5月17日にリニューアルされたタワーレコード新宿店に行ってみた。アニメコーナーはだいぶ広くなり、アニメBDやライブBDなど映像作品の取り扱いが増えた。声優のCDが大幅に増補されていて、近年歌手デビューした声優のCDは大抵揃うのではないだろうか。そしてタワレコといえば「店員イチオシ!」「最高傑作の登場!」のような店員手書きのポップがよく知られているが、アニメコーナーには声優やアニソン歌手本人によるサイン入りポップが数多く飾られているのに注目。特に豊崎愛生のポップは、手書き文字でぎっちりと新曲のアピールポイントを書き込んだ上に、お馴染みのファンシーなイラストも添えてあって見応えがあった。ファンにとっては、これらのポップを見に行くだけでも来店の価値があるのではないか。
面白いのは、アニメコーナーの試聴機が大幅に増やされており、特に水樹奈々の旧譜がまとめて試聴できるようになっているところ。コアなアニソンファンにとっては、水樹奈々の楽曲は今さら試聴するまでもない定番だろうから、これからアニソンを聴き始める人を狙っているのは明らかだ。新宿駅すぐそばという立地、そしてフラッグスというファッションビルの上階に位置するところから、ライト層が最初にアニソンに触れる際にふさわしい店作りを目指しているように思える。そのせいかどうかは分からないが、僕が見かけたアニメコーナーへの来店者は大半が若い女性だった。
今回紹介するCDは、6月11日にリリース予定の『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』オリジナルサウンドトラック完全版だ。1988年の劇場公開と同時発売されて以来の復刻だから、26年ぶりということになる。完全版と銘打っただけあって、ただのリマスター再発ではなく、様々な追加要素が盛り込まれているのが嬉しいところだ。
サントラは初回生産限定盤と通常盤の2種類のパッケージが用意され、いずれも高音質のBlu-spec CD2でのリリースだ。両者の差異はかなり多岐にわたっており、まず外装がまったく異なっている。初回生産限定盤は、作画監督の1人だった大森英敏による新規描き下ろしの三面ジャケット(クェス・パラヤ、νガンダム、サザビーが描かれている)であるのに対し、通常盤はオリジナルの1988年盤と同じ絵柄だ。しかし新規に原画から再スキャンされているため、ディテールや色味が向上しているのがポイント。さらにブックレットにも違いがあって、通常盤は福井晴敏の書き下ろし寄稿が掲載されたもの。一方、初回生産限定盤は通常盤ブックレットに加えて、設定資料集などを盛り込んだ64ページにもわたる別冊ブックレットが付属。主に、νガンダムとサザビーに関する設定資料が掲載されるとのことだ。
注目の内容だが、まず通常盤について見ていきたい。ディスクは1枚で、1曲目「MAIN TITLE(メイン・タイトル)」から15曲目の主題歌「BEYOND THE TIME 〜メビウスの宇宙を超えて〜」までは、1988年のオリジナル盤と同じもの。そこからさらに10曲、ボーナストラックが追加されたのが今回の商品化の目玉だ。これらの楽曲は映画本編に使用されたものの、オリジナル盤サントラからは漏れてしまっていた。そういった経緯もあり、楽曲タイトルもミュージックナンバーのみ、というシンプルなかたちになっている。
たとえば11曲目「M2」は物語の序盤、シャトルの内部でクェスが父アデナウアーと会話するシーンで使用された。クェスの不安定な家庭環境は『逆シャア』ストーリーの背景として重要だが、楽曲においても低音弦のユニゾンによる不穏なサウンドが、親子のギクシャクした関係を象徴するようだ。12曲目「M6」は、アムロがνガンダムの開発状況を確かめるため、月へと向かうシーンの音楽。動きのあるシンセベースや打ち込みのリズムが1980年代らしいサウンドで、クラシカルな楽曲の多い『逆シャア』BGMの中では異彩を放っている。13曲目「M7」はシャアの短い演説シーンでのBGM。チャイコフスキーを思わせる悲劇的なニュアンスのストリングス曲だ。
変わり種は21曲目「M18 我等が願い(インストゥルメンタル)」。コロニー・スウィート・ウォーターの人々が、電車の中でシャアを称えて歌を歌うシーンの楽曲だが、ここではアコーディオンによる伴奏のみを収録している。歌声は音楽扱いではなく、アフレコ時に被せたものだそうだ。23曲目「M22」もスウィート・ウォーターのシーンで、ネオ・ジオン軍艦隊の発進を描写したもの。ラベルの「ボレロ」を思わせるリズムに、金管をフィーチャーした勇壮な曲調が『宇宙戦艦ヤマト』風で、いかにも艦隊を表現するのにふさわしい音楽だ。
続いて初回生産限定盤を紹介しよう。こちらは3枚組の構成で、まずディスク1は1988年のオリジナル盤と同じ15曲を収録したものだから、特に説明の必要はないだろう。ディスク2が本盤の目玉で、まず1曲目〜10曲目は通常盤のボーナストラックと同様に、オリジナル盤サントラ未収録曲を収録している。各曲の内容については前述のとおりだ。以降が初回生産限定盤のみの追加要素で、11曲目〜21曲目に未発表の別テイク集が収録されているのだ。これらもミュージックナンバーのみの楽曲タイトルとなっており、主に他の楽曲のテンポ違い・楽器編成違いなどのバリエーションとなっている。
そしてディスク3は「映画シンクロEDIT」と題されており、全楽曲を映画で使用された順番・カッティングで並べたもの。映画を追体験できるだけでなく、各楽曲の使用シーンが特定できるため、資料的な価値もあるだろう。
今回の記事作成にあたって、改めて『逆シャア』本編を見ながらBGMを聴いてみたが、オリジナル盤サントラにはかなりの漏れがあり、その中には重要な楽曲もあったのだと気づかされた。熱心な『逆シャア』ファンにとっては、今回のリリースは待望の完全版と言えるのではないだろうか。(和田穣)
オリジナル・サウンドトラック『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』 完全版(音楽:三枝成章)
初回生産限定盤:MHCL-30233〜30235/6,480円/ソニー・ミュージック・ダイレクト
6月11日発売予定
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オリジナル・サウンドトラック『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』 通常盤(音楽:三枝成章)
通常盤:MHCL-30236/2,808円/ソニー・ミュージック・ダイレクト
6月11日発売予定
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