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アニメ音楽丸かじり(167)
岩代太郎による重厚なオーケストラ! 『アルスラーン戦記』サントラが発売

 前回記事にてNetflixを導入したことを書いたが、このサービスをリビングのTVでも楽しむため、今度はAppleTVを導入した。AppleTVのメニュー画面には最初からNetflixのアイコンが組み込まれていて、初回だけアカウントを登録すればすぐに利用できるようになっている。画質はおおむね地上波デジタルTVと比べて遜色のないもので、「ネット経由で動画を見ている」という事実を忘れるほどだ。
 拙宅でも数年前からTVアニメはネット配信で視聴することが増え、録画機器の出番は減っていたのだが、AppleTVの導入でいよいよ完全にお役御免になりそうだ。それほど利便性の差は大きく、この流れには逆らえそうにないと感じる。ただ配信全盛の時代になると、TVアニメの大きな特徴である同時代性の要素が減退し、みんなでひとつの作品を盛り上げる機会が減る。友人といま流行っているアニメの話題をネタに酒を飲む楽しみが減るのは、少々悲しいことだ。

 さて今回紹介するのは、先月26日にリリースされたTVアニメ『アルスラーン戦記』のサウンドトラック盤だ。9月に放映を終えたばかりの作品で、ご存知田中芳樹の小説を荒川弘が漫画化したものを原作としている。『アルスラーン』といえば僕は原作小説をほぼリアルタイムで追っていたファンで、天野喜孝のカバーイラストと挿絵のイメージが強烈に刷り込まれている。神村幸子がキャラクターデザインを担当した1990年代の劇場版・OVAもそのイメージをうまく発展させたものだったから、最初に荒川弘版を見たときには大いに面食らったものだ。しかしながら、あの神村版の精密かつ美麗なデザインでTVシリーズを作れるのか? と問われればそれは難しいと思う。荒川版によって若い世代にこの濃密なストーリーが知られるきっかけになるのなら、それはそれでいいのではないかと思い直した。
 CDは25曲収録で68分。主題歌はいずれも収録されていないが、最終話に使用された挿入歌「天空に舞う鳥よ」を含んでいる。音楽担当の岩代太郎は、アニメに限って言うと『翠星のガルガンティア』『Blade & Soul』などそれほど本数は多くないのだが、映画音楽ではすでに担当が50作品を超える売れっ子だ。これまでに「蒼き狼」「レッドクリフ」「聯合艦隊司令長官 山本五十六」などスケールの大きな戦記映画を手がけており、そのあたりの経歴も鑑みての起用だろう。  「アルスラーン」「パルス」など劇中の人名や地名は大半がペルシャを意識したものであるためか、ペルシャ音楽的な要素も導入されている。一方で戦闘シーンの音楽はやはり分厚いオーケストラがメインで、「正調・岩代節」とでもいうべきスペクタクル感満点のサウンドが楽しめるはずだ。演奏には東京フィルハーモニー交響楽団が全面的に参加しており、オーケストラならではのドラマティックな音響効果は、大軍勢同士がぶつかる本作の戦闘シーンにふさわしい。
 1曲目「少年はそして王となる」は第1話アバンタイトルに使用された楽曲。3連のリズムと悲劇的なメロディが、シリアスな展開が多い作品のムードによく合っている。2曲目「フロンティア・ゲート」も同種の曲調で、第5話で主人公・アルスラーンがナルサスを説得して自軍に引き入れるシーンに用いられた。8曲目「忘れられし民の唄」はファドのように哀愁を帯びた旋律で、本盤には少ない歌もの。12曲目「東方流饗宴」はアラビア音階による楽曲で、作品のペルシャ色をよく引き出している。
 19曲目「天地礼讃歌」は、ストーリーの山場となる第24話にて使用。夜明け前にアルスラーンが出陣していく印象的な場面で流れた。ここは坊ちゃん育ちだったアルスラーンが王としての自覚を行動で示す重要なシーンであり、勇壮で堂々とした曲調と日の出の映像は、彼の決意を雄弁に表現している。
 24曲目「天空に舞う鳥よ」は、最終話で戦没者を弔うシーンに使用。やなぎなぎの歌唱による壮大な曲調が、作品の締めくくりにふさわしい。25曲目にボーナストラックとして、今年4月に行われた岩代太郎のコンサートで披露された「The Arslan」が収録されている。メロディは劇中のBGMと共通するが、構成や編曲はこのコンサートのためのオリジナルであり、貴重な音源だ。
 本作のような大作アニメのサントラではよくあることだが、やはり戦闘シーンなどの壮大な音楽が優先され、日常シーン、会話シーンなどに使用された小品は、いくつか収録から漏れている。サントラ第2弾やアウトテイク集など、なんらかのかたちで世に出る機会があればいいのだが。(和田穣)

TVアニメ『アルスラーン戦記』オリジナルサウンドトラック(音楽:岩代太郎)

GNCA-1428/2,700円/NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
発売中
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