ANIME NEWS

アニメ音楽丸かじり(112)今週も澤野弘之に浸る!
『青の祓魔師』アコースティック盤は格好いい!

 7月に入り、続々と新番組の放映が始まっている。期待していた作品の第1話について、出来不出来を友人と語り合ったり、ネット上で熱い議論が盛り上がったりと楽しい時期だ。僕はいつものように主題歌とBGMに注目しながら観ているのだけれど、これまでに観た中からインパクト大賞を贈るとするなら『ロウきゅーぶ!SS』のエンディング主題歌「Rolling!Rolling!」しかない。タイトルからしてかなりギリギリな感じだけれど、サビの歌詞がお馴染みの決め台詞「小学生は最高だぜ!」(に聞こえる空耳)と実に紳士的な響き。しかもメロディが歌詞とよくフィットしていて、思わず口ずさみたくなってしまうキャッチーさなのだが、人前で口ずさむとそこで人生終了だよ! という恐ろしい楽曲だ。僕は最初に視聴した際、松田優作のごとく「ブフォー!」とコーヒーを吹き出してしまった。

 最近では『ロウきゅーぶ!』スタッフもすっかり味をしめて、このフレーズを色んな場面で用いているのだが、空耳とはいえ主題歌の中で歌われるとさすがにインパクトは大きい。このあたりは作詞・作曲を手がけ、以前に「Sunday early morning」という1曲まるごと空耳で構成された楽曲を作った桃井はるこならではの楽曲と言えよう。中途半端な悪ノリは見ていて恥ずかしいものだが、ファンの予想を超えるほどの悪ノリなら完敗である。僕もおとなしくCDを予約することに決めたのだった。ちなみに「Rolling!Rolling!」は、オープニング主題歌「Get goal!」との同梱シングルで7月10日に発売予定だ。

TV『ロウきゅーぶ!SS』オープニング主題歌「Get goal!」/RO-KYU-BU!

初回限定盤:1000412330/1,890円/ワーナー・ホーム・ビデオ
7月10日発売予定
Amazon

TV『ロウきゅーぶ!SS』オープニング主題歌「Get goal!」/RO-KYU-BU!

通常盤:1000412331/1,260円/ワーナー・ホーム・ビデオ
7月10日発売予定
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 さて前回の記事では話題作『進撃の巨人』サントラについて紹介させてもらった。今回も同じく澤野弘之が手がけた1枚で、7月3日に発売されたばかりの「青の祓魔師 Plugless」を取り上げてみたい。内容はまさしくタイトルのとおりで、アニメ『青の祓魔師』のBGMを電子楽器を用いない(=プラグを挿さない)アコースティック編成に再編曲し、新たに録音したもの。これが予想以上のカッコよさなのだ。BGM集としては珍しく初回限定盤がリリースされており、こちらには特典CD「青の祓魔師BGMセレクション」が付属する。TVシリーズおよび劇場版のBGMから13曲をセレクトしたものだ。今回再アレンジされた楽曲も多く収録されているから、聴き比べて楽しむにはピッタリだろう。通常盤との価格差は500円ほどなので、なかなかお得な特典と言える。

 作品についておさらいをしておくと、TVアニメ『青の祓魔師』は2011年4月から10月まで、TBS系列の日曜5時枠で2クール放映された作品だ(東日本大震災の影響で放映開始が遅れ、終了が10月までずれ込んだのだ)。人気を受けて劇場版が制作され、こちらは2012年末に公開された。澤野弘之によるBGMも好評で、サントラは「Vol.1」「Vol.2」の2種類がリリースされ、それぞれオリコン週間ランキングで47位と36位を記録している。オリジナルBGMの曲調は実に多岐にわたっており、エクソシストをテーマにした作品だけあって、悪魔祓いのシーンなどではゴシック調の合唱曲も多い。一方で現代を舞台とした学園ものの側面もあるため、ロックやポップス、ヒップホップといった現代的なサウンドも多く取り入れている。
 この「青の祓魔師 Plugless」においては、主に後者のモダンな作風のBGMを中心に収録。これに叙情的な歌ものや、コミカルなナンバーのアコースティック版を加えて構成されている。ゴシック調の楽曲は、アコースティック化という本盤の企画にはあまりマッチしなかったのだろう。

 いくつか収録曲について見ていきたい。1曲目「Battle Scars 」は劇場盤サントラ収録曲。原曲はエレキギターとドラムンベースによるヘビィなリズムの上に、シンセの分散和音とラップが乗るというミクスチャー的な楽曲だった。新アレンジでもラップやリズムなど楽曲の骨子は変わらないが、分散和音をピアノが担う事によって、プログレッシブロックやミニマルミュージックを思わせるスタイリッシュさが生まれている。アコギのリズムや、ドラムもしっかり入っているので、アコースティック特有のパワー不足は感じられない。本盤の大きな聴きどころと言える楽曲だ。
 2曲目「Me & Creed 」のオリジナルは、TVシリーズのサントラVol.1の1曲目を飾った英語詞のボーカル曲。歌は『進撃の巨人』を始め、多くの澤野劇伴に参加している小林未郁が担当している。オリジナルはミュートしたエレキギターのサウンドと、内省的なメロディがポストパンクを思わせる楽曲。こちらもアコースティック化によるサウンド変化は少なく、アコギとピアノを中心とした美しいバンドサウンドに仕上がっている。
 10曲目「Call me later 」はTVアニメ第19話に使用された楽曲で、こちらも小林未郁をフィーチャーした叙情的なバラードだ。原曲自体が小編成のため、アレンジ変更による影響は少ない。小林の伸びやかな歌声をたっぷりと楽しめるトラックだ。
 一方で音像が大きく変わった楽曲もある。 9曲目「U & Cloud(simpledess)」のオリジナルは、リズミカルなシンセのリフレインと、シタールギターによるエキゾチックな主旋律が絡み合う、妖しげで少し禍々しいところが魅力の楽曲だった。今回のアコースティック版では、ピアノとアコギのリズムにバイオリンの主旋律が加わる編成のためか、妖しげなムードは大幅に後退。情熱的で洒脱な楽曲に変貌を遂げている。

 菅野よう子の登場以降、TVアニメ劇伴の多様化・高度化のスピードはより加速しているように見える。岩崎琢が『天元突破グレンラガン』で持ち込んだヒップホップの要素や、神前暁が『化物語』でフィーチャーしたミニマルミュージックの要素も、TVアニメというフィールドで受け入れられるに至った。現在32歳の澤野弘之は、そういった先達の成果を踏まえて、作品が要求する楽曲スタイルを自由自在に選んでいける世代の音楽家だ。特に『青の祓魔師』のBGMには、彼の音楽性の幅広さが他作品以上に強く出ている。それは先述のとおり、悪魔祓いという非日常と、学園生活という日常性の二重構造を持った『青の祓魔師』の作風が自ら要求したものだ。『ガンダムUC』のファンには澤野と言えばオーケストラのイメージ、『進撃の巨人』のファンには合唱のイメージが強いと思うのだが、彼の音楽スタイルはそれだけに留まるものではない。本盤はそのことを雄弁に語ってくれる1枚だ。(和田穣)

青の祓魔師 Plugless(音楽:澤野弘之)

初回生産限定盤:SVWC7941~2/3,675円/アニプレックス
発売中
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青の祓魔師 Plugless(音楽:澤野弘之)

通常盤:SVWC7943/3,150円/アニプレックス
発売中
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