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アニメ音楽丸かじり(90)三回忌を迎える今 敏監督の兄は凄腕ギタリスト

 8月24日は今 敏監督の三回忌だ。衝撃的だった訃報からはや2年、時間が経つのは早いものである。これを期に様々なイベントが企画されており、アニメスタイルでも去る8月11日に池袋・新文芸坐にて、「映画館で出逢う素晴らしきアニメーションの世界Vol.3 三回忌追悼 今 敏監督 全劇場作品」と題した記念上映を行った。命日の8月24日は新宿バルト9にて、林原めぐみを招いた『Paprika』の上映会も行われる予定だ。
 これを期に今監督に関係する音楽について触れようと思ったのだが、多くの劇伴を担当した平沢進の楽曲については、すでに追悼記事として書かせてもらった。今回はちょっと違う観点から、あるCDを紹介してみたいと思う。直接アニメに関係する作品ではないが、番外編という事でご容赦のほどを。
 それは今監督の実兄、今 剛(こん つよし)の作品である。今監督の兄がギタリストである事を知っている方は多いと思うが、彼の名前を冠したCDを買った、という方はそれほど多くないだろう。それは彼のスタジオミュージシャンという立ち位置によるところが大きい。
 とは言え、それと自覚のないまま今 剛のギターを耳にしている可能性は大いにある。なにしろ彼は、寺尾聰「ルビーの指輪」、松田聖子「夏の扉」「Rock’n Rouge」、尾崎豊「路上のルール」、KAN「愛は勝つ」、中島みゆき「空と君のあいだに」、CHAGE&ASKA「SAY YES」「You are free」、宇多田ヒカル「Automatic」など、日本の歌謡史を彩る名曲の数々でギターを弾いているのだから。アニメ絡みの仕事としては、古くは1984年のOVA『BIRTH』の劇伴に参加していたり、近年では『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』において、弐号機発進シーンのBGMでギターを弾いている。また声優・笠原弘子のアルバムやツアーにも参加している。
 そんな今 剛だが、自己名義のアルバムはわずかに2作。今回は2009年にリリースされた「2nd ALBUM」を紹介する。この作品には生前の今監督もコメントを寄せており、「弟なんか及びもつかないほどたいへんな凝り性の兄」と評している。比類なき凝り性に見える監督がそう言うのだから、そのサウンドがどれほどのものか想像がつくだろう。
 全11曲中7曲がインストで、ボーカル曲には寺尾聰、笠原弘子も参加。ジャンルとしてはフュージョンと言えるが、ことさらテクニックを誇示したり、リスナーを煽るような激しいビートはない。適度にエスニックな要素の入った、穏やかで心地よいオトナの音楽である。パット・メセニーのソロ作に近い、と言えば分かる人には分かるだろうか。
 一聴して驚かされるのが、そのギター演奏にはほんの些細なミスタッチやノイズ、わずかな音程の狂いもないこと。恐るべき技術を持った奏者が、演奏にも録音にも細心の注意を払って制作した事が想像できる。ギターがまるで人間の声のように「歌い」、自由自在に旋律を紡ぐ様は圧巻だ。その凄さは、恐らくフュージョンを好まない層や、ギターに関心のない人の感性すら揺り動かすレベルにある。弟が巨匠なら兄も巨匠。今 剛は日本が世界に誇れる素晴らしい演奏家なのだ。

「2nd ALBUM」(今 剛)

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 今週リリースのアニメ主題歌の中で取り上げるのが、『輪廻のラグランジェ Flower declaration of your heart season2』のエンディング主題歌「ジャージ部魂!」のシングルだ。第1期がOP/EDともフライングドッグらしい王道ポップス路線だったが、第2期では一転してディスコ調のバックトラックに、主演声優3人のラップが乗るという大胆なもの。サビの「ジャージ部だまっしぃ!」のキャッチーなリフレインは、第1話から視聴者に強烈なインパクトを残したように思う。
 作曲は『ケロロ軍曹』などでアニメファンにもお馴染みのDANCE☆MAN。1970年代のディスコソングへの愛とオマージュに溢れた、豪華で派手な彼らしいトラックだ。楽曲は第1話で使用されたまどかバージョン、第2話のランバージョン、第3話のムギナミバージョンを順番に繋げた構成となっている。
 またカップリングには「ジャージ部のうた —完全版—」が収録されている。こちらもまどか、ラン、ムギナミの3人の歌唱によるバージョンだ。(和田 穣)

『輪廻のラグランジェ season2』エンディング主題歌「ジャージ部魂!」

VTCL-35136/1,050円/フライングドッグ
8月15日発売予定
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