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アニメ音楽丸かじり(106)『ラブライブ!』サントラは日本のアニメ劇伴のクロニクル!?

 4月下旬から、早くも新番組の主題歌CDのリリースが始まっている。アイドルソングと並んで「初動型」の売れ方が多いアニメソングでは、視聴者の関心が高いうちにリリースする方がいいとされる。基本的には早ければ早いほどいいのだが、話題性で引っ張るタイプの作品か、じわじわとファンを増やすタイプの作品(前回の記事で紹介した『ガールズ&パンツァー』のように)かによって、ベストのリリース時期は異なるから、判断が難しいところだ。
 そういった意味で、注目度・話題性ともに高い『這いよれ!ニャル子さんW』の主題歌が、放映開始後すぐにリリースされるのはまったくもって正しい戦略だ。タイトルは「恋は渾沌の隷也」で、畑亜貴作詞、田中秀和(MONACA)作編曲というコンビは前期と同じ。CDは4月24日に発売予定だ。
 前期の主題歌「太陽曰く燃えよカオス」は放映開始直後からあっという間に普及し、「(」・ω・)」うー!(/・ω・)/にゃー!」のかけ声と顔文字はネット上のミームとなった。その話題性から「Animelo Summer Live 2012」への出場、第7回声優アワードの歌唱賞受賞など2012年のアニソンを代表する楽曲となったのは記憶に新しいところ。新曲では「\(・ω・\)SAN値!(/・ω・)/ピンチ!」の顔文字が流行るかどうかが注目されるところだ。

 「太陽曰く燃えよカオス」は、ジンギスカン(グループ)の「ジンギスカン(曲名)」がモチーフとなっているが、「恋は渾沌の隷也」ではサビのメロディが「キューティーハニー」を思わせ、ブリッジのアラビア趣味は「Yeah! めっちゃホリディ」「ハッピーサマーウェディング」など2000年前後のハロープロジェクトの楽曲を想起させる。作曲者の田中秀和はMONACA内で最年少の若手であり、恐らくはモーニング娘。の全盛期に青春を送ったであろう世代。ということは「キューティーハニー」も倖田來未のカバーから入った可能性や、「ジンギスカン」からの影響もモーニング娘。の「恋のダンスサイト」経由で取り入れた可能性もあり得るわけだ。そのあたりのルーツを探っていくのも、主題歌を楽しむ方法のひとつだろう。

『這いよれ!ニャル子さんW』OP主題歌 恋は渾沌の隷也/後ろから這いより隊G

【DVD付】AVCA-62333/B/1,680円/DIVEIIentertainment
4月24日発売予定
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『這いよれ!ニャル子さんW』OP主題歌 恋は渾沌の隷也/後ろから這いより隊G

【通常盤】AVCA-62334/1,260円/DIVEIIentertainment
4月24日発売予定
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 オープニング主題歌「僕らは今のなかで」とエンディング主題歌「きっと青春が聞こえる」のいずれもが売上げ2万枚を超え、2月から3ヶ月連続で3種リリースされた挿入歌シングルも好調の『ラブライブ!』。よく似た作風の「THE IDOLM@STER」がブレイクした2007年頃のような勢いを感じさせてくれるタイトルだ。担当声優が行うライブ活動との相互作用もあり、このまま「アイマス」のような長寿の人気コンテンツになる可能性は高いと言えるだろう。
 その『ラブライブ!』のサントラCDが4月10日にリリースされた。2枚組CDに68曲。収録時間一杯に近い145分のコンテンツを詰め込んだ力作だ。TVサイズではあるものの、主題歌2曲と挿入歌7曲の全てを詰め込んだ「全部入り」であるところが嬉しい。ミュージカルのように歌唱シーンが見どころになる作風だけあって、歌とBGMを別々のディスクにまとめるのではなく、渾然一体となっている構成が特徴だ。

 曲順はおおむね時系列に沿っており、例えばDisc1の2曲目「(絶望)」は、第1話冒頭で穂乃果が音ノ木坂学院の廃校を知るシーンで使用。3曲目のOP主題歌「僕らは今のなかで」を挟んで、ユーモラスな4曲目「ルンルン↑どんより↓」と、お洒落なフュージョン調の5曲目「ゆったりお昼休み」は校内のシーン、6曲目「ん???」は穂乃果の自宅シーン、7曲目「過ぎ去りし日々」は母親の卒業アルバムを見るシーンに使用されており、ほぼそのまま第1話の構成をなぞっている事が分かるだろう。そして8曲目「朝練」は穂乃果が秋葉原でUTX高校(もちろん秋葉原UDXビルがモデルだ)を見上げるシーンに登場し、そこでスクリーンに映ったA-RISEの面々が歌う挿入歌「Privete Wars」へとつながっていく。他の楽曲もおおむね初出順に収録されているので、サントラを曲順どおりに聴くことによって、TVシリーズの流れをそのまま追体験できるというわけだ。

 音楽担当の藤澤慶昌は2007年から活動を開始した若手で、EXILE、Berryz工房など歌ものの作編曲やギター演奏を担ってきたミュージシャンだ。TVアニメの劇伴をメインで担当するのは本作が初めて。1曲のみだが、本作と同じく歌を作品のハイライトとした『TARI TARI』に参加していた事は偶然ではないだろう。
 楽曲の傾向だが、Disc1の4曲目「ルンルン↑どんより↓」の滑稽味のあるクラリネットやオーボエの扱いは、木管楽器を喜劇的に使うという劇伴の古典的スタイルだ。16曲目「気まずい空気」も弦楽器のピチカートでユーモラスな雰囲気を演出しており、例えば『未来少年コナン』に使用されても違和感なく溶け込めるようなサウンドである。
 5曲目「ゆったりお昼休み」のフルートやトロンボーンを使用したお洒落なフュージョンサウンドや、Disc2の2曲目「>ω</」のベタなロックンロール調は1980年代の劇伴のようだし、Disc1の10曲目「理事長への談判」はちょっとコミカルなジャズナンバーで、菅野よう子が『カウボーイビバップ』のギャグシーンに書きそうな楽曲だ。

 このように色々な時代の劇伴のエッセンスが集約されており、偉大な先達の残した業績をよく研究した上で、様々な音楽語法を駆使して『ラブライブ!』に求められるサウンドを作り上げていった事がよく分かる。それは「安心感」「定番感」といったようなものだ。日本のTVアニメの長い歴史と、そこから生まれた豊かな蓄積があるからこそ、新進作曲家であっても大暴投せずに各場面に適した音楽を提供できる。これはまさしく文化の連続性の素晴らしさを示した顕著な例ではないだろうか。新奇さや前衛性を求める向きには合わないだろうが、この「安心感」「定番感」は日本アニメの豊かさの象徴なのだ。(和田穣)

ラブライブ! オリジナルサウンドトラック Notes of School idol days(音楽:藤澤慶昌)

LACA-9281〜2/3,500円/ランティス
発売中
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