小黒 『泣きたい私は猫をかぶる』の企画はどこから始まってるんですか。
佐藤 これは山本幸治さんから始まった企画ですね。前から折に触れ「岡田さんとサトジュンさんで映画を1本やりましょう」と言っていて、やっと実現したのがこれですね。でも、結局配信になったんだよね。
小黒 何歳ぐらいのお客さんをイメージしてたんでしょうか。
佐藤 中学生ぐらいの子達と大人も、みたいな気分ですかね。ただ、「中学生はこういうものを観るよ」という情報やデータをもらってるわけじゃないので、単に推測ですけど。
小黒 コロナ禍の影響でNetflix配信になったんですよね。最初は「Netflixのお客さんにはストライクではないんじゃないの?」と思いました。実際には好評だったわけですけど。
佐藤 まあ、今でもNetflixのお客さんの層自体、僕は分かんないんだけど(笑)。
小黒 意外と家族で見てる人が多かったんですかね。それに、大人が観て喜んでくれたんですかね。
佐藤 「分かる分かるその感じ」みたいな反応が来たのは、中高生のほうが多かった印象ですけどね。大人になると「ムゲみたいな子を見るのはつらいです」になっちゃう。
小黒 じゃあ、共感してもらいたい人達に共感してもらえたということなんですね。
佐藤 かな? 具体的には分かんないからね。個々の反応ってTwitterで見るぐらいしかないので分からないですけど。
小黒 監督が佐藤さんと柴山さんの連名になってますけども、どういう仕事分けだったんですか。
佐藤 そもそもは、監督と助監督ぐらいの感じだったんだけども、僕が1人でコンテをやるんじゃなくて、柴山君にもコンテを沢山やってもらおうと思ってやってもらったんです。現場のコロリドも、その時点ではアウェイなので、どのアニメーターがどういう画が得意かも分かんない。そこを柴山君が仕切ってるので、途中で「やっぱり柴山君も監督じゃない?」という感じになって、このかたちで落ち着いたんですよ。
小黒 なるほど。
佐藤 実際の現場は基本的に柴山君が回していたけど、柴山君がキャパオーバーだったところをむしろ僕が手伝うみたいな感じ。原画チェックとかね。音響周りは基本的に自分でやるっていう方向ですけど、そこは他の作品と変わらない。
小黒 絵コンテの序盤は佐藤さんですよね。
佐藤 はい。
小黒 全体はどのぐらい描いてるんですか。
佐藤 どうかなあ。6:4ぐらいで柴山君が多く描いてんじゃないかな。僕がすぐに現場に入れなかったのもあって、柴山君にどんどん先行してやってもらってたから、「じゃあ、ここもうちょっと柴山君やってくれる?」という感じで増えたような気がする。
小黒 そうなんですね。
佐藤 日之出っていうキャラクターの家を、柴山君の実家をモデルにしてやることになったので、日之出周りはほぼ柴山君のコンテです。ムゲの部屋のシーンは柴山君の担当が多いかな。結構な物量をやってるはず。
小黒 お話は誰が作ってるんですか。
佐藤 これはベースの部分から、岡田さんです。
小黒 岡田さんの出してきたアイデアやプロットに、佐藤さんがアドバイスをしたり、注文を付けたりして作っていったと。
佐藤 そんな感じですね。
小黒 岡田さんにしてはソフトな思春期ものですね。
佐藤 岡田麿里的には、サトジュンシフトな書き方をしてると思うんすよ。「佐藤さんならこういう感じが得意でしょ」という書き方をしてる。
小黒 なるほど。
佐藤 打ち合わせで「岡田さんのマックス、やりたいものを書いてもらっていいですよ」ということも言ったと思うんだけど、多分そうではなく。きっと「それは他の作品でやってるんでいいです」ってことなんだよね。
小黒 ああ。
佐藤 「私はサトジュンに合わせた脚本を書くのである」っていう意思が多分あるんじゃないかと思うけど(笑)。直接聞いたわけじゃないけどね。
小黒 ちょっと下品なものとか、ドロドロしたものは置いといてみたいな。
佐藤 多分そんな感じで、やってくれてると思うんだけど。こっちは下品なものでも全然いいっすよと思ってんだけど。
小黒 岡田さんが本当にやりたいものが、ドロドロしたものなのかどうか分からないですけどね。
佐藤 そうなんです。岡田さんの色々な作品を観ていくと、基本的にはピュアなんだなっていうことが、僕の中では分かったので。
小黒 中学生とかがエロいことを言って、周りの人を当惑させたいみたいなムードを岡田さんには感じるんですよね。
佐藤 うん。
小黒 別にそういうところが自分の表現だと思ってるのかどうか分かんないっすよね。
佐藤 それが自分の表現だとは思ってないだろうけど、そういうものをタブー視するのが気持ち悪いと思ってるんじゃない。
小黒 ああ、それはそうですね。
佐藤 当たり前にあるものは当たり前に書きたいですよ、っていうところはあると思うんで。それも含めて描かれる作品世界はやっぱりピュアだなって。悪意は悪意としてちゃんと出てくるピュアさみたいなものを感じるね。
小黒 僕の中でのベスト岡田麿里作品は『臨死!!江古田ちゃん』ですよ。
佐藤 演出がみんな違うやつでしょ。
小黒 そうですそうです。杉井ギサブローさんが、自分の担当回で岡田さんを指名してたんです。短編なのであっという間に終わるんですけど、岡田さんの生々しさが全開になってる。短編なので、生々しいだけで終わるんです。
佐藤 へえ(笑)。
小黒 ああいうものをずっと書いててほしい。
佐藤 それも結構疲れるだろうけどね。『泣き猫』が終わってから、岡田さんと対談したりする機会がなくて喋れてないので、答え合わせができてない。
小黒 なるほど。
佐藤 コンテをやってる時も、上がったコンテを全部回して「意見あったら返してね」と言っていたんだけど、ご意見が来なかったので、なにを思って見てるのかが分かんないところがある。「岡田さんはこうです」と喋れないところもあるんだけどね。