第293回 100周年に向けて 〜アルプスの少女ハイジ メモリアル音楽集〜

 腹巻猫です。11月27日にSOUNDTRACK PUBレーベル第37弾として「アルプスの少女ハイジ メモリアル音楽集」を発売します。TVアニメ『アルプスの少女ハイジ』の放映50周年を記念したCDアルバムです。2008年に2枚組の限定版CDが発売されていますが、今回は3枚組。初商品化音源を大幅に補完した決定版です。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0DM1RD7HZ
 発売を記念して、11月30日に神保町・ブックカフェ二十世紀でトークイベントを開催します。CDの特価販売もしますので、ぜひご来場ください!
 詳細は下記URLから。
https://www.soundtrackpub.com/event/2024/11/20241130.html


 TVアニメ『アルプスの少女ハイジ』の音楽については、当コラムでも一度取り上げたことがある。そのときは、主に音楽的な魅力について書いた。
 今回は、CDの制作過程で判明した『アルプスの少女ハイジ』の音楽の全体像について、また、新しいCDが過去の商品とどう違うのかについて、語ってみたい。
 『アルプスの少女ハイジ』の物語について詳しく説明する必要はないだろう。
 両親を亡くし、5歳のときアルムの山に住むおじいさん(アルムおんじ)に預けられたハイジは、大自然の中で天真爛漫に育ち、その素直な心で出会った人々の心を解きほぐしていく。
 物語は、アルムの山を舞台におじいさんやヤギ飼いの少年ペーターとの交流を描く第1部、大都市フランクフルトを舞台に足の不自由な少女クララとハイジの友情を描く第2部、そして、再びアルムの山を舞台にクララが歩けるようになるまでを描く第3部に大きく分けられる。本稿では、便宜上それぞれを「アルムの山編」「フランクフルト編」「再会のアルム編」と呼ぶことにする。

 『アルプスの少女ハイジ』の音楽(BGM)はこれまで何度か、レコードやCDの形で商品化されている。しかし、著名な作品でありながら、BGMが全部で何曲あるのか、録音が何回行われたのかなど、基本的な情報すらはっきりしていなかった。
 『アルプスの少女ハイジ』のBGM(劇伴)は、大きく分けると次の3つに区分できる。

(1)オリジナルBGM
(2)現地録音音源
(3)エキストラ音楽

 (1)のオリジナルBGMとは、渡辺岳夫が本作のために作曲した音楽のことである。過去の音楽集アルバムに収録されていたのは、すべてオリジナルBGMだ。
 (2)の現地録音音源は、渡辺岳夫らがスイスで収録した民族楽器などの演奏のこと。劇中で流れるヨーデルの曲もこれに含まれる。
 (3)のエキストラ音楽とは、特定の場面や特定のエピソードでの使用を想定して、レギュラーで使用される音楽とは別に用意された楽曲のこと。その多くは既成曲である。たとえば、フランクフルトの街を描写する音楽として使用されたモーツァルトの楽曲などがこれに該当する。
 まず(1)のオリジナルBGMについて。2008年に発売された2枚組CD「アルプスの少女ハイジ オリジナル・サウンドトラック(限定盤)」の解説書にはBGMの録音回数は5回と書かれている。その録音回数を頭につけたMナンバーも表記されている。しかし、筆者はこれについて疑問を感じていた。
 そもそも、1981年に日本コロムビアから発売されたLPアルバム「テレビオリジナルBGMコレクション アルプスの少女ハイジ」の構成からして、不思議なところがあった。全体的には物語の流れに沿って曲を並べているのだが、番組の後半で初めて使用される曲が頭のほうに収録されていたりする。また、ハイジがフランクフルトからアルムに帰ってきた場面をイメージして「ただいまおじいさん」と名づけられた曲が収録されているのだが、その曲は実際にはそういう場面には使用されていない。曲順や曲名が本編の使用場面を反映しておらず、イメージアルバム的な構成になっているのである。
 ただ、それはこの時期のアニメサントラではよくあることだった。まだ家庭用ビデオも普及していない時代。映像ソフトも動画配信もない。本編を見直すには再放映を待つしかない時代だ。だから、音楽集を構成するときは記憶やTVから録音した音声が頼りだった。そのため、構成ミスや解説の誤りは珍しくなかった。それでも音楽が商品化されるだけでありがたかったのである。
 2008年発売の「アルプスの少女ハイジ オリジナル・サウンドトラック(限定盤)」は、基本的に「テレビオリジナルBGMコレクション」の構成をそのまま生かし、未収録曲を追加する形で構成されている。その結果、曲順や曲名の不自然さは、そのまま残されてしまった。全5回という録音回数も、「テレビオリジナルBGMコレクション」の構成が録音順を反映していると仮定しての仮説だろう。
 では、『アルプスの少女ハイジ』のBGMは本当は何回録音されたのか?
 今回のCD制作にあたり、渡辺岳夫の音楽事務所である三協新社に保管されていた資料を参照して詳細な調査を行った。渡辺岳夫が書いた音楽リストとスコアがほとんど残っていたのだ。判明したBGMの録音状況は以下のとおり。

第1回録音:1973年12月7日録音 約25曲
 第1話用の音楽。
第2回録音:1973年12月18日録音 約40曲
 「アルムの山編」の音楽。第2話から使用。
第3回録音:1974年5月2日録音 約40曲
 「フランクフルト編」の音楽。第19話から使用。
第4回録音:1974年9月11日録音 約20曲
 「再会のアルム編」の音楽。第38話から使用。

 これ以外に小規模な録音が数回行われているが、核となるセッションは4回である。物語の舞台が切り替わるタイミングに合わせて追加録音が行われていることがわかる。
 過去の商品ではBGMのMナンバーの表記誤りもあった。サウンドトラック研究において、「Mナンバーが正しくない」というのは、研究の基盤をゆるがす一大事である。サントラの世界では「曲名は変わってもMナンバーは変わらない」というのが暗黙の決まりだからだ。今回は渡辺岳夫が遺した音楽リスト及びスコアと音源を照合し、すべての楽曲の正しい録音時期とMナンバーを特定することができた。これだけでも、今回のCD制作は意義があったと思っている。
 次に(2)の現地録音音源について。渡辺岳夫はスイスに数回にわたって音楽取材に訪れている。そのとき、現地でさまざまな民族楽器の音や歌を録音している。たとえば、ヨーロッパの民族楽器ハックブレット(金属弦を叩いて音を出す楽器)やアルペンホルン、カウベルなどの演奏である。この録音の一部は劇中にBGMとして使用されているが、もともとは作曲の参考にする意図もあったのではないかと思う。当時のスイスの息吹を感じられる貴重な録音である。
 (3)のエキストラ音楽としては、フランクフルト編で流れるモーツァルトの「ディベルティメント ニ長調」や同じくフランクフルト編でオルガン弾きの少年が演奏する手回しオルガンの曲などがある。エキストラ音楽はその性質上、1回〜数回しか使われないことが多い。それをわざわざ時間と費用をかけて録音するのはもったいないので、TVアニメやTVドラマでは、既存の音源(レコードやCD)を流用することがよく行われている。しかし、『アルプスの少女ハイジ』では、こうした曲もすべて新録音している。音楽テープに録音セッションが残っており、NGテイクも記録されているのである。既存のレコードの流用だったら権利上の都合で収録できないケースが多いが、本作のエキストラ音楽はオリジナル録音なので、支障なく収録することができた。

 あらためて、11月27日発売のCD「アルプスの少女ハイジ メモリアル音楽集」の全体の構成を紹介したい。
 CD3枚組のディスク1には、主題歌・挿入歌と現地録音音源、エキストラ音楽を収録した。主題歌・挿入歌は、レコードサイズのほかにTVサイズやカラオケなどのバリエーションも可能な限り収録している。
 現地録音音源やエキストラ音楽の存在はこれまでも知られていたが、過去の音楽集アルバムにはいっさい収録されていない。歌ものやオリジナルBGMの収録を優先すると、どうしても特殊な録音は後回しになってしまうのである。が、今回は3枚組である利点を生かし、初めての商品化が実現した。『アルプスの少女ハイジ』の音楽世界の全貌を明らかにする快挙である。
 ディスク2とディスク3は「BGMコレクション」として、オリジナルBGMを新構成で収録した。過去の商品に未収録だった曲も含め、音源が残っている楽曲はすべて収録している。構成は、一部の短い曲を除いて1曲1トラック形式とし、物語の流れに沿った曲順でまとめた。名場面と音楽をセットで記憶している熱心な『アルプスの少女ハイジ』ファンにも違和感なく聴いてもらえるアルバムになったと自負している。
 細かい収録曲は下記を参照。
https://www.soundtrack-lab.co.jp/products/cd/STLC060.html

 YouTubeで試聴用動画も公開中。
https://youtu.be/nN1u20l8J-Q

 最後に、こうした過去の作品の音楽を商品化するねらいと意義について書いておきたい。
 筆者は2024年10月5日に国立映画アーカイブで開催された「マグネティック・テープ・アラート」というイベントに参加した。「マグネティック・テープ・アラート」とは、磁気テープの経年劣化と再生機器の生産および保守の終了などにより、2025年頃にはテープのデータを移す(バックアップする)ことができなくなる可能性が高いという国際的な警鐘のことである。「いや、80年代に録画したうちのビデオテープはまだ再生できる」という方もいると思うが、ここで言っているのは、「記録当時の状態に近い良好な品質で保全する」という意味だ。イベントでは、磁気テープ等に記録されたデータの保全活動を研究機関がどのように行っているのか、事例が紹介された(下記参照)。
https://www.nfaj.go.jp/onlineservice/mtap/
 では、サウンドトラックの現状は?
 昭和の劇場作品やTV番組の音楽のほとんどが磁気テープで記録されている。そして、それらは劣化が進み、すでに再生困難になったものや、廃棄されたものが多い。音楽テープの保存は制作会社や制作スタッフにゆだねられており、国立映画アーカイブのような公的なアーカイブ機関が存在しないのである。
 実は『アルプスの少女ハイジ』の音楽テープの中にも劣化により再生困難なものがあった。CDには多少のノイズは目をつぶって収録した。なぜなら、今アーカイブしておかないと、次のチャンスはないかもしれないからだ。アーカイブしたデータはもちろん大切に保存するが、商品にして多くの複製を作っておけば、後世まで残る可能性は高くなる。
 旧作のサウンドトラック・アルバムの制作・発売は、作品を観ていたファンに向けてという面が大きい。よろこんでくれる人、聴いてくれる人のためである。しかし、それだけでなく、貴重な音楽遺産を保全するという意義も大きいと筆者は考えている。録音回数やMナンバーなどの正確な情報を残すことも同様で、それが将来『アルプスの少女ハイジ』の音楽を研究しようとする人の役に立つはずだ。
 「アルプスの少女ハイジ メモリアル音楽集」は『アルプスの少女ハイジ』の音楽を50年後、100年後まで残すことを考えて作った。商品を多くの人が買ってくれれば、50年後にもいくつかは残っているだろう。CDの物理的劣化は避けられないとしても、国会図書館ではCDと紙資料のデジタルアーカイブを進めているので、データは残るはずだ。50年後の『アルプスの少女ハイジ』放映100周年の年、筆者はこの世界にはいない。が、そのあいだに誰かが『アルプスの少女ハイジ』の音楽研究を一歩進めてくれる。そうなることを願っている。


 11月30日のイベントでは、CDの解説書や当コラムに書ききれなかったことも含めて、資料を参照しながらお話したいと思います。興味のある方はぜひどうぞ。
https://www.soundtrackpub.com/event/2024/11/20241130.html

アルプスの少女ハイジ メモリアル音楽集
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第877回 出﨑コンテの魅力(3)

改めて言いますが、俺の理想は“出﨑コンテ”です!

 ただ、ファンの方々はご存知のとおり、出﨑統監督の手になる画コンテは“大変ラフ”で、イメージこそ伝わるのですが、細かいディティールは演出・作画にお任せというスタイル(よーく見ると実はそうでもないのですが)のため、画を作るスタッフ側からすると好き嫌いが別れるようです。自分が業界に入った際、出﨑コンテに触れたことがある先輩方からは賛否両論耳にしました。テレコム(・アニメーションフィルム)に入社した頃、出﨑信者であることをカミングアウトすると、ある先輩からは「出﨑さんのコンテ、何描いてあるのか分かんない(笑)」と。他に「散々(スケジュールを)引っ張って、コンテ上げたら助監督(演出)に任せて消えていった」とか「芸術家気取りで、嫌い」といった意見も。自分が入社する前は『劇場版 SPACE ADVENTUREコブラ』や『マイティ・オーボッツ』『NEMO』パイロットフィルムなど、出﨑監督とテレコムは結構組んでいて、その時の印象が良くなかったのでしょう。ところが、フリーになってあちこちの現場で仕事するようになった自分が聞いた出﨑評は、「統さんのコンテ大好き! あの画が良いんだよ!」「作画スケジュールは崩壊するけど、出﨑(監督)のコンテは面白い!」と良いものばかりで、嬉しかったのを憶えています。
 批評・評価は色々あっていいのですが、個人的にコンテに関して思うことは、第一に、

1コマ1コマの画に時間を掛けてはいけない! むしろ誤解を恐れずに言うと本来はスピードある筆致“雑”に描くべき!

と思っています。これを言うと“作画の際、レイアウトの下敷きになる丁寧な清書が成されたものが良いコンテ!”と言う価値観で見る人からは「とんでもない!」と叱られて、出﨑監督のコンテも否定されるのでしょう。でもこれ、作画の直し(現在『沖ツラ』作監作業中の俺……)にも言えるのですが、

同じ下手な原画なら、ザックリ速い筆致で描かれている方が、遅く神経質なそれより直しやすい!

のです。それと、これも以前話題にしたと思うの大塚(康生)さんの名言ですが、

3秒の動きは3秒で描け! 3秒はオーバーでも、せめて3時間で描くぐらいじゃないと! 3日も掛けたら(3秒の動きとは)違うモノになっちゃうから!

 これ、“雑コンテ”と同じ理屈かと。つまり、

シーンが流れるのと同じスピード感でにコンテを切る(カットを割る)!

ということ。故に繰り返しますが、コンテの画は丁寧に描くべきではない!——です。作曲に例えるなら、丁寧な丁寧なフォント風音符を、ゆっくり時間をかけて五線紙に描き込んだから名曲になる訳ではないですから。そう。出﨑コンテの独特のリズム感・テンポ感はその辺に起因しているのです。だからこそ監督が全話コンテを切る必要があるのでしょう。

 後、清書コンテを望む作画方々、…そもそも、自らの実力不足を棚に上げて、コンテの画ヅラの力を借りて原画を描こうとしている時点で、アニメーターとしてどうかと思います(本音)。が、そうは言っても慢性的人材不足な昨今のアニメ業界では、コンテの清書はほどほどに必要なのでしょうね。

 って訳で、仕事に戻る時間です!

第231回アニメスタイルイベント
年忘れ作画トーク2024

 2024年最後のアニメスタイルのトークイベントは「年忘れ作画トーク2024」。タイトル通り、作画について色々と語るイベントです。開催日は12月8日(日)。会場はLOFT/PLUS ONE。

 第一部のメインゲストは中村豊さん。最近の仕事である『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ユアネクスト』で絵コンテ、作画監督を担当したパートについて、参加したアニメーターの活躍を含めて語っていただきます。今回のトークで、見どころたっぷりだった「中村パート」の謎が解けるはず。
 第二部のメインゲストはちなさん。トークのテーマは監督作品となった『ファーストライン』のメイキングです。ちなさんはどんな狙いで作品を作り上げたのでしょうか。資料を見ながらのトークとなります。
 第三部は企画中ですが「作画放談会」となる可能性が高いです。
 中村豊さん、ちなさん以外の出演者で決まっているのはアニメーター&演出家の沓名健一さん、「アニメスタイル」の小黒編集長です。他の出演者が決まりましたら、改めてお伝えします。

 第一部は中村さんが描いた絵コンテをスクリーンに映して、それを見ながらトークを進めることになります。絵コンテを見ていただけるのは会場にいらした方のみとなります。配信ではそのパートで絵コンテを見ることはできません。ご了承ください。

 今回のイベントも「メインパート」の後に、ごく短い「アフタートーク」をやるという構成になります。配信もありますが、配信するのはメインパートのみです。アフタートークは会場にいらしたお客様のみが見ることができます。
 配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルはチャンネル会員が視聴できます。

 会場ではアニメスタイルの書籍を販売します。「中村豊 アニメーション原画集 vol.2」「同・vol.3」は中村さんのサイン本を販売する予定です。

 チケットは11月9日(土)正午12時から発売となります。チケットについては、以下のロフトグループのページをご覧になってください。

■関連リンク
告知ページ(LOFT)  https://www.loft-prj.co.jp/schedule/plusone/299329
会場チケット  https://t.livepocket.jp/e/yc68y
配信チケット(ツイキャス)  https://twitcasting.tv/loftplusone/shopcart/342000

■関連リンク(書籍情報)
「中村豊 アニメーション原画集 vol.2」書籍情報
https://animestyle.jp/news/2022/01/05/21244/

「中村豊 アニメーション原画集 vol.3」書籍情報
http://animestyle.jp/news/2022/08/08/22521/

第231回アニメスタイルイベント
年忘れ作画トーク2024

開催日

2024年12月8日(日)
開場12時/開演13時 終演15時30分〜16時予定

会場

LOFT/PLUS ONE( http://www.loft-prj.co.jp/PLUSONE/access.html

出演

中村豊、ちな、沓名健一、小黒祐一郎(聞き手)等

チケット

会場での観覧+ツイキャス配信/前売 2,300円、当日 2,500円(税込·飲食代別)
ツイキャス配信のみ/1,500円

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

第876回 お詫びを……

前回の続きが無理なくらい、バタバタな今週、またお茶濁しで申し訳ありません!

 リテイク出しや原画修正やらで、超絶に忙しい現状!! 原画修正というのは、ほぼ原画の“描き直し”! ま、でも結局原画描くの自体は面白いので、それほど不満はありません。ただ思うのは、社内の新人が描いた原画を直していると正直「え!? これでいいの?」と落胆し、「……だったら、俺がもっと面白く描いてやろうか!」と奮起する——の繰り返し。
 原画描き始めて早27~8年、俺に原画を教えてくださってた時の友永(和秀)師匠の年齢に、すでに自分自身がなってます。そこまで続けていても、まだまだ奥が深くて、死ぬまで極められない仕事のような気がしています。
 とにかく、今年も脚本・コンテ・監督そして、レイアウト・原画・背景と“何でもやった楽しい一年だった”ということになりそうです(汗)。

 って訳で、大好きな出﨑コンテについて語っている時間がなく、仕事に戻ります!

第292回 ふんわりと熱血のあいだ 〜がんばっていきまっしょい〜

 腹巻猫です。11月4日に東京建物ブリリアホールで開催された劇伴フェス「東京伴祭2024」に行ってきました。これまでの公演はスケジュールの都合で参加することができなかったので、生で聴くのは初めて。出演は、加藤達也さん、高梨康治さん、林ゆうきさんの3人とミュージシャンのみなさん。3人それぞれに聴きどころが多く、盛り上がりましたが、個人的に加藤達也さんの『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』『ラブライブ!サンシャイン!!』『Free!』の曲が生で聴けたのがよかったなあ。
 会場で驚いたのは、観客に若い女性が多いこと。そして、演奏中にサイリウムが盛大に振られること。サントラコンサートでこんな光景が見られるとは! カルチャーショックでした。
 こういうお客さんに向けてサントラを作る時代なのだなあと感じ入ったイベントでした。


 今回は2024年10月25日に公開された劇場アニメ『がんばっていきまっしょい』の音楽を取り上げたい。敷村良子の同名小説を監督&脚本・櫻木優平、アニメーション制作・萌、レイルズのスタッフで映像化した作品である。
 原作小説は実写劇場版やTVドラマになった人気作品。筆者は、田中麗奈が主演した1998年公開の実写劇場版も、鈴木杏が主演した2005年放映のTVドラマも、どちらも観ている。吉俣良が手がけたドラマ版のサウンドトラックも買った。筆者にとって「がんばっていきまっしょい」は少々思い入れのある作品だ。思い入れがあるというより、気になる作品と言ったほうがよいかもしれない。
 『がんばっていきまっしょい』は、愛媛県松山市を舞台に、同じ高校に通う少女5人がボート部に参加し、ボート競技に挑戦する物語である。アニメ版の監督・櫻木優平は、この作品が後年多く作られる「女の子部活もの」のさきがけではないかと語っている(パンフレットより)。そう言われれば、『けいおん!』も『ラブライブ!』も『がんばっていきまっしょい』の系譜につらなる作品と呼べそうだ。
 ただ、『がんばっていきまっしょい』は『けいおん!』ほどふんわりしてないし、『ラブライブ!』ほど熱血でもない。ふんわりと熱血のあいだを揺れ動く等身大のキャラクターが魅力だった。ちょっと、あだち充のマンガに通じるような。筆者はそこが気になったのだと思う。
 アニメ版は、彩度の高い映像が特徴的。映像だけを観るとCGアート風だ。キャラクター描写もドラマも、生々しさを抑えて、さらっと仕上げた印象を受ける。不満がないわけではないが、「こういう『がんばっていきまっしょい』があってもよいな」と思った。

 音楽を担当したのは、ストックホルムを拠点に活動する林イグネル小百合。劇中音楽はピアノを主体にしたキラキラ感と浮遊感のあるサウンドで作られている。
 本作の音楽について林イグネル小百合は、「海が舞台の作品なので、波の音や潮の響きを弦のフレーズ感や楽器で表現しようと意識しました」と語っている(パンフレットより)。作曲と録音はストックホルムで行われた。水の都とも呼ばれるストックホルムには多くの島と運河がある。林イグネル小百合は、物語の舞台である松山を取材することはできなかったが、ストックホルムの水面の光を眺めながら、音楽の構想をふくらませていったという。演奏もストックホルムのミュージシャンが担当。そのためか、できあがった音楽はちょっと異国めいた雰囲気がただよう。それがCGで描かれた彩度の高い映像とマッチしている。
 日本の地方都市を舞台にしているのに、映像も音楽もひなびた感じや素朴な感じはあまりしない。そこがアニメ版『がんばっていきまっしょい』のユニークなところである。
 本作のサウンドトラック・アルバムは2024年10月25日に「映画『がんばっていきまっしょい』オリジナル・サウンドトラック」のタイトルで松竹音楽出版/ShochikuRecordsから配信開始された。CDでの発売予定はないようである。
 収録曲は以下のとおり。

  1. Prologue
  2. The Way to School
  3. Meeting a New Student
  4. First Time to the Sea
  5. We Have New Members!
  6. Find Your Spark
  7. Boat Club Practice
  8. First Tournament
  9. Lost Dream
  10. Don’t Lose Hope
  11. We will Definitely Win!
  12. Waltz for Five
  13. Summer Practice
  14. Back to School
  15. A Night Festival
  16. The Fireworks We Watched Together
  17. Lost Myself
  18. School Rooftop
  19. Rainy Day
  20. Ferris Wheel View
  21. Come Together
  22. Give it All
  23. We got New Uniforms!
  24. Our Last Tournament
  25. Us Five
  26. Epilogue

 劇中で使用された音楽(劇伴)を使用順に収録。ただし、女性アイドルグループ「僕が見たかった青空」が歌う主題歌・挿入歌と現実音として流れる祭囃子や既成曲などは収録されていない。
 1曲目の「Prologue」は冒頭に流れる曲。水面に輝く光のようなピアノの音やゆらめく波を思わせるシンセのふわっとした響きなど、本作の音楽のサウンドイメージが集約されている。少女たちの心象風景とも受け取れるサウンドである。
 登校風景に流れる2曲目「The Way to School」では、波音を模したようなサウンドが挿入されるのが印象的。少女たちが初めてボートに触れる場面の「First Time to the Sea」(トラック4)では、木管の高音の調べが海辺に集まる鳥の声を思わせ、パーカッションが波しぶきをイメージさせる。海に来た少女たちの高揚感を伝える工夫だ。
 日常シーンでは躍動感のある曲やにぎやかな曲も流れる。ボート部のメンバーが集まってくる場面の「Meeting a New Student」(トラック3)や「We Have New Members!」(トラック5)、夏合宿の場面の「Summer Practice」(トラック13)、校舎の屋上で少女たちが意見を交わす場面の「School Rooftop」(トラック18)などである。
 ウィンナワルツ風に書かれた「Waltz for Five」(トラック12)はボート部員の妙子の家に少女たちが集まる場面の曲で、優雅な曲調がユーモラスな効果を上げている。
 このあたりは、本作の音楽の中でも「女の子部活もの」らしさが感じられる楽曲だ。
 少女たちの不安や悲しみや友情を描写する曲は、あまりメロディアスでない抑えた曲調で書かれている。「Find Your Spark」(トラック6)、「Lost Dream」(トラック9)、「Lost Myself」(トラック17)、「Ferris Wheel View」(トラック20)、「Come Together」(トラック21)などは、いずれも重要な場面で流れる曲なのだが、あえて観客の感情をゆさぶるような曲にはしていない。サウンド感やシンプルなフレーズの重なりで繊細な心情を表現している。『がんばっていきまっしょい』らしいなと筆者が感じるところだ。
 いっぽう、ボートレースの場面に流れる「First Tournament」(トラック8)や「Our Last Tournament」(トラック24)は、リズムを強調したスピード感のある曲調で書かれている。盛り上げるところはしっかり盛り上げて、メリハリをつけているのが好印象だ。
 ボートの特訓シーンに流れる「Boat Club Practice」(トラック7)と「We will Definitely Win!」(トラック11)の2曲は、本作の音楽の中でも少し異質な楽曲である。
 どちらの曲も松山に伝わる民謡「野球拳」のメロディを引用している。野球拳が松山ゆかりとは知らなかったので、最初に曲が聞こえてきたときは何が起こったのかと驚いた。メロディは民謡風だが、サウンドは現代的で、ちょっとユーモラスな感じもただよう。その異質な感じが、暑苦しくなりそうなシーンの印象を和らげている。「野球拳」の引用は櫻木優平監督からのリクエストだったそうだが、意表をついた面白い演出だと感じた(意表をつく意図はなかったかもしれないが)。
 最後に、本作の音楽の中で、とりわけ筆者の印象に残った曲を紹介しよう。
 女声ボーカルが入った「Rainy Day」(トラック19)と「Us Five」(トラック25)の2曲である。どちらもメロディは同じで、ボーカルには歌詞がついている。
 「Rainy Day」はボートの練習ができなくなった少女たちがそれぞれの時間を過ごす場面に、「Us Five」は終盤のボート競技の場面で5人が心をひとつにボートを漕ぐ場面に流れる。この2曲について、櫻木優平監督からは「プロが歌っている風に聞こえないように」というオーダーがあったそうだ。そのためか、歌詞の内容は、はっきり聴き取れない。日本語ではないようだが、英語なのか、ほかの言語なのかも判然としない。しかし、それでよいのだろう。
 筆者の想像だが、この2曲は挿入歌というより、少女たちの心の声なのだと思う。声のトーンや表情そのものに意味がある。はっきりとした言葉にしてしまうと、微妙なニュアンスがこぼれ落ちてしまうし、想像する余地がなくなってしまう。ボーカルを聴く観客ひとりひとりが、少女たちの心境を想像しながら観ればいい。そのとき、自身の体験や思い出も引き出されるかもしれない。そういうねらいの歌なのだろう。
 全体の中でも、この2曲が流れるシーンはくっきりと心に残る。ありきたりの作品だったら、はっきりとした歌詞のある、泣ける曲を流しそうなところなのに、無国籍風の不思議な印象の歌が流れるのがしゃれている。そこに櫻木優平監督と林イグネル小百合のこだわりを感じる。

 こうやって音楽演出をひも解いていくと、アニメ版はルックスは異なってもやはり「がんばっていきまっしょい」なのだと納得できる。ふんわりと熱血のあいだをたゆたう「がんばっていきまっしょい」の魅力は、劇場アニメにもしっかり受け継がれていると思うのである。

映画「がんばっていきまっしょい」オリジナル・サウンドトラック
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第875回 出﨑コンテの魅力(2)

前回の続き、「ふたりのブラック・ジャック~マンガ&アニメ絵コンテ・競演集」の話!

 まだ全部は読めていなくて、杉井ギサブロー監督・丸山正雄プロデューサー・杉野昭夫作画監督のインタビュー&コメントもまだ。
 ただ、仕事の合間合間にコンテ集を捲っては、エネルギーをもらっています。出﨑コンテ独特の勢いある筆致、出﨑監督の「こういう画が欲しい~いや、“こうあるべき”!」との“熱量”から、俺は勇気をいただいています。現在『沖ツラ』の次シリーズ(まだ、タイトルは未発表)のコンテ中で……。
 話は遡ります。自分は名古屋時代、“古本からスクラップ”して出﨑コンテを収集していたのですが、上京して業界入りしたテレコム時代、何人かの先輩から使用済み出﨑コンテ(コピー)をいただいて超興奮したものです。「出﨑ファンの君にやろう!」と『劇場版BLACK JACK』のコンテを部分で、——恐らくご自身が担当されたパートのコンテでしょう。ちなみにこのコンテを下さった方は、テレコムに席を借りていたフリーのアニメーターで、当時は手塚プロダクションの作品も手伝っていたので、使用済みを破棄するくらいならと、俺に。孫コピーだったので、筆圧・濃淡は荒いものの、初めてA4サイズで手にした出﨑コンテに涙が出るほど嬉しくて、友達らとの飲み会に持ってって自慢したし、その後フリーの演出になった自分がコンテを切る(描く)際は、テキストとして何度も見返したものです。
 その後、俺が退社する際に別の先輩(社員)から「これ餞別~」とOVA『エースをねらえ!2』の半パートのみと、同じく『~ファイナルステージ』コンテを1本分まるまるいただきました。その先輩は出﨑監督の『劇場版エースをねらえ!』を観てアニメーターを志したほどの方で、新人だった頃OVA『エース』の現場で使ったコンテ(孫コピー)とのでした。で、いただいた『エースをねらえ!2』のコンテで印象的だったのは、「誰が描いたコンテでも全部出﨑監督が直す」と噂に聞いていたほど、修正が成されていなかったこと。特に意外だったのは出﨑監督得意の派手なアクションである“(テニスの)試合シーン”ほど、無修正で流し、逆にお蝶夫人と竜崎理事の会話シーンの方が画も台詞も全修だったこと。特に普段は“全話コンテの出﨑”であるはずが、『エースをねらえ!2』では何故1話・2話・12話・13話以外のコンテを他人に譲ったのか? DVD-BOXのブックレット内インタビューでは「元々監督のつもりで取り組んでいたら、後で“総監修”とは何だ(笑)?」と出﨑監督は語られていました。ところが、自分の学生時代の先生が『エースをねらえ!2』の演出で参加しており、その先生曰く「(オレの知ってる限りでは)元々出﨑さんは“監修”クレジットのみ~現場のチーフ・ディレクターが実質監督の予定だったけど、当時出﨑さんが本腰入れるはずだった海外合作がなくなって、急に深く関われるようになったんじゃなかったかな~? で、出﨑監督が入る時には、コンテ・演出スタッフに既に声を掛け済みだったような?」と。しかし、これも何10年も前の半分うろ覚え話ゆえ、確実な証言とは言い難いのですが、先生の話どおりだとすると、出﨑監督が頭と尻の2本ずつしかコンテを担当していないことも辻褄が合うんですよ。(でもこの話、何年か前もここで話題にしたしましたよね?)
 他人の描いたコンテは、特にその当時の若手が描いたアクションはアニメーションの見せ場としてちゃんと使いつつも、ドラマの核になる部分こそは徹底して直しに直す、脚本があろうと台詞まで全部——それが、出﨑流コンテチェック。
 ま、何にせよ自分が初監督『BLACK CAT』において

他者の描いたコンテを監督チェックでどう処理するか? ——は出﨑監督による『エースをねらえ!2』のコンテ修正をこれまた教材にしていた!

のは言うまでもありません。
 懐かしい話を想い出したところで、またコンテチェックに戻ります! 傍らに出﨑コンテを置いて。

【新文芸坐×アニメスタイル vol.183】
もう一度観たい凄い劇場アニメ 劇場版『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』

 2024年11月17日(日)に、新文芸坐で劇場版『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』を上映します。これはアニメ『ウマ娘』シリーズの劇場版で、パワフルな主人公をパワフルに描いた作品です。物語構成、演出、作画のどれもが意欲的。映画館での鑑賞をお勧めします。

 トークコーナーのゲストは山本健さん(監督)、山崎淳さん(キャラクターデザイン・総作画監督)、溝口侃さん(アニメーションプロデューサー)。聞き手はアニメスタイルの小黒編集長が務めます。

 チケットは11月10日(日)から発売。チケットの発売方法については新文芸坐のサイトで確認してください。

●関連リンク
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

新文芸坐オフィシャルサイト(『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』販売ページ)
https://www.shin-bungeiza.com/schedule#d2024-11-17-2

【新文芸坐×アニメスタイル vol.183】
もう一度観たい凄い劇場アニメ 劇場版『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』

開催日

2024年11月17日(日)14時40分~17時35分予定(トーク込みの時間となります)

会場

新文芸坐

料金

2000円均一

上映タイトル

劇場版『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』(2024/108分)

トーク出演

山本健(監督)、山崎淳(キャラクターデザイン・総作画監督)、溝口侃(アニメーションプロデューサー)、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長)

備考

※トークショーの撮影・録音は禁止

第874回 出﨑コンテの魅力(1)

「ふたりのブラック・ジャック~マンガ&アニメ絵コンテ・競演集」(手塚治虫+出﨑統・著)を買いました!!

 分かりますか、どれほど発売を待ち焦がれたか? 手塚治虫先生の原作とOVA版『ブラック・ジャック』の出﨑統監督の画コンテを一冊に纏めた夢のような一冊ですよ! 俺が買わない理由があるとお思いならどなたか是非教えていただきたい! という訳でもちろん、Amazon。
 そして先日届き、大興奮!
 他のアニメ監督に比べ、人目に触れる機会が少ない出﨑監督のコンテ。『劇場版AIR』や『劇場版CLANNAD -クラナド-』のDVD-BOXに特典で付いていたコンテ集くらい? 後は『雪の女王』DVDパッケージや、最近まで連続して発売していた“ぴあDVD-BOOK”シリーズのブックレットにそれぞれ部分数ページずつ掲載。その他、アニメ誌や書籍類などの出﨑特集に“その特異性”を解説するために、これまた部分ページ……。
 で、他のアニメ監督と明確に違う“その特異性”とは、

画が走り描きで、大変“ラフ”である!!

ということ。他のアニメ監督による、そのままレイアウトの下敷きに使えるような緻密なコンテは、書籍化して“神~!”と歓喜するファンの方々が大勢いらっしゃるのは分かります。だとしても、生涯あれだけの本数を誇る出﨑さんのコンテが今までほとんど書籍化されていないのは心底悲しい限り。 高校時代、自分は名古屋の伝馬町~鶴舞公園辺りの古書店街を巡り、古本アニメ誌で1ページでも見つけてはスクラップしていたものです。そのくらい欲しかったのです、出﨑コンテが!

そして今回が滅多にない“出﨑コンテの書籍化”!!

 パラパラ捲っただけで、もうね……その筆致に熱量が溢れているんですよ(感涙)! それこそ、どれだけ緻密に描かれた他監督のコンテ集を見ても(読んでも)味わえない感動が出﨑コンテにはあります。

 と、それについて語る前に、チェックに戻ります。短くてすみません(汗)。

第873回 原作ありかオリジナルか?

 少しだけ前回の話を、別の角度に広げて。今から35年以上昔、中学生だった俺はまだ一介のアニメファン、ならぬ出﨑(統)ファンでした。その頃、同級生に熱狂的宮崎駿崇拝者H君がおり、彼はしょっちゅうナウシカの模写をしていました。うちの妹もそうだったし、自分自身も宮崎アニメは好きでしたが、その当時発表されてた、いわゆる“宮崎作品”は『未来少年コナン』『ルパン三世 カリオストロの城』『名探偵ホームズ』『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』『となりのトトロ』と計6本程ほど(1988年まで)。それに比べ出﨑統監督作品は、

『あしたのジョー』『エースをねらえ!』『ガンバの冒険』『家なき子』『宝島』『ベルサイユのばら(後半)』『あしたのジョー2』『コブラ』『ゴルゴ13』『エースをねらえ!2』他まだあり!

大半がTVシリーズというのもその特徴とは言え、ざっと数えて(1988年当時で)すでに10数本!
 え、殆ど原作もの? オリジナルじゃないからズルい? いや、

その人の監督作品が観たい俺にとって、原作ありかオリジナルか? なぞは不問!

です。じゃ、出﨑監督ほどの“ジャンルの広さ”は他の監督でいらっしゃいますか? スポーツ青春ものから少女漫画~ギャグ~世界名作文学~SF・ロボット、そしてハードボイルド・アクション……。

フィルモグラフィーのほとんどが原作ありにも関わらず、その“すべてが出﨑アニメ”!

 そして1989年以降、2011年に亡くなられるまで、劇場・TV・OVA・短編合わせて、さらに30本ほど追加されています。
 宮崎駿監督作品ファンを否定する気はありません。それどころか、自分自身も宮崎アニメ好き(特に『未来少年コナン』の影響はかなり受けている俺)ではある上で、なぜ「出﨑優先」なのか? その源は、俺の“せっかちな性格”にあるのでしょう。宮崎アニメに限らず、今日日のアニメ作家によるオリジナル新作発表サイクル(?)——数年懸けて100分前後の超クオリティ劇場作品は、せっかちな板垣にとって「ファンとして新作を楽しみに待つ」サイクルが長過ぎるんです。それに比べ、次作を楽しみに待つ出﨑アニメファンライフにおいて、年に1~2本新作が観れる幸せ!
 例えば1989年の出﨑アニメはTVスペシャル『ルパン三世 バイバイ・リバティー危機一発!』と、OVA『華星夜曲』(全4巻)と『エースをねらえ!ファイナルステージ』(全12話)! 1990年はTVスペシャル『ルパン三世 ヘミングウェイ・ペーパーの謎』とOAV『B・B』(全3巻)と『修羅之介斬魔剣~死鎌紋の男』!
 もう“総尺”は計算するまでもないでしょう。このスピードでファンに栄養補給してくださる監督でないと、俺は性分的に“飽き”ます! 宮崎アニメも実は『ハウルの動く城』以降ろくに観ていないのはそのせいです。とは言うものの、友永(和秀)師匠が久し振りに参加した『風立ちぬ』くらいはいくら何でも観なければ、と思っていますが。
 だから、“フィルムメーカーたちの新作が観たい”自分にとって、原作だ~オリジナルだ~関係ないのです。毎年とはいかないまでも、せめて最低1年おきにでも新作を発表してくださるアニメ監督、且つそれを心待ちにできた方は出﨑統監督だけでした。逆に言うと、いくら死ぬほど面白いアニメを作る監督でも、毎年新作が発表されない限り、その監督の作品をファンとして追っかけることはないのです、自分の場合は。
 故に、出﨑アニメの新作が作られなくなって早10数年——俺はもうアニメファンではなくなったのだと思います。

 で、アニメ業に戻ります。

第291回 愛のロボットアニメオペラ ~グレンダイザーU~

 腹巻猫です。10月9日にTVアニメ『グレンダイザーU』のサウンドトラック・アルバムがリリースされました。音楽は田中公平。構成は筆者(腹巻猫)が担当しました。筆者は旧作の『UFOロボ グレンダイザー』にも並々ならぬ愛着があり、アルバムの構成(曲名・曲順)に「グレンダイザー愛」を注ぎ込んだつもりです。今回は、その聴きどころを紹介したいと思います。


 『グレンダイザーU』は2024年7月から9月まで放映されたTVアニメ。1975~1976年にかけて放映されたTVアニメ『UFOロボ グレンダイザー』のリブート作品である。総監督を『機動戦士ガンダムSEED』シリーズの福田己津央が務め、アニメーション制作はGAINAが担当した。
 フリード星の王子デューク・フリードは、謀略によって殺された両親の仇を討とうとして守護神グレンダイザーを暴走させてしまい、故郷の星を追われるように宇宙へ旅立った。放浪の末に地球にたどりついたデュークは、兜甲児と弓さやかに助けられ、地球人・宇門大介として暮らし始める。しかし、グレンダイザーをねらうベガ星連合軍がデュークの居場所をつきとめ、地球を襲撃してきた。さらに、デュークの恋人ルビーナとその姉テロンナも、反逆者としてデュークを追っていた。デュークを中心に愛と憎しみと陰謀のドラマが幕を開ける。
 オリジナル版『UFOロボ グレンダイザー』の設定を借りつつ、大胆なアレンジをほどこした意欲作である。驚いたのは、『UFOロボ グレンダイザー』のルーツである『宇宙円盤大戦争』の設定も盛り込まれていること。それを象徴するのが『宇宙円盤大戦争』のヒロイン・テロンナの登場だ。テロンナのエピソードは『UFOロボ グレンダイザー』でルビーナのエピソードとしてリメイクされた。つまり、テロンナに代わるキャラクターがルビーナであったのだが、『グレンダイザーU』にはテロンナとルビーナの2人が双子の姉妹として登場する。ルビーナはデュークの恋人で、その姉テロンナはひそかにデュークに想いを寄せているという設定である。このアレンジはなかなかうまいと思った。うまいとは思ったが、テロンナとルビーナの2人が登場することで人間ドラマが複雑になった感は否めない。デューク、ルビーナ、テロンナのあいだに三角関係が生まれ、物語全体の多くの部分を3人のドラマが占めることになった。
 『UFOロボ グレンダイザー』はロボットアニメの枠組の中に悲劇的なヒロインが登場するメロドラマ的な要素を盛り込んだ作品である。放映当時はそのメロドラマ的要素がティーンエイジャーのファンの心を動かし、人気を呼んだ。『グレンダイザーU』ではメロドラマ的要素の比重が旧作より大きくなり、作品全体を貫く主題になっている。ストレートなロボットものを期待したファンは、とまどったのではないだろうか。ネット上ではさまざまな感想が飛び交ったが、筆者はマニアックなファンに向けた、ある意味「二次創作みたいな作品だなあ」と思いながら楽しんだ。

 音楽を担当した田中公平は、本作のオファーがあったとき、近年の日本のアニメになかった直球のロボットものの音楽が書けると思い、意欲がわいたという。放映前に公開された田中公平のコメントの一部を引用しよう。
 「楽曲制作に際して、一番心掛けた事は『正統で本物のロボット音楽を書く事』でした。昨今、少なくなって来て寂しい思いをしておられるだろう『ロボットものファン』の方々が心から満足して頂けるような楽曲を書く!これが使命でした」
 先に書いたとおり、原典の『UFOロボ グレンダイザー』はメロドラマ的要素が強い作品で、菊池俊輔の哀愁を帯びた音楽がみごとにはまっていた。田中公平は、当初、菊池俊輔のオリジナル音楽を取り入れることも考えたそうだが、音響監督の長崎行男から「まったく新しい作品としてイチから作ってほしい」と言われ、前作のことは忘れて新しい音楽を書くことにしたという。
 福田監督から提示された音楽のイメージは「ギリシャ悲劇」。オリジナル版がメロドラマだとしたら、本作はオペラである。ワーグナーの歌劇のような重厚なオーケストラ音楽に、ロックや民族音楽の要素も盛り込まれた、現代的な「ロボットアニメオペラ音楽」だ。田中公平は長崎行男とのインタビュー映像の中で、本作の音楽を「私のロボットもの音楽の集大成」と語っている。
 本作のサウンドトラック・アルバムは2024年10月9日に「グレンダイザーU Original Sound Track」のタイトルでポニーキャニオンからリリースされた。一部の告知にCD1枚組と書かれているが、正しくは2枚組。主題歌2曲のTVサイズと第4話に流れた挿入歌を含む全58曲。本作のために書かれた曲はすべて収録されている。
 収録曲は下記を参照。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0DBHFVSKZ

 「正統で本物のロボット音楽」にふさわしいアルバムにすべく、筆者も70~80年代の王道のロボットアニメのサントラみたいな雰囲気をめざして構成した。曲名には原典の『UFOロボ グレンダイザー』へのオマージュを盛り込んでいる。「これがロボットアニメのサントラだよなあ」と、旧作のファンにもよろこんでもらえるアルバムを目標にした。
 全体の構成は、全13話の物語を2枚のCDで再現する形にまとめた。全13話を2枚に分けるから、ふつうならディスク1のラストが第6話か第7話にあたるよう構成するところだが、第4話で流れた挿入歌「愛のうた」をディスク1の最後に入れたかったので、少し変則的な構成になった。ディスク1は第1話~第4話、ディスク2は第5話~第13話をイメージした内容である。

 ディスク1から紹介しよう。
 1曲目「グレンダイザーU」は本作のメインテーマ。作品全体を代表するテーマであり、特定の場面を想定した曲ではない。古典的なクラシック音楽のスタイルで書かれており、まさに歌劇の序曲のような、スケールの大きな音楽である。本編では第3話、第5話、第7話のグレンダイザー活躍シーンに選曲されている。
 オープニング主題歌をはさんで、トラック3からトラック11は第1話のイメージで構成した。
 トラック3「宇宙の深淵より」は第1話の冒頭、スペイザーが地球に落下する場面の緊迫した曲。「第二の故郷・地球」(トラック4)と「砂漠の町にて」(トラック5)は宇門大介として生きるデューク・フリードと平和な地球の描写に使われた曲だ。
 続く「襲来!ベガ星連合軍」(トラック6)で雰囲気が一変し、戦闘に突入する。兜甲児が操縦するマジンガーZの出撃場面に流れる「空駆ける魔神」、グレンダイザーの活躍を彩る「明日なき激闘」「荒ぶる守護神」と激しい曲がたたみかける。「王道のロボットアニメ・サントラ」の筆者なりのイメージを形にしてみた。「空駆ける魔神」が軽快なロック調で書かれているのに対し、グレンダイザーの曲はオーケストラにエレキ楽器とリズム楽器を加えたシンフォニックロック的なスタイルで書かれていることに注目したい。マジンガーZとグレンダイザーの強さの違いが音楽で表現されているわけだ。
 トラック10からトラック13は、デューク・フリードの過去を回想するイメージの構成。第2話でデュークが甲児にフリード星の出来事を話す場面に流れたメインテーマの変奏「悲劇の王子デューク・フリード」(トラック10)とデュークが奏でるギターの調べをイメージした「はるかなる故郷(ふるさと)の星」(トラック11)の2曲がデュークの孤独を表現。続く「王女ルビーナの微笑み」(トラック12)と「愛と慟哭の果てに」(トラック13)がルビーナの面影とフリード星での悲劇をよみがえらせる。田中公平が書くメロディーの凛とした美しさと端正なオーケストレーションに耳を傾けてほしい。
 トラック14からトラック23は、ベガ星連合軍との戦いの中で描かれる、デュークとさまざまなキャラクターとのかかわりを音楽で表現してみた。
 神秘的な力を持つ少女・牧場ヒカルのテーマ「宇宙の巫女ヒカル」(トラック15)、デュークを陥れた反逆者・カサドのテーマ「反逆の刃」(トラック16)、デュークと甲児との友情の曲「熱き血潮で結ばれた二つの星」(トラック23)など、主要キャラクターが次々登場するイメージだ。そのあいだに「卑劣な敵を迎え撃て」(トラック19)、「蹂躙される大地」(トラック20)、「紅蓮の怒り」(トラック21)といった戦闘曲、サスペンス曲を織り込んで、ロボットアニメ的躍動感も忘れないようにした。
 不穏な展開を予感させるトラック24「陰謀渦巻く大宇宙」をはさんで、トラック25からトラック29は第4話をイメージした構成。第4話は旧作でも人気の高いナイーダのエピソードのリメイク回である。ナイーダのテーマである「ナイーダ、漂泊のさだめ」(トラック25)、洗脳されたナイーダを描写する「いつわりの心に操られて」(トラック26)、ナイーダの悲痛な想いを表現する「愛ゆえの苦しみ」(トラック27)の3曲は、いずれも第4話の具体的なシーンを想定して書かれた曲。ドラマティックな「愛ゆえの苦しみ」が秀逸で、旧作のメロドラマ要素をオペラ風に再構築するとこうなるという田中公平の解答のような曲だ。洗脳が解けたナイーダの悲壮な決意を描写する「悪夢の再来」(トラック28)に続けて、円盤獣に突っ込むナイーダの場面に流れた挿入歌「愛のうた」(トラック29)を収録して、ディスク1の締めくくりとした。「愛のうた」は田中公平作・編曲、ナイーダ(CV:佐倉綾音)の歌唱による挿入歌で、フルサイズが聴けるのは本アルバムだけである。
 頭から聴いていくとディスク1だけでけっこうお腹いっぱい。本作の音楽の方向性と質の高さ、田中公平の本気度がわかっていただけると思う。この濃厚な感じは、音楽スタイルは異なれど、旧作『UFOロボ グレンダイザー』とたしかに通じるものがあると思う。
 ディスク2はがらっと雰囲気を変えて、ジャズトリオによる小粋な演奏「Flowers in the Night Sky」から始まる。実はこの曲は本編未使用。もともとは第8話でデュークがルビーナと密会するホテルのラウンジのBGMとして録音されたのだが、完成作品では密会場所がホテルではなく浅草の喫茶店になったため、使用されなかった。ここではインターミッション的なイメージで収録している。
 ディスク2のトラック2からトラック7は、第5話から登場するデュークの妹・マリアのシーンで流れた曲で構成した。旧作の人気キャラクターであるグレース・マリア・フリードは、本作でも活発でちょっと生意気な明るいキャラクターとして描かれている。トラック2「じゃじゃ馬娘がやってきた」はマリアのテーマ。初登場シーンのイメージに合わせてややコミカルな雰囲気で書かれている。トラック6「マリアにおまかせ」は同じ曲のバリエーションである。第5話でマリアが地球人と触れ合う場面の「戦火のふれあい」(トラック3)、マリアが敵のコマンダーと戦う場面の「スターカーの閃光」(トラック5)などを挿入して、マリアの多面的な魅力を表現してみた。トラック7「マリアと甲児」はマリアと甲児がはりあう場面に流れた明るくはつらつとした曲で、個人的にはこれがマリアのテーマでもよかったと思う。
 トラック12からトラック16は、デュークとテロンナの確執と愛のもつれをイメージした構成。デュークへの愛を貫こうとするルビーナにいらだつテロンナは、デュークと対決しようとする。その心にはデュークへの怒りと愛という相反するふたつの感情が渦巻いていた。
 テロンナのテーマである「白銀の騎士姫テロンナ」(トラック12)、テロンナとデュークが巨大ロボットを操縦してぶつかり合う場面の「宿命の激突」(トラック13)、テロンナの葛藤を描写する「悲痛なる想い」(トラック14)の3曲は、デューク、ルビーナ、テロンナが地球で邂逅する第6話のイメージで選曲した。闘うヒロインであるテロンナの曲は『ベルサイユのばら』的な華麗さとカッコよさがあり、本作の音楽の聴きどころのひとつである。
 トラック15「朔閏膰の丘」とトラック16「愛の儀式」は、第11話、第12話で描かれたデューク、ルビーナ、テロンナの三角関係の決着をイメージした選曲。
 トラック17からトラック25は、第11話~13話で描かれる地球対ベガ星連合軍の最終決戦をイメージした構成。重厚なサスペンス曲やバトル曲をここに集めて、アルバム全体のクライマックスとした。
 「悪魔の要塞ベガスター」(トラック17)はベガ星連合軍の脅威を描写する曲。次の「地球滅亡の危機」(トラック18)は地球の危機を表現するサスペンス曲だが本編では未使用に終わった。続いて、地球には隠された切り札があった!というロボットアニメの王道的展開を描写する「目覚める旧き遺構」(トラック19)と力強い「地球を守る翼」(トラック20)が地球側の反撃気分を盛り上げる。
 「マジンガー出撃!」(トラック21)は、マジンガーZにフリード星の技術を移植して完成した新ロボット、マジンガーXの出撃場面に流れる曲。ディスク1収録の「空駆ける魔神」とはサウンドが異なり、オーケストラが高らかに奏でる雄大で希望的な楽曲になっている。フリード星の技術と地球の技術の融合が音楽でも表現されているのだろう。
 ピアノのグリッサンドから始まるトラック22「死闘!地球対ベガ星連合軍」は激しい戦闘を描写する曲。男声合唱を加えたデモーニッシュな曲想が迫力満点。オーケストラサウンドとロックサウンドがミックスされたロックオペラ的な1曲だ。次の「この美しい星のために」(トラック23)は混声合唱とオーケストラによる壮大かつ豪快な最終決戦の曲。
 激しい曲の連続のあとに流れるのが、切なくも美しい「宇宙に散った愛の花」(トラック24)である。第12話のラスト、ルビーナの最期のシーンを飾った悲しい愛の曲だ。そして、デュークの怒りを宿したグレンダイザーの突撃を描く「宇宙の守護神グレンダイザー」(トラック25)がベガ星連合軍との決着、勝利を表現する。戦闘の展開と心情のドラマが一体となって盛り上がるクライマックスを、感情をゆさぶる音楽の連続で再現してみた。ロボットアニメのサントラはこうでなくては。
 トラック26からトラック28はエピローグである。
 トラック26「やすらぎをあなたに」は、第13話の終盤、戦いが終わり、病院のベッドの上で弓教授が目覚める場面に一度だけ使われた曲。本編ではわずかしか流れないが、フルートやストリングスが美しく奏でる慈愛に満ちた曲である。
 トラック27「いつか微笑みが還るまで」は上記の場面に続いて、デュークとテロンナがルビーナのなきがらを見送り、別れる場面に流れた繊細な愛の曲。往年のフランス映画音楽のようなロマンティックな曲想に胸がしめつけられる。
 物語を締めくくる曲として、ルビーナの愛のテーマとして書かれた「緑の星より愛をこめて」をトラック28に収録した。音楽メニューでは「愛のテーマ」と副題が付けられている。メインテーマと並ぶ、本作のサブテーマと言ってもよいだろう。独立したコンサートピースとしても鑑賞できそうな、聴きごたえのある1曲である。

 『グレンダイザーU』の音楽で田中公平が特に力を入れたと思われるのは、メインテーマを含むグレンダイザーのテーマと戦いの曲だ。田中公平が「正統で本物のロボット音楽」と語る通り、ロボットのカッコよさ、強さ、戦闘の迫力、緊迫感などがダイナミックかつ壮大なサウンドで表現されている。
 同時に、それと同じくらい力を入れたと思われるのが、ルビーナやテロンナ、ナイーダらに付された愛のテーマである。さまざまな愛の形、愛の試練、愛の悲劇が、クラシカルな曲想で奏でられ、作品に香気を加えている。先に本作の音楽を「ロボットアニメオペラ音楽」と書いたが、その中で大きな比重を占めているのが愛の主題だ。本作ではロボットの活躍(戦い)と愛のドラマが同じくらいの重みで描かれている。大いなる敬意をこめて、本作の音楽を「愛のロボットアニメオペラ音楽」と呼びたい。

グレンダイザーU Original Sound Track
Amazon

第230回アニメスタイルイベント
杉井ギサブローとアニメとアニメーション

 杉井ギサブロー監督と言えば『宮澤賢治 銀河鉄道の夜』『紫式部 源氏物語』『タッチ』『悟空の大冒険』等、素晴らしい作品を残してきた名監督です。

 2024年11月11日(月)に、その杉井監督をゲストに迎えたトークイベントを開催します。聞き手は小黒編集長が務めます。
「アニメとアニメーション」という大枠は決めてありますが、それ以外は思いつくままトークを進める予定です。興味深いお話をうかがうことができるはずです。

 なお、今回は平日夜のイベントとなります。会場は阿佐ヶ谷ロフトA。今回のイベントも「メインパート」の後に、ごく短い「アフタートーク」をやるという構成になります。配信もありますが、配信するのはメインパートのみです。アフタートークは会場にいらしたお客様のみが見ることができます。

 配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。

 チケットは10月17日(木)18時から発売となります。チケットについては、以下のロフトグループのページをご覧になってください。

■関連リンク
告知ページ(LOFT)  https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/296599
配信チケット(ツイキャス)  https://twitcasting.tv/asagayalofta/shopcart/337632
会場チケット(LivePocket)  https://t.livepocket.jp/e/8xuat

第230回アニメスタイルイベント
杉井ギサブローとアニメとアニメーション

開催日

2024年11月11日(月)
開場18時30分/開演19時 終演21時~21時30分頃予定

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

杉井ギサブロー、小黒祐一郎

チケット

チケット会場での観覧+ツイキャス配信/前売 2,300円、当日 2,500円(税込·飲食代別)
ツイキャス配信チケット/1,800円

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

第872回 夢のアニメ

 庵野秀明監督が『宇宙戦艦ヤマト』の新作を作ると発表されたそうです! 凄い! ゴジラ・ウルトラマン・仮面ライダーに続いて、何十年経っても“ヤマトが作りたい!”って、本当に凄い、と。特に、我々よりひと回り上の世代の方々にとっての『ヤマト』は相当“特別なアニメ”だということが伺えます。自分らの世代に、そういう作品ってあるのでしょうか!? うん。まぁ、他の人は知りませんが、

俺にはない!!!

とハッキリ言えます!
 たとえば『あしたのジョー』? 仕事として依頼があれば、もちろんやると思うし面白がって作るでしょう。でも自分に取って『ジョー』は出﨑(統)監督のアニメ版が好き過ぎて、何がなんでも自分が作りたい! って気持ちは正直ないのです。
 そう言えば以前も触れたかも知れませんが、『コップクラフト』(2019)の時、原作イラストの村田蓮爾先生と(酒を)飲んだ時、「板垣さんはやりたいことないんですか?」と振られて、

いやぁ~、自分はアニメ始める前から “永遠の出﨑憧れ”なので、自分オリジナルとか世間に伝えたい思想とかより、“どんな企画でもこなす”職人がモットーでして……

とお茶濁し的な返しをしたら、「じゃあ、やりたい原作とかでもいいじゃないですか~」と、言われた時、「強いて言うなら『がんばれ元気』(原作・小山ゆう)です……」と。

小学生の頃に一度、りんたろう監督・東映動画(現・東映アニメーション)制作でアニメ化されたんですが、りんさんの第一話が良いんですよ!出﨑さんの『ジョー』と違うテンポで拳闘を描いてて! そして最後までアニメ化されてない! でもやるなら、あくまで“昭和”舞台で! 喜怒哀楽のハッキリした感情爆発の濃いドラマを!

と、熱っぽく語ったのを覚えています。それでも『がんばれ元気』は「終わりまでアニメ化が作られてないから、誰もやらないなら」って理由があるし、ま、“語ってワクワクする夢”ってとこです。
 『がんばれ元気』同様、途中で終わったアニメ化原作で言うと『おれは鉄兵』(原作・ちばてつや)も? アニメ化されていないで言うと『まんが道』(原作・藤子不二雄A)とか、神様・手塚治虫を中心に戦後~昭和のマンガ家青春群像として——全部“昭和”……。

しかし、どれも庵野さんの『ヤマト』熱とは比べものになりません!

で、仕事に戻ります。

第229回アニメスタイルイベント
ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』9【今話しておきたい枕草子の周囲人物 編】

 片渕須直監督が制作中の次回作のタイトルは『つるばみ色のなぎ子たち』。平安時代を舞台にした作品のようです。
 『つるばみ色のなぎ子たち』の制作にあたって、片渕監督はスタッフと共に平安時代の生活などについての調査研究を進めています。その調査研究の結果を披露していただくのが、トークイベント「ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』」シリーズです(以前は「ここまで調べた片渕須直監督次回作」のタイトルで開催していました)。

 2024年11月4日(月・祝)に開催する「ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』9」のサブタイトルは【今話しておきたい枕草子の周囲人物 編】です。
 これまでの「ここまで調べた~」イベントでも、「枕草子」に登場する多くの人物について話をうかがってきました。今回も興味深いトークが展開するはずです。出演は片渕監督、前野秀俊さん。聞き手はアニメスタイルの小黒編集長が務めます。

 会場は阿佐ヶ谷ロフトA。今回のイベントも「メインパート」の後に、ごく短い「アフタートーク」をやるという構成になります。配信もありますが、配信するのはメインパートのみです。アフタートークは会場にいらしたお客様のみが見ることができます。

 配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。また、今までの「ここまで調べた~」イベントもアニメスタイルチャンネルで視聴できます。

 チケットは10月12日(土)正午12時から発売となります。チケットについては、以下のロフトグループのページをご覧になってください。

■関連リンク
告知ページ(LOFT)  https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/296283
配信チケット(ツイキャス)  https://twitcasting.tv/asagayalofta/shopcart/336917
会場チケット(LivePocket)  https://t.livepocket.jp/e/zzxrd

 なお、会場では「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」上巻、下巻を片渕監督のサイン入りで販売する予定です。「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」についてはこちらの記事をどうぞ→ https://x.gd/57ICr

第229回アニメスタイルイベント
ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』9【今話しておきたい枕草子の周囲人物 編】

開催日

2024年11月4日(月・祝)
開場12時30分/開演13時 終演15時~16時頃予定

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

片渕須直、前野秀俊、小黒祐一郎

チケット

会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,800円、当日 2000円(税込·飲食代別)
ツイキャス配信チケット/1,500円

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

第871回 人生の後半戦~

どうやら、50歳を越えて更に忙しくなりそう!

 先に言っておきますが、今回は“お茶濁し”です。コンテチェック(修正)と打ち合わせで本日、またバッタバタ! でも、この歳で3本も4本も仕事を頂けるのはとても有難いこと。50代もアニメ作りを堪能できそうで、わくわくが止まりません。

 え? 今のアニメ業界に対する不満?

「ない」と言えば噓になるけど、人生後半ともなると「作品作り」と「業界改変」両方は達成できないし、「~改変」の方は若い後輩たちや仕事に隙間のある方々にお任せします。

自分は作品を作りつつ、せいぜい「身の丈に合った会社作り」くらいが丁度いい! 詳しくは次回!

てとこで、今回のお茶濁し終わり。仕事に戻ります。

第290回 心が奏でている 〜ガールズバンドクライ〜

 腹巻猫です。TVアニメ『ガールズバンドクライ』の劇伴を収録したサウンドトラック・アルバムが9月11日にリリースされました。放送終了から3ヶ月近く経ってからのリリース。「もう出ないのかな」と思っていたのでよかった! 本作を観た人の多くはライブシーンで演奏される曲に関心を持つと思いますが、劇伴もあなどれません。今回は前回に続いてバンドアニメの音楽を取り上げます。


 『ガールズバンドクライ』は2024年4月から6月まで放送されたTVアニメ。シリーズディレクター・酒井和男、シリーズ構成&脚本・花田十輝、アニメーション制作・東映アニメーションによるオリジナル作品である。
 親や学校とそりがあわず、高校を中退して上京した井芹仁菜は、あこがれていたバンドのギタリスト兼ボーカル・河原木桃香と出会う。仁菜は桃香に誘われてバンドを組むことになり、ドラム担当の安和すばると3人で活動を開始した。そこに2人組で活動していた海老塚智(キーボード)とルパ(ベース)が加わり、5人組バンド「トゲナシトゲアリ」が結成された。それぞれに心の傷や複雑な事情を抱えた5人は、音楽活動を通して関係を深め、自身の抱える問題に向き合っていく。そんな仁菜たちに、桃香がかつて参加していた人気ガールズバンド・ダイヤモンドダストが、あるライブへの出演を持ちかけてきた。
 ロボットアニメに王道があるように、ロックバンドアニメに王道があるとしたら、これこそ(筆者が考える)王道。それぞれに屈折した想いを抱えた若者が音楽を軸に集まり、言葉にできない気持ちを曲にして、世間にぶつけていく。家族や仲間との確執、挫折、暴走、後悔、反骨、野心……。青春ドラマ的なエピソードが、深刻になりすぎず、さらっと軽快に語られるのがいい。
 本作では、いくつか斬新な試みがされている。バンドメンバーを演じるのが声優ではなく、先行して結成されたバンドのメンバーであること。全編がイラストルックのCGアニメで制作されていること。が、それらについては本稿では触れない。ここで語りたいのは音楽、それも劇伴のほうである。

 バンドアニメらしく、本編の見せ場となるのはライブシーンだ。劇中でトゲナシトゲアリが演奏する曲はどれも勢いのあるロックナンバーで、本編のドラマとリンクして胸に刺さる。トゲナシトゲアリの曲について語りたい人は多いだろう。
 いっぽう劇中に流れる音楽(劇伴)を気にしている人は少ないのではないか。流れているけれども意識されない。それが劇伴の宿命である。けれど、じっくりと耳を傾けてみると、本作の劇伴はライブシーンで流れる曲と同じくらい心に残る。
 本作の音楽プロデューサーは玉井健二。劇伴音楽のプロデュースは田中ユウスケが担当。実際の劇伴制作には、田中ユウスケをはじめ、玉井健二が代表を務めるagehasprings所属の複数の音楽家が参加している。下記のページに楽曲ごとのクレジットが掲載されているので、参考にしていただきたい。
https://news.agehasprings.com/news/4599/

 本作のように音楽をテーマにした映像作品の場合、劇中で演奏される現実音としての音楽と、背景音楽(劇伴)をどう差別化するかが課題になる。たとえばピアニストが主人公の作品であれば、劇伴にピアノを使うと、それが劇中で現実に流れている音なのか、そうではない背景音楽なのかを視聴者が区別できず、混乱を招くことがある。だから、できるだけピアノを使わずに劇伴を作曲するという方法もあるし、逆にあえてピアノを使って劇中の現実音楽とリンクさせるという方法もある。
 『ガールズバンドクライ』の場合は後者である。劇伴の大半がギター、エレキベース、キーボード、ドラムをメインにしたバンドサウンドで作られている。ギターのみ、キーボード(ピアノ)のみ、ギターとドラムのみ、といったシンプルなサウンドの曲も多い。「なんとなく楽器を触っているうちにできちゃった」みたいな曲もある。しっかり作りこんだ音楽ではなく、スタジオでセッションしながら作り上げたような音楽だ(あくまでそういう印象を受けるということで、実際にそうだったかどうかはわからない)。
 おそらく、バンドサウンドの劇伴で日常を彩る、というのが本作のねらいなのだろう。その作りこまれてない感じ、仁菜たちのバンド活動と地続きの音楽が日常に流れている感じが、本作の世界観になっている。いつも音楽とともにある。いつもロックとともにある。仁菜たちのそんな日常を彩る音楽は、バンドサウンドでなければいけないのだ。
 本作のサウンドトラック・アルバムは、2024年9月11日に「TVアニメ『ガールズバンドクライ』オリジナルサウンドトラック」のタイトルで、ユニバーサルミュージックから発売された。CD2枚組。収録曲は下記ページを参照。
https://girls-band-cry.com/goods/post-43.html

 なんと全73曲。1クールのアニメにしては多いのではないか、というのが筆者の第一印象だった。劇伴だけでなく劇中で流れた挿入歌(ライブバージョン)も入っているのだが、それにしても多い。
 聴いてみて、曲数が多い理由はわかった。劇伴として使用された曲だけでなく、現実音楽として流れた曲や未使用曲まで入っているのだ。
 全体の構成は、ディスク1の全45曲とディスク2のトラック1〜21が主題歌を含む本編使用曲。ディスク2のトラック22〜28が未使用曲である。
 曲順は、ほぼ劇中で流れた順。ライブシーンの演奏曲などを挟んで、全13話のストーリーをふり返る構成になっている。よく考えられた、いい構成だ。
 本作の音楽全体はフィルムスコアリングではないが、特定の場面を想定して作られたと思われる曲もたくさんある。1回しか使われていない曲も多い。フィルムスコアリングのような映像と音楽の一体感をねらったというより、ある種のライブ感をねらった演出ではないだろうか。そのとき、その場の雰囲気に合わせ、即興で生まれた音楽のような印象を受けるのだ。劇伴にバンドサウンドを使った効果のひとつである。
 印象的な曲をいくつか紹介しよう。
 まずディスク1から。1曲目「十七歳三月」は第1話の冒頭(2曲目に)流れる曲。ピアノの演奏が仁菜の屈折した心情を表現する。第2話では桃香とすばるが仁菜をバンドに誘う場面に流れ、第13話では仁菜がバンドの演奏前に自分語りを始める場面に流れていた。劇伴における本作のメインテーマ、あるいは「仁菜のテーマ」ともいえる曲である。
 トラック6「おしんこ」は使用頻度の高い日常曲。仁菜たちのちょっとユーモラスなシーンによく使われている。
 トラック8「雨と疾走とマニフェスト」は第1話で仁菜が桃香を追いかけて雨の街を走る場面に使用。ギターやドラムが生み出す疾走感が仁菜の心情とリンクする。第10話で実家に帰っていた仁菜がふたたび旅立つ場面、第13話で仁菜たちがダイヤモンドダストからの共演の申し出を断ることを決める場面にも流れていた。「決意のテーマ」とでも名づけたい曲である。
 トラック10「袋小路 -fukurokoji-」は代表的なコミカル曲。エレキギターの音色だけで笑わせる。コミカルな曲では、とぼけたギターサウンドによる「ごきげんよう(ニセモノ)」(トラック21)やファンキーな「嘘とconfuse」(トラック29)、ブルージーなハーモニカの曲「二枚舌(Nimaijita)」(トラック36)、ライバル登場! みたいなロック「SHAZAI(謝)」(トラック39)なども耳に残る。
 トラック22「みんなでひとつのものを」はタイトルどおり、仁菜たちの友情、絆を表現する曲。その絆が永遠に続く保証はないが、それだけに尊い。ピアノの演奏に、逆再生したピアノの演奏を重ねて、時間がたゆたうようなユニークなサウンドを生み出している。
 トラック42「たぶん気分(ねぎぬき)」はギターとピアノをメインにした心情曲。第6話でルパが牛丼屋で仁菜とすばるに名刺を渡す場面、第8話で仁菜が父からの援助を断ろうと決心する場面、第10話でルパが仁菜に熊本行きの切符を渡す場面、第12話で仁菜がダイヤモンドダストと勝負したいと主張する場面など、印象的な場面で使われた。しだいに軽快になっていく曲調が動き始めた感情を描写している。
 次の「アンダー・ザ・オニオンズ」(トラック43)は、第6話で仁菜たちが夜中に武道館を見に行く場面に流れた、ギターとピアノによるリリカルな曲。「オニオンズ」は武道館のことをさしているのだろう(気になる方は「武道館 玉ねぎ」で検索してください)。
 ディスク1の最後に置かれた「桃香と桃香」(トラック45)は、桃香と仁菜の場面にたびたび使われたギターによる心情曲。第1話で仁菜と桃香が歩道橋の上で話す場面、第4話で仁菜が桃香からダイヤモンドダストとの確執を聞く場面などに流れている。タイトルが「桃香と仁菜」ではなく「桃香と桃香」となっていることから、桃香の葛藤にフォーカスした曲であることがうかがえる。仁菜がもうひとりの桃香であるという含みもありそうだ。

 続いてディスク2から。
 トラック1「決意表明(長野の諏訪)」は第7話で一度だけ使われた曲。ディスク1に収録された「雨と疾走とマニフェスト」と並んで、疾走感と躍動感が心地よいナンバーだ。ライブに参加を決めた仁菜たちの意気込みが伝わってくる。
 次のトラック2「過去と過去と過去」とトラック7「見えざる手」はピアノが奏でるメランコリックな心情曲。仁菜たちの過去や葛藤を描写する曲である。第7話以降はメンバーの過去に焦点をあてたエピソードが多く、こうした曲の出番が多くなった。
 トラック8「まもるべきもの」はオープニング主題歌「雑踏、僕らの街」のピアノによるアレンジ曲。ディスク1に収録された「雑踏、僕らの街(彷徨う)」も同曲のギターによるアレンジだったが、使用頻度は「まもるべきもの」のほうが高い。第7話以降、仁菜や桃香の想いを表現する曲として毎回のように使用された。
 エフェクターを効かせたギターが奏でるトラック9「宣戦布告」は、第8話で仁菜と桃香がダイヤモンドダストに宣戦布告する場面での使用が印象的。ほかにも、仁菜たちが対抗心を燃やす場面や一歩踏みだそうとする場面などに使われている。本作らしいロックチューンだ。
 次の「家族の肖像」(トラック10)は、第10話の仁菜が実家に戻るエピソードで1回だけ使用。その次の「ただいま、おかえり。」(トラック11)は戻って来た仁菜を桃香たちが迎える場面に流れた、ぐっとくるバンドサウンドの曲である。
 もやもやする気持ちやいらだちを表現する「美人投票」(トラック18)を経て、BGMパートの実質的な最後の曲となるのが「野菜の甘味。」(トラック19)。ギターとキーボード、ベース、ドラム、ハンドクラップ、それに、ぬくもりのあるトランペット(?)のアンサンブルで演奏される、ほのぼのとした情感をかもしだす曲だ。特にドラマティックではないけれど、仁菜たちがふと本心をもらす場面、胸に秘めた気持ちがあらわになる場面などに使われた。第2話で仁菜と桃香が河原で別れる場面、第11話ですばるが祖母に本当の気持ちを伝えたと仁菜に話す場面、第13話で仁菜が牛丼屋の前で仲間たちに「誓いを立てませんか」と言い出す場面などが思い出される。
 いわゆる「劇伴」だけでなく、現実音楽として流れた曲も紹介しておこう。
 いずれもディスク1から。トラック4「丸福珈琲店(焙煎)」は第1話で仁菜が入る喫茶店のBGM。トラック14「バンドをやって(た)ともだち」とトラック15「フェスで人気でそうなバンドの曲」は、第2話で仁菜たちが入る飲食店「鍋ぞう」のBGM。トラック40「フカフカソファーの喫茶店」も第4話で使われた喫茶店のBGMである。
 第3話では現実音楽が多く使用されている。トラック18「鳩のアレ」は仁菜がスマホアプリで奏でるリズムと鳩の声。仁菜が自習しながらイヤフォンで聴いている曲がトラック20「Coco dos Sonhos」。カラオケルームで仁菜が発声練習する「あーあーあーあーあー」(トラック25)やライブステージに仁菜を呼び込みながら桃香がギターで奏でる「endless 9th」(トラック26)など、バンド経験者だったら「あるある」と思う音も収録されている。こうした、ふつうのサントラならオミットされるような曲も収録されているのが本アルバムのうれしいところだ。

 本アルバムには収録されていないが、仁菜が河原や部屋で弾く、曲になっていないようなギターの演奏も現実音楽の一種である。「いや、それは効果音の範疇だろう」とふつうのアニメだったら思うところだが、本作では違う。本作ではキャラクターが日常的に演奏している楽器の音も、心情や雰囲気を描写する劇伴として機能しているからだ。
 そう考えると、本作の劇伴がバンドスタイルで作られている理由が、さらに明確になる。仁菜たちは息をするように仲間たちと楽器を奏で、心の中にはいつもバンドサウンドが流れている。本作の劇伴は仁菜たちの心が奏でている音楽なのである。

TVアニメ『ガールズバンドクライ』オリジナルサウンドトラック
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【新文芸坐×アニメスタイル vol.182】
映画館で観るアニメーションの名作『銀河鉄道の夜』

 2024年10月5日(土)に新文芸坐で上映するのは『銀河鉄道の夜』。『銀河鉄道の夜』は宮沢賢治の童話を杉井ギサブロー監督が映像化した劇場作品で、日本のアニメーションのひとつの到達点と呼ぶべき傑作です。
 トークコーナーのゲストは杉井ギサブロー監督。聞き手はアニメスタイルの小黒編集長が務めます。

 チケットは9月28日(土)から発売。チケットの発売方法については新文芸坐のサイトで確認してください。

●関連リンク
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

新文芸坐オフィシャルサイト(『銀河鉄道の夜』販売ページ)
https://www.shin-bungeiza.com/schedule#d2024-09-14-2

【新文芸坐×アニメスタイル vol.182】
映画館で観るアニメーションの名作『銀河鉄道の夜』

開催日

2024年10月5日(土)14時00分~16時50分予定(トーク込みの時間となります)

会場

新文芸坐

料金

2000円均一

上映タイトル

『銀河鉄道の夜』(1985/107分/35mm)

トーク出演

杉井ギサブロー(監督)、小黒祐一郎(聞き手)

備考

※トークショーの撮影・録音は禁止