さいきん、アニメ界ではちょっとした立川ブームである。もちろん東京都は立川市、中央線・南武線の立川駅周辺のことだ。まずはなんといっても『とある魔術の禁書目録』『とある科学の超電磁砲』両シリーズの舞台モデルとしてフィーチャーされ、オープニング映像にも登場したことで「聖地巡礼」スポットとして知名度が高まった。
さらに、『げんしけん二代目』の最終回でも立川がフィーチャーされていたし、現在放映中の『世界征服 謀略のズヴィズダー』も、第1話からして思いっきり立川駅周辺である。また、アニメスタイル読者ならご存じのとおり、中央線沿線に立地しているアニメスタジオが多いことから、アクセスもいたって便利。ロケハンには最適な場所なのだろう(実際、多摩都市モノレールでは駅舎や車両を撮影用に提供するサービスを行っている)。
立川といえば僕も何度となく立ち寄った場所だが、中心街にはほどよくビルが建ち並んでいるし、高架橋を走る多摩都市モノレールは、近未来風の演出にもってこいだ。バトルシーンや俯瞰のアングルを作るのにぴったりの陸橋もあるし、駅周辺にはちょっと怪しい繁華街やアニメショップもある。駅から200mも歩くと、都下最大級の公園である昭和記念公園(『Kanon』の背景モデルとして使用された)の緑が広がっている。実に豊富なロケーションを持つ街だ。
もちろん、立川アニメといえばこれを忘れてはなるまい。1月22日にBlu-ray/DVD-BOXがリリースされた『GATCHAMAN CROWDS』である。主人公たちが通う学校は「立川鳳雛学園」であるし、劇中では立川の消防署長や立川市長まで登場するのだから、実に徹底した立川アニメだったといえる。BOXには最終第12話のディレクターズカット版が収録されており、TV放映版よりも詳細に描かれた結末が話題となった。また、先ごろ第2期の制作が発表され、今後もアニメファンを楽しませてくれそうな作品だ。
ということで、BOXと同じく22日にリリースされた『GATCHAMAN CROWDS』のサントラ第2弾「-GALAX-」を紹介したい。もちろんタイトルは劇中に登場するSNSに由来し、ジャケットのイラストもそれを意識したものとなっている。昨年8月にリリースされたサントラ第1弾は素晴らしい内容で、前回記事にて2013年のサントラ5選に選ばせてもらった。また、発売当時にレビュー記事を書いているので、そちらも参考にしてほしい。
今回の「-GALAX-」は収録時間が44分。曲数も14曲と少なく、うち3曲は前作収録曲「Gotchaman 〜 In the name of Love」のリミックスという構成。しかも楽曲名はMナンバー(劇伴はアニメ制作中にこの番号で呼ばれ、曲名はサントラ収録時につけることが多い)のままという、いかにもアウトテイク集といった雰囲気を感じる内容だ。しかし岩崎琢自身による楽曲解説や、収録曲のいくつかに魅力があるのも確かなので、そのあたりを紹介していきたい。
装丁はいわゆるデジパック方式で、ライム色を基調にしたポップでお洒落な作り。デザインはROKKENの三河真一によるもの。彼は「THE BEST OF SOUL EATER」「I’ll/CKBC Image Album Sentimental Lilac」といったCDでも野心的で大胆なデザインをしていた。比較的無難なデザインの多いアニメサントラの中で、注目に値するデザイナーと言えるだろう。またデザインにこだわるあたりは、いかにも中村健治監督、いかにも『GATCHAMAN CROWDS』らしい。
ブックレットはデジパック本体に貼りつけられた仕様で、岩崎琢による楽曲解説は、サントラ第1弾について4ページ、本盤「-GALAX-」についての記載が2ページだ。したがってこの解説は、サントラ第1弾も所有している人向けということになるだろう。「Milestone」「Tutu」の曲名がマイルス・デイビスからの引用であること、僕も前述のレビュー記事で指摘したように、「Gatchadance」がプリンスの「Batdance」のもじりであることが、作曲者自身の口から語られている。
また全体の文脈より「なんとかハリウッドスタイルから脱したい」と試行錯誤する姿勢が見え隠れする。ここ数年の岩崎琢の作曲歴を知る者なら、納得のいく内容ではないだろうか。ハリウッドスタイルを用いると、作品を盛り上げるのは容易になるが、その分作曲家の独自色は出にくくなってしまう。このあたりは、多くの劇伴作家に共通する永遠のジレンマと言えるかもしれない。
最後に収録曲について触れておこう。6曲目「M16」は、塁と総裁Xとの会話用に作られたという楽曲。弦楽編成による妖しくも美しい曲調で、『るろうに剣心 —明治剣客浪漫譚— 追憶編』など、活動初期の岩崎琢を思い起こさせるタイプのナンバーだ。10曲目「M25A」も弦楽編成で、作曲者によれば「ちょっと新古典的な曲調」とのこと。こちらは『R.O.D THE TV』における叙情的シーンに用いられた各曲のイメージに近い。芸大出身という岩崎琢のキャリアを考えると、このタイプの楽曲が本来の彼の姿なのではないか。これらの楽曲を本人は解説であまり高く評価していないのだが、それでもやはり美しい曲調であることに変わりはなく、今後も作り続けていってほしいと願わずにはいられない。
12曲目から14曲目までは、いずれも「Gotchaman 〜 In the name of Love」のリミックスバージョンで、うたたP、toku (GARNiDELiA)、Treowという3名が担当している。いずれも、ニコニコ動画でのVOCALOID楽曲を活動の起点とし、人気と評価を得て一般音楽シーンにも打って出たアーティストだ。tokuのユニットGARNiDELiAは『キルラキル』のOP主題歌でデビューしたことも記憶に新しい。原曲がファンキーかつ黒っぽいナンバーなので、いずれのリミックスも違和感なく仕上がっている。(和田穣)
ガッチャマン クラウズ オリジナル・サウンドトラック -GALAX-(音楽:岩崎琢)
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