春は新生活、新学期、新入社員、そして新番組の季節だ。4月も2週間が過ぎて新番組もおおむね出揃ってきており、今期も興味深い主題歌がたくさん生まれている。僕が注目しているのは『終わりのセラフ』OP主題歌「X.U.」およびED主題歌「scaPEGoat」。いずれも澤野弘之が主宰するユニットSawanoHiroyuki[nZk]の楽曲だ。OP主題歌は、デジタルビートに鋭角的なギターサウンドを組み合わせたイントロ、サビで泣かせるマイナー調のメロディと実に澤野らしさに溢れている。一方でED主題歌は男性ボーカルに日本語詞、サビでのスクリーモ気味のシャウトと、新たな方向性を開拓しようとする意欲作だ。両曲を収録するCDが5月20日にリリース予定であり、今から発売が楽しみである。
X.U. | scaPEGoat/SawanoHiroyuki[nZk]
【期間生産限定アニメ盤】DFCL-2133~2134/1,620円/DefSTAR RECORDS
5月20日発売予定
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X.U. | scaPEGoat/SawanoHiroyuki[nZk]
【通常盤】DFCL-2132/1,350円/DefSTAR RECORDS
5月20日発売予定
[Amazon]
さて、前回の原稿でお伝えしたとおり、3月後半は多数のサントラ盤が一挙にリリースされた。当然1回の原稿でその全貌をお伝えできるはずもないので、継続してその中からCDを取り上げていきたい。今回は僕が現在愛聴している『ダイヤのA』のサントラについて紹介しよう。CDはポニーキャニオンから3月18日にリリースされており、49曲で79分というボリュームだ。各曲は見事に1分30秒程度の尺で揃えられていて、TVシリーズ劇伴の典型的なスタイルと言える。すでに75話を超えた長期シリーズだけあって、使い勝手の良さが重視されているのだろう。
なんといっても本盤で注目すべきは、音楽を担当したFrying-Panというユニットだろう。メンバーとして各種メディアに名前が挙がっているのは百石元、小森茂生、Tom-H@ckなどだが、CDの裏表紙を見ると他にyamazo、奈良悠樹、丘ナオキ、中山真斗といった面々が名を連ねている。常設のユニットというよりは、『ダイヤのA』のために集められたプロジェクトと言うべきか。ちなみに百石元、小森茂生、Tom-H@ck、奈良悠樹は同じ事務所(F.M.F)の所属でもある。
楽曲別の作曲者内訳は、百石元が22曲、yamazoが9曲、Tom-H@ckが5曲(うち1曲はOP主題歌「Go EXCEED!!」のブラスバージョン)、奈良悠樹が5曲、丘ナオキが3曲、小森茂生が3曲、中山真斗が1曲となり、残る1曲は山本リンダ「狙いうち」のブラスバージョン。このバージョンは、高校野球のチャンステーマとしてお馴染みだろう。
さて、小森茂生は『けいおん!』の音楽プロデューサー、百石元は同作のBGM担当、Tom-H@ckは主題歌担当ということで、このメンバーから想像されるのはロック色の強い楽曲。しかも百石元、Tom-H@ck、yamazo、奈良悠樹らはいずれもギタリストであり、それぞれ腕前には定評があるのだ。『ダイヤのA』サントラは、そういった期待を裏切らないギターサウンド盛りだくさんの1枚となっている。
1曲目「Grow stronger day by day ~Theme of Sawamura~」は主人公・沢村栄純のテーマ曲で作曲はyamazo。ミュートしたエレキギターとピアノによる導入部から、ストリングスが加わってドラマティックに盛り上がる曲調は、沢村のキャラクター性である「若さ」「血気」「青臭さ」にぴったり。主旋律は朗々と歌い上げるエレキギターがスケール感たっぷりで、沢村の底知れぬ潜在能力を音で表現したかのようだ。3曲目「Diamond gazer ~Theme of Miyuki #1 ~」および4曲目「Keen eyed player ~Theme of Miyuki #2 ~」はいずれも沢村とバッテリーを組む捕手・御幸一也のテーマ曲で、3曲目は奈良悠樹、4曲目は百石元の作曲だ。御幸は作中屈指の人気キャラだけあってか、テーマ曲も2曲が割り当てられている。特に4曲目における百石元の巧みなギター演奏と、小気味よいギターサウンドに注目してもらいたい。
5曲目「Walk the wire」はTom-H@ck作曲で、ピンチの場面でよく流れる音楽。第1話のアバンタイトルでも使用された。小太鼓とティンパニを使った軍楽風のサウンドで、緊迫感ある場面を盛り上げるにはぴったりだ。12曲目「Glorious victory」は百石元の作曲。荘重な8ビートのリズムにメジャーコードという曲調は、まさにタイトルどおりの勝利の音楽らしい。ギターの主旋律も勇壮で、視聴者の高揚感を高めてくれるものだ。18曲目「Close game」はタイトルどおり接戦の場面や、白熱した試合展開を飾る音楽で、これも百石元の作曲だ。アップテンポのリズムに、ザクザクと切れ味鋭いリズムギターと、テクニカルなリードギターの組み合わせが痛快なナンバー。他にも日常シーンの音楽や、悲しい場面の音楽もあるのだが、普通ならピアノやエレピが使われそうなところを、アコースティックギターを多用しているのも『ダイヤのA』サントラの特徴と言える。
以上のように、本盤には多彩な作曲家が関わりながらも、ギターを主旋律に据えたという点で統一感があり、違和感なくCD全体を味わうことができる。『ダイヤのA』の音楽集としては勿論だが、優れたギターインスト集としても楽しめる内容だ。特に全体の半数近くを作曲した百石元のギター演奏は圧巻で、20曲目「Shooting star of field」の華麗なギターハーモニーや、43曲目「Exceed the limit!」における打ち込みビートに引けをとらない正確無比なリズムなど、随所で演奏能力の高さを感じさせてくれる。
TUBEのギタリスト・春畑道哉のインスト曲「Jaguar」がフジテレビ系列のプロ野球中継のテーマ曲として使われた事もあるし、スポーツ報道のBGMにはギターインスト曲がつきもの。そういった意味でも、本盤におけるギター中心の作風と、『ダイヤのA』が描き出す高校野球の世界とは相性がいい。作品のファンには勿論、ギター演奏経験のある人や、ギターインストを好む層にもおすすめの1枚だ。(和田穣)
TVアニメ『ダイヤのA』オリジナルサウンドトラック (音楽:Frying-Pan)
PCCG.01453/3,240円/ポニーキャニオン
発売中
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