4月16日に行われた記者会見で、今夏に開催されるAnimelo Summer Live 2013 -FLAG NINE-の概要が発表された。それによれば今年のアニサマの大きなトピックはみっつある。まず開催期間がこれまでの2日間から3日間(8月23日〜25日)に拡大されたこと。そして毎年新規で楽曲を制作していたテーマソングが、初のカバー曲となるゴダイゴの「The Galaxy Express 999」に決まったこと。そして昨年初めて不参加となっていた水樹奈々の復帰である。水樹については、すでに単独で(アニサマの会場でもある)さいたまスーパーアリーナ公演を行うだけの動員力があるため、このまま卒業になるかと予想していた人も多かったのではないか。個人的にも驚きの発表だった。
そしてなによりビックリだったのが、3日目となる8月25日の出演者の顔ぶれだ。その水樹を筆頭に、田村ゆかり、宮野真守、スフィア(寿美菜子・高垣彩陽・戸松遥・豊崎愛生)、小倉唯、ゆいかおり(小倉唯・石原夏織)、小松未可子、鈴村健一、ST☆RISH(寺島拓篤・鈴村健一・谷山紀章・宮野真守・諏訪部順一・下野紘・鳥海浩輔)と「人気声優揃い踏み」という感じのラインナップになっているのである。
そしてここからは予測レベルの話になるのだが、水樹奈々は現在放映中の『革命機ヴァルヴレイヴ』OP主題歌「Preserved Roses」でT.M.Revolutionと共演しているから、当然ファンはアニサマで彼とのコラボレーションがあることを期待するだろう。そして7月から『ロウきゅーぶ!』のTVシリーズ第2期が放映されるため、主題歌を歌うユニットのRO-KYU-BU!(花澤香菜・井口裕香・日笠陽子・日高里菜・小倉唯)が、小倉唯の出演する25日に登場するのではないか? と期待する向きは大きい。RO-KYU-BU!については2011年のアニサマに出演した実績もある。
スフィアの戸松遥はソロで「ユメセカイ」(『ソードアート・オンライン』ED主題歌)などタイアップつきの楽曲をいくつか持っているし、RO-KYU-BU!の井口裕香は現在放映中の『とある科学の超電磁砲S』ED主題歌「Grow Slowly」を、日笠陽子は『進撃の巨人』ED主題歌「美しき残酷な世界」をそれぞれ担当している。各自ソロでの出演にも期待が高まるわけだ。
これらの予測がすべて実現するとは考えにくいが、それでも8月25日のライブ内容はかつてないほどの豪華さが予想される。今年の夏は、アニソンファン・声優ファンにとって例年以上の「熱い夏」になりそうなのである。
さて今回取り上げるのは、4月26日リリースの『たまこまーけっと』サウンドトラック盤だ。京都アニメーションの完全オリジナル作品であり、ご存じのとおりTVシリーズの放映は3月で終了している。アニメスタイルでも注目している作品であり、先月発売の「アニメスタイル003」では表紙に主人公・たまこを起用したほか、山田尚子監督へのインタビューを敢行している。
サントラCDは2枚組に54曲を収録し、オープニング主題歌「ドラマチックマーケットライド」およびエンディング主題歌「ねぐせ」のTVサイズを含む。CDの発売はポニーキャニオンからなので、山田監督との組み合わせに『けいおん!』を連想する方も多いことだろう。
『たまこまーけっと』はとっつきやすいホンワカとしたムードのある作品だが、その音楽にはひと癖もふた癖もあるマニアックな要素がたっぷりと含まれている。特にそういった部分を担っているのは、劇中に登場するカフェ兼レコード屋「星とピエロ」の主人がかけるレコード(劇中曲)の数々なのだが、そのあたりは後述するとして、まずは通常のBGMについて語っていきたいと思う。
メインで作曲を担当したのは片岡知子。主要スタッフの多くを女性が占める『たまこまーけっと』だが、作曲家もやはり女性である。そのほか片岡が所属する音楽制作プロダクション「マニュアル・オブ・エラーズ」から薄井由行、冷水ひとみ、永田太郎といった面々が作曲や編曲でそれぞれ数曲ずつ参加している。OP主題歌「ドラマチックマーケットライド」の編曲を手がけた元ラヴ・タンバリンズの宮川弾もメンバーの1人であるし、ED主題歌「ねぐせ」の作・編曲を担当した山口優はマニュアル・オブ・エラーズの代表であり、『たまこまーけっと』の音楽プロデューサーも務める。
ところでこの連載では昨年12月4日のROUND TABLE featuring Nino、3月19日の花澤香菜と「アニメと渋谷系音楽」について書く機会があったが、本盤もある意味でその系譜に連なる作品と言えるだろう。上述のとおりOP主題歌の編曲を手がけたのは元ラヴ・タンバリンズの宮川弾であるし、楽曲スタイルも渋谷系らしいお洒落で明るくゴージャスなもの。そして曲名の「ドラマチックマーケットライド」は、ピチカート・ファイヴの「マジック・カーペット・ライド」を想起させるではないか。
しかもマニュアル・オブ・エラーズは(渋谷系の中心地と目されている)渋谷区宇田川町を活動拠点としており、中古レコードショップを母体とするなど渋谷系らしい出自も持っている。スウィング・ジャズやモータウンサウンド、フランス・イタリア映画のサントラ、フレンチ・ポップ、ラウンジ・ミュージックなど、渋谷系アーティスト達のバックボーンとなった音楽分野に通じたメンバーが多いことも特筆すべきだろう。
片岡知子が参加している「instant cytron」もまた、お洒落なポップスを持ち味とするグループ。そこにフレンチポップ風の可愛らしいボーカルと、トイピアノを用いたキッチュな箱庭的サウンドがバンドの独自性であり、これらの諸要素はそのまま『たまこまーけっと』へとつながっていくものだ。
『たまこまーけっと』のBGMは生楽器を中心としたラウンジ・ミュージックを基調としており、そこに時折ジャズやボサノバ、ブルーグラスの要素が入り込んだものが目立つ。Disc1の3曲目「もっと楽しいたまこ」や26曲目「もち蔵のテーマ」のように、歌を追加したらそのまま渋谷系ポップスとして通用しそうなナンバーもある。
また律儀に各キャラクターのテーマソングを作り込んでいるのも特徴で、主人公・たまこのテーマは「たのしいたまこ」「もっと楽しいたまこ」「もの思いのたまこ」などなんと9曲も存在する。ちなみに第1話のアバンタイトルで、たまこ達3人が川沿いの道をはしゃぎながら歩いてくるシーンを彩ったのが、その「もっと楽しいたまこ」だ。みどり、かんな、史織など友人たちのテーマもしっかりと設定されているし、妹のあんこには5曲のテーマ曲が割り当てられている。あんこ関連の楽曲はいずれも少しチープかつキッチュな音色で組み上げられており、小学生らしい小さな世界観をサウンド面からも表現している。
Disc2には「しあわせの商店街」「商店街の日常」など、物語の主な舞台となるうさぎ山商店街の情景を描写する音楽を9曲収録。キャラクターのテーマ曲と、商店街の情景音楽だけでサントラの楽曲のほとんどが網羅されてしまう。『たまこまーけっと』がいかに「小さな舞台設定」と、そこで繰り広げられる人物描写に主眼を置いているか、サントラの構成が雄弁に語っていると言えるだろう。
さて、それでは最後に「星とピエロ」で流れるレコードの劇中曲についてだが、各話のエンディングクレジットに記載される、見慣れないアーティスト名と楽曲名が気になった方も多いだろうと思う。それもそのはずで、これらの劇中曲はすべて本作のために制作された楽曲であり、アーティスト名などは架空のもの。多くの楽曲が1970年代以前の音楽スタイルを意識しており、当時のサウンドを出すため、わざわざビンテージ楽器で演奏して古いマイクで収録、それをモノラルでミックスするなど、通常では考えられないような凝った制作方法を採用しているのだ(アニメ本編では一瞬しか流れない曲もあるというのに)。音楽プロデューサーの山口優(マニュアル・オブ・エラーズ)のマニアぶりがいかんなく発揮された楽曲の数々である。
そして架空のアーティスト名・楽曲名の付け方も面白い。たとえば1・2・3・4・6・8話と最も多く使用された「Excerpts from “The Return Of The Drowing Witch”(Part1 – Part9)/Hogweed」という楽曲はいかにもプログレ然としたサウンドだが、恐らくはジェネシスの「The return of the giant hogweed」に対するオマージュだろう。「Excerpts from」とは「〇〇からの抜粋」の意味で、こういった勿体ぶったタイトルは初期のイエスやキング・クリムゾンが好んでいた。Part1、Part2といった組曲構成もプログレではお馴染みのもの。つまりプログレをよく知る人間なら、チラッと見ただけでニヤリとさせられるような楽曲名なのである。
しかもこれら架空のアーティストには、「1940年、ロンドン生まれ……」など詳細なプロフィールが設定されているという。『たまこまーけっと』のBD・DVD各巻には初回版特典として劇中曲(フルサイズ)のCDが付属するのだが、そのライナーノーツというかたちで架空のアーティスト情報が掲載されている。
残念なのは、これらの劇中曲がサントラには収録されないということ。フルサイズはアニメ本編でも流れていないため、劇中曲の全貌を聴くにはBD・DVDをコンプリートするしかないのだ。なかなかマニア泣かせの特典であると言えよう。(和田穣)
たまこまーけっと オリジナル・サウンドトラック
Snappy Music Around of Tamako(音楽:片岡知子、マニュアル・オブ・エラーズ)
PCCG-01329/3,150円/ポニーキャニオン
発売中
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