ANIME NEWS

アニメ音楽丸かじり(134)
『ウィッチクラフトワークス』サントラの妖しくも危険な「魔法の和音」

 今回は3月で放映を終えた『ウィッチクラフトワークス』のサントラについて語ろうと思う。本作の監督・水島努と言えば、『撲殺天使ドクロちゃん』『大魔法峠』『ケメコデラックス!』など数々の怪作OP・EDで知られ、自ら作詞することも少なくない。楽曲にこそ関与していないが、今作ED「ウィッチ☆アクティビティ」もキャッチーなテクノポップ風の曲調と、古今東西の拷問道具を集めた映像の対比が強烈だ。第1話EDでこの映像を出しておいてから、第2話冒頭の拷問研究会のシーンへと展開する流れは秀逸で、笑いを誘うものだった。
 そしてこのED曲「ウィッチ☆アクティビティ」のシングル盤だが、シンセドラムのフィルインや、「キュン」という歌詞の一節など随所にYMOを意識したところが見てとれる。また、曲名はクラフトワークのアルバム「放射能(Radio-Activity)」から、ジャケットは同じくクラフトワークの「人間解体(The Man Machine)」からの引用と思われる。番組名が『ウィッチクラフトワークス』なのだから、実に適切なパロディではないだろうか。

『ウィッチクラフトワークス』 ED主題歌「ウィッチ☆アクティビティ」

LACM-14183/1,234円/ランティス
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 もっとも、このデザインは元々クラフトワークがロシア構成主義に影響されて始めたものだ。最近では、声優・上坂すみれのデビューシングル「七つの海よりキミの海」のジャケットが、かなり構成主義的なデザインだったことも(一部で)話題になった。ちなみに、彼女は上智大学ロシア語学科の公募推薦に、ロシア構成主義をテーマにした小論文で挑んだほどの「本物」である。
 4月30日にはiTunesなどで、サントラに先行するEP「WITCHES NON STOP」が配信されたのだが、こちらのジャケットはこれまたクラフトワークの「ヨーロッパ特急(Trans Europa Express)」そっくりである。
 さて、そのED曲「ウィッチ☆アクティビティ」およびBGM全般を作曲したのがTECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDだ。石川智久、フジムラトヲル、松井洋平の3名からなるテクノユニットで、1995年から活動を開始。各自ソロでも活動も多いため(特に石川は『iNNOCENT VENUS』『黒神 The Animation』『咎狗の血』などの音楽担当として知られる)寡作であり、2006年にようやく1stアルバム「music laundering」をリリースしている。常設のユニットというよりは、3人のスケジュールの都合がいい時に集って活動するスタイルなのだろう。2007年には劇場『EX MACHINA』に1曲を提供。3人揃ってアニメのBGMを担当するのは、本作『ウィッチクラフトワークス』が初めてとなる。
 サントラはランティスより5月21日にリリースされ、2枚組に59曲133分というかなりのボリュームだ。1クールの作品でこれだけの曲数というのは珍しい。BDの特典などに分割収録(一部カット)というかたちをとらなかった、レーベル側の判断に拍手を贈りたい。
 ディスク1の1曲目「Witch Craft Works Main Theme」は、タイトルどおり番組のテーマ曲であり、第1話のアバンタイトルや、ヒロイン・火々里綾火が主人公の多華宮仄をお姫様抱っこで助け出す、本作を象徴するシーンで使用されたもの。マイク・オールドフィールドを思わせるミステリアスなイントロから、シンセがチターのような音色で「♪ドシソ〜」という印象的なメロディを奏でる。このメロディは他の楽曲でも何度か変奏されており、文字どおり番組全体のテーマ(主題)となっているのだ。33曲目「Noblesse Oblige」や35曲目「Accord de l’Amour et de la Mort」は変奏の好例で、オーケストラサウンドによる壮大な音響がいくつかの重要なシーンを彩っていた。
 ちょっとマニアックな話をすると、実はこのメロディはマイナーメジャーセブンスという珍しいコードの構成音である。ド・ミ♭・ソ・シからなる和音で、この曲ではミ♭をベースラインで鳴らしている。ミ♭とシが増5度というきわどい音程になるため、不安定感と揺動性を強く感じさせるのだ。エキゾチックなチター風の音色、そしてこの和音によって、視聴者に「魔女」「魔法」の妖しくも危険なイメージを想起させたい。作り手のそんな意図が込められているのではないか。
 5曲目「Lapin blanc Chevaliers de papier」は同じく第1話の初バトルシーンに使用。KMM団の倉石たんぽぽのテーマ曲で、曲名は彼女の式神「白ウサ騎紙団」をフランス語で表したものだ。10曲目「BAD END」は綾火の母、かざねのテーマソング。初登場の第2話から使用された。曲名は「バッドエンド」という彼女の称号に由来する。東洋的な旋律のテクノポップで、本盤の中でも特にYMO色の強いナンバーだ。13曲目「DEAD END」はクロノワールシュヴァルツ・シックスのテーマ曲。第2話で火々里と対峙するシーンに使用された。トランスっぽいシンセと、音数の少ないサウンドが今時のダンスチューンらしい仕上がり。これぞ作曲者の得意とするジャンルの音楽だろう。
 テクノユニットが音楽を担当するということで、もっとゴリゴリに全曲テクノチューンで攻めてくるのかと予想していたが、楽曲の3割ほどはオーケストラサウンドのバトル曲やドラマティックな楽曲で、同じく3割ほどは軽快なポップス調の日常曲。残りを本来のテクノ系楽曲で占めるという感じの構成で、思ったよりも「劇伴らしさ」に配慮したかたちとなった。これは作曲者が3人からなるチームであることも影響していると思うし、『ウィッチクラフトワークス』 が高校を舞台にした現代劇であり、魔術ものであるという作品性によるところも大きいのだろう。今回のサントラからもTECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDらしさは随所ににじみ出ていたが、いずれはテクノが似合いそうなSFやサイバーパンクなどに音をつけるところも聴いてみたい、そんな思いに駆られた。(和田穣)

『ウィッチクラフトワークス』オリジナルサウンドトラック
(音楽:TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND)

LACA-9348〜9349/3,564円/ランティス
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