第542回 台湾のホテルからお届け
6月の【新文芸坐×アニメスタイル】では故・平田敏夫監督が手がけた『グリム童話 金の鳥』『ボビーに首ったけ』を上映します。両作とも「珠玉」という言葉が相応しい、アニメーションの魅力が詰め込まれた傑作です。
『グリム童話 金の鳥』(1987年)は「東映まんがまつり」の1本として公開された劇場アニメーション。飄々とした登場人物、ポップなキャラデザイン、絵本の1ページのような背景美術。ドラマに関しても映像に関しても、楽しさいっぱいの作品です。
『ボビーに首ったけ』(1985年)は片岡義男の同名小説を原作とした劇場アニメーション。写真のコラージュ、線画による背景動画など、様々な手法を駆使した尖鋭的な作品です。1980年代の空気が濃厚な青春ドラマでもあり、その意味でも魅力的なフイルム。
トークのゲストは両作を手がけた丸山正雄プロデューサーです。作品について、平田敏夫監督について、参加した他のクリエイターについて語っていただきたいと思います。
チケットは6月21日(土)から発売。チケットの購入方法については新文芸坐のサイトで確認してください。
●関連リンク
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/
新文芸坐オフィシャルサイト(「平田敏夫の珠玉のアニメーション」情報ページ)
https://www.shin-bungeiza.com/schedule#d2025-06-28-1
TVアニメ『あずきちゃん』のエピローグイラストを収録した画集が刊行!
http://animestyle.jp/news/2017/09/07/11936/
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【新文芸坐×アニメスタイル vol.190】 |
開催日 |
2025年6月28日(土)14時05分~17時00分予定(トーク込みの時間となります) |
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会場 |
新文芸坐 |
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料金 |
2800円均一 |
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上映タイトル |
『グリム童話 金の鳥』(1987/52分) |
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トーク出演 |
丸山正雄(プロデューサー)、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長) |
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備考 |
※トークショーの撮影・録音は禁止 |
う~ん、改めてコンテを見直すと、この4話も結構手を入れて(修正して)ますね……
という訳で “指笛”編。喜屋武さん・なおや・すずが「教えて、教えて~」と比嘉さんの周りをグルグル回るところ、市川(真琴)さんの原画で、“角度変化のある走り”という高難易度な原画を巧くこなしてくれていたので、そのまま通した気がします。同じく市川作画で印象的なのは“舌の裏をを見せて説明~てーるーに見られてて赤面する”比嘉さんのアップ。こちらも可愛くて良い画だったのでそのまま流しました。レイアウト的に弱い部分はこちらでフォローしましたが、基本市川さんは手が早いほうなので、俺のほうでラフを入れて「これ清書して~」と渡せばなんとかしてくれるので、とても助かりました。キャリア3年では上出来と言えるでしょう!
指笛教えて~からの流れでそのまま、Bパート“幼少期・指笛の想い出”編へ。『沖ツラ』は幼少期エピソードも秀逸で、これは空(えぐみ)先生の原作を読んだ時から「良い話だ~!」と思っていました。
ひーなーと指笛吹き合いっこしだがっだのぉー!!
と、幼少期の比嘉さんが大泣きするシーンなどは、子供の頃“泣き虫”で通っていた自分からすると、かなり感情移入ポイントでした。いや、子供の頃って虐められた時だけでなく、周りの人から受ける“情”に対してどう応えたらいいのか分からず、感情だけが溢れて大泣きするもんです。俺はそうでしたから。で、泣いて訴える比嘉さんを受けるかたちで次カット“それを聞いて嬉しい喜屋武さん”のアップを入れました。喜屋武さんのほうも喜ぶはずだ! と。
さらに言うと不用意に女の子を傷つけるようなことを言ってしまう男の子側の気持ちも分かるし──と、沖縄だ、指笛だ関係なく、心揺さぶれる話で、本当に大好きなエピソードです。
アフレコでキャストさんの声が入った時、ゾクッとしましたから!
で、今回も短くてすみません! 鋭意制作中の『キミ越え』に戻ります!
腹巻猫です。ついに、ついに、ついに! 5月28日、『キミとアイドルプリキュア♪』のサウンドトラック・アルバムが発売されます! プリキュアとアイドルものをミックスした作品として、これまでにない意表をついた展開を見せている本作。それを盛り上げているのがキラキラした魅力がいっぱいの音楽です。サントラ発売日はこのコラムがアップされる翌日ですが、もうフラゲ(フライングゲット)したという方もいるでしょう。今回はその内容を最速でチェックしましょう。
『キミとアイドルプリキュア♪』は2025年2月から放映中のTVアニメ。東映アニメーション制作のプリキュアシリーズ第22作目となる作品である。
アイドルプリキュア、それは世界中を真っ暗闇にしようとするダークイーネから世界を救う伝説の救世主。ある日、歌うことが大好きな中学生の咲良うたは、ふしぎな妖精プリルンと出会い、キュアアイドルに変身する力を手に入れる。同じ中学に通う蒼風ななと紫雨こころも、それぞれキュアウインク、キュアキュンキュンに変身した。アイドルプリキュアとなった3人は、力を合わせてダークイーネとその手下チョッキリ団の野望に立ち向かっていく。
そのいっぽうで、プリルンがプリキュアの動画をSNSにアップしたため、アイドルプリキュアは世間の注目を集め、ついに本当のアイドルとしてデビューすることになってしまった。アイドルプリキュアの3人は、CM出演、CDデビュー、握手会など、アイドルとしても活動の場を広げていく。
過去に素顔で歌手活動やアイドル活動をするプリキュアはいたが、変身してアイドル活動をするプリキュアは初めて。アイドルプリキュアがモンスターを倒す(本作では「キラッキランランにする」と表現される)ときの決め技は歌(「ステージ曲」と呼ばれる)。その曲がアイドルとして活動するときの持ち歌にもなっていて、リアルに(視聴者が買える)CDとしても発売される。本作の設定のユニークな点であり、フィクションと現実をリンクさせるしくみとして「うまいなあ」と感心する点だ。
また、本作では、うたたちがアイドル活動をするためだけにプリキュアに変身するシーンが日常的に描かれる。これも過去のプリキュアシリーズにない趣向である。アイドルの要素は予想していた以上に本作の根幹になっているのだ。
音楽は深澤恵梨香と馬瀬みさきが共同で担当。深澤恵梨香は『ひろがるスカイ! プリキュア』『わんだふるぷりきゅあ!』に続いて、プリキュアシリーズ3作目の音楽担当。馬瀬みさきはプリキュアシリーズの劇伴を担当するのは初めてだが、過去にキャラクターソングや挿入歌の作・編曲でシリーズに参加しているし、当コラムで以前取り上げた『変人のサラダボウル』などの劇伴を手がけた実績がある。2人のアイドル観が反映された音楽が劇中に流れるのが楽しいところだ。
音楽作りは、深澤がメインテーマやプリキュアの変身曲、バトル曲、敵側のテーマなどを担当し、馬瀬が主に日常曲や心情曲とステージ曲を担当する分担で行われている。
「千と千尋の神隠し」等の舞台の音楽監督を務めたことがある深澤恵梨香は、華やかなステージで活躍するアイドルの姿をイメージしたようだ。メインテーマはビッグバンドジャズ風の躍動的なサウンドに女声コーラスを加え、ブロードウェイ・ミュージカルを思わせる華麗な楽曲に仕上げた。プリキュアの変身テーマやメインの活躍テーマも同様の曲想で作られている。
いっぽう、馬瀬みさきの担当曲で重要なのがプリキュアが歌うステージ曲。3人のプリキュアそれぞれがソロで歌う曲と3人一緒に歌う曲の作曲・編曲を担当している。キャラクターソングでありつつ、劇中のアイドルソングであり、プリキュアの決め技でもあるという難しい要求に苦心しながら、一度聴いたら耳に残るポップでキャッチーな楽曲を作り出した。劇伴の日常曲のほうも、アイドル的な可愛らしさと親しみやすさを現代的なサウンドで奏でた楽曲になっている。実は馬瀬自身が子どもの頃からプリキュアシリーズを観ていたというプリキュア世代。それゆえにプリキュアらしい楽曲のツボみたいなものが自然に身についているらしい。
本作のサウンドトラック・アルバムは「キミとアイドルプリキュア♪ オリジナル・サウンドトラック プリキュア・キラキラ・サウンド!!」のタイトルでマーベラスから2025年5月28日に発売。CDと配信があるが、CDのほうは深澤恵梨香と馬瀬みさきのインタビューが掲載されたブックレットつきなので、熱心なファンにはCDがお奨めだ。
収録曲は以下の通り。
主題歌2曲とステージ曲4曲、劇伴30曲と予告用音楽を収録した内容。構成は筆者が担当した。
アルバムの大まかな流れは、前半がプリキュアが1人ずつ増えていき、アイドルプリキュアが3人そろうまでのイメージ。後半は、パワーアップして襲い来る敵に3人が協力して立ち向かい、勝利するまでのイメージ。その中に日常曲や心情曲、キャラクターテーマなどをちりばめた構成にしてみた。
本アルバムの聴きどころを紹介しよう。
1曲目「キミとキラッキランラン♪」は本作のメインテーマ。思わず体が動いてしまうような躍動感のある曲だ。サックスの音色が少し大人びた雰囲気をかもし出している。サックスを入れるのは音楽プロデューサーの注文だったそうだ。あとで出てくる「勇気のドアをあけて」(トラック12)、「はなみちタウンで会いましょう」(トラック17)、「歌って踊ってファンサして【ハート】」(トラック31)、「キミと一緒に」(トラック35)の4曲はメインテーマのアレンジ曲である。
オープニング主題歌を挟んで、「陽だまりのパレット」(トラック3)と「さくら色のティータイム」(トラック5)は、うたたちの日常をイメージした選曲。明るく軽やかな曲調が本作のムードに合っている。本作では、劇伴の曲名もこれまでと趣を変えて、アイドルソングっぽいタイトルにしてみた。
チョッキリ団のアジトのシーンに必ず流れるジャズ風の曲「チョッキリ団」(トラック6)に続いて、第1話でプリルンがうたにプリキュアのことを説明する場面に流れた「闇を照らす救世主」(トラック7)。壮大なファンタジーの世界を思わせる曲だ。
トラック8「プリキュア!ライトアップ!(Short version)」はプリキュアの変身テーマの1人変身用バージョン。アイドルがステージに出て行くときのわくわく感や意気込みをイメージさせる本作ならではの曲想。変身テーマは1人用、2人用、3人用……と何種類か作られている。
トラック9「笑顔のユニゾン♪〜プリキュア!アイドルスマイリング!」はキュアアイドルのステージ曲である。フルサイズの「笑顔のユニゾン♪」を40秒に短縮した劇中バージョンだ。
トラック11〜トラック16は、キュアウインク、キュアキュンキュンが1人ずつプリキュアになっていく姿をイメージした構成にした。
「思い出に沈むとき」(トラック11)は第3話のななの回想シーンに流れたしんみりした曲。次の「勇気のドアをあけて」(トラック12)も第3話でなながプリキュアになる直前に使用されていた曲だ。プリキュアシリーズに欠かせない、勇気や決意を描写する曲で、ななだけでなく、うたとこころがそれぞれ初めて変身するときにも使われていた。
トラック14の「あこがれがとまらない」は夢みる気持ちをロマンティックな曲調で少し大げさに表現した曲。こころのイメージで選曲したが、実際には第12話から本格的に登場する妖精メロロンのシーンによく流れている。
次の「アイドルプリキュアをさがせ!」(トラック15)は第1話でプリルンとうたが街でアイドルプリキュアを探す場面に流れ、以降もイベントのシーンなどに使われている軽快なファンク風の曲。本編の明るくはじけた雰囲気が伝わってくる。
トラック13とトラック16に収録したキュアウインクとキュアキュンキュンのステージ曲が、それぞれのキャラクターを反映した曲調とアレンジになっているところもポイント。
メインテーマアレンジの日常曲「はなみちタウンで会いましょう」(トラック17)とアイキャッチ曲「アイドルキャッチ♪」(トラック18)を挟んで後半へ。
後半は、ファンタジックな曲とユーモラスな曲から始まる。
トラック19「光あふれる世界」はキラキラした音色を使った美しい曲。第10話でキュアキュンキュンがファンの女の子と握手する場面など、胸を打つ温かいシーンに使用されている。
トラック20「私はピカリーネ」はプリルンがいた妖精の国キラキランドの女王ピカリーネのテーマ。フルートとハープ、ストリングスなどによる神秘的なムードの曲である。
トラック21「あの子のひみつ」からトラック23「プリプリルンルン〜♪」までは特徴的なリズムや音色を使ったコミカルな曲を集めた。いずれもプリルンやうたのシーンによく選曲されている。
トラック24「キラキラをふりまいて」はプリルンやメロロンの登場場面にたびたび使用。弦のピチカートと木管が奏でる可愛い曲だ。
トラック25からは一転して不穏な気配がただよい始める。
ストリングスやハープの合奏が徐々に盛り上がっていく「闇の気配」(トラック25)は「緊張をはらんで後半に続く!」といった雰囲気のサスペンス曲。
敵のモンスター登場シーンに流れる危機感に富んだ「世界をクラクラの真っ暗闇にせよ」(トラック26)、それに対抗するプリキュアの決意を力強い曲調で描写する「キラッキランランにしちゃうよ」(トラック27)と2曲続いたあと、3人そろっての変身テーマ「プリキュア!ライトアップ!」(トラック28)がアイドルプリキュアの登場を描写する。
トラック29〜トラック32まではプリキュアのバトルを怒涛の選曲で再現してみた。
トラック29「激闘のプレリュード」とトラック30「白熱のバトルステージ」はプリキュア対モンスターの戦闘シーンに流れる定番曲。アイドルのイメージは希薄で、スピード感と緊迫感とカッコよさが強調されている。前作『わんだふるぷりきゅあ!』が「攻撃しないプリキュア」だったので、今年は久々に熱いバトル曲が復活した印象だ。
トラック31「歌って踊ってファンサして【ハート】」はメインテーマアレンジのプリキュア活躍曲。ビッグバンドサウンドと女声コーラスが組み合わさり、華麗で爽快で躍動感にあふれたアクション音楽になっている。いきなり女声コーラスから始まるのが最高!
そしてトラック32「Trio Dreams〜プリキュア!ハイエモーション!〜」はプリキュア3人で歌うステージ曲。エンディング主題歌と同じ曲だというのがニクい。ステージ曲はどれもそうなのだが、この曲も視聴者がコール&レスポンスで参加できる趣向。TVを観ながら声を出して応援してほしい。
トラック33〜トラック35の3曲は、エピローグのイメージで選曲した。うた、なな、こころ、3人の心情の流れを大切に構成を考えてみた。
「夢色のときめき」(トラック33)はタイトルどおり、ときめく気持ちを表現する曲。第3話でうたとなながステージに歩き出すラストシーンや第14話でこころが誕生日を祝ってもらうシーンなど、うたたちの心が通い合う感動的な場面に使われている。
「川沿いの道を走ろう」(トラック34)は軽快なリズムの上でバイオリンやピアノ、ギターがメロディを奏でる解放感のある曲。さわやかな青春の一場面のイメージだ。
「キミと一緒に」(トラック35)はメインテーマのしっとりとしたアレンジ曲。ピアノとストリングスのやさしい音色が友情や家族の愛情を表現する。曲は必要以上に盛り上がることなく、そっと終わる。しみじみとした余韻が残る曲である。おだやかな曲調と次のエンディング曲(トラック36)のダンサブルなサウンドとの対比もねらってみた。
最後のトラック37「今日もキミと!キラッキランラン〜♪」はオープニング主題歌のカラオケを編集した次回予告音楽。曲タイトルは毎回予告の締めに使われるフレーズである。
今回のアルバムは、アイドルムービーみたいな、明るく楽しく、けれど最後はじんわりと心に沁みるものが残るようなイメージで構成してみた。難しいことは考えなくていい。深刻にならなくてもいい。でも大切な何かが、心に残ってほしい。本作における大切な何かとは、たぶんキラッキランランになること。キラッキランランとは「キラキラして、ランランして、ニコニコって感じ」だそうだ(第1話のうたのセリフより)。周囲の人も、敵も、そして自分も、みんなキラッキランランにしてあげたくて、プリキュアは活躍しているのだ。このサントラを聴いた人がキラッキランランになってくれたら、筆者も本望(キラッキランラン)である。さあ、キミも一緒に! キラッキランラン〜♪
キミとアイドルプリキュア♪ オリジナル・サウンドトラック プリキュア・キラキラ・サウンド!!
Amazon
3話“エイサー祭り”編。前回説明したように、今さら自分「ダンス・踊りを作画で描くことに意義がある」とは考えていないので、最初からCGでと決めていました。「手描き最高!」とか「作画でやるからこそ~」云々言われるかも知れないのですが、CGを作るにしても、
スタッフが実際、沖縄に出向いて本当の具志川青年会の方々に演奏していただき、さらに踊りのモーションキャプチャーも本物を撮って作ったCGです!
から、作画とは別の手間がそれなりに掛かってはいるので、その辺を見ていただけると嬉しいです。
あと、クライアント(製作委員会)リテイクに対して、板垣がどんな感じで直していたか? の一例。
すずに促されてチョンダラー喜屋武さんを見、てーるー(OFF)「本当だ。よく見ると色々してる」
のシーン。これ“TAKE 1”では、太鼓隊を引き連れている画(現行カットの前半)しかなかったのです。ダラダラと。当然クライアントから“てーるーのOFF台詞通りに「色々」してください!”と、ごもっともなチェックが入り、演出・作監(その時点ではいた)たちに
これ、委員会による贅沢リテイクでもなんでもない、当然のご指摘だよ! 何やってんの?
みたいな軽い説教を入れて、「ま、俺が描くから、見て勉強して」と後半の“あっちこっちに指示している喜屋武さん”の動きをババ―! とラフ原描いて、篠(衿花)さんに清書してもらって現行の“色々しているチョンダラー喜屋武さん”になった訳です。教えながら作るってこういうこと! つまり“実演”できないとなんにも説得力がないんです。
そして、3・4話は
沖縄のバーチャルタレント・根間ういさん、ご出演ありがとうございました!
で、4話。エイサー祭りの締め、“カチャーシー”編。こちらはメインキャラの踊りなので、作画メイン。オリジナルの原画を担当した塩澤(枢)さん、修正を手伝ってくれた森(亮太)君、お疲れ様でした。
てーるー相手に空回りする比嘉さん、可愛いですよね。その表情・ポーズ・芝居、全て森君担当で、キャラ修以外はすべてそのまま使用しています。あ、「ど・ど・ど・どこに!?」「全部!?」とパ二くる比嘉さんの心情を“稲妻フラッシュ”内に描き足したのは、自分です。どことなく『てーきゅう』ムード? てか、元々ここも自分がコンテで描いた部分なので、原画が上手く上がってこなかった場合は“俺・責任カット”として引き取るつもりだったので思惑どおり。表面はドギマギでも“心の中では小躍り♡”な比嘉さんの幸せ感を出せたらな~と。ちなみに、作業的には俺が1枚描いては社内の新人動仕スタッフにピストンするやり方で、原画と動仕を同時進行という超ショートカットで、なんとか納品完了に漕ぎ着けたのでした。
最後に一緒に踊るてーる―と比嘉さんは、篠さんの作監修正でした。こちらも動き共々直してくれて非常に良かったです。
さぁ、『キミ越え』に戻ります(汗)。
3話“教室でカチャーシー”の原画は森(亮太)。彼の緻密さが冴えわたっています。カチャーシーの動きだけでなく、「唐船ドーイ」を聴いて発作づくクラスメイトたちや、「俺は何を想像して……!!」とブンブン頭を振るてーる―の風圧を受ける喜屋武さんのカットなども秀逸。最低限のキャラ修正を入れたくらいでほぼそのまま使用できて幸せなシーンでした。あと、「ご…ごめん。止められなくて……」と踊り続ける比嘉さんの両手の動きをスライドで処理したのは、“気持ちと言う事を聞かない身体との不一致”を表現しようとした演出。もちろん、費用対効果も乗っかっていますが……。
“皆でパーラー”編も、最初上がったフィルム(TAKE 1)がユル過ぎで「これ、全部直すよ」と演出に。「演出のせいじゃない、作画・美術の問題で~」的な言い分があるのは分かった上で、
その駄目な作画・美術にさせたのはプランニングの甘いレイアウト! それを通した演出の責任!
であると。
そうなんです。たとえ出来の悪いレイアウトが“画描きじゃない演出家”の手に届こうと、それが「駄目」な上りであると見抜くことさえできれば、原画マン本人に“指示”してリテイクできるでしょう。ウチは全員社員なのでリテイクを出せます! 最悪、俺や周りのアニメーターらに「SOS!」要請すれば、出来の悪いフィルムまで到達する前に止められるはずなんです。それなのに結局は「駄目」な部分を見抜けず、そのまま流して責任が取れなかっただけ。“俺、画描きじゃない”は言い訳になりません。演出に必要不可欠な“目利き”ができていないわけですから。
つまり、その管理不行き届きの責任を取るのが俺の仕事!
であると、総直し。影落ち方向の統一、レイアウト修正し背景直し指示をし、キャラの芝居・ポーズが繋がってない箇所も回収。そのキャラクター周りの食べ物・缶ジュースも丁寧に描き直し。あ、「パーラーキングぬーやが」って店名好きです!
で、Bパート(CM開け)“エイサー祭り”編。ここは元々狙ったとおり、メインキャラの踊り以外CG(モーションキャプチャー)を使っています。 “ダンス・踊りを作画 or CG?”をいまだに議論している人ってまだ生存しているのかな(2025年現在)? 大手アニメ会社のように作画リソースが豊かにあっても、今さら自分「ダンス・踊りを作画で描くことに意義がある」なんて思っていません。ただ、アニメーター自身が「僕(私)がダンス(踊り)を全部作画で描きたい! いや、描くべき!」と進言してくるなら、やって貰ったほうがいいと思います。なぜなら、そこにある種の“やりたい熱”があり、必ず作品の“力”になるからです。しかし、最悪なのは“手前(てめえ)で描きたくない演出・監督が、描きたがっていないアニメーターに「あんたの仕事でしょ?」と言って見下すように描かせる作画ダンス(踊り)”の場合です。演出・監督の「作画の方が高尚だ」という思い込みを満足させるためだけに。
作画だろうがCGだろうがはたまたAIだろうが、担当者のやる気とポテンシャル、そして「こういう画面を作りたい」との拘りがあるか? が問題なのであって、逆にそれらがないなら作画で踊らせようがCGのそれだろうがどっちも無駄! 超絶見応えあるBG ONLY(背景のみ)にOFFで音楽鳴らすだけの方がまだマシ!
つまり、演出・監督が無駄な表現形態を“好み”というだけでスタッフに無理強いするなんて、もう時代遅れではないか? と。特に
映像表現などは視聴者が見慣れた時点で、何だって通用するもの! 問題は、それに慣れるまで視聴者も表現者も耐えられるかどうか?
だけのことで、現状皆、CGはとっくに見慣れている訳で。
さて、また『キミ越え』に戻る時間がきました! 失礼します(汗)。
腹巻猫です。初夏のさわやかな気候になってきました。こんな時期に聴くのがぴったりのサントラを紹介します。TVアニメ『空色ユーティリティ』の音楽です。
『空色ユーティリティ』は2025年1月から3月まで放送されたTVアニメ。監督・キャラクターデザイン・斉藤健吾、シリーズ構成・脚本・佐藤裕、アニメーション制作・Yostar Picturesのスタッフで制作されたオリジナル作品である。
青羽美波は、これといって得意なものがない平凡な高校1年生。自分が主人公になれる「スペシャルな特別」を探して街に出た美波は、ゴルフ練習場でアルバイトをする高校3年生・茜遥と出会う。美波は、遥に奨められて初めてゴルフクラブを握り、ボールを打つ爽快感を知る。ゴルフの面白さに目覚めた美波は、遥やゴルフ好きの大学生・星美彩花らと一緒に、自分だけの「スペシャルな特別」を探し始めた。
面白いのは、本作が複数のプレーヤーがスコアを競う「競技ゴルフ」を描く作品ではないところ。昨年放映されていた『オーイ!とんぼ』もそうだが、ゴルフを題材にした作品は競技ゴルフでライバルと闘う展開になりがちだ。そのほうがドラマチックになるのだから当然だが、本作はそういう方向には進まない。コースに出てスコアを競うエピソードもあるのだが、勝ち負けは重視されていない。純粋にゴルフを楽しむ姿を描くことに重点が置かれている。ドキドキハラハラはないが、ストレスがなく、気持ちよく観られる。観ていて「ゴルフって楽しそうだな」「やってみたいな」と思わせる作品である。
だから、音楽もとても気持ちがいい。TVアニメの溜め録りの音楽には、よろこび、悲しみ、怒り、不安、サスペンス、アクションといったお決まりのパターンがある。しかし、本作の音楽はパターンどおりに作られていない。たとえば、悲しみの曲やサスペンスの曲がないし、怒りや不安はコミカルな表現に置き換えられている。ネガティブな要素がなく、音楽を聴いていてストレスを感じない。
かといって、サウンドトラック・アルバムを聴いたときに単調に感じるわけではない。むしろ、くり返し聴きたくなるほど心地よいのだ。
音楽を担当したのは、本作の音響監督も担当しているdaisuke horita。音楽担当者が音響監督を兼任するのは珍しい。
ポニーキャニオンが運営するサイト「PONY CANYON NEWS」にdaisuke horitaが本作の音楽についてミュージシャンと対談する記事「TVアニメ『空色ユーティリティ』音楽対談」が連載されていた。それを参考に本作の音楽作りについて紹介しよう。
本作には2021年に発表された短編版が存在する。短編版の監督と音楽はTVシリーズと同じで、世界観や音楽の方向性は継承されている。ただ、短編版は約15分で美波たちのゴルフ場での一日を描くものだった。登場人物やエピソードが増えたTVシリーズの音楽では、使用する楽器や音楽ジャンルも少し違ってきたという。
本作の音楽についてhorita daisukeが考えた方針は「リッチなものを生音で構成したい」ということ。TVシリーズではジャズやロックやフュージョンのスタイルの曲も必要になる。それらをリッチな演奏で収録するため、腕利きのミュージシャンに参加してもらった。horita daisukeが用意したデモがあったが、録音ではミュージシャンたちに即興でアイデアを出してもらいながら、演奏で音楽をふくらませてもらった。本作の音楽がシンプルな構成ながら、とても豊かに心地よく聞こえるのは、ミュージシャンたちの演奏が生き生きしているためだろう。
また、本作の音楽の特徴として、大半の楽曲でひとつの曲に対してフルバージョンと別バージョンのふたつの音源が作られていることがある。楽器の数を減らした別MIXだけでなく、ソロ楽器のメロディが異なるバージョンも多く作られている。ほかのアニメではあまり見ない作り方である。
daisuke horitaの証言によれば、このアイデアは最初からあったのだという。同じ曲でもMIXやソロ楽器のメロディを変えれば雰囲気が変わり、場面の性格によって使い分けたり、まったく違う場面に使ったりすることができる。おそらく最初から別バージョンを作ることを想定してアレンジも行っているのだろう。daisuke horitaが音楽演出を担う音響監督も兼ねているからこその作り方である。
本作のサウンドトラック・アルバムは「『空色ユーティリティ』オリジナル・サウンドトラック」のタイトルで2025年3月26日にポニーキャニオンからリリースされた。CDは2枚組。全62曲が収録されている。
ディスク1の収録曲は以下のとおり。
面白い構成だ。
本作の大半の楽曲でひとつの曲に対してふたつの音源が作られていることをすでに紹介した。サウンドトラック・アルバムでは、フルバージョンと別バージョンが並べて収録されている。別バージョンは多くの場合「light ver.」と表記されているが、そうでない場合もある。たとえば「ばったん」は「どったん」の、「キープグリーン」は「エバ—グリーン」の、「おじょうちゃんず」は「おじいちゃんず」の別バージョンである。
サントラを構成するとき、フルバージョンと別バージョンを続けて収録するのは勇気がいる。聴く側に「また同じモチーフの曲か」と思われそうだからだ。フルバージョンを完成版と考えれば、別バージョンをすべて収録する必要はない。フルバージョンだけにすればCD1枚で入るかもしれない。そんなことも考えてしまう。
しかし、本アルバムはフルバージョンと別バージョンをセットで並べる構成をとった。これはすごくよかったと思う。
本作の音楽は生楽器の響きを大切にしたアコースティックサウンドで作られている。シンセで代用されることが多いドラムやベースも生。編成を薄くしても音に味わいがあり、聴きあきない。別バージョンも単独の楽曲として成立していて、オミットするには惜しい。
バージョン違いがセットで並ぶことがアルバムのリズムにもなっている。ゴルフは通常、同じホールを複数人で回る。スタートの位置は同じで、ゴールの位置(ホール)も同じ。しかし、アプローチの仕方は人それぞれに異なる。バージョン違いを聴くことは、同じホールでアプローチの異なるショットを見るのに似ている。急がず、ゆっくりと、ひとつひとつのショットを楽しむ。そんなゴルフの楽しみ方を音楽で再現しているように感じるのだ。
ディスク1の収録曲を紹介しよう。実はディスク1の大半は、第1話で使用された曲を使用順に並べる構成になっている。
第1話は美波が遥と出会い、ゴルフの魅力を知るエピソードである。
アバンタイトルで、はまっていたオンラインゲームの終了を知って美波が愕然とする場面に流れるのは、とぼけた曲調の「ぽこぽこ」(トラック2)。パーカッションとウッドベース、トロンボーンなどが奏でる、コミカルな場面によく使われた曲だ。
オープニング主題歌をはさんで、美波が学校でいろいろな部活を試すシークエンスには「どったん」(トラック3)。ギターとドラムス、ベース、トランペット、トロンボーン、ピアノなどがセッションする、タイトル通りの「どたばた」した曲。これと別バージョンの「ばったん」(トラック4)もコミカルな場面の定番曲。
美波が街に出て「スペシャルな特別」を探す場面には「いつもの景色(light ver.)」(トラック6)。ギターとピアノ、パーカッションなどによる軽快でさわやかな曲である。トラック5の「いつもの景色」からベース、フルート、バイオリンなどを抜いた別バージョンだ。
美波が街でうずくまっているおじいさん(マサ)に出会う場面に短く流れるのが「エバーグリーン」(トラック7)。フルートとギターなどによる牧歌的な曲で、ここではマサが美波を天使と勘違いするユーモラスな描写に使用されている。
マサにつきそって美波がおとずれたのがゴルフ練習場。美波はマサのゴルフ仲間のチョウとテツと対面する。そこに流れる「おじいちゃんず」(トラック9)はマサ、チョウ、テツの3人組のテーマである。ピアノとドラムスをバックにサックスとエレキギターがにぎやかにメロディを奏でる曲だ。この曲のリズムトラックを抜き出した別バージョンが美波、遥、彩花のヒロイン3人のテーマ「おじょうちゃんず」(トラック10)。まったく違うテイストの曲になっているのが面白い。
美波はゴルフ練習場にいた遥に声をかけられ、奨められてゴルフクラブを握る。美波が遥からボールの打ち方を教えてもらう場面に流れるのが、ずばり「教えてください!」(トラック11)という曲。ピアノ、フルート、弦楽器などがリズミカルなかけあいをする曲で、未知のことに出会ったときのとまどいや好奇心がうまく表現されている。
遥が美波にゴルフの魅力を話す場面にはしっとりとした曲調の「また明日」(トラック16)。ピアノとギター、ストリングス、パーカッションなどのアンサンブルが気持ちいい。
帰宅した美波がスマホでゴルフの動画を観る場面にピアノとギター、ベースによる「毎日がスペシャル(light ver.)」(トラック16)が流れ、高揚した気分を表現する。
ここまでがAパート。CM前後のアイキャッチは曲も絵も毎回変わるのが楽しい(アルバムには未収録)。
翌日、美波が学校で友人の泉美に「あれから街中を冒険していた」と話す場面に「アカリのテーマ」(トラック17)が短く流れる。この曲はほかのBGMと雰囲気が大きく異なり、壮大なオーケストラサウンド風になっている。美波がイメージするファンタジー世界を描写する音楽で、これも「エバーグリーン」と同様のユーモラスな使い方。なお、「アカリ」は第7話で美波が泉美から借りて読むライトノベル『異世界に転送された中学生プロゴルファー、魔王との18番勝負でホールインワン』のヒロインの名前である。「アカリのテーマ」は第7話でもっと長く聴くことができる。
放課後、美波がゴルフ練習場に駆けつける場面には「教えてください!」が再び流れる。練習場でゴルフ談義をしているマサたちの場面をファンキーな「エブリデイゴルフ」(トラック18)が愉快に演出する。
続いて、美波が遥のアドバイスを受けてボールを打ち、ゴルフの面白さを感じる大事な場面。「Fly Connection(light ver.)」(トラック31)が流れて、美波の心にわきあがる感動を表現する。この曲はディスク2に収録された歌「Fly Connection」のバックトラックの別バージョン。「Fly Connection」は本作のヒロイン3人が歌うテーマソング的楽曲である。だから別バージョンはディスク1のラストに収録しているのだろう。「Fly Connection(light ver.)」は第12話の終盤で美波がパーショットを決める場面にも選曲されている。
美波から「(自分が主人公になれる)特別を探している」と聞いた遥は、美波にゴルフを奨め、「一緒に特別を探そう」と言う。アコースティックギターのみによる「ただいま(light ver.)」(トラック21)が2人の心のふれあいを表現し、温かい気分になる。シンプルなサウンドが生かされた名場面だ。
遥は美波をショートコースに連れ出し、ゴルフ場でボールを打つ醍醐味を知ってもらおうとする。澄みきった青空の下、緑の芝生の上に立つ美波の場面を彩るのが「はじまりの色」(トラック22)。ギターとピアノ、パーカッション、フルートなどによる軽快なサウンドが「特別に出会うワクワク感」を伝えているようだ。ディスク1の1曲目に収録された「はじまりの風」はこの曲のフルバージョンである。
美波がゴルフ場で初めてボールを打つ場面に爽快感あふれる「フェアウェイ(light ver.)」(トラック24)が流れて第1話は終わる。
こうして聴いてみても、フルバージョンと別バージョンはどちらが正でどちらが副ということはなく、場面に応じて柔軟に使い分けられていることがわかる。
第2話では、ディスク1の残りの曲のうち「スーピリア!(light ver.)」(トラック26)、「みんなのうた(light ver.)」(トラック28)、「放課後(light ver.)」(トラック30)が使用されている。ディスク1は第1話と第2話で使用された曲を中心にした構成と考えてよいだろう。
ディスク2の収録曲も少し紹介しよう。
「空色の気持ち」(トラック1)と「空色の想い出」(トラック2)は回想シーンやしみじみとしたシーンに流れた曲で、透明感のあるピアノと弦楽器の音色が印象的。「空色の想い出」は第9話で彩花の想いを表現する曲として使われている。
第3話の彩花の登場シーンに流れたのが「キラキラな時間」(トラック5)。別バージョンの「キラキラな時間(light ver.)」(トラック6)も彩花と遥たちのシーンに選曲された。2曲とも軽やかなピアノソロがおしゃれな、タイトルどおりキラキラした曲である。
第4話で美波が3万円のゴルフクラブ(ユーティリティ)を買うことに迷う場面に流れたのが「ぐるぐるぐる」(トラック10)。別バージョンの「アリアリアリ」(トラック9)ともどもユーモラスな演出に使用されたジャズタッチの曲だ。
同じく第4話で美波たちがユーティリティの値引きを賭けてゴルフショップの店員と勝負をする場面に流れたのが、「バトルクライ」(トラック11)、「マッスルプライド」(トラック12)、「エンプレスプライド」(トラック13)、「子猫ちゃんお先にどうぞ」(トラック14)。このあたりはロック的な楽曲が続いて盛り上がる。
第10話では天才中学生ゴルファー・夜嵐日向(ひな)が登場。「ボルケーノガール」(トラック15)と「ボルケーノソウル」(トラック16)は日向のテーマ的に使用されたワイルドなロック調の曲だ。
第10話と第11話では、本作では珍しくゴルフコースでのスコア対決が描かれる。そこで流れたのが軽快なストリングスの曲「アルバトロス(light ver.)」(トラック22)とエレキギターとサックスが燃え上がる闘志を表現する「ファイトコール」(トラック27)。「アルバトロス」のフルバージョン(トラック21)は第7話のスクランブルゴルフのエピソードでくり返し使われていた。
使用回数は少なかったが、ストリングスとピアノが繊細に奏でる「私たちのゴルフ」(トラック23)もいい曲だ。第4話で美波がユーティリティを抱いて眠るシーンや第8話で遥がキャディのめぐみから「これからも全力で笑え」と勇気づけられるシーンなどに流れた心に沁みる曲である。第10話で日向が遥の想い出を回想するシーンにも流れていた。
余談になるが、美波が初めて遥と彩花と3人でコースに出てゴルフをする第6話では、使用された曲の半分くらいが短編アニメ版の音楽から選曲されている。このエピソード自体が短編アニメ版のリメイク的なお話なので、わかっている人にはぐっとくる選曲だ。ランチを食べるシーンに同じ曲が流れるなど、使用された場面も重なっている。それだけに、短編アニメ版の曲もサントラに収録してほしかったなぁと思う。配信限定でもいいのでリリースしてほしいものだ。
ディスク2では3曲収録されているボーカル曲も聴きどころである。
「Zubatto☆ショット 首ったけ!!!」(トラック18)は第7話の挿入歌。「魔訶不思議アドベンチャー!」の高橋洋樹が歌う、熱血アニメ主題歌風の曲だ。
「Fly Connection」(トラック30)はヒロイン3人を演じた声優がHAM(遥、彩花、美波のイニシャル)名義で歌うイメージソング。劇中では歌入りで流れたことはないが、名場面に使われた曲「Fly Connection(light ver.)」が実は歌ものだった! という驚きがある。
最終回のエンディングテーマとなった「群青 Love theory」(トラック31)は、もともと短編版の主題歌として1コーラスだけ作られた曲。監督やプロデューサーからTVシリーズでも使いたいという提案があり、2番以降の歌詞を追加してリメイクしたのがアルバムに収録された楽曲だ。こちらも歌唱はHAMが担当。作詞を手がけたぷるぽよのコメントによれば、1番の歌詞が青空のイメージだったのに対し、2番は夕焼けのイメージで書いて、3人の成長を暗示してみたとのこと。daisuke horitaのアレンジも短編版のときより音数が増えている。これはTVシリーズの美波がいろいろな人と出会って何かを発見していくストーリーを反映しているのだそうだ。
筆者はゴルフをしないが、このアルバムを聴くと、自然に囲まれたコースでプレイするゴルフって楽しいんだろうなと思ってしまう。散歩しながら聴くにはうってつけの音楽だろう。できれば青空の下で、木立の中や川のそばなど、自然を感じる道を歩きながら聴きたい。どこまでも歩いて行けそうな、気持ちいい音楽だ。
『空色ユーティリティ』オリジナル・サウンドトラック
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小黒さんから、私のインタビューがやや淡白だと指摘がありましたので、こんなエピソードを。
◯芝山さんの近くにいてなんでも聞いていた頃、「芝山さんは宮崎作品は観ないんですか」と聞いたら「観ないねー」と言われていたのですが、ある時、芝山さんが変わった夢を見たと話していて「どんな夢だったんですか」と聞いたら「宮崎さんの絵コンテが置いてあったんで、手に取ったら、絵コンテの画が動いていたんだ……」。それを聞いて、内心「やっぱり意識はしていたんだ」と思った本郷でした。
◯私が在籍していた頃の亜細亜堂は毎年社員旅行があり、大分お酒が入った芝山さんが「みんなで寄ってたかってオレの絵コンテをダメにしやがって!」と言っているのを聞いて、「やっぱりな……」と思った本郷でした。このふたつのエピソードは面白いので言って回っていたら、周囲の人はいつの間にか自分が芝山さんから直接聞いた話だと思い込んでいたようです。直接聞いたと記憶するくらいに腑に落ちるエピソードなのです。私が直接聞いたんですよ!
◯亜細亜堂を辞めた後、芝山さんの凄さにようやく気付いた私は「師匠を囲む会」を何度か開いたのですが、一度芝山さんに「本郷君の芸風はオレに似てるよ」(仕事ではなく、色んなものに対するスタンスの事だと思いますが)と言われて、ちょっと幸せになった本郷でした。
◯芝山努さんがアニメーションの現場から離れて、もう10年以上経ちました。気付くと、私も演出歴42年で所謂老境に入りました。そうなると日本のアニメーション史の中で芝山さんのやった功績について、実際に知っている人はもうすぐ現場には誰もいなくなってしまうのです。怖い怖い怖い怖い(笑)。他に誰も見当たらないので僭越ながら私がちょっと出しゃばってみました。多分、芝山さんは「また本郷君が余計な事をして」と言っていると思います。芝山さん、ごめんなさい。
◯亜細亜堂の社員旅行で余興のジェスチャーゲームがあり、芝山さんが作ったお題が「ノラネコを会社に連れ込んでエサをあげる本郷君」でした(汗)。
『沖ツラ』第3話は、カチャーシーあり、エイサー祭りありと高カロリー話数!
になります。今、コンテを見直してみると第3話もコンテから結構修正したようです(コンテに俺の画ばっかり)。ちなみに今作は総監督制で、設定発注以降は田辺(慎吾)監督に一度預けるかたちでしたが、コンテに関しては誰のモノでも、俺の方で直接手を入れてあります。これは以前にも軽く説明したと思いますが、つまり各話コンテマンの上がりを監督が一度手を入れてから総監督が調整程度にチェック~ではなく、監督のコンテも含めて全部、コンテを直す作業は板垣しかやっていません。傲慢に思われるかも知れませんが、ウチの会社(ミルパンセ)にはコンテに関してキャリア的にも技術的にも未熟な人しかいません故、俺が全面的に面倒見るしかないし、外(フリー)の量産コンテマンに撒くくらいなら、社内の若手スタッフにチャンスを上げて、コンテの経験値を詰んだほうが“会社力”も付きますから。前作『いせれべ(異世界でチート能力(スキル)を手にした俺は、現実世界をも無双する)』でも、その御祝儀的(?)意味合いで板垣~連名は載せていないものの、実質的には今作と同じで、
コンテは必要な限り俺のほうで直す(修正する)!!
スタイルでやっています。ただし、(これまた前述かと思いますが)修正箇所に関してはコンテ担当者本人に向かって直接「なぜ、こう修正したか?」「ここは費用対効果的にこうしたほうが作画しやすい」など、ちゃんと理屈で説明しています。これも持論ですが、作画でもコンテでも、
他者の上りを修正する立場の人間は、修正理由も必ず理屈で説明できるべき!
だと思っています。逆に理屈で説明できない感覚的・感性的な画の積み方をしたいなら、最初から自分で描くべきってことです。
で、3話“シーサー大好きなてーるー”編(?)。無邪気に「シーサー可愛い」言ってるてーるーは本当に純朴で良い奴ですよね。シーサーが“シーサー顔(ぢらー)”の解説文を怒りに任せて踏みつけ~ばら撒くカットは、前半CGで後半作画です。元々は全部CGで上がってきたのですが、そのラッシュ(撮影上り)を見ると、“踏むだけ踏んで、最後に一欠片拾って投げる~”でした。それだと「パンチが足りない!」訳で、監督(演出)とCG監督に「ごめん、後半作画で描き直すわ~」と奪って、俺の方で全部原画(動画の中割りは1~2枚だったハズ)にしたのが現状のモノになります。後、“画面手前からIN↖して、門に立つ雄(オス)シーサーをオーバーアクションで説明する喜屋武さん”の原画を全修したのは板垣で、“雌(メス)シーサーを説明する比嘉さん”の修正は、入社3年目のメインアニメーター市川(真琴)さん。
で、また『キミ越え』に戻る時間!(汗)。
杉井ギサブロー監督と言えば『宮沢賢治 銀河鉄道の夜』『紫式部 源氏物語』『タッチ』『悟空の大冒険』等、素晴らしい作品を残してきた名監督です。
その杉井監督をゲストに迎えたトークイベントの第三弾を、2025年6月22日(日)に開催します。今回は作品上映付きのプログラムとなります。今回のトークのテーマは「アニメーション」です。トークの出演は杉井ギサブローさんとプロデューサーの丸山正雄さん。会場はLOFT/PLUS ONEです。
上映作品は川端康成の同名小説を映像化した短編アニメーション『片腕』です。監督は杉井ギサブローさんと山本暎一さんのお二人。アート的アニメーションとして高く評価されている『哀しみのベラドンナ』(劇場作品/1973年公開)の延長線上にある作品です。7年ほど前に制作されたものの、これまでに国内で上映されたのは数度のみ。今回の上映は貴重なものです。トークでは『片腕』の企画について、あるいは演出的な狙いについてうかがうことができるはず。さらに虫プロダクションが制作した『千夜一夜物語』(劇場作品/1969年公開)と『哀しみのベラドンナ』の予告編も上映します。
イベントの序盤で『片腕』と予告編2本を上映。その後、休憩を挟んでトークを開始します。
今回のイベントも配信がありますが、作品の上映部分の配信はありません。配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。
チケットは5月10日(土)13時から発売となります。チケットについては、以下のロフトグループのページをご覧になってください。
なお、前々回と前回の杉井さんのトークイベントは現在もアニメスタイルチャンネルで視聴できます。アニメスタイルチャンネルは会員向けのサービスです。
「第230回アニメスタイルイベント 杉井ギサブローとアニメとアニメーション」(アニメスタイルチャンネル)
https://www.nicovideo.jp/watch/so44334898
「第234回アニメスタイルイベント杉井ギサブローと映画とアニメとアニメーション」(アニメスタイルチャンネル)
https://www.nicovideo.jp/watch/so44697921
■関連リンク
LOFT(告知) https://www.loft-prj.co.jp/schedule/plusone/317804
会場&配信チケット https://t.livepocket.jp/e/a824q
配信チケット(ツイキャス) https://twitcasting.tv/loftplusone/shopcart/374423
|
第241回アニメスタイルイベント | |
開催日 |
2025年6月22日(日) |
会場 |
LOFT/PLUS ONE( http://www.loft-prj.co.jp/PLUSONE/access.html ) | 出演 |
杉井ギサブロー、丸山正雄、小黒祐一郎 |
チケット |
会場での観覧+ツイキャス配信/前売 3,300円、当日 3,500円(税込·飲食代別) |
『聖闘士星矢 神々の熱き戦い』『デジモンアドベンチャー02 前編 デジモンハリケーン上陸!! 後編 超絶進化!!黄金のデジメンタル』『も~っと!おジャ魔女どれみ カエル石のひみつ』『キャシャーン Sins』等々、監督として、あるいは演出家として数々の素晴らしい作品を残してきた山内重保さん。
アニメスタイルはその山内さんのトークイベントシリーズをスタートさせます。今回は『デジモンアドベンチャー02 前編 デジモンハリケーン上陸!! 後編 超絶進化!!黄金のデジメンタル』から近年までの仕事について、思いつくままに語っていただきます。各話の絵コンテ、演出として大活躍した近作『戦国妖狐 千魔混沌編』についてもうかがう予定です。
追加のゲストがあるかもしれません。決まりましたら改めてお伝えします。
※追加情報
ゲストとして、相澤伽月(相澤昌弘)さんに出演していただけることになりました。相澤さんが監督した『戦国妖狐 千魔混沌編』に、山内重保さんが各話の絵コンテ、演出として参加し、大活躍をしました。そして、山内さんが監督した『デジモンアドベンチャー02 前編・デジモンハリケーン上陸!! 後編・超絶進化!! 黄金のデジメンタル』に相澤さんはキャラクターデザイン・総作画監督として参加。素晴らしい仕事をされています。お二人の仕事について色々とうかがうことができるはずです。相澤さんの出演はイベント後半(配信がないパート)となります。
また、メインパート(配信のあるパート)は会場に来たお客さまからの質問に答えつつトークを進めることになりました。当日、紙を配りますので、それに山内監督への質問を書いてください。質問だけでなく、感想や励ましの言葉を書いてくださっても結構です。あるいは前もって質問や感想を書いて、持ってきてくださってもよいです(その場合、紙はなんでもよいです)。よろしくお願いします。
開催日は2025年6月8日(日) 。会場は阿佐ヶ谷ロフトAです。
今回のイベントも「メインパート」の後に、短めの「アフタートーク」をやるという構成になります。配信もありますが、配信するのはメインパートのみです。アフタートークは会場にいらしたお客様のみが見ることができます。
配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。
チケットは5月10日(土)13時から発売となります。チケットについては、以下のロフトグループのページをご覧になってください。
■関連リンク
LOFT(告知) https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/317811
会場&配信チケット https://t.livepocket.jp/e/12xwa
配信チケット(ツイキャス) https://twitcasting.tv/asagayalofta/shopcart/374424
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第240回アニメスタイルイベント | |
開催日 |
2025年6月8日(日) |
会場 |
阿佐ヶ谷ロフトA | 出演 |
山内重保、小黒祐一郎 |
チケット |
会場での観覧+ツイキャス配信/前売 2,300円、当日 2,500円(税込·飲食代別) |
どうやら、こちらの数えでは今回“900回”らしいです!(間違いないでしょうか?)
それほどためになることなど語ってないのに、ここまで続けさせてくださったアニメ様こと小黒祐一郎様、そして毎回ギリギリの原稿を待っていて下さるアニメスタイルスタッフ様、誠に有り難うございます。できましたらこれからも宜しくお願いします。
で、前回からの続き。『沖ツラ』第2話、ビーチパーティー編。
これは贅沢言うともっと“間の遊び”で演出したかった、というのが本音です!
だってネタは“うちなータイム”でしょう? ビーチの人々や波・船・ヤドカリなど、もっともっと“間”を作ったり、それこそ“カット内に遅刻して入ってくるキャラ”がいたりとか、あの手この手でのんびり流れる沖縄の時間とそれに慣れたうちなーんちゅの方々が描けたら~と思っていました。時間の流れはマンガよりアニメのほうが得意技なので、その特性を活かしたアニメならではのうちなータイム表現ができたはずなのですが、俺の力不足でした、すみません。
雨でも傘ささない編、自分は小心者なので、「鞄の中の教科書やらが濡れたら返って面倒なのに、沖縄の方々は大らかなんだな~」てことばかりが頭にありました。“濡れる”ことが気になっていた分、上がってきたラッシュ(撮影上り)を見て“キャラの濡れ度合”がカット毎でバラバラだったのが事の他気になり、作画リテイクが重かったパートになります、この件も。
てーるーと比嘉さんの出会い編も苦労しました。比嘉さんの帽子が飛ばされるカットは担当原画マンの目の前で、「この画で“風”が体に当たり~、次の画で体堪えて~、帽子が浮き上がり~、手で押さえようとするも~、間に合わず~」と、原画一枚一枚を重ねて、加わる力とポーズの変化を実演・説明しながら、俺の方でラフを入れたカットです。てーるーが手を伸ばして帽子を救う止め画、その後結局バランスを崩して倒れるてーるー+水飛沫も、同じく自分の方でラフ修正して、修正の清書を若手に任せたカットです。時間ギリギリで細かいところの“詰め”は、巧くいっていないところありますね……、すみません。
で、Cパート(ED開け)の可愛い比嘉さんも、また篠(衿花)さん作画でした。
はい、『キミ越え』に戻る時間です(汗)。今後ともどうかよろしくお願いいたします。
―― よろしくお願いします。
本郷 はい、よろしくお願いします。
―― 芝山努さんの事はいつからご存じでしたか。
本郷 子供の頃にTVアニメの『元祖天才バカボン』『ど根性ガエル』『ガンバの冒険』等が好きで、それらの作品のオープニングに芝山さんの名前が出ていて、なんとなく記憶していたと思います。
―― それで芝山さんが主催していたスタジオ、亜細亜堂に入ったのでしょうか。
本郷 そうですね。アニメ雑誌に亜細亜堂の動画募集があったんです。芝山努さん、小林治さんの名前だけは知っていましたので。
―― そこで芝山さんとお会いになったのですか。
本郷 そうだと思いますが、21歳から始めた動画の時は接する機会がほとんどなくて、記憶に残るエピソードはありませんね。
―― それでは亜細亜堂で演出を始めてから?
本郷 はい、そうです。機会があって23歳で演出助手として『まんが日本昔ばなし』で作画打ち合わせに立ち合い、上がった原画を見て、撮出しを担当しました。私が初めてTVシリーズで演出を担当した『伊賀野カバ丸』も、前の話数は芝山さんが担当していて、それを引き継ぐかたちで仕事を始めました。最初の何本かの絵コンテもチェックしてもらいました。
―― 間近で見た芝山さんの仕事ぶりはいかがでしたか。
本郷 時期的には芝山さんが『ドラえもん のび太の海底鬼岩城』(編注:芝山努が最初に監督を務めた映画『ドラえもん』。1983年公開)の監督を務められてから10年弱、間近で見ていました。私は完全な素人から亜細亜堂に入ったのですが、入社してからしばらくの間、亜細亜堂では芝山さん、小林治さん、河内日出夫さん、山田みちしろさん、須田裕美子さんの5人だけが経験豊富な人達で、それ以外のスタッフは先輩も含めて私と歳の近い人達だったんですよ。5人は全員アニメーターで絵コンテ、演出もやり、キャラクターデザインもやる人達だったので、アニメーターとはそういう人達だと思っていたのです(笑)。
―― それは凄い勘違いですね(笑)。
本郷 その後、演出として沢山のアニメーターと会い、全員がそうではない事を知りました。
―― なるほど(笑)。
本郷 私は10年弱、亜細亜堂に在籍した後フリーになったのですが、芝山さんの凄さを理解したのは会社を辞めてしばらく経ってからでしたね。
―― それはどういう事ですか。
本郷 私が亜細亜堂にいた頃、芝山さんは毎年、映画『ドラえもん』を監督し、TVシリーズの『ドラえもん』の監督をやりつつ、それと並行して『ちびまる子ちゃん』の監督や『忍たま乱太郎』の総監督等を務めていたんです。あまりに身近だったので「沢山監督をやっているなぁ~」ぐらいの感覚でいました。
『伊賀野カバ丸』の後は、各話の絵コンテで『ドラえもん』を手伝うぐらいで、『まる子』や『乱太郎』と関わる事はなく、その当時は芝山さんの仕事量を具体的にイメージできていなかったんです。
―― なるほど。
本郷 フリーになって『クレヨンしんちゃん』のシリーズを4年半やって、その間に4本の映画を作って改めて芝山さんの仕事量が超人的なものだった事を思い知りました。
―― 芝山さんは日本のTVアニメの歴史の中でも特異な存在かもしれませんね。
本郷 さっき挙げた『ドラえもん』『まる子』『乱太郎』は、今現在も新作が放送されていますし、私が亜細亜堂に在籍していた頃は他に『らんま1/2』の監督、『おねがい!サミアどん』のキャラクターデザイン、『まんが日本昔ばなし』の絵コンテ、演出等もやっていたんですよ。
―― 本当に凄い仕事量ですね。
本郷 私くらいしか知らない芝山さんの仕事もあります。1985年から3年間で、ディズニーとの合作で東京ムービーが作った『The Wuzzles』『わんぱくダック夢冒険』『新くまのプーさん』で、日本側のチーフディレクターを芝山さんがやっていたんです。多分記録は残っていませんが、私は亜細亜堂班の演出として3年間参加しました。
―― 本郷さんがいた10年だけでも信じられないくらいの量ですね。
本郷 『サミアどん』の亜細亜堂回は新人アニメーターばかりだったので、芝山さん、小林さん、山田さんがローテーションで全カットのレイアウトを切っていました。だから、今見ても画面の完成度が高いですよ。
―― 亜細亜堂の社長として裏方の仕事もやっていたんですね。
本郷 はい。私が各話演出をやっていた『エスパー魔美』でも新人アニメーターが参加する最初の回は、芝山さんがレイアウトを切ってくれました。西村博之君、藤森雅也君、玉川真人君は芝山さんの恩恵を受けた筈です。
―― そこまでやっていたのですか!?
本郷 1人の人間の仕業とは思えませんね(笑)。
―― 所謂「手が早い」とは違う異次元の仕事ぶりですね。
本郷 そうなんです。ひとつひとつのレイアウトや絵コンテや演出のクオリティが高いのは勿論ですが、並行して様々な仕事をマルチタスクで平然とこなしていたんです。さっきも言った事と重複しますが、後に監督をいくつか経験してみてその凄さを実感しました。
―― 本郷さんから見た芝山さんの演出、監督としての凄いところってどんなところなんでしょうか。
本郷 『ドラえもん』『ちびまる子ちゃん』『忍たま乱太郎』に関して言うと、原作をかみ砕いて誰にでも愛される分かりやすいアニメ作品に仕上げる手腕ですね。『ずっと続く作品』は狙って作れるものではないのですが、芝山さんはその本質を掴んでいたのだと思います。
―― 一見すると、誰でもできそうな作品ですが。
本郷 作家性を前面に出すのではなく、その作品を芝山さん以外の人も作れるような方法論が、あらかじめ用意してある感じでしょうか。もし野心的な各話演出がいれば、そこで遊べるような余地も用意してある……。
―― そういったタイプのアニメ演出は他にもいますか。
本郷 芝山さん以外見た事ありませんね。元々、アニメーターとして大活躍した後に監督業を長くやって絵コンテ、演出も手掛けていて感心するのは、画にこだわらないところなんです。
―― と言うと?
本郷 上手いアニメーターが絵コンテや演出をやると、大抵の場合、自分より上手くない原画は耐えられないんですよ。
―― その場合はどうするんですか。
本郷 原画やタイミングを徹底して直すわけです。
―― 自然な流れですね。
本郷 芝山さんはそれを一切やらないんです。映画『ドラえもん』だと絵コンテ、作画打ち合わせまでやって演出処理は任せるやり方でした。
―― 上手いアニメーター出身では珍しいわけですね。
本郷 実はそれについて芝山さんに聞いた事があるんです。
―― 大胆ですね(笑)。
本郷 当時はなんでもずけずけ聞いていました。おかげで今でも演出をやれています。
―― それでどんな答えだったんですか。
本郷 単純なんですが、「監督になってから、画に口出しするのはやめた」という返答でした。
―― え、監督が画に口出ししない?
本郷 当時はその意味がよく分からなかったのですが、それから10年以上経って、ボンヤリ分かったんです。
―― と言うと?
本郷 例えば私が画の事をとやかく言っても、そんなに優れた絵描きではないのでアニメーターも「分かってない奴の戯言」で済みますが、芝山さんが画やタイミングをいじったら大抵のアニメーターはその人の仕事が意味を失ったり、あるいは自信を喪失すると思うのです。それに芝山さんがやった仕事全てにそれをやるのはいかに驚異的な仕事のスピードでも難しい筈です。
―― 大局的な判断で自分の関わり方を決めたという事ですね。
本郷 私はそう考えています。自分が作品と関わって、どういうかたちがベターかを考えて実践していたのだと考えています。「沢山仕事をする」事は評論家やマニアには評価されにくいですが、芝山さんが手掛けた作品達が無かったら、今より少し寂しいアニメ界になっていましたね。
―― 最後にうかがいますが、芝山さんは、本郷さんの「師匠」なんですね?
本郷 そうですね。望月智充、荒川真嗣、もりたけし、湯浅政明、浜名孝行、藤森雅也、佐藤竜雄(敬称略)、本郷みつる、他にも沢山の芝山チルドレンを生み出したと思います。
―― 人材育成ですね。
本郷 芝山さんがそれを意識していたのではなく、芝山さんの仕事の方法論が人材育成に適していたのだと思います。私が長くこの仕事ができたのも、演出になって最初に出会った監督が芝山さんだった事が大きいです。
前回からの続き、というより溢れ分から~。
『沖ツラ』第1話のラストはコンテ第1稿の修正を終え提出すると、里見哲朗プロデューサー(協力)より、「『●ヴァ』パロで終わるのはど~かなぁ~?」と。さらに続けて「原作の短編オチとして『●ヴァ』パロは良いと思うんだけど、TVシリーズ第1話のラストとしては(物足りない)……」とも。
言われて確かに、
「ありがとう」の『●ヴァ』(1995〜6年TVシリーズ版最終回)パロで“次回に続く”はちょっとクール過ぎるか……!
と思い直し、「分かったわ、調整してみる」と、もう一度持ち帰り、見直して加筆したのが現状の「沖縄の皆さん、ありがとう! そして、よろしくお願いします!」なラストでした。結果、里見Pの助言で、“そこはかとないアットホーム感”が出せた、と個人的に気に入っています。で、
次、第2話冒頭 “オジサン”話の作画は、篠 衿花さん!
C-001“じ”~の喜屋武さん、それを見て考え込むてーるー(C-002)も、さらにそれを見ている比嘉さん(C-003)も、全部キャラ表を上回る表現力。表情・止めだけでなく、C-026「マース煮ぃがー一番やしがてー。わんねー~」と楽し気に “オジサンの良さ”を伝える喜屋武さんの両手オーバーアクションや、C-036の投網を投げる鉄さんのアクションも本当に秀逸な一発原画。以前にも軽く触れましたがこの辺りの篠作画を見て「いける!」と判断したから、自分と一緒に他話数のキャラ修正に全面的参入してもらい、最終的に完全な『沖ツラ』の主戦力となっていったのです。あ、
C-031~032の具志堅さんアクションは板垣の方で作監やりました!
が、それ以外冒頭“オジサン”パート(C-054まで)は篠さんによる原画になります。
そして、具志堅用高さんのボクサー役はご本人に楽しく演じていただきました。実はこの後の第6話の比嘉おじいさん役を先行でお願いしていて、そっちが決まる際「(2話で)ボクサーキャラが出るなら、これも僕がやった方が良いんじゃない?」と提案して下さったと聞いています。
で、「ちょっちゅね──!」と軽快にいただいた後、こちらを向いて「ボク、ちょっちゅね~なんて言ったことないんだよ(笑)」と。とても気さくな方で嬉しかったです!
ありがとうございました、具志堅用高さん!
はい、また短いですが、ここらで仕事(『キミ越え』)に戻らせていただきます(汗)。
若きアニメーター&演出家である、ちなさんにスポットを当てたイベントを開催します。ちなさんは10代から敏腕アニメーターとして活躍し、近年はオリジナルの短編アニメーション『ファーストライン』を監督。各話演出として参加した『ヤマノススメ』シリーズや『ぷにるはかわいいスライム』での仕事も印象的でした。
トークでは活動を始めてから現在まで、そして、これからの仕事をご本人に語っていただきます。マニアックな話題が次々に飛び出すはず。さらにちなさんの仕事仲間の方々に関係者席へ座ってもらい、トーク中にコメントをしていただく予定です。トークの聞き手は沓名健一さん、アニメスタイルの小黒編集長が務めます。
開催日は2025年5月25日(日) 。会場は阿佐ヶ谷ロフトA。当日はアニメスタイルの新刊を発売する予定です。
今回のイベントも「メインパート」の後に、短めの「アフタートーク」をやるという構成になります。配信もありますが、配信するのはメインパートのみです。アフタートークは会場にいらしたお客様のみが見ることができます。
配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。
チケットは2025年4月26日(土)13時から発売となります。チケットについては、以下のロフトグループのページをご覧になってください。
■関連リンク
LOFT(告知) https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/316495
会場&配信チケット https://t.livepocket.jp/e/k3hyk
配信チケット(ツイキャス) https://twitcasting.tv/asagayalofta/shopcart/372097
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第239回アニメスタイルイベント | |
開催日 |
2025年5月25日(日) |
会場 |
阿佐ヶ谷ロフトA | 出演 |
ちな、沓名健一、小黒祐一郎 |
チケット |
会場での観覧+ツイキャス配信/前売 2,300円、当日 2,500円(税込·飲食代別) |
腹巻猫です。1975年に「秘密戦隊ゴレンジャー」の放映が始まってから今年で50年。NHKで「全スーパー戦隊大投票」が行われ、8月からは「全スーパー戦隊展」が開催されるなど、さまざまな記念企画が動いています。そんな年にぴったりのアニメが3月まで放映された『戦隊レッド 異世界で冒険者になる』でした。戦隊ヒーローもののパロディではなく、その世界観をマルチバース的発想で取り入れた作品です。今回はその音楽を紹介します。
『戦隊レッド 異世界で冒険者になる』は中吉虎吉によるマンガを原作に2025年1月から3月まで放映されたTVアニメ。監督・川口敬一郎、アニメーション制作・サテライトのスタッフで映像化された。
絆創戦隊キズナファイブのキズナレッド・浅垣灯悟は、悪の組織ゼツエンダーとの最終決戦で敵の首領と相打ちになり、異世界に転移してしまう。異世界では女性魔導士イドラが実力のある冒険者を探していた。イドラのテストに合格した灯悟は、イドラとともに冒険の旅に出発。キズナファイブの装備と経験を生かして、さまざまな危機を乗り越え、仲間を増やしていく。いつか元の世界に戻れる日を待ちながら。
戦隊ヒーローが異世界に行ったら? という発想の異世界転移もの。異世界で灯悟がキズナレッドに変身して活躍する様子が見どころになっている。面白いのは、異世界でも、われわれがTVで観ている戦隊ヒーロー番組のお約束が守られていること。たとえば灯悟が変身するとき後ろで爆発が起き、近くに人がいるとその爆発に巻き込まれてしまう。また、レッドの呼び声に応えてロボットや必殺武器が飛んできたり、レッドと一緒に戦う異世界の仲間たちが自分でもわからないうちにキメポーズをとってしまったりと、パロディ的な描写がしばしば見られる。そんな「お約束」を知らない異世界の住人が、それにいちいち突っ込むのがおかしい。本作は一種のメタフィクションでもあるのだ。
筆者は2003年から2014年まで東映スーパー戦隊シリーズのサントラの仕事をしていたこともあり、本作を興味深く観ていた。随所にスーパー戦隊シリーズへのオマージュが散りばめられていることに感心したし、灯悟以外のキズナファイブのメンバーの声を、かつてスーパー戦隊シリーズで戦隊メンバーを演じた俳優が担当していることに驚いた。観ているうちにわかってきたのは、本作はパロディではなく、戦隊ヒーローへの愛にあふれた作品であるということ。けしてギャグをねらった作品ではないのだ。
音楽にも本家戦隊ヒーローへのリスペクトが込められている。音楽を担当したのは、『未来戦隊タイムレンジャー』『特捜戦隊デカレンジャー』など、スーパー戦隊シリーズを何作も担当した作曲家の亀山耕一郎。スタッフクレジットを見て、「本物だ!」と思ってしまった。
監督の川口敬一郎はサウンドトラックのブックレットにこんなコメントを寄せている。
「やはり本家の特撮と言えば『ロボが出てくる時にはロボの歌!』『必殺技の時は必殺技の曲!』(中略)と、決まった所で決まった曲がかかるというのが魅力の一つだと思うんですよ。
そんな訳で『異世界レッド』でも、なるべくキャラクターに定番の音楽を乗せられるよう頑張ったつもりです。(中略)今回は我儘を言うために音響監督も務めさせていただきました」
おなじくサントラのブックレットで亀山はこう語る。
「変身時や必殺技や最終兵器やらの、王道で滅茶苦茶ベタですが迫力のある楽曲も、是非お楽しみくださいませ!」
2人の言葉どおり、本作の音楽の第一の聴きどころはスーパー戦隊シリーズの伝統を継承した楽曲である。変身からアクションにつながる曲「絆装チェンジ!」、必殺武器召喚時の「来い!ビクトリー・キズナバスター!」、アコースティックギターの音色が束の間の平和を描写する「キズナファイブの日常」などだ。
きわめつけは、キズナファイブのオープニング主題歌「さぁいこう!キズナファイブ」と合体ロボの歌「マキシマム・キズナカイザー爆現!!」。作詞はスーパー戦隊シリーズの歌を多く手がける藤林聖子と桑原永江がそれぞれ担当。作編曲は亀山耕一郎。「マキシマム・キズナカイザー爆現!!」を歌うのは串田アキラ。ここでも本物志向が貫かれている。音楽制作は「秘密戦隊ゴレンジャー」以来すべてのスーパー戦隊シリーズにかかわっている日本コロムビアだから抜かりはない。
『アニメージュ』2025年4月号にも亀山耕一郎のインタビューが掲載されている。亀山は、音楽の内容については全部まかされ、原作や川口監督の説明から曲を発想をしていったという。監督のリクエストを受けて、半分はオーケストラっぽい曲を書き、自分の好みでギターとベースの絡みを入れた。さらに、これまで戦隊シリーズの音楽を書いた経験から効果音的に使えるシンセ主体の曲を用意した。
ほかには、主要キャラクターのテーマと異世界を描写する音楽、魔法発動の曲やバトルの曲、日常描写曲などが制作されている。異世界側の曲はファンタジー風や民族音楽風など、戦隊側とは違った曲調でまとめられているのが特徴だ。ただし、バトル曲や日常曲の多くは戦隊ヒーローのシーンにも異世界のシーンにも共通して使われている。
本作のサウンドトラック・アルバムは2025年3月19日に「TVアニメ『戦隊レッド 異世界で冒険者になる』オリジナル・サウンドトラック」のタイトルで日本コロムビアからCDと配信でリリースされた。
収録曲は以下のとおり。
劇中で流れた曲はほぼすべて収録されているようだ。1曲目にオープニング主題歌、ラストにエンディング主題歌を収録し、さらに2曲の挿入歌が収録されている。
曲順はストーリーの大まかな流れに沿った構成。
特徴的なのは、1曲目が番組のオープニング主題歌「Cuz I」で2曲目がキズナファイブの主題歌「さぁいこう!キズナファイブ」であること。「戦隊ヒーロー」を前面に出した構成で、気分が盛り上がる。
トラック3「戦隊レッドと…」はサブタイトル曲。本作のサブタイトルは第12話を除いてすべて「戦隊レッドと○○○○」で統一されているから、うまい曲名である。
トラック4「熱き友情の戦士・キズナレッド」とトラック5「大魔導士・イドラ」は本作の主人公レッド(灯悟)とイドラのテーマ。レッドのテーマはブラスとエレキギターを主体にした王道の戦隊ものらしい曲調で、イドラのテーマは弦のピチカートや木管を使ったファンタジックで軽快な曲調で書かれている。2人は異なる世界の出身だからサウンドも対照的である。
トラック23の「灯悟の想い」はレッドのテーマのバリエーションだ。フルートとサックスがメロディを奏でる哀愁ただよう曲調で、熱血だけではない灯悟の心情を表現していた。
トラック16の「イドラの魔法」はイドラのテーマのバリエーションである。イドラのテーマをアップテンポにアレンジした曲で、イドラが魔法を使って戦うシーンなどに選曲された。
トラック7「王家の杖」には、サブタイトル曲「戦隊レッドと…」と共通のモチーフが使用されている。「王家の杖」とは王族に仕える最高の魔導士の称号である。イドラの家は代々王家の杖であったが、父の代でその座を奪われてしまう。イドラは王家の杖の座を取り戻すことを目標にしているのだ。この曲は本作の世界観にかかわる重要なテーマのひとつ。
トラック8「戦闘開始!」からトラック10「来い!ビクトリー・キズナバスター!」へと続く流れは、戦隊ヒーローもののフォーマットを意識した構成だ。「戦闘開始!」は序盤戦や小競り合いの場面などに使えるシンセ主体の曲。回想で描かれるキズナファイブの戦闘シーンでよく使われた。「絆装チェンジ!」(トラック9)はレッドのテーマのヴァリエーションのひとつで、レッドのバトルを盛り上げる定番の曲。「来い!ビクトリー・キズナバスター!」(トラック10)はキズナファイブが5人そろって発射する必殺武器のテーマ。高らかに鳴るファンファーレが「勝利確定!」をイメージさせる。
トラック17「王女・テルティナ」とトラック18「剣士・ロゥジー」は、第3話で灯悟とイドラが出会う王女テルティナと彼女に仕える勇者ロゥジーのテーマ。亀山耕一郎のインタビューによれば、テルティナはイドラとの差別化のためバロック風の曲にし、ロゥジーはギャグっぽいキャラなので「ちょっと遊びました」とのこと。「剣士・ロゥジー」はフラメンコとマカロニウエスタンを合体したような曲になっている。
トラック24「聖剣の勇者」は「剣士・ロゥジー」のバリエーション。ブルージーなロック調のアレンジで、ロゥジーのカッコいい(もしくはカッコつけた)一面が表現されている。
日常曲も聴いてみよう。
トラック12「仲間との日常」は、はねたリズムの上でサックスやトランペットが軽快に歌うミディアムテンポのロック。『特捜戦隊デカレンジャー』などでも聴かれる、亀山耕一郎が得意とする(好みのタイプの)サウンドである。はずんだ曲調を生かしてコミカルなシーンにも使用された。
トラック22の「はちゃめちゃな仲間たち」もいい。オルガンやサックスがフィーチャーされたファンキーな楽曲で、コミカルなシーンやドタバタシーンにたびたび選曲されている。実写のヒーローものだと、ここまではじけた曲はなかなか使いどころがない。アニメならではの楽しい曲だ。
ストリングスがやさしく奏でるトラック26「温かな気持ち」は、灯悟が故郷の世界を回想するシーンや仲間との友情のシーンなどに使われている。落ち着いた曲調はアルバムの中でも貴重である。
灯悟たちは災いをもたらす魔力の種を探して、砂漠にあるエルフの聖域「太陽の森」を訪れる。トラック30「太陽の森」からトラック33「内気な本性」までは、第7話から描かれた太陽の森のエピソードで使われた曲である。
「太陽の森」は中東を思わせるエキゾチックな曲調で書かれている。「神聖な力」(トラック31)、「アメンの継承者・ラーニヤ」(トラック32)、「内気な本性」(トラック33)も同じ曲調で統一されている。亀山耕一郎は、2016年放映の「動物戦隊ジュウオウジャー」で素朴な旋律や民族楽器を用いたエスニックな音楽を提供しており、そのテイストがこうした楽曲に受け継がれているようだ。
アルバムの中でも異彩を放っているのがトラック37「清弘・バンソウキラー」とトラック38「孤独な旋律」の2曲。基本は同じ曲で、ピアノが奏でる「孤独な旋律」にフルートとストリングスを加えたものが「清弘・バンソウキラー」になる。灯悟の過去を描く第8話のために用意された曲だ。この回は特撮ヒーロー番組では定番の「親友が敵になって現れ……」というパターンのエピソード。灯悟の親友・清弘が弾くピアノのメロディが共通のモチーフになっている。亀山耕一郎によれば、自身が好きなラヴェルのピアノっぽさを出してみたとのこと。
トラック39「最終決戦!」から、いよいよクライマックスに突入する。
「最終決戦!」と次の「緊迫感」(トラック40)は、灯悟たちがピンチに陥るシーンによく使われた曲。「最終決戦!」は第1話アバンタイトルのキズナファイブ対ゼツエンダーの決戦シーンに早々と使われている。「最終決戦!」の中心となるモチーフがトラック19「迫りくる魔王軍」にも登場することから、戦隊ヒーロー側、異世界側を問わず、強大な敵を表現するモチーフであることがわかる。
トラック41は串田アキラが歌う「マキシマム・キズナカイザー爆現!!」。ここで挿入歌! ロボの歌である。なんという、よくわかった燃える構成。特撮ヒーローものの音楽集はこうでなくてはいけないのだ(アニメだけど)。
しかし、ストレートに勝利では終わらない。トラック42「決戦」は、第10話でアジールが魔力の種に心を飲み込まれるシーンや第11話で灯悟がキズナブラックに変身するシーンに使用された曲。悲壮な心情と悲劇的な展開をイメージさせる曲調で「これからどうなるのか?」と思わせる。
ラストはやはりハッピーエンド。トラック43「掴んだ勝利」は大団円を思わせる曲だ。スネアドラムにストリングス、ブラス、木管などが加わって雄大なメロディを奏でる。第5話でマキシマム・キズナカイザーが巨大な魔物を宇宙に運び去る場面や第11話で魔力の種に飲み込まれたアジールをラーニヤが助ける場面などに使用された。最終回には使われていないが、アルバムを締めくくる曲としてはぴったりだろう。
本作は戦隊ヒーロー+異世界ものというパロディ的な作品であるが、音楽はきわめて正統。戦隊ヒーロー側の曲は本家そのものだし、異世界の音楽はファンタジックな曲やエスニックな曲を中心に世界観に沿ってまとめられている。ふたつの世界を彩る曲がそれぞれに個性を放ち、両立している印象だ。
メインのメロディ(主旋律)に対して対になるメロディ(対旋律)を重ねる手法を対位法と呼ぶ。本作では戦隊ヒーローの音楽と異世界の音楽が主旋律と対旋律のように重なり、ひとつの音楽になっている。どちらが主旋律かというと、たぶん戦隊ヒーローのほうだろう。強烈な個性を持った戦隊ヒーローの音楽に異世界ファンタジーの音楽をぶつけることで、戦隊ヒーローの魅力が際立つ。変身すると爆発が起きたり、ポーズをとって名乗ったり、必殺技の名を叫んだり、異世界人の目から見てもおかしいかもしれないけれど、カッコいいじゃないか。そのカッコよさを照れずに正面きって描こうとしているところに戦隊ヒーロー愛を感じる。本作の音楽は、戦隊ヒーロー愛が奏でるふたつの世界の対位法の音楽である。
TVアニメ『戦隊レッド 異世界で冒険者になる』オリジナル・サウンドトラック
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上映イベント「押井守映画祭」が再スタートします。これは押井守監督が手がけた作品を連続して上映していく企画で、今回のシリーズではなかなか映画館で観ることができないマニアックな作品まで網羅していく予定です。他の【新文芸坐×アニメスタイル】と同様に新文芸坐とアニメスタイルの共同企画でお届けします。
5月3日(土)の「押井守映画祭2025」の第一回は《立喰師 編》。押井監督にとって重要なモチーフである「立喰」にスポットを当てた「立喰師列伝」と「真・女立喰師列伝」を上映します。
「立喰師列伝」は押井監督が原作と脚本も兼任。実写写真を使ったアニメーションである「スーパーライヴメーション」という独特なスタイルで制作された異色作。河森正治さん、神山健治さんなど、業界の方々が写真で出演しているのも話題です。
「真・女立喰師列伝」は複数の監督によるオムニバス作品であり、押井さんは原作、総監修、OP監督、「金魚姫 鼈甲飴の有理」と中CMと「ASSAULT GIRL ケンタッキーの日菜子」の監督、脚本を担当しています。
トークコーナーのゲストは押井監督と辻本貴則監督のお二人となります。辻本さんは「真・女立喰師列伝」の「荒野の弐挺拳銃 バーボンのミキ」で監督、脚本、撮影、編集を務めており、さらに「KILLERS キラーズ」「THE NEXT GENERATION パトレイバー」等にも参加。押井作品の常連クリエイターの一人です。聞き手はアニメスタイル編集長の小黒祐一郎が務めます。
なお、「アニメスタイル通信」等で、トークのゲストとして鈴木敏夫プロデューサーが登壇するとお伝えしていましたが、都合により鈴木さんの登壇はなくなりました。ご了承ください。
「真・女立喰師列伝」はDVDによる上映となります。
チケットは4月26日(土)から発売。チケットの発売方法については新文芸坐のサイトで確認してください。
●関連リンク
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/
新文芸坐オフィシャルサイト(押井守映画祭2025《立喰師 編》 情報ページ)
https://www.shin-bungeiza.com/schedule#d2025-05-03-1
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【新文芸坐×アニメスタイル vol.189】 |
開催日 |
2025年5月3日(土)16時00分~21時30分予定(トーク込みの時間となります) |
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会場 |
新文芸坐 |
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料金 |
3800円均一 |
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上映タイトル |
立喰師列伝(2006/104分/35mm) |
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トーク出演 |
押井守(監督)、辻本貴則(監督)、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長) |
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備考 |
※トークショーの撮影・録音は禁止 |
もり 僕は『らんま』でディーンに出向になって、亜細亜堂に戻ってないんですよ。ぴえろに行って、小林(治)さんが断った『江戸っ子ボーイ がってん太助』で監督をやって。ディーンからガイナックスに行って『ふしぎの海のナディア』をやって。で、その途中でフリーになっちゃったから。
本郷 戻っていない?
もり 戻ってないです。ぴえろやガイナで仕事をしていても、芝山さんと仕事をした事が役に立っているというか。例えばガイナックスで鈴木俊二さんとか、鶴巻和哉君とか、本田雄君とか、あの辺と会った時に「あ、こいつらすげえ」って思えるくらいの目は養わせてもらったかなと。
本郷 うんうん。
もり 芝山さんに教えてもらった事の一部ですけど、『ど根性ガエル』的なタイミングをガイナの連中と共有できた事とか、そういうのは有意義だったかなあと。
本郷 その後で芝山さんと仕事をご一緒するのは『まじめにふまじめ かいけつゾロリ』ですか。
もり そうです。『ゾロリ』の3年目で、2006年ですね(編注:『まじめにふまじめ かいけつゾロリ』の第51話から芝山努が総監督、加瀬充子が監督、もりたけしがシリーズ構成となった。前シリーズ『かいけつゾロリ』から数えて3年目)。
本郷 そこまでは芝山さんとの接点がなかった?
もり ほぼないです。
本郷 『ゾロリ』にはどうして参加する事になったんですか。亜細亜堂から声が掛かった? 岡村(雅裕)さんから?
もり そう。ここで、です。ここ(池袋の喫茶店)に呼び出されて(笑)。
本郷 ここ? まさに?
もり ここに。僕が亜細亜堂を辞めた時は円満退社なかたちになっていて、『(秘境探検)ファム&イーリー』の監督でも呼び出されているので。
本郷 なるほど。『ゾロリ』のシリーズ構成というのはどういうかたちだったんですか。
もり 自分が参加する前の段階で、原作は使いきっていて、3年目は全話、オリジナルの話を考えなくてはいけなかったんです。僕は「話を考えて」と、岡村さんに言われたんですよ。脚本打ち合わせには原作者の原ゆたか先生も参加していて、原先生と話をしながら脚本作りを進めました。
本郷 芝山さんはどういった立場で参加されていたんですか。
もり 肩書は総監督でした。話は僕が考えてるから、原作とトーンが違ったりとか、温度差があったりするんですよ。それについて原先生が「これはどうなの?」と聞いてくるんです。そうなると、紛糾はしないんですけど、会議が長引くんですよね。
本郷 まあそうですね。
もり 芝山さんが2話目3話目ぐらいから、シナリオの第1稿の端とか余白に画を描いてきてくれるようになったんです。イメージボード的なものを。
本郷 私は見た事あるけど、滅茶苦茶上手な画でしたよね(編注:その一部が『まじめにふまじめ かいけつゾロリ』のムックに掲載されている)。
もり そうなんです。それを持ってきてくださる。それを見ると、原先生もすぐにやる事を理解して「ああ、はいはい」と言ってくれる。途中から原先生が、芝山さんの画を楽しみにするようになっちゃって。だから、本当に芝山さんに助けていただきました。話の内容云々じゃなくて、芝山さんの画の説得力。
本郷 3年目は52本あったんですか。
もり ほぼ1年やりました。
本郷 その1年分で芝山さんが。
もり ほぼ全部で。
本郷 毎回1枚か2枚の画を描いてた?
もり 1枚2枚どころじゃないですよ。多いと十数点。
本郷 単純に言うと500枚近くを描いたんだ。
もり そうですね。シーンに合わせてのイメージボードですから、美術設定も兼ねているんですよ。例えばシナリオに「消防署前」があると、昭和の消防署を何も見ないで描いちゃう。
本郷 芝山さんって見ないで描いちゃうんだよねえ。
もり 「芝山さん、なんでこんなの描けるんですか」と聞くと、「いやあ、なんとなく覚えてるからさ」って。
本郷 凄いよねえ。
もり 例えば、奥にパースがある住宅街の設定というと、奥に消失点があって一本線じゃないですか。
本郷 うんうん。
もり 道は本来なら曲がってるし、起伏もある筈なんです。芝山さんの描かれる画って、そういうところも再現してるんですよね。芝山さんの描かれる画って「どこかの写真をなぞったの?」と思うくらいリアルなんですよね。起伏とか、傾き方とか。
本郷 芝山さんの目を通して作ってあるから、もの凄い画としての説得力があるっていうのはある気がする。
もり そういうところは、やっぱり宮崎さんと被るというか。これを言うと怒られるかもしれないですが。
本郷 そういう事ができたのは、あの2人しかいないかもしれない。
もり いないですね。自分らの世代で同じような事を思ったのは、前田真宏氏ぐらいですね。彼は凄い。
本郷 らしいですね。
もり 彼も本当に脳内の引き出しで画が描けちゃう人なので。自分が見た中で凄いと思ったのは、宮崎さんと芝山さんと前田真宏さん。天才っていう言葉って、そういう人達の為にあるんだろうなとは思うんですよ。
本郷 だから全話じゃないけど、『ガンバの冒険』のレイアウトをシリーズ通じて1人で描いたとか。普通の人間がその仕事量はこなせないじゃない? 宮崎駿さんが『アルプスの少女ハイジ』と『母をたずねて三千里』で全話のレイアウトを描いていて、その後は誰も続かないわけで。そういう人達がいたおかげで、日本のアニメの礎が作られたというのはあると思うし。
もり 芝山さんがやられた『ガンバの冒険』で、どこかの家の縁の下の描写だったと思うんですが、BOOK3枚の置き換えで回り込みをやってるんですよね。それをパクろうと思って『ナディア』で大失敗して、庵野(秀明)さんに失笑された事がありますけど。
本郷 望月(智充)さんもやったよね。
もり そうそう。で、望月さんと話をしたら「オレも失敗したんだよ!」と言っていて。
本郷 ところで、芝山さんの作打ちって、見た事ありますか。
もり 1回だけあります。さっき話題にした「とんぼのやどり木」です。それから、自分が参加した打ち合わせではないですけど、端で聞いてた事はありますよ。
本郷 自分は『伊賀野カバ丸』とか『昔ばなし』。芝山さん以外の、他の演出の作打ちって見た事ないから、芝山さんの猿真似で作打ちをやっていたんです。
芝山さんって、声色を使い分けて「なんだよのび太!」「いい加減にしろよのび太」「のび太さーん」とキャラクターのセリフを読み上げるじゃない。作打ちってそうやるもんだと思ってやっていたんだけど、ある時に「なんで亜細亜堂の人は声色使って、作打ちをやるんですか」と言われて(笑)。それで「みんなこれでやっているわけではないんだ」と思ったんです。
もり 僕は小林さんのグループだったから、小林さん的な打ち合わせになりますね。
本郷 ああ、そうかそうか。小林さんは声色使わない?
もり 使わないです。
本郷 ああそうか。他の人の作打ちを見た事ないから、本当に、そういうのが作打ちだと思ってて。
もり 2大師匠の2人のうち、僕が直接仕事してたのは小林治さんなんです。『オレンジ★ロード』と『燃える!お兄さん』をやっていましたから。
本郷 話を戻すと、『ゾロリ』の流れで2007年にオリジナルのWEB小説「サンタクルーズ」を発表されるんですね。
もり はい。『ゾロリ』で距離が近くなった時に、たまたま「トルネードベース」(編注:2006年にスタートしたWEBマガジン。2008年まで更新されていた)に小説を掲載させていただく事になったので、ダメ元で芝山さんにおねだりをしたんです。岡村さんに『ゾロリ』で恩を売っていたので(笑)、岡村さんを通して頼んだら、芝山さんは「いいよ」って引き受けてくださった。
本郷 それは今でも読めるんですか。
もり もう読めないです。一応、原稿はありますし、芝山さんが描いてくださった画のデータは残してあって。
本郷 じゃあ、芝山さんの画集が出るのだったら、掲載されるといいかもしれないですね。
もり 勿論、勿論。私のところにデータがあります。
本郷 で、その時は注文とか付けたんですか。
もり なんにも付けてないです。「こういうものを書いたので、大変恐縮なんですけど、イラストを描いていただけませんか」というかたちでお願いしました。「どこの画がほしいとかないの?」と聞かれたので、芝山さんが思い付いたところを描いてくださいと言ったんですよ。そしたら、場面としては本当に的確に、さらに望んだ以上に格好いい画を描いていただいて。
本郷 本当、きちんと読める絵物語としては、芝山さんの仕事の中ではレアな部分だと思いますけど。
もり 本当に感謝してますよ。
本郷 その後は、2012年と2013年の『まじめにふまじめ かいけつゾロリ』の映画の脚本というかたちになる?
もり その時は、もう芝山さんは関わられてないです。
本郷 あ、そうなんですか。
もり あの時は監督も加瀬さんから岩崎知子さんに代わって。で、僕が呼ばれてシナリオ、最初の2本か3本かな。
本郷 2012年の『映画かいけつゾロリ だ・だ・だ・だいぼうけん!』には監修の役職で芝山さんの名前が出てるけど、実質は。
もり 名前は出てますけど、ほぼやってないです。
本郷 じゃあ、最後に芝山さんと関わったのは「サンタクルーズ」。
もり そうです。その後は仕事では関わってないですね。
本郷 その後に会ったのは芝山さんを囲む会ですか。師匠を囲む会は何回ぐらいやったのかな、4~5回やったのかな。
もり そうですね、4~5回やってますね。本郷さんのお声掛けのおかげで、やっと芝山さんが僕らに心を開いてくれた。
本郷 そうかもね(笑)。ちょっと嬉しかったんだろうね。
もり でね、それまではやっぱり上司と部下だったんだけど。
本郷 そうだね。距離感があった。
もり やっと認めていただいたというか。酔っ払わせて、無理やり我々が。
本郷 本音を吐かせた(笑)。
もり そうそう。本音を吐かせたり。それから無理やり弟子認定をしていただいたりとか。「僕らが弟子って事でよろしいですね?」と言って、「分かった。お前ら全員弟子だ」という言質をいただいてるとかね。
本郷 亜細亜堂を辞めたばっかりの時のシンエイの忘年会があって。大勢でワアワアやっている時、テレ朝のプロデューサーに「本郷ちゃんってオカマなの?」と言われたんですよ。「違いますけど」と答えたら「芝山さんが今来てさ、あいつは裏切り者でオカマだって言ってたよ」って。
もり 浅草の人だから口が悪いんですね。
本郷 だけど、それがちょっと嬉しかったね。認めてくれたから悪口を言ってくれるみたいな。どうでもいいなら言わないじゃない? その師匠の会を何回かやった時に、芝山さんが「本郷君はオレに似てるね。口の悪いところが」と言ったんです。「そこだけかい!」と思って。でも、ちょっと嬉しかった。
もり はいはい。
本郷 やっぱり洒落てるんだよね、全体的に。
もり だから、粋な方だと思う。
本郷 そうだよね。あんまり人間関係をベタベタさせない。全部仕事で結果を出す。何十年にも渡って亜細亜堂を支えていたわけじゃない?
もり そうですよね。売上の大半を芝山さんが出してたわけだから。
本郷 芝山さんが仕事を決めてきて、その仕事をみんなに分配する。芝山さんに「なんでそんなに沢山できるんですか」と聞いた事があるんだけど「責任があるからだよ」と言われた(笑)。
もり (笑)。僕はゴンゾの時代に似たような事を少しやりましたけど、無理ですね。芝山さんみたいにはできない。
本郷 普通の人なら「それが自分にとってなんのメリットがある?」と考えちゃうじゃない。だけど、芝山さんは何十年にも渡ってやった。自分がまだ亜細亜堂にいた頃の事だけど、「芝山さん、これもお願いします」「これもお願いします」と仕事を積まれた後、芝山さんの「なんでもかんでもオレがやれるってものじゃないんだよ」という独り言が聞こえた事があった。芝山さんでもきついんだって思いました。
もり いや、だって凄い仕事量ですから。自分は足元にも及ばないぐらいです。僕は亜細亜堂時代に5本掛け持ちとかした事がありました。大晦日に家に帰れず、熱を出して、元旦を亜細亜堂の2スタの奥の部屋で迎えた事がありましたけど、あの時の自分よりも仕事してますからね。芝山さんがあの仕事量を実現させていたのは即断即決ですね。
本郷 そうそう、それだね。
もり 即断即決って言葉を芝山さんから学びましたね。「プロは即断即決」って。
本郷 前に大武(正枝)さんに聞いた時もその話が出たんだけど、芝山さんって、迷ってる時間がないんだよね。机に座った瞬間に描き始める。普通の人って座ったところで「はあ~」とか「ふう~」とか、そういう時間があるんだけど、座った瞬間に手を動かしてて止まらないのが凄いよね。
もり 近くの席で仕事をしていた頃にも感じていました。それが気配で分かるんですよ。姿は見えてないけど、ず~っとそこにいて手を動かしているのが分かる。
本郷 手を動かしてる。
もり あれは恐怖ですよ、本当に。
本郷 ああいう人は、他に見た事がないなあ。
もり 怠けられないっていうか。
本郷 近くにいたらね。
もり 近くにいる他のベテランはのんびり仕事をしてるんですけどね(笑)。
本郷 芝山さんは他の人が自分と同じようにはできないっていう事を表面上は気にしてないよね。
もり 芝山さんの自慢的なトークってあまり聞いた事がないんですが、『狼少年ケン』の時に一晩で900枚描いたと聞いた事があります。
本郷 (笑)。
もり 一発描きで全部描いているから。
本郷 一発描きだろうね。
もり だけど、900ってどういう数だろうと思いますけど。
本郷 まあ、早いんだろうね。やっぱり巧くて早い人って描く画が見えてて、なぞるに近い。
もり それも言われてましたよね。「どうしたら描けるんですか」「いやあ、見えてるから、それをなぞってるんだよ」って。
本郷 『ドラえもん』の劇場を20作ぐらい、毎年、ほぼ1人でコンテをやっていたでしょ。
もり 表紙は描かなくていいのに、表紙の為にすげえ画を描いてるし。
本郷 そうそう。表紙の為に凝った画を描いている。それも洒落てるんだよね。端からだと余裕があるように見えるようにやってるというか。
もり 芝山さんが「オレの仕事はコンテが一番いいんだ」と言った事があるんです。「お前らが寄ってたかってひどいものにしてる」っていう。
本郷 芝山さんが酔っ払った時に、私もそれを聞きました。「みんなで寄ってたかって、オレのコンテをダメにしやがって」と言っていた。
もり その一言に尽きますよね。本当はそう思っているんだけど、普段は口に出さない。
本郷 芝山さんが、どこかの出版社のアニメとは関係ない編集部に依頼されてイラストを描いて、それで「あなたの画は冷たい」と言われたんです。それで凄く怒ってたのは覚えてるんだよね。
もり (笑)。
本郷 だけど、分かるところもあるんです。画に情念みたいなのを入れる事ってありますよね。小林さんはまさに情念の人じゃない。芝山さんって、それを入れたくないタイプなので。
もり 照れ屋さんなんですね。
本郷 そうそう。
もり 分かります。
本郷 気持ちは熱いし、嫉妬深いところもあるんだけど、それを気取られないようにしている。それが格好よさだと思っているところがあると思う。
もり だから小林さんとペアだったんじゃないですか。
本郷 そうだね。対になってるんだよね。2人とも小林さんタイプだったら、大喧嘩するよね。
もり そうそう。すぐに決別してる。
本郷 決別してるよね。一時期、藤子不二雄的なノリで、亜細亜堂って芝山さんと小林さんがコンビでやっていて。
もり 『ど根性ガエル』ではひとつのエピソードを前半と後半で分けて、「せーの」でそれぞれが描いてたって聞きましたからね。
本郷 亜細亜堂というペンネームでやっていた時はそうだったらしいよ。『昔ばなし』をやっていた時も、シナリオを半分ずつ持って帰って、家でやって合わせたと言ってたよ。
もり 『昔ばなし』で思い出しましたけど。「枚数使いすぎ」問題が亜細亜堂で勃発した事があるんです。それが小林さんの逆鱗に触れて。
本郷 ああ(笑)。
もり その時に芝山さんが、500枚で『昔ばなし』を作ったんです。カメラワークを駆使して。ほとんど止めスライドで、500枚でやりきりましたからね。その時にカメラワークで見せるっていう手法は、自分の中で残りましたよ。
本郷 小林さんはそう言うけど、自分が『昔ばなし』をやると滅茶苦茶枚数がかかる。
もり すげえかかってましたよ(笑)。
本郷 でも、人が枚数をかけてると怒るんだよ。経営者なので。
もり 小林さんといえばタイミングの付け方も凄いです。
本郷 凄いよね。
もり 「え、こんなところで5コマ使うの!?」っていうのもありましたから。
本郷 芝山さんも小林さんのタイミングを褒めていましたね。私は芝山さんと小林さんの撮出しが一番最初の仕事だったんです。最初にその2人の仕事ぶりを間近で見れたっていうのは凄くよかったと思いますけど。小林さんの話は尺足らずになる事が多くて、10分しかないのに2分足らない事があって、そうしたら小林さんが「全部のカットを2秒ずつ延ばせばいいんだよ」と言って。
もり (笑)。
本郷 芝山さんのはカッチリ作られてて、全部そのまんまでパッケージみたいになってるんだよね。小林さんのは意外とアバウト。
もり 長嶋(茂雄)な感じですよ。
本郷 そうそう。同じ作品をずっとやってた2人なのに、方法論がまったく違うんだよね。あれがやっぱアニメーションの面白いところだなあって。
もり それが亜細亜堂の個性になっていた。
本郷 個性だね。その2人がメインで、あとは河内さん、山田さんがいた。それに加えて須田さんがいた。それが亜細亜堂のスタイルだった事は間違いないですね。
もり そうだと思います。
本郷 芝山さんって『ドラえもん』と『ちびまる子ちゃん』と『忍たま乱太郎』の監督をやっていて、そのどれもが今も続いてるわけじゃないですか。それらの作られたフィルムの時間数はもの凄いものであるわけで。それが世の中に流布されていて、観た人がアニメ好きになっていったというのは絶対にあるわけで。
もり しかも、それらの作品のベースを作られてますからね。作品のマニュアルを最初に作っていて。
本郷 その部分って、世の中ではあまり評価されないんだけど、作品を周回軌道に乗せるっていうのは凄く難しい事だと思うんだよね。
もり 難しい事だと思います。
本郷 芝山さんは職人って言葉が一番合うかもね。
もり 職人ですよね。
本郷 建築で言うと、3階建ての豪華な邸宅を作るんじゃなくて、誰にとっても住みやすい平屋を作るというか。そして、自分を出しすぎず、原作者の作ったものに準じる事ができる。そういう能力がある人なんだと思います。