前回の記事に書いたとおり、「パシフィック・リム」を鑑賞してきた。それも公開直後に2D字幕版を、1週間後には3D吹替版を観たほどに楽しめた。2時間11分という尺がありながら、情景描写やモノローグは必要最小限に、とにかく序盤からド派手なバトルを惜しげもなく見せてくれる。このエンターテインメントに徹した姿勢がいいのだ。
そして悔しい事に、近年に観た大抵の劇場アニメよりも「アニメ的なスペクタクル」に満ちている。「巨大怪獣と巨大ロボットの戦い」という子供でも考えそうなプロットに、確固としたリアリティを与えるだけの映像美と演出力。そして1.9億ドルもの予算をかけて、それを具現化してしまう熱意。その怪獣とロボットへの飽くなき情熱において、我々日本人がメキシコ人のギレルモ・デル・トロ監督に負けているのではないかと感じてしまった。
怪獣とロボットのVFXは、かのILMが担当しただけあって素晴らしい出来なのだが、さらに往年の怪獣映画をよほど研究したのだろう、随所にカメラアングルの効果的な引用が見られる。音楽についても、怪獣の登場シーンでは伊福部昭の「ゴジラ」テーマ曲冒頭を思わせるような、低音の金管が鳴り響くので思わずニヤリとしてしまう。
この作品は世界中で公開され、特に中国ではすでに大ヒットを記録しているのだが、最も楽しめるのは日本の観客、それもオタク的な知識を持った人たちのはず。この夏、アニメファンにとって、ある意味で「アニメ以上に観るべき作品」と言っておきたい。ぜひ劇場の大画面で、この圧倒的な映像の快楽に酔いしれてほしい。
さて、2013年夏アニメの主題歌もかなり出揃ってきており、今月下旬が最後のまとまったリリースとなる。あとは9月リリースの『銀の匙』OP、『神のみぞ知るセカイ 女神篇』ED、『帰宅部活動記録』EDと、主題歌がBD/DVDに同梱される『〈物語〉シリーズ セカンドシーズン』『サーバント×サービス』を残すのみだ。そこで今月下旬リリースの主題歌の中から、いくつかオススメのCDを紹介したいと思う。
まずは個人的に、今期で最も楽しく観ている『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』から、オープニング主題歌は曲名もズバリの「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」。CDは8月28日リリース予定で、初回限定盤には同曲のPVを収録したDVDが付属する。歌うは鈴木このみ n’ キバオブアキバ名義のコラボレーション。鈴木このみはご存じ第5回全日本アニソングランプリ優勝者、キバオブアキバは京都出身で、ヲタイリッシュ・デス・ポップ・バンドを標榜する風変わりな6人組だ。
本曲で特徴的なのは、なんといってもTVアニメの主題歌で初めてスクリーモのスタイルを大々的に取り入れた点だろう。スクリーモとは、ボーカルが絶叫するパートが入っているエモロックのこと。絶叫パートとクリーンパート(通常の歌唱)が交互に展開される事が多いが、今回はクリーンパートに鈴木このみを起用したわけだ。
『わたモテ』の原作はWEBマンガという事もあり、海外にも愛読者が多いのだが、アニメ版でも海外受けのよさそうな音楽スタイルを用いた目利きぶりを評価したい。そして重厚なサウンドにも埋もれない鈴木このみの力強い歌唱は、美声一辺倒ではない彼女の新たな可能性を感じさせる。サビで「惚れろ!」「モテろ!」と2回ずつ繰り返しているのだが、すべて歌い方を変えている点に注目していただきたい。
同作のエンディング主題歌 「どう考えても私は悪くない」 も注目の楽曲。こちらも同じくメディアファクトリーから8月28日のリリースだ。曲調は、Perfumeのブレイク以降、アニソン界隈でもすっかり人気となったテクノポップ調。公式のキャッチコピーが「モテモテパーティーチューン」というあたりが痛々しい。加えてジャケットでのヒロインオーラ全開のゆうちゃんと、何やらどす黒いオーラの出ているもこっちの扱いの差がひどい感じ(笑)。
本曲の聴きどころは、黒木智子役の橘田いずみによる芝居っ気たっぷりの歌唱。気だるさ、キモさ、自虐などキャラクター性を表現した演技が、歌唱の隅々にまで行き渡っている。コーラスを歌っているのも橘田自身だが、こちらは他のアニメでよく披露するような美女系ボイス。この極端な声色の違いを楽しめるのも本曲のポイントだ。そして実は、トーンが低く舌足らずなもこっちの喋りの方が、彼女本来の地声に近いというのだから面白い。橘田いずみは本作での演技と歌唱によって、大いに評価が高まるのではないだろうか。
『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』
OP主題歌「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」
初回限定盤:ZMCZ-8798/1,680円/メディアファクトリー
8月28日発売予定
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『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』
OP主題歌「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」
通常盤:ZMCZ-8799/1,260円/メディアファクトリー
8月28日発売予定
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『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』
ED主題歌「どう考えても私は悪くない」
ZMCZ-8800/1,260円/メディアファクトリー
8月28日発売予定
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続いては現在放映中の『ガッチャマンクラウズ』について。『ガッチャマン』33年ぶりのTVシリーズであると同時に、『C』『つり球』に続く、中村健治監督の新作としても注目されている作品だ。オープニング主題歌「Crowds」のCDは8月21日発売予定で、アニメジャケットのガッチャ盤と、通常版の2種類がリリースされる。楽曲を担当するWHITE ASHは2006年結成、2013年にメジャーデビューしたばかりの4人組ロックバンド。英語・日本語ちゃんぽんの歌詞と妖艶な歌唱、ひたすらソリッドなサウンドは批評家受けしそうな要素がたっぷりで、実際に過去には雑誌ロッキング・オン主催のコンテストでの優勝歴もある。
WHITE ASH起用の経緯は、もちろん制作委員会を構成するバップの主導によるものだと思うが、それにしてもこのように先鋭的な若手を『ガッチャマン』という古典的ビッグタイトルに用いるとは、時代の変化を感じてしまう。『ガッチャマンクラウズ』の内容もそうだが、過去の遺産にすがりつくのではなく、現代の若いアニメファンと向き合おうとする意思が感じられる1枚だ。
『ガッチャマン クラウズ』OP主題歌「Crowds」
ガッチャ盤:VPCC-82314/1,200円/バップ
8月21日発売予定
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『ガッチャマン クラウズ』OP主題歌「Crowds」
通常盤:VPCC-82315/1,200円/バップ
8月21日発売予定
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それから、今回は紹介し切れないのだが、今期は他にも注目すべき主題歌が多い。『Free!』のオープニング主題歌「Rage on」を担当するOLDCODEXは、声優の鈴木達央がボーカルを努めるユニットだが、強く声を歪ませたボーカルやラップに、ラウドロックからの影響が色濃く見える。
そして『進撃の巨人』2クール目のエンディング主題歌に起用された、「great escape」を担当するcinema staffは、9mm Parabellum Bullet、People In The Boxに続き、残響レコードからメジャーデビューを勝ち取ったバンドで、ポストロックやエモ色の強いサウンドが特徴だ。
過去にも流行りのアーティストをアニメ主題歌に起用したり、あるいはアニメソング歌手が流行りの音楽トレンドを主題歌に盛り込んだ例は数多いが、インディーズ界のトップアーティストのような「流行の一歩先」を行く存在をアニメ主題歌に起用する例が今期は特に目立つ。つまりアニメ業界が音楽シーンの流行をキャッチアップする速度が増しているのだ。
これは(1)レコード会社のプロデューサーにどんどん若い血が入り、健全な新陳代謝が行われていること、そして(2)制作委員会がきちんと若い視聴者層に向き合っていること、さらに(3)インディーズロックを聴くような層と、アニメファンとの間にある感性の差が縮小してきていること、のみっつを証明しているのではないかと思っている。個人的には、アニメはまず若者に向けたものであってほしいと考えるので、この流れを歓迎したい。(和田穣)