8月25日・26日にさいたまスーパーアリーナで、「Animelo Summer Live 2012 -INFINITY∞-」が開催された。2005年の初回から連続出場を続け、トリを分け合う事が多かったJAM Projectと水樹奈々が今年は不参加。一方でStylipS、藍井エイル、春奈るな、三澤紗千香、鈴木このみなど初参加の新人が多く起用され、世代交代の方針を明確に打ち出した2日間だったと言えるのではないだろうか。
一方でシークレットゲストとして森口博子が「水の星へ愛をこめて」「ETERNAL WIND~ほほえみは光る風の中~」を披露。織田哲郎と上杉昇(元WANDS)が「世界が終るまでは…」を歌うなど、年齢層が高めのファンへの配慮も感じられた。八方美人の選曲とも言えるが、この幅広さと出自を問わない懐の深さがアニサマのアイデンティティとも言え、今後とも続けていってほしいと願う部分だ。
さて、織田哲郎と上杉昇と言えば、かつて1990年代の音楽シーンを席巻したビーイングのエース格である。ビーイングは、良質な楽曲とポップメタル的な音作り、そしてタイアップを駆使したプロモーション手法によって短期間でチャートを独占した音楽制作会社だ。アニメ分野にも進出し、ある番組の主題歌枠を丸ごと買い取り、定期的に主題歌を切り替えながら、次々と自社アーティストを投入していく手法を確立した。特に『名探偵コナン』『SLAM DUNK』にはその傾向が顕著だったと言える。
当然ながら、こういった手法に反発を覚えたアニメファンも少なくなかった。たとえば小松未歩の「謎」はまだ『名探偵コナン』の番組特性を意識していたと言えるが、B’zの「ギリギリchop」などは「一体どこに『コナン』の主題歌たる必然性があるのか」と言われても仕方がない。
そういった「ビーイング系主題歌」の象徴とも言えるのが、今回のアニサマで歌われた「世界が終るまでは…」である。当時圧倒的な人気を誇っていた『SLAM DUNK』に、B’zと並んでビーイングのトップアーティストだったWANDSの楽曲という鉄板の組み合わせ。しかしこの曲の歌詞は、失恋の痛手を「世界の終焉」に仮託した悲劇的なもので、『SLAM DUNK』のバスケットボールに青春を懸ける若々しさとは、およそ相容れないものだった。しかし楽曲的にはキャッチーでドラマティックなメロディに、上杉の伸びやかな歌唱が映えた佳曲。ゆえに『SLAM DUNK』直撃世代だった僕のような人間は、長い間「番組に合っていない」「しかしいい曲だ」というジレンマを抱える事になったのだ。
そして今回のアニサマ。長きにわたってWANDS時代を否定し続けてきた上杉が、久しぶりにこの曲を人前で披露し、観客が歓喜をもってそれに応えている状況を知るにつけ、「ああ、ビーイングの功罪のうち、“罪”の部分はもう時効になったのだな」という感慨を覚えた。『SLAM DUNK』の放映開始から20年近くが過ぎて、ビーイングの強引なプロモーション手法に対する反発は薄れ、楽曲のよさと「『SLAM DUNK』を彩った思い出の曲である」という美しい記憶だけが残ったのだ。
ビーイング全盛時代は、アニメ主題歌史の側面から見ると、ネガティブに語られる事が多いのかもしれない。しかしその時期に青春をおくった者にとっては、やはり忘れがたき大切な思い出の時代なのである。
現在放映中の『アクセル・ワールド』サントラ第2弾「Accel World Original Soundtrack feat. ONOKEN」が8月29日にリリースされる。この作品のBGMで特徴的なのが、大嶋啓之、onoken、MintJamという3組の作曲家に発注を行ったことと、作曲家ごとにそれぞれサントラCDを発売することだ。なかなかこういったスタイルは珍しく、アニメ分野に参入したばかりの、ワーナー・ホーム・ビデオの面白い試みである。また、相当数の楽曲サンプルをYouTubeにて公開しているので、興味のある方は聞いてみてほしい。
興味深いのは、3組を「電子音楽担当」「オーケストラ担当」「ロック担当」などの音楽ジャンルで分けるのではなく、また「日常シーン担当」「戦闘シーン担当」「キャラテーマ担当」など楽曲用途で分けるのでもない、という点。3組とも万遍なく、電子音楽も書けばオーケストラ曲も書く。日常シーンも戦闘シーンも、ひととおりの場面を全作曲家が担当しているのだ。なぜそのような発注を行ったのかは分からないが、大きなメリットとして楽曲ストックの豊富さが挙げられる。『アクセル・ワールド』を見ていると、多数の楽曲を贅沢に使用しているため、ゴージャス感があるのだ。
ちなみに大嶋啓之盤は7月25日に発売ずみ。onoken盤が8月29日発売、そしてMintJam盤が9月26日に発売予定となっている。
Accel World Original Soundtrack feat. ONOKEN
1000312103/2,625円/ワーナー・ホーム・ビデオ
8月29日発売予定
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そしてもう1枚。同じく8月29日に『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』ディレクターズカット版のサントラ盤が発売になる。2009年のオリジナル映画に新作カットを追加し、今年1月28日から2月3日まで、2館でレイトショー公開されたディレクターズカット版の音楽集だ。 2009年版のサントラについては、以前の記事にてすでに紹介している。そちらは全16曲の66分という収録時間だったが、今回は2枚組に47曲とボリュームアップ。しかも実際に映画で使用された曲順で、映画で使用されたサイズで収録するという試みがなされている。
『ヤマト復活篇』の音楽を分類すると、A:宮川秦・羽田健太郎による過去の『ヤマト』シリーズのBGMを編曲したもの、B:クラシックの名曲を流用したもの、C:山下康介の手になる新規楽曲の3種類で構成されており、2009年版のサントラではA:5曲、B:6曲、C:4曲に主題歌1曲という構成だった。新規楽曲の少なさがやや物足りないところだ。今回はA:19曲、B:5曲、C:21曲、主題歌のオーケストラ版が2曲という構成。新規楽曲が大幅に増補されており、2009年版サントラに不満を覚えた方でも満足できるのではないだろうか。
また2009年版とは楽曲名が変わっているものもあるため、「買ってみたら重複曲だった」という場合もある。両方を揃えようという方は注意してほしい。(和田 穣)
『宇宙戦艦ヤマト 復活篇 ディレクターズカット』 オリジナルサウンドトラック
COCX-37547~8/3,360円/日本コロムビア
8月29日発売予定
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