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アニメ音楽丸かじり(118)『たまゆら』ボーカルアルバムは癒しのサウンド

 先日、神田小川町の楽器店、宮地楽器Vintage Piano Garage Wurly’sを訪れた。ここはローズやウーリッツァーなど、ビンテージを中心としたエレクトリック・ピアノの専門店。ほとんどの楽器がレストアされており、実際に試奏できる状態にあるのが特徴だ。小さめの店構えながら、常時30台以上のビンテージエレピが展示されている品揃えは、日本広しと言えどもここだけではないか。しかもクラビネットやハモンドオルガン、ビンテージシンセも試奏可能。まさにキーボーディストにとっては垂涎のお店なのだ。
 僕は新製品の、エレピをデジタルモデリング技術で再現した機種を試奏するために行ったのだが、弾けば弾くほどにビンテージとの差を痛感せざるを得なかった。最新の技術をもってしても、ナマのエレピの音圧や倍音の豊かさにはなかなか勝てないものだ(とは言えビンテージエレピは重量100kgを超えるものあるし、メンテナンスやチューニングなど取り扱いの苦労も多いのだが……)。

 エレピと言えばAORやフュージョン、R&B、渋谷系音楽での使用例が多いのだが、最近耳にしたアニメソングの中で、エレピが効果的に使われている楽曲があったので紹介しよう。TVアニメ『たまゆら 〜もあぐれっしぶ〜』のオープニング主題歌で、7月31日にリリースされた坂本真綾の最新シングル「はじまりの海」である。イントロはウーリッツァーを使用したと思しきフレーズから始まっており、エレピ好きならニヤリとさせられるはず。カーペンターズの「スーパースター」やクイーンの「マイ・ベスト・フレンド」、ダニー・ハサウェイによる一連の名演でお馴染みのトレモロサウンドが楽しめる。
 ちなみに初回限定盤に収録されているPVでは、坂本がカセットテープを聴く場面から始まるなど、昭和期の懐かしいムードを演出している。エレピを使用したのも、作詞・作曲に大貫妙子を起用したのも、ノスタルジックな雰囲気を狙ってのものだろう。

『たまゆら 〜もあぐれっしぶ〜』OP主題歌 はじまりの海/坂本真綾

初回限定盤:VTZL-68/1,995円/フライングドッグ
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『たまゆら 〜もあぐれっしぶ〜』OP主題歌 はじまりの海/坂本真綾

通常盤:VTCL-35160/1,995円/フライングドッグ
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 さて、その『たまゆら 〜もあぐれっしぶ〜』は9月で放映が終了したばかり。個人的には、飯塚晴子デザインによる可愛らしいキャラクターに注目していた。近年彼女がキャラクターデザインを担当したのは『うみものがたり 〜あなたがいてくれたコト〜』『オオカミさんと七人の仲間たち』『妖狐×僕SS』『リトルバスターズ!』『変態王子と笑わない猫。』と、いずれもキャラクターのビジュアルが充実した作品が多いためである。そして飯塚キャラのヒロインと言えば、『うみものがたり』のウリン、『いぬぼく』の凜々蝶、『変猫』の月子&梓など、そのつるぺたっぷりに定評があるところだ(そのあたりの背景となる飯塚晴子のキャラクター嗜好については、既刊「アニメスタイル001」にて本人が語っているので、興味のある方はご一読のほどを)。もちろん『たまゆら』においても、主人公の沢渡楓は清々しいまでにぺったんこである。

 少し脱線してしまった。『たまゆら』シリーズと言えば、前期の『たまゆら 〜hitotose〜』の時からED主題歌のバリエーションや挿入歌が豊富で、歌の重要性が高い作品だ。今回の『もあぐれっしぶ』でもエンディング主題歌が3種、挿入歌が4曲使用されて作品を盛り上げている。そして面白いのが、BGM扱いの楽曲にも、千菅春香によるスキャットがたっぷりと入っていること。人の声が生み出す温もりが、ハートウォーミングな作風にぴったりなのだ(千菅春香については2月5日の記事にて簡単に紹介しているので参照されたい)。
 『もあぐれっしぶ』を見終えたファンなら気になったであろう、これらの楽曲を収録したアルバムが9月25日にフライングドッグよりリリースされた。タイトルは「たまゆら〜もあぐれっしぶ〜 ボーカルアルバム うたとせ」で、40分に11曲を収録した構成だ。松任谷由実、大貫妙子、尾崎亜美、大江千里といった大物シンガーソングライターの楽曲を多く取り上げている。
 収録曲の内容を見ていこう。まず2曲目「はじまりの海」と9曲目「ありがとう」は、言わずと知れたOP・ED主題歌。TVサイズでの収録となっているので、主題歌目当ての方は注意されたい。また第11話のエンディングに使用された中島愛「風色のフィルム」については、「ありがとう」シングル盤の方に収録され、本盤には入っていない。
 坂本真綾の歌う「おかえりなさい〜Acoustic Ver.〜」は第8話の挿入歌として使用されたもので、前期『たまゆら 〜hitotose〜』OP主題歌の別バージョン。松任谷由実の起用で話題となった楽曲だ。『もあぐれっしぶ』の第1話が「おかえりなさいの一年に、なので」というサブタイトルなのも、この楽曲および前期とのつながりを暗示したものだろう。中島愛による「神様のいたずら—うたとぴあの—」も同様に、前期ED主題歌の別バージョン。こちらは大江千里の楽曲提供によるものだ。第9話にて挿入歌として使用された。7曲目「つつまれて」は、第7話のクライマックスである横須賀市汐入での花火大会のシーンにて使用。歌はmarbleが担当している。最終話のエンディング曲「最後の春休み」は、千菅春香による松任谷由実の楽曲のカバー。オリジナルはユーミン1979年のアルバム「OLIVE」に収録されていたものだ。
 主題歌・挿入歌は以上の6曲で、残る5曲はBGM扱い。しかしその内4曲は千菅春香によるスキャットがフィーチャーされており、歌詞こそないものの歌もののような作りである。いずれも千菅の美声を活かした、癒やし系のメロディが堪能できる楽曲揃い。個人的には、最終話でのかなえ先輩との別れのシーンを彩った8曲目「大好きなあなたへ」がお気に入りだ。そしてアルバムの最後には、「おかえりなさい〜piano ver.〜」を収録。前期OP主題歌を、音楽担当である中島ノブユキがピアノ独奏に編曲した美しいバージョンだ。
 以上のようにテーマ性が極めて明快な1枚。松任谷由実、大貫妙子、尾崎亜美、大江千里らの楽曲によって昭和期へのノスタルジーをかき立て、坂本真綾、中島愛、千菅春香といったフライングドッグの誇る美声歌手陣が、ウェットな癒しの空間を作り出している。使用楽器も先述のエレピを始め、ピアノやアコギなどオーガニックで優しい音色のものばかり。人工的なサウンドやノイジーな音色は徹底して避けているのだ。
 そして本盤に収録された歌ものが、シリーズ各話のクライマックスに使用されているのが『たまゆら』の特徴。ここで視聴者の涙腺のツボを刺激するわけだ。高校生をメインキャラクターに据えた作品ではあるのだが、昭和期に思い出を残してきた(僕を含めた)オジサン世代とっても、共感するところの多い作品だったのではないだろうか。僕は本作から「この作品と楽曲に癒やされて、ひとしきり泣いて、スッキリしてまた明日から頑張ってください」という作り手のメッセージを感じたのだが、皆さんはどうだっただろうか。

たまゆら〜もあぐれっしぶ〜 ボーカルアルバム うたとせ

VTCL-60354/3,045円/フライングドッグ
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