ANIME NEWS

アニメ音楽丸かじり(154)
年度末は注目作がいっぱい! 『艦これ』と『幸腹グラフィティ』サントラを紹介!

 現在放映中の『ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース』の「エジプト編」で、エンディングテーマとして使用されたパット・メセニー・グループの「Last Train Home」。その影響で音楽配信サイトではダウンロード数が急増しているという。長年のメセニーファンである僕としても嬉しい限りだ。この楽曲は、鉄道の走行音を思わせる規則的な16ビートのリズムと、ノスタルジックなシタール・ギターの旋律が絶妙に絡み合い、まさに曲名どおりの情景をイメージさせてくれるところが魅力だ。
 パット・メセニー・グループは長い活動歴のわりにベスト盤のないグループだったが、『ジョジョ』効果を受けて、ワーナーから日本限定のベスト盤が発売された。ジャケットはもちろん『ジョジョ』のイラストで、「Last Train Home」は1曲目に配置されている。他の収録曲も、「Last Train Home」に近い方向性の1987年~2002年のゲフィン~ワーナー在籍時のものが中心。彼らが商業的に最も成功していた時期の楽曲であり、入門用にはぴったりだろう。これをきっかけに、パット・メセニーの豊穣なる音楽世界に触れる人が増えてくれたら嬉しい。

エッセンシャル・コレクション ラスト・トレイン・ホーム

WPCR-16353/2,592円/ワーナーミュージック・ジャパン
発売中
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 さて、3月後半は年度末ということもあってか、注目盤のリリースが目白押しだ。3月18日にはアニメサントラが7作品8タイトル、3月25日には8タイトルが一挙にリリースされる。通常この連載ではひとつのCDを掘り下げて記事にしているが、今回は注目盤がありすぎて絞りきれなかったため、2作品を紹介したい。
 まずは3月25日リリースのTVアニメ『艦隊これくしょん ―艦これ―』オリジナルサウンドトラック“艦響” Vol.1を挙げたい。人気タイトルのサントラだけあって、3月26日付のオリコンデイリーCDアルバムランキングで6位にランクイン。今後も売上げを伸ばしてヒット作になりそうな勢いだ。2枚組で全52曲、99分の収録というボリューム。しかもこれで「Vol.1」なのだから恐れ入る。
 しかしこのCDが売れているのは、ただ作品人気によるものだけとは言えないだろう。全編にわたってオーケストラが贅沢に用いられたサウンドは聴き応え十分で、アニメ劇伴ならではの迫力とスケール感を味わえるものだ。作曲者の亀岡夏海は「イナズマイレブン」シリーズシリーズで知られる若手女性作曲家で、自作曲以外にも「戦場のヴァルキュリア」「ラストレムナント」など数々のゲーム音楽でオーケストレーションを担当している。特に木管楽器の扱いは見事なもので、ディスク1の2曲目「夜明け」におけるフルートの華麗なメロディや、9曲目「艦隊のセンター」のコケティッシュなクラリネットなどに注目してほしい。
 そして2枚組の利点を活かし、ディスク1に日常シーンなどの明るい楽曲を集め、ディスク2に戦闘シーンなど緊迫感のある楽曲をまとめている構成も評価したい。リスナーの気分や用途に応じて、好みのディスクだけを選んで聴くことができるのだ。原作ゲームのファンや、アニメをひととおり見た方ならご存じのとおり、この作品は可愛らしい艦娘たちがしばしば撃沈の憂き目を見るのが特徴で、ディスク2にはそれらの場面に応じた音楽もある。気分が沈んでいる時の鑑賞はおすすめできないが、ディスク2の14曲目「悲しみの海」16曲目「喪失」などは、もの悲しくも美しいメロディに彩られていておすすめだ。戦闘シーンの音楽も、勇壮な金管がたっぷりと楽しめる作風で、本作が「艦隊もの」であることを強くアピールしている。ディスク1の26曲目「出撃」を聴いて、テンションの上がらないアニメファンはいないのではないか。

TVアニメ『艦隊これくしょん ―艦これ―』オリジナルサウンドトラック“艦響” Vol.1(音楽:亀岡夏海)

VTCL-60402~3 /3,240円/フライングドッグ
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 続いて紹介するのは、先頃放映が終了したTVアニメ『幸腹グラフィティ』のサントラ。こちらも3月25日発売で全35曲を収録している。同日・同レーベルよりリリースされた『艦これ』とは対照的に小編成で、ピアノ、チェレスタ、アコーディオンなどの生楽器による、手作り感たっぷりのサウンドを楽しめる1枚だ。
 音楽を担当したコトリンゴはシンガーソングライターとして2006年にデビュー、2013年にはキリンジに加入して知名度を高めた。すでにソロアルバム・ミニアルバムを9作リリースした実績があり、坂本龍一から高い評価を受けていることでも知られる。ジャズピアノの高い演奏力をもち、ボーカルや作曲にも秀でているあたり、坂本の元妻である矢野顕子のスタイルを重ね合わせる音楽ファンもいることだろう。
 そんな彼女が織りなす『幸腹グラフィティ』の音楽は、本人による華麗なピアノ演奏とスキャットを軸に据えたもの。やはり職業作曲家の作品というよりは、アーティストが作ったサントラらしい雰囲気がある。作品のタイトルソングである2曲目「幸腹グラフィティ」は、ピアノのブロックコードに導かれてアコーディオンの主旋律が流れだし、コトリンゴの楽しげなスキャットが始まるというもの。面白いのが3曲目「きりんのテーマ」と10曲目「リョウのテーマ」の対比で、やたらアップテンポでせわしない「きりんのテーマ」に対して、「リョウのテーマ」はゆったりとした癒し系サウンド。2人のキャラクター性の違いを、テンポだけで端的に表現している。
 本盤ならではの特徴が、「おばあちゃんのきつねうどん」「スキンシップ桜餅」といった「料理のテーマソング」がたっぷりと収録されていることだろう。CDタイトルにEdible(食べられる)とあるのは伊達ではない。17曲目「伝説の半熟オムライス」は、3連のリズムと跳躍の多いメロディがワーグナーの「タンホイザー序曲」を思わせて勇壮なのだが、それを演奏しているのが木管楽器なのでなんともキッチュで可愛らしく、「伝説」要素と「オムライス」要素をうまく両立させた音楽だ。22曲目「あたたかいお鍋」は、サティの「ジムノペディ」を思わせる3拍子のゆったりとしたピアノ曲で、夜の落ち着いた雰囲気や、家庭的なムードがよく出ている。
 この番組で何度も描かれる「食の快楽」は人間にとって本能的なものだから、BGMには生楽器がよく似合う。シンセやテクノ系のサウンドだと、食事というよりもサプリメントやゼリー飲料をイメージしてしまうのだ。しかし生楽器とは言っても、これがオーケストラだったら、宮中晩餐会や立食パーティーの豪奢なイメージになってしまうだろう。コトリンゴが選択した生楽器中心の小編成は、番組の方向性と実に合っていたと思うのだ。(和田穣)

Edible melodies~TVアニメ「幸腹グラフィティ」オリジナルサウンドトラック~
(音楽:コトリンゴ)

VTCL-60393/3,132円/フライングドッグ
発売中
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