ANIME NEWS

アニメ音楽丸かじり(174)
さらばスターチャイルド! 老舗レーベル消滅に寄せて

 4月27日に『ギルティクラウン』の3枚組CD「COMPLETE SOUNDTRACK」が発売されるという。同作では2012年にオリジナルサウンドトラックがリリースされているが、こちらはCD1枚に19曲収録という内容。その後、BD/DVDの2巻、4巻、9巻に特典CD「SOUNDTRACK ANOTHER SIDE 01」〜「03」として世に出た楽曲が多数存在していた。これらの楽曲をまとめ、『ギルティクラウン』関連のBGMを網羅したのがこの「COMPLETE SOUNDTRACK」ということになる。これはファン待望のアイテムと言っていいのではないか。

 すでにご存知の方も多いと思うが、キングレコードの組織改編によって1月末でスターチャイルドレーベルが消滅した。所属アーティストや作品は、新組織のキング アミューズメント クリエイティブ本部に引き継がれるため、ファンへの実質的な影響はそれほど大きくないのかもしれない。しかしながら、STAR CHILDの星形ロゴマークが記されたCDはもう出ないわけで、これまでにスターチャイルドのCDを大量に買ってきた身からすると、やはり一抹の寂しさを感じてしまう。
 スターチャイルドは1981年設立という長い歴史があり、多くのアニメファンが親しんできたレーベルであったと思う。僕にとっても、人生で最初に買ったアニメサントラは『伝説巨神イデオン』だったし、この連載の第1回で取り上げたのは、『今日の5の2』出演声優によるユニット「Friends」のアルバムと、TVアニメ『とらドラ!』のサントラ盤というスターチャイルドの2枚だった。ライターとしてスターチャイルドの仕事をさせてもらったこともあるし、色々と思い出のあるレーベルなのだ。そこで今回は、本連載で過去に取り上げたスターチャイルド作品の中から、印象深かったものをいくつか掘り起こしてみたい。

 まずは2009年8月の連載第16回で紹介した「伝説巨神イデオン 総音楽集」だ。先述のとおり『イデオン』は僕が初めて買ったサントラでもあり、劇伴の世界に惹きつけられるきっかけとなった作品だ。すぎやまこういちの洗練されたフュージョンサウンドは、放映当時から子供心にも格好いいと思っていた。
 この「総音楽集」は、それ以前にCD化されたことがある「伝説巨神イデオン BGM集」「伝説巨神イデオン2 BGM集」「映画 伝説巨神イデオン 接触篇 BGMオリジナル・サウンドトラック」「映画 伝説巨神イデオン 発動篇 BGMオリジナル・サウンドトラック」「交響曲イデオン」という5枚分のマテリアルに、「伝説巨神イデオン TV版 ドラマ編」「映画 伝説巨神イデオン 未収録BGMコレクションシリーズ3」というLP時代にリリースされた楽曲を加えたもの。これだけボリュームのある内容をCD4枚組にぎゅぎゅっと詰め込み、定価も4800円に抑え込んでいる。『イデオン』の劇伴は、「伝説巨神イデオン BGM集」以外のCDが長らく入手困難になっていたが、この「総音楽集」の登場によって問題が解決した。劇伴ファン、『イデオン』ファン双方とって意味のあるCDだったと言えよう。

伝説巨神イデオン 総音楽集(音楽:すぎやまこういち)

KICA-938〜41/4,800円/キングレコード
発売中
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 2009年11月の連載第22回で紹介したのは、同時リリースされた「ロボットアニメ大鑑 上巻」「ロボットアニメ大鑑 下巻」「サンライズ ロボットアニメ大鑑」の3作品。これらはいずれも忘れ得ぬCDだった。1960年代から2000年代までのロボットアニメ主題歌を幅広く集めたコンピレーションで、特筆すべきは、『機甲戦記 ドラグナー』『熱血最強 ゴウザウラー』『サイコアーマー ゴーバリアン』など、当時入手困難になっていた主題歌、未CD化の主題歌などを掘り起こしたところ。特に『ゴウザウラー』は挿入歌やイメージソングまで含めた9曲も収録しており、本盤がいわば決定版と言っていい。
 また、『ゴッドマーズ』の挿入歌3曲を含めた全6曲を収録している点もいいし、『銀河旋風ブライガー』『銀河烈風バクシンガー』『銀河疾風サスライガー』の「J9シリーズ」3作いずれも、挿入歌まで含めた歌ものすべてを網羅している。主題歌コンピレーションでは、どうしても有名曲を中心に「薄く広く」の収録方針になりがちだが、本盤では収録作品数を絞り込み、ひとつの作品を深く掘り下げていく構成がマニアックで嬉しいところだ。

サンライズ ロボットアニメ大鑑

KICA-3101〜3103/4,800円/キングレコード
発売中
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ロボットアニメ大鑑 上巻

KICA-3104〜3105/3,000円/キングレコード
発売中
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ロボットアニメ大鑑 下巻

KICA-3107〜3108/3,000円/キングレコード
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 スターチャイルドの魅力は旧作ばかりではない。2011年2月の連載第53回で取り上げた劇場版『蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH』のサントラは、クライズラー&カンパニーで知られる斉藤恒芳の作り出す音楽の独自性により、特筆すべき1枚となった。劇伴の世界では「バトル曲」「日常曲」「キャラクターのテーマ」など、各楽曲が機能的に作られることが多い。そのぶんだけ即効性があり刺激的な音が求められるのだが、『ファフナー』の音楽はコンサート向けクラシック音楽のように重厚で奥深く、単純な分かりやすさを志向していない。ショスタコービチやストラビンスキーのようなロシア音楽を思わせるアレンジが随所に見え、何度も聞き直して楽しめるだけの奥行きがあるのだ。

『蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH』オリジナルサウンドトラック(音楽:斉藤恒芳)

KICA-3137/3,000円/キングレコード
発売中
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 最後に紹介するのは、2012年2月の連載第78回で紹介した『とらドラ!』のベスト盤「√HAPPYEND」だ。このCDは内容以上に、スターチャイルドの担当者が深夜にバイク便でサンプル盤を届けてくれたことを思い出す。こういったスタッフのやる気と情熱が、アニメ作品やアーティストを支えているのだろう。そういえば音羽のキングレコード本社は、深夜でも明かりが灯っている事が多かった。
 『とらドラ!』の歌ものといえば、オープニング主題歌「プレパレード」に代表されるように、Perfumeのブレイク後に日本の音楽市場を席巻したテクノポップに目をつけ、これをアニメ主題歌に落とし込んだ初期の成功例として評価されるべきだろう。「プレパレード」のシングルリリースが2008年10月。Perfumeが「ファン・サーヴィス[sweet]」「ポリリズム」でブレイクしたのが前年の2007年だから、時代の動きを取り込むスピード感が伝わってくる。スターチャイルドは老舗レーベルだが、このように流行の先端を捉えた作品もあった。

『とらドラ!』BEST ALBUM「√HAPPYEND」

KICA-3192/3,000円/キングレコード
発売中
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 以上のように過去の本連載の中から、スターチャイルド作品をいくつか紹介してみた。豊富な過去の資産に支えられたコンピレーションから、時代の流れに対峙する新作まで、その対象とするところは幅広い。また本連載では紹介していないが、声優の音楽CDについてはトップクラスの品揃えを誇ってきたレーベルであり、年季の入った声優ファンならばスターチャイルドのCDが自宅に沢山あるはずだ。
 アニメファンに広く親しまれたスターチャイルドがなくなってしまうのは残念だが、所属するアーティストや、保有するコンテンツが消えてなくなるわけではない。今後は新設のキング アミューズメント クリエイティブ本部が、スターチャイルド時代以上の豊かな作品群を生み出してくれることを願う。(和田穣)