ANIME NEWS

アニメ音楽丸かじり(160)
『攻殻機動隊 新劇場版』サントラは『攻殻機動隊 ARISE』の楽曲もたっぷりと収録!

 6月20日から劇場公開されている『攻殻機動隊 新劇場版』を観てきた。錦糸町のTOHOシネマズで、公開1週間後にしては客入りも上々。観客の年齢層は幅広く、『攻殻』シリーズの辿ってきた長い道のりを感じさせる。今年は士郎正宗による原作の連載開始から25周年ということで様々な企画が行われているが、この劇場版はそのピークに位置するものだ。ちなみに来場者プレゼントの複製原画も、無事に受け取ることができた。
 劇場に行って一番驚かされたのは、映画の内容とは別のことだった。別スクリーンで上映中の『ラブライブ! The School Idol Movie』の集客力が凄まじいのだ。館内最大である450名収容の大型スクリーンが当てがわれており、予約時点でかなりの座席が埋まっている。いま旬のコンテンツのパワーを、まざまざと見せつけられたかたちだ。

 ということで、今回は6月17日にリリースされた「攻殻機動隊 新劇場版 O.S.T.music by Cornelius」について語ってみたい。今回の劇場版は、タイトルにこそ入っていないが『攻殻機動隊 ARISE』の流れを汲むものであり、公安9課設立前のエピソードを描いたもの。総監督の黄瀬和哉、シリーズ構成の冲方丁など主要スタッフも共通している。となると、当然ながら音楽もCornelius(小山田圭吾)が継続して担当しているわけだ。
 CDは20曲収録の全52分で、もちろん『新劇場版』の主題歌「まだうごく」を収録している。タイトルこそ『新劇場版』のサントラとなっているが、2013年11月リリースの『攻殻機動隊 ARISE』サントラ以降に公開された、『border:3』『border:4』のBGMおよび主題歌「Heart Grenade」「Split Spirit」も収録しているのがポイント。さらにTV放映用の再編集版『攻殻機動隊 ARISE ALTERNATIVE ARCHITECTURE』の主題歌「あなたを保つもの」も収録している。『攻殻機動隊 ARISE』のサントラについては、発売当時に記事にしているので、そちらも参考にしてほしい。ちなみに今回も『ARISE』サントラと同じく、 初回盤は紙製でベローズ(蛇腹)を使った凝った装丁になっている。
 それでは各曲について見ていこう。まず劇場版のアバンタイトルで流れるのが、18曲目「Moments in Love(Harp)」。主人公・草薙素子の幼少期、養護施設で過ごす日々を彩った音楽だ。Corneliusにしては珍しくハープをフィーチャーした楽曲で、施設の穏やかなムードを表現している。サラウンドで様々なサウンドやノイズが散りばめられているため、ぜひ劇場で体験してほしいナンバーだ。
 劇中、最初のアクションシーンで使用されたのが3曲目「Execution No. 9」だ。東亜連合大使館における、軍人たちの立てこもり事件を素子ら独立部隊が鎮圧するシーンに使用。Cornelius自身のギター演奏で、キング・クリムゾンや美狂乱を思わせるテクニカルなフレーズが炸裂し、ギタリストとしての凄味を見せてくれる楽曲だ。シーンの切り替えに合わせ、音楽が完璧なタイミングで停止・再開する演出は聞きもの。
 映画中盤のハイライトである、船内への突入シーンに使用されたのが16曲目「Highway Friendly Type 2」だ。打ち込みのリズムとシンセベースのみというシンプルな楽曲で、16ビートの細かいベースラインが3分半ずっと続くという緊迫感のあるサウンド。なお、この楽曲は公式サイトにて公開中のPVにも使用されている。
 クライマックスの戦闘シーンに用いられたのが5曲目「Body / Head」。繰り返されるシンセの美しいオスティナートと変拍子が印象的な、ミニマル色の強いナンバーだ。機械と人間とが入り乱れ、その境界が曖昧な『攻殻機動隊』の世界にはミニマルのサウンドがよく似合う。
 本盤には主題歌もいくつか収録されているので、そちらにも触れておこう。2曲目「あなたを保つもの」はTV版『攻殻機動隊 ARISE ALTERNATIVE ARCHITECTURE』の主題歌。Corneliusのソロ作でよく見られる、ボーカルを加工処理してパッドのように用いる手法が特徴的だ。複雑なリズムチェンジ、突然転調、ソリッドで無駄のない音作りなど、小山田節の集大成のようなナンバーと言える。坂本真綾のボーカルと小山田サウンドとの相性は抜群で、彼女の新たな一面を引き出しているようだ。
 8曲目「Split Spirit」は『攻殻機動隊ARISE border:4』の主題歌。アーティスト名義は高橋幸宏&METAFIVE(小山田圭吾×砂原良徳×TOWA TEI×ゴンドウトモヒコ× LEO今井)となっている。メインボーカルを担当した高橋幸宏の他にも、豪華アーティストが結集したことで話題になった楽曲だ。ちなみに、小山田圭吾はYMOのサポートギタリストとして何度も共演を果たしている。
 14曲目「Heart Grenade」は『攻殻機動隊ARISE border:3』の主題歌で、作詞とメインボーカルはショーン・レノンが担当。ダブルトラックで重ねられた穏やかな歌声は、父ジョン・レノンと実によく似ている。小山田圭吾はオノ・ヨーコとも共演歴があり、ショーンともプラスティック・オノ・バンドで共演しているので、そういった人脈からの起用だろう。ちなみに制作は日本とニューヨークで、顔を合わせずにデータのやり取りで行われたそうだ。
 19曲目「まだうごく」は『攻殻機動隊 新劇場版』の主題歌で、こちらもボーカルは坂本真綾。「あなたを保つもの」よりポップス寄りの楽曲で、エレピが複雑なコード進行をリードするあたり、スティーリー・ダンからの影響を匂わせる。ゆったりとしたバラード風の曲調と坂本真綾の繊細な歌声は、映画を締めくくり、観客の興奮を落ち着かせるのに効果的だ。Corneliusは坂本真綾の声質や歌入れの早さを高く評価しており、いずれまたコラボレーションの機会があることを期待してしまう。それほど両者の相性がいいのだ。
 サウンド全体の傾向としては、『攻殻機動隊 ARISE』と変わらずCorneliusらしさを維持している。テクノ、アンビエント、ミニマルの印象が強いが、今回はそれに加えてアクションシーンにエレキギターを多用していて、それが作品にダイナミズムを生み出している。ただその力強さも、汗臭さや熱気とは無縁であり、あくまで知的で怜悧な「青い炎」のようだ。
 旧劇場版は「ネットは広大だわ」という有名なセリフが象徴するように、ネットをどこか幻想的でロマンティックに捉えているような傾向があり、川井憲次の音楽もまたパッションに溢れたものだった。しかし2015年のいま、ネットは存在するのが当たり前のものとなり、その位置付けは道具・ツールとしてより即物的なものになっている。『新劇場版』のドライな作風と、Corneliusのクールな音楽は、時代によく合っているように感じられた。(和田穣)

攻殻機動隊 新劇場版 O.S.T.music by Cornelius

VTCL-60400/3,132円/フライングドッグ
発売中
Amazon