぢから)も使って。
小黒 大人力ですね。
佐藤 他の番組のキャストを呼びたい時に、局のプロデューサーを使って実現していく。
小黒 一応読者に説明すると、矢島晶子さんが出てきて『クレヨンしんちゃん』のしんちゃんみたいなキャラクターを演じたというだけじゃないんです。当時、矢島さんはぷろだくしょんバオバブの所属で、諸般の事情でぷろだくしょんバオバブ所属の方は、東映動画の作品には出演できなかったんです。
佐藤 今は出てますけどね。当時は青二プロダクションにいた人がバオバブを設立して、そんなに月日が経ってない頃だったので。
小黒 またまた読者に説明すると、東映作品のキャスティングを青二がやっていたわけです。
佐藤 矢島さんを使いたいって言ったら、作品担当のマネージャーが「オファーしてみたけど、ダメでした」と言うんです。当時『しんちゃん』と『セーラームーン』の局プロが同じ人だったから、その局プロに「オファーしたけどダメだったと言われたんですけど、本当ですか」と言って確認してもらったら、先方から「オファーはもらってない」という答えがきて、それで「オファーしてないというのは、どういうことなんだ」とマネージャーを問い詰めて。「局プロも了解してるコラボ企画なんだから、あなたの一存で決めないでください。ちゃんと交渉して」と言って、力技で出演してもらった。
小黒 確かに大人力ですね(笑)。
佐藤 ということをやったわけ、ですよ(笑)。
小黒 前後して、本郷(みつる)さんが『クレヨンしんちゃん』でセーラー・ムフ~~ン、セーラー・イヤ~~ン、セーラー・バカ~~ンというパロディキャラを出してるんですけど、そういうことをやってるのは知ってたんですか。
佐藤 それは局のプロデューサーさんから聞いてました。
小黒 佐藤さんのほうが先なんですか。
佐藤 言い出しっぺはこっちですが、放映は『しんちゃん』のほうが先なんです。(編注:『クレヨンしんちゃん』109話「アクション仮面に再会だゾ」が1994年8月8日放映。『美少女戦士セーラームーンS』104話「友達を求めて!ちびムーンの活躍」が同年8月20日放映)
小黒 あっちはイケメンアニメ監督がサイン会してるという展開があって、幾原さんをモデルにしたイケメンのキャラクターが出てくるんですよ。『セーラームーン』も『クレヨンしんちゃん』もやりたい放題でしたね。
佐藤 楽しいことをやりまくってますね(笑)。「これ、どこまでやったら怒られるの?」みたいな感じですね。
小黒 話は変わって、97話「水のラビリンス! ねらわれた亜美」が、僕にとって「佐藤順一の『セーラームーン』最高傑作」なんです。これは各カットに、相当にラフを入れてませんか。
佐藤 やってますやってます。
小黒 この前も観返して「あ、佐藤さんの画じゃん」っていうのがね、分かりました。
佐藤 確かに、凄く手を入れた回ですよ。
小黒 佐藤さんの水野亜美、ここに極まれりですよ。
佐藤 (笑)。磔になりますからね。
小黒 磔になるし、衛といい雰囲気出すし。
佐藤 確かに(笑)。
小黒 最後にうさぎが「ぎゃふん」って言って終わるのも凄い。本当にセリフで「ぎゃふん」と言うのは珍しいですよ。
佐藤 「ぎゃふん」と言わせて終わってやる! みたいなつもりだったからね(笑)。『セーラームーン』は、商業的な規模は大きくなったけど、やりたいことは割とできていたシリーズではありましたよね。
小黒 この後の佐藤さんは『S』の124話、125話を担当されますが、2話連続でやることになった理由は?(編注:124話「迫り来る闇の恐怖! 苦戦の8戦士」、125話「輝く流星! サターンそして救世主」)
佐藤 正確な順序は忘れましたけども、伊藤郁子さんが2話連続でやるほうがいいということになって、伊藤さんからの条件が「佐藤さんがコンテを切ること」だったんです。制作担当からそう言われて「分かりました」と答えるしかなくなるという流れです。
小黒 なるほど。内容的にはいかがだったでしょうか。
佐藤 内容的にはやっぱちょっと難しかったですね。敵のファラオ90がどんなふうに凄いのか、最後まで分からないまま盛り上げなければいけなくて難しいなとか、そういう感じでした。
小黒 『S』と同時期に、ミソトハジメ名義で『マクロス7』(TV・1994年)で、シリーズ構成補をされていますね。これはどんなお仕事だったんですか。
佐藤 これもまた高梨さんに声を掛けてもらった仕事ですね。総監督が河森(正治)さんで、監督がアミノテツローさんでしたね。それと、富田(祐弘)さんがシリーズ構成か。
小黒 そうですね。
佐藤 高梨さん的には、河森さんをハンドリングできる人が必要ではないかみたいなことだったと思うんです。原作者でもある河森さんがいると、みんなイエスマンになってしまうのではないかということが、気になってたのだろうと思うんですよね。俯瞰で見られる人のジャッジが欲しいので、僕に声を掛けたんじゃないかな。
ホン読みの時に、河森さんが意見を言うと、みんなが右へならえで河森さんについていく流れになって、それを「こういうふうに考えるやり方もあるかもしれませんよ」と言って方向を修正することが実際にありました。ただ、参加したのは本当に頭だけですよね。
小黒 シリーズ構成打ち合わせや初期の脚本打ち合わせに出た感じですか。
佐藤 立ち会って、各話のライターの方が「こっちのほうがいい」と思ってるけれど流されそうになってるな、という時に助け舟を出したりする役割でした。
小黒 この年は『おさわが!スーパーベビー』(劇場・1994年)もありました。これは凄く短い作品なんですよね。
佐藤 15分か20分か。本当に短いんだよね。
小黒 今思い出しましたけど、『ア太郎』のアバンでニャロメがスーパーヒーローになるのと、イメージが近いかもしれないですね(笑)。
佐藤 かもしれないですね(笑)。オリジナル企画を東映に出していくプロジェクトで、自分の企画のひとつとして出したやつです。
小黒 これは佐藤さんの企画なんですね。
佐藤 そうなんです。それこそ、制作的なカロリーが低くって、長寿にもなれて、みんなが楽できるもので面白いのないかなと考えて、出した企画だったと思うんですけど。マンガも、ネームを僕が描いて稲上(晃)君がペン入れしたものが2話分ぐらいあるんです。「なかよし」別冊の「るんるん」だったかと思います。(編注:「おさわが!スーパーベビー」[構成/佐藤順一 文/雪室俊一 絵/稲上晃]が、なかよし増刊「るんるん」1995年1・3月号掲載)。そういうプロジェクトのひとつとして、劇場で短編を流したというわけです。
小黒 おお。手応えはいかがでした?
佐藤 手応えはよかったんですよ。面白かったんですけど、関係者にそれ以上、プロジェクトを進めたいという意志がなかったのでそのままになりました(苦笑)。作ってみたら、面白くなったと思うんですけど。
小黒 『セーラームーンS』と『蒼き伝説シュート!』が同時上映だったんですね。
佐藤 ああ、そんな時代かあ。この『スーパーベビー』のデザインって、その後『どれみ(おジャ魔女どれみ♯)』のハナちゃんとか、『はぐプリ(HUGっと!プリキュア)』のはぐたんに繋がる原型でもあると思ってますけどね(笑)。
小黒 ああ、似てますね。
佐藤 フフ(笑)。近いキャラクターなんですよ。
第695回 またOPの話、続き?
C-19、ガラスのようにバリン! と割れる闇。シュンとユーゴーの対決その1。尺の短いアクション好き!
C-20、蜘蛛子と(ネタバレ厳禁)。
C-21、地球を喰うアリエル。ネタバレ云々言うわけもなく、ただの思いつき、というか曲聴いていちばん最初に決めたカットかと。
C-22、滴り落ちるその果汁から蜘蛛糸へ。
C-23、クイーンタラテクトの赤い眼の明滅。コレと次のカットは、曲というより”音”のイメージで作った画です。
C-24、でこれは(ネタバレ厳禁)?
C-25、蜘蛛子対モンスター達。3DCGならではの超絶回り込みカット。実はこーゆーのがやりたかったし、作画でも描きたい。もともと『あしたのジョー2』のジョー対カーロス戦のダイナミックな回り込み作画が脳裏から離れなくて、「アニメのアクションとはこーゆーもの!」と未だに信じて疑わない板垣です。CGのスタッフともリモート打ち合わせにてかなり綿密にやって、いろいろとワガママを聞いていただきました。モンスターを倒す度進化させたりとか。非常に感謝です!
C-26、歌詞にあるように「死ぬ気で死ぬ気で」考える蜘蛛子の並列意思ら。脳筋の身体担当だけ本が読めてません。
C-27、前述の大好きな回り込みアクション、今度は作画で。シュン対ユーゴーその2。結果は本編をご覧ください。
C-28、本来ならPANUPにつけて(合わせて)頭を上げるべきなのかもしれませんが、次カットの蜘蛛子が頭を上げるので、こちらは下げて。カット単体より、繋がる際に同じ方向に向かう動きを隣り合わせにしないようにしています。
C-29、欠番、というより単純に間違えてナンバーひとつ飛ばしてしまっただけ(汗)。
C-30、前述のように、蜘蛛子が頭を上げる、というより身体を起こし、立ち向かう! あとはネタバレ厳禁枠!
C-31、これもネタバレ厳禁!
C-32、自分の初監督作品『BLACK CAT』のOPにも似たアングルがあります。そのままだとただのセルフパロディになってしまうので、カット尻にもう1アクションつけました。
C-33、また欠番。これもただのミス(汗)。
C-34、これはC-32の受けカット。ね、縦PANの次は横PANでしょう?
C-35・36、この2カットも対。これ以上はネタバレ厳禁枠!
C-37、闘志溢れるユリウス。出崎・杉野アニメの影響大。
C-38、英語タイトルロゴがあったので使ってみた。
C-39〜41、すみません。これもネタバレ厳禁です(汗)。
C-42、はい、ラスト正式ロゴに蜘蛛子ちょこまかと逃げる。「カメラ(視聴者)に気づき、ハッとなり逃げる感じ」と発注しました。
以上、駆け足でラストまで解説しました。ネタバレ厳禁部分はご容赦ください。
アニメ様の『タイトル未定』
288 アニメ様日記 2020年11月29日(日)
2020年11月29日(日)
早朝、新文芸坐に行ってオールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 127 超大作OVA全話上映!ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日!!」の終幕を見届ける。その後は「佐藤順一の昔から今まで」の原稿作業など。まだ風邪が抜けてないようで、早めに就寝。ひたすら眠る。
2020年11月30日(月)
『トップをねらえ!』が劇場公開で3話から「亜シネスコサイズ」になっているという夢を観た。夢の中で「トリミングしても結構観られるなあ」と思った。昼に某社で打ち合わせ。倉庫から出したタイムカプセルを開けてもらう。今日の星占いは「育ててきたものが実を結ぶような日。ちょっと意外な物が手に入る気配も。」だった。ズバリ大当たりだ。
集英社の編集者さんのツイートで「チェンソーマン」の現在連載分が最終局面であることを知る。え~、そうなの。まだまだ続くと思っていた。
2020年12月1日(火)
「佐藤順一の昔から今まで」の予習で『美少女戦士セーラームーンSuperS』『同 スーパースターズ』の佐藤さんの演出回を観る。すっかり忘れていたけど、『美少女戦士セーラームーンSuperS』で佐藤さんの演出回に登場するレムレスは親戚関係にあるのだった。132話に出てきた風船女プー子ちゃんのまたいとこが、140話に出てきたゴムマリオくん。ゴムマリオくんは、146話に出てきた玉乗り象使いエレファン子さんの義理の兄。
2020年12月2日(水)
仕事の合間にグランドシネマサンシャインの11:30からの回で『ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒』を観る。技術的には今回も圧倒的。内容については「一般映画」を目指しているのだろうな、という印象。『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』はストップモーション・アニメーションだからこそ成立した映画だったけれど、こちらは実写映画でも作れる内容だと思った。ただ、「ストップモーション・アニメーションで作るなら、ストップモーション・アニメーションならではのものを」と思うのも、おそらくはナンセンスであるのだろう。
「佐藤順一の昔から今まで」の取材予習で『ゲゲゲの鬼太郎[第4期]』の佐藤順一さん演出話数を視聴した。51話「雪コンコン! 笠地蔵」がとてもよかった。当時は地味だなあと思ったかもしれないけど、登場人物もテンポもいい。味わい深いし、オチもいい。ちょっと考えればオチは分かるのだけど(いや、考えなくても分かるか)、ボンヤリと観ていたので「ああ、そういうことか」と思った。ちなみに細田守さんが演出助手をやったエピソードの1本だ。
2020年12月3日(木)
仕事の合間に、新文芸坐で「ポルノ時代劇 忘八武士道」(1973/82分/35mm/R15+)を鑑賞。「没後15年 天才にして職人 石井輝男・超映画術」の1本。館を出るときに新文芸坐の花俟さんに「『地獄』は観て行かないんですか」と言われる。同時上映の「地獄」(1999/101分/35mm)に、「ポルノ時代劇 忘八武士道」で主人公の明日死能を演じた丹波哲郎が、同じ役で出ているのだそうだ。「丹波哲郎(明日死能)2本立て」だったのね。新文芸坐らしいプログラムだなあ。「ポルノ時代劇 忘八武士道」は今までに何度も新文芸坐にかかっていたのだけど、観ることができたのは今回が初めて。タイトル通りの内容だった。事務所に戻って、Kindle Unlimitedにあった原作「忘八武士道」に目を通す。おおっ、意外と原作通りだ。
2020年12月4日(金)
「鬼滅の刃」原作最終巻の発売日。Kindleで「鬼滅の刃」1巻から最終巻までをまとめて買う。最初から最後までまとめて読みたかったので、今まで買わないでいた。 TOHOシネマズ池袋の14:00の回で、業界の知人と『君は彼方』を観る。ある意味、聖地で観たわけだ。噂になっているように出来がいいとは言えない。ただ、作り手には伝えたいことがあるし、伝えるために努力をしているとは思った。一緒に観た知人と、直後に感想を言い合った。
佐藤順一さんの演出の『おジャ魔女どれみ』を全部観た後、『も~っと!』の38話「学校に行きたい!」、45話「みんなで!メリークリスマス」を観る。この辺りのエピソード、自分は本放送でどう思ったんだったかな。
2020年12月5日(土)
沓名健一君からイベントで発表する「アニメファンなら教養として観ておきたい作画アニメ」のリストが届いた。あんまりにも作品の数が多いので驚く。新文芸坐の13:25からの回で「直撃地獄拳 大逆転」(1974/87分/35mm)を鑑賞。これも「没後15年 天才にして職人 石井輝男・超映画術」の1本。予想以上のバカ映画だった。バカ映画を狙って作られたものなので、これは悪口ではない。序盤で出てくる保険会社会長が老人メイクの丹波哲郎さんで、その秘書が志穂美悦子さん。どう考えてもただの会長と秘書のわけはないんだけど、終盤での正体のバラし方が予想以上に痛快で、そこが一番よかった。上映の後「伊藤俊也監督、瀬戸恒雄さん(石井輝男プロダクション代表) 聞き手:賀来タクトさん(映画評論家)」のトークショーも見る。11月はほとんど劇場に行けないはずなので、12月はなるべく映画館に足を運ぶ予定だ。
第324回 打倒!Clubhouse!!
佐藤順一の昔から今まで(12)『ユンカース・カム・ヒア』と『ワ~ォ!メルヘン王国』
小黒 佐藤さんは『セーラームーン』を24話で離れて『ユンカース・カム・ヒア』に参加するわけですね。
佐藤 はい、そうですね。
小黒 『ユンカース』の準備はかなり前からやってるんですね。
佐藤 正確には覚えてないですが、『きんぎょ注意報!』の頃から打ち合わせを始めてんじゃないかな。
小黒 『ユンカース』も佐藤さんの代表作ですね。原作の小説があり、それを映像化してほしいという話だったわけですね。
佐藤 そうですね。これも高梨(実)さんとの仕事です。
小黒 現場が東映じゃないのはどうしてなんですか。
佐藤 高梨さん的には、トライアングルスタッフでやりたいということを決めていたと思うんですね。
小黒 プロデューサーで『悪魔くん』の横山和夫さんの名前が入ってますが。
佐藤 横山さん、既に東映から角川に移られてたんですよ。
小黒 ああ、なるほど。クレジットだけだと「『悪魔くん』の横山プロデューサーと佐藤さんが再度組んだ」というふうにも見えますよね。
佐藤 確かにね(笑)。でも、全然そんな感じじゃない。スタジオに差し入れを持ってきてくれたことはあるけれど、頻繁に会っていたわけではないですしね。
小黒 佐藤さんは『ユンカース』のパイロットフィルムの演出もしてるんですか。
佐藤 してます。コンテもやっています。元々、大平(晋也)さんにキャラデから作監まで全部やってもらうつもりで、そのプロトタイプを作ろうとしたパイロットですね。
小黒 『きんぎょ注意報!』か『セーラームーン』の制作中に、パイロットを作られていたんですか。
佐藤 その可能性はありますね。確かにパイロットの頃、自分はスタジオにベッタリと入り浸ってはいなかったですよね。いつ行っても大平さんは何か作業してましたね。トライアングルスタッフが荻窪に『ユンカース』のための部屋を借りていて、そこで大平さんと沢山話をした記憶があります。だから、スタジオ内で普通の演出と作画監督として作業をやっていたと思いますね。
小黒 『ユンカース』のパイロットフィルムは日本の作画史のターニングポイントのひとつと言われています。あそこまでキャラクターの生々しさや臨場感のある映像になったのは、佐藤さんの意図でもあるんですか。
佐藤 自分の意図もありましたけど、やっぱ大平さんの目指すものがそっちでしたよね。僕や小松原(一男)さんは、例えば、大平さんから上がってきたひろみのデザインに面食らったんです。アニメは正面、横、斜め、下のどこから見ても同じに見えないといけない、と我々は思ってるんですけど、大平さんが描いてきたものって「(角度によって)違って見えてもいい」っていうデザインなんですよね。「だってそうだもん」っていう世界なので、これはどうすればいいのかなと困ったということはありましたよね(笑)。パイロットに関しては、そのキャラクターでダーッと行きましたけど、「これについて来れるアニメーターがどれぐらいいるのか」ということと、制作スピード的にも「大平さんのこの画で100分やるのはきついんじゃないかなあ」という話になって、小松原さん登場となるような感じでしたね。
小黒 大平さんを選んだのは、トライアングルスタッフの浅利(義美)さんですか。
佐藤 あそこのスタッフは、プロデューサーも含めて顔が広くて、巧い人を沢山知ってますからね(笑)。浅利さんか大橋(浩一郎)君のどっちかだったかな。
小黒 『ユンカース』の作画監督は小松原さんになったけれども、当初目論んでいた、尖った方々もある程度残った布陣になったと認識してよろしいでしょうか。
佐藤 そうですね。初めて会うような凄い人達がぞろぞろいて、勉強になるやら緊張するやらで。
小黒 緊張したんですか(笑)。
佐藤 いや、よほどのことがないと緊張はしないか(笑)。「みんな、巧いなあ」と思ってました。業界には色々な人がいて、「ロボットを描きたい」「アクションをやりたい」といった人もいるけど、「手間の掛かる日常を描きたい」という人達が集まった印象でしたね。
小黒 佐藤さん自身は、どういうスタンスだったんですか。
佐藤 どの作品かは忘れましたが、当時、現実のリアルなお芝居をアニメの中で再現することを目指す人をよく見かけるなと思っていたんです。「画的なもののリアルと、お芝居のリアルって違うよね」と思う一方で、「ロトスコープをやればリアルに近づけるんじゃないか」という意見も聞くことがあったんだけど、ロトスコープみたいなことをやってもアニメにならないだろうと。本当にリアルかどうかじゃなくて、アニメの中の本当らしさが大事で、そこの着地を目指さないと日常感というものは出てこないんじゃないかな、と思っていた。それを『ユンカース』の中でやっていこうかな、ぐらいのアプローチだったんですかね(笑)。日常的な芝居が展開されてるんだけど、じゃあ、それがリアルを引き写したものかというとそうではない。「どこかマンガっぽいんだけど、ちゃんとリアルを感じるね」というところを目標にして作るアプローチかな。
小黒 佐藤さんがそれまで作ってきたものを含め、その後に作っていったものの中でも、芝居とかレイアウトに関して逃げないというか、一番手間の掛かる方法を採っている作品ですよね。
佐藤 そうですね。
小黒 それは「一回やれるとこまでやろう」という思いが佐藤さんの中にあったのか、それとも企画の要請によるものなんでしょうか。
佐藤 いや、これは折角の機会なので、自分でもやれることはやってこうっていう気持ちがありましたよね。だから、原画チェックの時も、ポーズとかをちょい直ししたりすることが凄く多かった気がします。
小黒 なるほど。
佐藤 コップの持ち方も、普通に持たれちゃってる画が来ると「人によってこう持ったり、ああ持ったりと、色々違うよね」と思いながら修正して(笑)、そんなことを日々やってた気がします。
小黒 制作期間はどのぐらいだったんですか。
佐藤 やっぱり結構掛かっていて、画だけでも予定から4、5ヶ月オーバーしてたんですね。そしてアフレコからダビングまで、ちょっと時間が空いちゃってたりもして、トータルで凄く時間の掛かった作品でしたよね。
小黒 佐藤さんは『セーラームーンS』で東映に戻ってくるわけですけど、その時点ではまだ『ユンカース』は完成してない?
佐藤 完成してないですね。多分、お父さんの声だけが決まってない状態でアフレコが終了していたんじゃないかな。最終的に(原作者の)木根(尚登)さんがやることになるんですけどね。その時点では、公開規模やどこでやるかも決まってなかったんですよね。言うたらおケツが見えない状態だった。「そんなに慌てて作らなくてもいいから、ちゃんと画を完成しましょうよ」ということで画を完成させて、次に「音楽はどうしますか」とか、ゆるゆると進んでいって。流石にちょっとここで完成しなきゃまずいという時に、やっとダビングが進行したと思います。そんな状況だから他の仕事が被っていて、最終ダビングの日、行けなかったんですよね。音響監督は斯波(重治)さんがやってくれてるのでお願いして。仕上がったものは全然問題ないんですけど。
小黒 音響監督が別に立ってるということは、普段の東映の作品と違って、役者さんのお芝居を斯波さんにディレクションしてもらって、佐藤さんが「いいです」「こうしてください」と言うようなかたちなんですね。
佐藤 そうですね。斯波さんのディレクションの仕方を勉強させてもらうつもりで見てましたけど。外の音響さんの仕事を見る機会もなかったので、興味深く見させてもらいました。しかも、(ひろみ役の)押谷芽衣ちゃんは当時12歳ぐらいだったから「子供さんのディレクションを学ばせてもらおう」と思いながら見ていました。
小黒 思い出深いシーンはありますか。
佐藤 画的なことで言うと、やっぱり大橋さんにやってもらったクライマックスの背景動画。一歩でも『スノーマン』(劇場・1982年)に近づきたい、みたいな画作りですけど(笑)、大変なのが分かっていたので、そこだけ特別枠で制作を動かしましたね。大橋さんも凄く頑張って応えてくれたので、思い出に残ってますねえ。カット単位だと、田辺(修)さんの原画とかが、見た目はそんな細かそうじゃないんだけど、動くと凄く細かい印象があって、勉強になりつつも面白かったですね。
小黒 これもBlu-rayになってもらいたい作品ですね。
佐藤 そうですね。本当にたまに観たくなるんですけど、せめてどっかで配信してくんないかなあ。
小黒 この頃に『(世界名作童話シリーズ)ワ~ォ!メルヘン王国』(TV・1995年)という合作作品がTV放送されてるんですけど、いつ頃作ったものなんですか。
佐藤 覚えていないんですが、『セーラームーン』をやってる間かもしれないですね。これもプロデューサーが旗野(義文)さんなんですよね。
小黒 何分ぐらいのものなんですか。
佐藤 TVなので、20数分ですね。イタリアの放送局の枠なんですよ。イタリアの放送局でやるものを日本で作っていて。放送の基準が日本じゃなくってイタリアなんですね。海外なので、日本のロジックで作れないこともあって、それも勉強になりましたね。「おやゆび姫」をやって、確か最初に伊藤郁子さんにデザインしてもらったんです。我々の認識で言うと、おやゆび姫って3頭身ぐらいの可愛らしいちょこちょこしたキャラになるんですけど、そういうデザインを出したところ、イタリアからは「これは幼児である」とNGだったんです。
小黒 なるほど。
佐藤 最後に結婚する話だから「幼児が結婚することがコード的にありえないので、頭身を上げてくれ」と、おやゆび姫の頭身をちょっと上げるんですよね。本当に大人にしてしまうと、日本の基準では可愛さが欠けるので(笑)、ちょっと塩梅したぐらいになってますけど、「イタリアではそういう基準なのか」と、思ったりね。これもうちの奥さんが選曲やってます。育児休業中の頃だったかな。
小黒 『ユンカース』に話を戻しますけど、佐藤さんは『ユンカース』が初めての劇場長編ですよね。「今後も長編で行こう」とは思わなかったんでしょうか。
佐藤 はい。「やっぱりテレビが合ってるな」と思いましたからね(笑)。
小黒 「一度はちゃんとした長編を作りたい」っていう欲は達成されたんですか。
佐藤 元々、どうしても劇場やりたいという気持ちはそれほどなかったんですけど、いい機会をもらえて。劇場でやろうと思っていたことを、大体そこでやってみて「やっぱり大変だったなあ」って思いましたからね(苦笑)。
小黒 この当時の出来事で、覚えてることがあります。佐藤さんは『ユンカース』で巧いアニメーター達の仕事に触れて、「ああ、俺はまだまだ画力が足りなかった」と感じた。それで、作画の勉強をしたいと思って、幾原さんに「(演出話数で)原画を描かせてくれ。そして、自分の原画にリテイクを出してくれ」と頼んで断られるんですよ(笑)。
佐藤 ああ、確かにあったかも(笑)。実際の画面を見て「あんなに手を入れたけども、あんまりいいとも言えないな」ということを実感したんです。
小黒 もっと画力があれば、もっと手を入れられたのに、と思われたんですね。
佐藤 そうなんですよ。
アニメ様の『タイトル未定』
287 アニメ様日記 2020年11月22日(日)
2020年11月22日(日)
徒歩で新宿に。LOFT/PLUS ONEで「第170回アニメスタイルイベント ササユリの仕事」を開催。会場にお客さんを入れたイベントは久しぶりだった。やっぱりお客さんがいると話がしやすい。トークも充実したものとなった。自分の中で「なつぞら」関連の仕事が一段落した感じだ。終演後、歩いて池袋まで戻る。
就寝前にKindle Unlimitedで倉多江美さんの「一万十秒物語」を読む。1巻の内容はかなり覚えていた。語り口が好きだったんだな。2巻以降は記憶になかったが、僕が読んだ時点では全1巻であり、後に2巻以降が刊行されて、それから、最初の単行本が1巻と表記されるようになったらしい。2巻以降が記憶にないはずだ。
2020年11月23日(月)
午前11時から駅前の喫茶店で打ち合わせ。別にアダルトアニメについての打ち合わせではなかったのだが、『うろつき童子』について熱く語ってしまう。
22日のイベントに来場されたお客さんに教えてもらったのだけど、『シャドウバース』25話の演出が和田高明さんで、制作進行が金子真枝さん。映像を確認したところ、確かにクレジットされている(正確には制作進行は、金子真枝さんと大森祥平さんの連名)。金子真枝さんといえば「アニメ制作進行・金子真枝伝説」の金子さんですよ(急にですます調)。制作進行でありながら、LOFT/PLUS ONEでイベントの主役になったあの金子さん。「和田高明 カレイドスター原画集」の発案者で、アニメスタイルに企画を出したのも金子さんだ。今は現場から離れて事務系の仕事をしている金子さんが、『シャドウバース』で和田さんのために現場復帰をしたのだそうだ。『SHIROBAKO』の興津由佳みたいだ。和田さんと金子さんのコンビは、『シャドウバース』で、もう一度あるそうだ。
★参考リンク
LOFT/PLUS ONEスケジュール
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/plusone/10423
そのイベントについての小黒の感想
http://animesama.cocolog-nifty.com/animestyle/2007/10/post_a9ec.html
「アニメの作画を語ろう」animator interview 和田高明(1)[和田さんのインタビューだが、金子さんも登場]
http://www.style.fm/log/01_talk/wada01.html
2020年11月24日(火)
Production I.Gで打ち合わせで、その前に武蔵野カンプスでランチをとろうと思って早めに出たのだけれど、武蔵野カンプスはお休みだった。池袋に戻ってから、会社の倉庫でモノを探す。探していたモノとは関係ないが、『機動戦艦ナデシコ』や『アキハバラ電脳組』で僕が描いたイラストの発注ラフが出てきた。いくつかをTwitterで公開する。
★参考リンク
https://twitter.com/animesama/status/1331170694374178816
https://twitter.com/animesama/status/1331172004901265414
https://twitter.com/animesama/status/1331172229036445698
Netflixで『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』を1話から最終回まで流し観。今だと素直に視聴できる。当時は富野監督の『機動戦士ガンダム』と比べて、自分の中での評価が辛口になっていた。ところで、作品中に表示されるタイトルロゴは『STARDUST MEMORY』がどーん大きくて、『機動戦士ガンダム0083』が小さいのね。印象としては『STARDUST MEMORY』がメインタイトルで『機動戦士ガンダム0083』がサブタイトルだ。
2020年11月25日(水)
Netflixで『カウボーイビバップ』の再見を始める。昼間から業界のある方と定食屋飲み。酔って自宅に戻って休む。23時に起きて、事務所に入る。
2020年11月26日(木)
25日の23時に事務所に入って、間に散歩等を挟んで26日の19時までデスクワーク。いい年をしてこんな生活をしてはいけない。「川元利浩アニメーション画集[デザイン編]」の新しい見積もりが出る。仕様の変更ができそうだ。Netflixで「クイーンズ・ギャンビット」1話から最終回の途中まで観る。かなり面白い。特に最初の数話がよかった。
セット売りを共同購入で入手した「ウルトラマン トレジャーズ」を開封した。これは2016年に発売された商品で「ウルトラマン」の企画書、デザイン画、台本等のお宝が50点収録された商品だ。いやあ、これは凄い。凄まじい。「円谷英二の名刺」の複製は凄すぎて笑った。発売開始時には1万7千円という金額に躊躇して、結局購入しなかったのだけど、かかった手間や印刷費を考えると、1万7千円はむしろ安い。
2020年11月27日(金)
朝から寒気と倦怠感。熱は36.2度。念のために病院に行ったのだけど、「高熱が出たらコロナの検査に行きなさい」と言われて診療はオシマイ。食欲はやたらとあるので、スタミナをつけるために昼はガッツリご飯。Netflixで「クイーンズ・ギャンビット」の最終回を視聴。『カウボーイビバップ』の続きを観る。
「設定資料に入っているPC打ちの文字は設定資料の一部なのか」問題の続き。「アニメスタイル002」に『LUPIN the Third 峰不二子という女』の設定資料を付録としてつけた。この時は小池健さん自身から、制作スタッフが足した文字や画像はカットしてほしいというオーダーがあり、カットして収録。「アニメスタイル015」に『LUPIN THE IIIRD』シリーズの記事があり、こちらは制作スタッフが追加した文字や画像が入った状態で収録した。「002」はデザイナーが描いたデザイン画を収録し、「015」は制作現場で使われている設定資料を収録したというかたちだ。「002」と「015」で同じ線画を1枚載せているので、比較はしやすいはず。
2020年11月28日(土)
昼間は原稿作業など。夜は新文芸坐に。オールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 127 超大作OVA全話上映!ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日!!」を開催。トークのゲストは本田保則さん。トークは『うろつき童子』の話から始めて、『ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日』の話に。楽屋でお話をした後、1話のロボが登場する辺りを観てから帰宅。
第200回 森に流れるポップス 〜山賊の娘ローニャ〜
腹巻猫です。2月6日に東京国際フォーラムで開催された「銀河鉄道999 シネマ・コンサート」に足を運びました。演奏も音響も申し分なく、あらためて、青木望先生の音楽のすばらしさを実感。これは、日本発のシネマ・コンサートとして海外に輸出してほしいです。今回は感染症対策のため客席を半分に制限しての公演でしたが、再演を期待します。
昨年(2020年)12月にTV放映されたアニメ『アーヤと魔女』のサウンドトラックCDが1月6日にヤマハミュージックコミュニケーションズから発売された。近年は劇場アニメのサウンドトラック盤も発売されないことが多いので、このリリースには「さすがジブリ・ブランド」と感心した。
『アーヤと魔女』の音楽は武部聡志。宮崎吾朗監督との仕事は3作目である。
今回は、2014年に武部聡志が手がけた『山賊の娘ローニャ』のサウンドトラックを取り上げよう。
『山賊の娘ローニャ』は、2014年10月から2015年3月まで放送されたTVアニメ。宮崎吾朗監督が初めて手がけるTVシリーズとして、また、3DCGを積極的に使用したアニメとして話題になった。アニメーション制作はポリゴン・ピクチュアズが担当している。
原作はアストリッド・リンドグレーンの同名児童文学。リンドグレーンは「長くつ下のピッピ」「やかまし村の子どもたち」などの作品で日本人にも親しまれているスウェーデンの作家だ。『山賊の娘ローニャ』はタイトルどおり、山賊の娘として生まれた少女ローニャを主人公にした物語である。
同じ森を根城に活動しているマッティス山賊とボルカ山賊は日頃からいがみあっていた。ある日、マッティスの娘ローニャはボルカの息子ビルクと出会い、友だちになるが、マッティスとボルカは2人を引き離してしまう。親同士の対立に嫌気がさしたローニャとビルクは家出して、森で2人だけの生活を始める。
リンドグレーンらしい、独立心の強い活発な少年少女像が魅力的。また、本作では父親と子どもの関係も重要なテーマになっている。そして、鳥の体に人の顔を持つ鳥女や地下に棲む小人などが登場し、物語に幻想的な味わいを加える。
「名作アニメ」と呼べる題材で、こういうジャンルが好きな筆者には期待がふくらむ作品だった。正直に言うと、3DCGで描かれたキャラクターはパキっとしすぎていて、はじめは少々違和感があった。が、放送が進むにつれて表現がこなれ、観ているほうも慣れてきた。
実は音楽についても同じで、当初は、「音楽が立ちすぎてるなあ」と思ったのだ。
音楽の武部聡志は、キーボーディスト、アレンジャーとして活躍する、日本のポップミュージックを代表する音楽家の1人。国立音大在学中からプロとして活動を始め、松任谷由実コンサートの音楽監督や一青窈をはじめとする数々のアーティストのプロデュース、アレンジを手がけている。『山賊の娘ローニャ』は、劇場アニメ『コクリコ坂から』(2011)に続いて手がけた宮崎吾朗監督作品である。
余談になるが、筆者は斉藤由貴のアルバムをデビュー作から買って聴いている。その斉藤由貴の80年代の楽曲の大半をアレンジしたのが武部聡志だった。初期の名曲「卒業」「初戀」などの印象的なアレンジも武部の手によるもの(TVドラマ「スケバン刑事」の主題歌「白い炎」も)。だから、武部サウンドは耳になじんでいた。シンセサイザーと生楽器を巧みに使ったアレンジは、現代的でキャッチーで、しかも心地よい。
主題歌アレンジを担当したのがきっかけで劇中音楽を手がけた『コクリコ坂から』は武部聡志のポップスセンスが生かされた作品だ。1960時代を舞台にした青春物語で、郷愁を誘う歌謡曲風のサウンドがぴたりとはまった。
いっぽう『山賊の娘ローニャ』は北欧の森を舞台に展開する、ファンタジーの要素もある作品。どんな音楽がつけられるか、こちらも楽しみだった。
音楽は、すごくいい。
観ていて、思わず耳をそばだててしまう。
ただ、楽曲として完成されすぎていて、「劇中音楽(劇伴)としては立ちすぎでは……?」というのが当初の印象だった。
でも、観ているうちに印象が変わった。キャラクターがパキっとしているぶん、音楽もくっきりしているほうが合う。さりげなく背景に流れ、映像に溶け込むタイプの音楽とは異なる方向性の音楽なのだ。
武部聡志のインタビューによると、本作への参加は宮崎吾朗監督からのご指名だったという。当初は作品内容を意識して民族楽器などを使った音楽を作ることを考えていたが、仕上がってきた映像を観て方針を変えた。CGを使った絵にシンセサイザーを使ったサウンドが意外と合うことがわかったからだった。結局、民族音楽や古い楽器にはこだわらない方向で進めることになった。
できあがった音楽は、特定の国や民族を意識しないものになった。生楽器とシンセサイザーを使い、北欧風だったり、スペイン風だったり、ケルト風だったりと、多彩なサウンドと曲調で構成されている。インストゥルメンタルとして完成度が高く、メロディもリズムも、ひとつひとつの楽器の音もくっきりと聴こえる。輪郭のはっきりした音楽である。そのぶん、隙間がなく、セリフやSEとぶつかってしまうのでは……と思ってしまうが、先に書いたように、これが絵に合っているのだ。というより、映像の中で音楽もキャラクターとして躍動している。そんな印象である。
本作のサウンドトラック・アルバムは2014年12月にポニーキャニオンから発売された。現在、CDは入手困難だが、レコチョク、mora、iTunes等の音楽配信サイトでデジタル音源を購入できる。
収録曲は以下のとおり。
- 春のさけび《TVサイズ》(歌:手嶌葵)
- はじまり
- 森へ
- こもれび
- 開門
- マッティス城
- スキップ
- 人生
- あたたかな風
- 威風堂々
- 呑気
- 迷い道
- 森一番の山賊団
- 山賊踊り
- 夕餉
- 山賊道
- 春のさけび〜静寂〜
- 山のはのお日さま
- 霧の中
- 涙
- あやしいものたち
- 鳥女
- 地下のものたち
- 火事場のバカ力
- 追いかけっこ
- 山賊の宴
- 哀愁
- 喧嘩
- 想い
- あの人
- 秋の日
- オオカミの歌(歌:野沢由香里)
- また明日
- 春のさけび〜ときめき〜
- Player《TVサイズ》(歌:夏木マリ)
1曲目と最後のトラックにオープニング主題歌とエンディング主題歌のTVサイズを配し、BGM32曲と劇中歌1曲を収録している。曲順は、物語の始まりからシリーズ中盤までの展開をイメージさせる流れだ。
本作のBGMはおよそ60曲が作られたそうだが、劇中で印象深い曲はほぼ網羅されている。
2曲目の「はじまり」は第2話以降のエピソードで、冒頭のプロローグ部分に流れた曲。弦が細かく刻むリズムにオーボエやフルートのメロディが重なり、物語が始まるワクワク感をさわやかに伝える。バックで動くチェロのメロディが効果的だ。
続く2曲「森へ」と「こもれび」は、ローニャが森で過ごす場面によく使われた曲。本作の舞台である北欧の自然とローニャの胸にわきあがる感動を表現する曲である。「森へ」ではアコースティックギターとドラムの軽快なリズムに乗って、ピアノとビブラフォンが自然の中を駆ける開放感とよろこびを軽やかに歌う。「こもれび」はアコースティックギターのメロディがまぶしい光と森の息吹をイメージさせる曲。どちらも初めて使用されたのは第3話、ローニャが初めて城を出て森に行くエピソードだった。
ここまでの3曲が、『山賊の娘ローニャ』の世界を音楽で伝える代表曲と言える。命あふれる豊かな自然とその中でのびのびと育つローニャの姿を、4リズム(ギター、ベース、ドラム、キーボード)と弦、木管楽器を主体に躍動感に富んだ曲想で描いている。
トラック7の「スキップ」も同様の編成で書かれたローニャの日常を描く曲だ。こちらはピアノのリズムとフルート、アコースティックギター、ストリングスなどのアンサンブルで、家族とすごすローニャや森を散策するローニャの楽しい気分をのんびりと心地よく表現する。シリーズ後半では、ローニャとビルクが森で野生馬を手なずける場面などに使用されていた。
ローニャをとりまく山賊たちは、ユーモラスな曲想で描写されている。スネアドラムと金管楽器で山賊の出陣を大げさに描くトラック10「威風堂々」、スパニッシュマーチ風のトラック13「森一番の山賊団」、哀愁漂うロマ(ジプシー)音楽風のトラック16「山賊道」、ハンドクラップ(手拍子)がリズムを取るトラック26「山賊の宴」などだ。
「山賊の宴」ではズルナというオーボエの原型になった西アジアの古楽器が使われている。これは映像を観た武部聡志が、山賊が演奏している笛がズルナに似ていたことから、わざわざズルナを持っていて吹ける奏者を呼んだのだそうである。
幻想的な生き物が現れるシーンの音楽は少し緊張感のある曲調で書かれている。
森に棲む灰色小人の登場シーンに使われたトラック21「あやしいものたち」は、ウッドベースの指弾きとストリングスで森にひそむ未知の生き物の気配を描写。次の「鳥女」はストリングスとパーカッションで、鳥女の不気味さと鳥女に追われるローニャの恐怖感を表現する。
トラック23「地下のものたち」はアカペラの子どもコーラスで歌われるミステリアスな曲。森の中でローニャが聞く不思議な歌声として劇中に流れている。
山賊同士の対立を描く本作だが、山賊が恐ろしい存在として描写されるシーンはほとんどない。その代わり、幻想的な生き物がローニャの前に現れ、物語にサスペンスと奥行きを与えている。幻想的な生き物に添えられた曲は、音楽全体を引き締めるスパイスの役目を果たしているのだ。
本作の音楽の中で筆者がとりわけ心に残ったのは、やや哀愁を帯びた抒情的な曲である。
トラック9の「あたたかな風」はベースとピアノのイントロからチェロとバイオリンが奏でる美しいメロディに展開する曲。森ですごすローニャの気持ちやローニャとビルクの友情を描写する曲としてたびたび使用された。ベースの短いフレーズから始まるイントロがいい。通常の映像音楽だったらこんなイントロはつけないだろうと思うような、武部聡志のセンスが光る導入部である。この曲に限らず、本作の音楽では曲の展開やアレンジに武部聡志らしいポップス的なセンスと技が生かされていて、短いながらも聴きごたえがある。
トラック18「山のはのおひさま」は2本のサックスが奏でる、じんわりと胸にしみる曲。ローニャのちょっとさみしい気持ちを表現する曲として使用されていた。タイトルどおり山の端に沈む夕陽が連想される、郷愁を誘う曲である。
トラック20「涙」は、2本のギターの調べが悲しみを表現する曲。第10話で雪の穴にはまって足が抜けなくなったローニャが雪に埋もれて死ぬ自分を想像する場面に流れていた。悲劇的な状況だが、音楽も手伝って、詩的な美しいシーンになっている。
トラック29からの3曲「想い」「あの人」「秋の日」も、リリカルで、しみじみと胸に迫る。アルバムの中でも聴きどころとなる部分だ。
「想い」はケルトの笛ティンホイッスルとハープだけのシンプルな編成でローニャや山賊たちの心情を表現する。第1話からたびたび選曲された使用頻度の高い曲だ。哀愁ただよう笛の音色とメロディが、家族の愛情や友情といった普遍的な想いを伝えて心に刺さる。
ピアノソロによる「あの人」はローニャのビルクへの想いや、家を出たローニャを気遣うマッティスの心情を表現する曲。「あの人」とは特定の誰かではなく、「今そばにいてほしい」と思う人のことだ。武部聡志自身によるピアノの演奏が切なく、あたたかい。
「秋の日」は、キーボードとパーカッション、シンセサイザーが奏でるおだやかな曲。秋の日のちょっとメランコリックな気持ちを写し取ったような、心がキュッとなる曲だ。劇中では、ローニャがビルクを思う場面やローニャとビルクの関係がしだいに深まっていく場面などに流れていた。ローニャの心の成長を描写する曲でもある。
アルバムの終盤に収められた「オオカミの歌」はローニャの母ロヴィスが子守唄代わりに歌う歌。ロヴィス役の野沢由香里が歌っている。この曲は本作の音楽で最初に作られたものだった。このメロディをアレンジしたBGMもあるのだが、サントラには未収録。
トラック33の「また明日」は次回予告に使われた曲。弦とパーカッションが楽しく奏でる陽気な曲で、劇中にも使用されていた。
谷山浩子作曲の主題歌をアレンジした「春のさけび〜ときめき〜」でサウンドトラック・パートは締めくくられる。
本作の音楽の特徴として、心情描写曲と情景描写曲が明確に分かれていないことが挙げられる。森を描写する音楽が同時にローニャの心情を描写し、心情を表現する曲がそのまま自然の描写にも使われる。森のいたるところに多様な命が息づく本作の世界観を反映した音楽設計である。また、通常なら作られそうな「ローニャのテーマ」「ビルクのテーマ」等も明確には用意されていない。
武部聡志は『アーヤと魔女』に関するインタビューに答えて、「僕の曲は思いついたアイディアをどんどん形にしていく、ある意味ラフな作りになっている」と語っている。『山賊の娘ローニャ』の音楽も、メニューどおりかっちり作られた音楽ではなく、監督とのやりとりやメニューにない自由な発想をまじえてできあがったものだ。そうやって作られた曲を映像にはめていくことで、予定調和でない豊かな映像と音楽のマッチングが生まれる。
ちょっと飛躍するが、筆者は本作の音楽から、『海のトリトン』や『宇宙戦艦ヤマト』の音楽を連想した。どちらも劇音楽が専門ではないポップスの作編曲家が手がけた作品で、楽曲単体としての完成度が高く、ときには音楽が映像を上回るインパクトを残す。音楽性は異なるが、『山賊の娘ローニャ』の音楽も、同じ方向性の延長にあると思えるのだ。
宮崎吾朗監督×武部聡志の最新作『アーヤと魔女』では、過去2作とはまたアプローチを変えて、60〜70年代のロックサウンドをベースにした音楽がつけられている。同じ監督でも作品のカラーに合わせて1作ごとにがらっと音楽を変える作り方は、あまり例がない。武部聡志の音楽プロデューサーとしての観点が生かされているのだろう。次はどんなアプローチでアニメ音楽に挑んでくれるのか、気になるコンビである。
山賊の娘ローニャ オリジナルサウンドトラック (CD)
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山賊の娘ローニャ オリジナルサウンドトラック (配信)
https://mora.jp/package/43000004/PCCG-01429/
アーヤと魔女 サウンドトラック
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