作成者アーカイブ: アニメスタイル編集部
第915回 原画を描いてて、ふと……
いつもの如くシリーズ制作中盤以降の自分は、原画を描いたり直したりな日々……
原画を描いている最中「俺、何でこんな仕事してるんだろう?」と、思考が寄り道をする時があります。
レイアウトを描いて、同じキャラクターの画を何枚も描いて芝居をつけて、タイムシートとカメラ指示して……。数ある“絵描き”業の中でもかなり特殊で、アカデミックな美術情操教育を受けた者が必ずしも勝利者になれるとは限らない不思議な仕事(と、俺は思っています)、それがアニメーター。
自分のルーツ——『まんが道』(藤子不二雄A・著)“パラパラマンガ”を描いていた小学生時代は“単なるアニメ遊び”。中学生・高校と漫画描きと出﨑(統監督)アニメに夢中~を経て、マンガを諦めいったんアニメを目指すと決めて上京。
専門学校で小田部羊一先生にはパラパラマンガの“工夫”みたいなモノを楽しく教わった気がします。つまり、何気なく何枚も何枚も無駄に画を積み上げていた俺の“遊び”に「こうするともっと感じが出ない?」的なプロからのアドバイスをしていただけた、と。
卒業~テレコム・アニメーションフィルム時代。新人(動画)の頃は夜中・自宅にて我流で描いた原画の真似事を「見てください!」と大塚康生さんに見せに行っては「ここはこうならない」「本来はこう言う途中のポーズが入って~」などと“アニメーションの根拠”みたいなものをハッキリ教わりました。
原画試験に合格後、最初の原画の先生・田中敦子さんより「これおかしいでしょ?」と初原画を笑われて“プロをなめるんじゃない”を思い知らされました。その後、田中さんはアメリカ出張が決まり『SUPER MAN』一本御一緒したのみで、自分の身は田中さんから友永和秀・師匠に手渡されました。余談ですが「THE ART OF The Princess MONONOKE もののけ姫」(スタジオジブリ責任編集)にある『もののけ姫』制作日誌に“’97 2.11(火) 原画の田中敦子氏、今日で作業が終了し、テレコムへ帰還”とあるのですが、その次の日でした。一緒に『SUPER MAN』の作打ちをしたのは。当時、新人原画マンは先生と一緒に作打ちを受けて作業パートを分担するシステムだったため、自分の原画INは田中さんの帰還待ちだったわけ。だから田中さんが帰還するまで描いていた『もののけ姫』の動画(サンの胸揺らしたやつ)が板垣にとっての最後の動画になります。
で、友永さんに引き継がれた話に戻します。自分にとって、友永さんはいちばん長く教えていただいた、正に原画の師匠。レイアウトの決め方、芝居構成、ポージング、タイミングと何作も面倒を見ていただきました。だからと言って『カリオストロ』のカーチェイスみたいなものは、俺には描けるわけありません(汗)。ただ、いちばん俺の目に焼き付いているのは、
友永さんの仕事に対する姿勢・後ろ姿です!
本当に原画という仕事に惚れ込んで真剣に、そして楽しんで作画机にしがみついている感じでした。
出﨑憧れのコンテ・演出家志望であったハズの板垣が、監督をやりつつも未だに傍らで原画を描き続けているのは、テレコム時代の友永さんの背中が忘れられないからだと思います。友永さんがあれほど入れ込んでいたアニメーターという仕事、やはり一度飛び込んだらやめられないほどの魅力があるのだろうと信じて自分もやってきました。不思議なことに体力・集中力があった若い時より、歳とった今描く原画のほうが面白いと感じることが最近多くなってきました。
ふと思いましたが、俺に原画を教えてくださってた頃の友永さんて、今の俺より若い計算になるんですね……。そりゃあ、自分も若手の面倒見るのが仕事のメインになる訳ですね。
と言う訳で、ウチの若手ホープ・木村博美初監督作『キミ越え』を成功させますよ!
第552回 いきなりおしぼりで顔をふいてはいけない
第914回 『キミ越え』鋭意制作中!!!
申し訳ありません、本日打ち合わせと原画作業でバタバタ(汗)。『沖ツラ』制作話は来週にして、『キミ越え(キミと越えて恋になる)』の話を少々。
とにかく、木村博美初監督&総作画監督と、頑張っています。自分の方は共同監督、そしてもちろん“作画プロデューサー&作画監督”も兼任して全面的にサポートさせてもらっています。
『COP CRAFT』『異世界でチート能力(スキル)を手にした俺は、現実世界をも無双する』と一緒に作品を作ってきて、今度は共同で監督もお任せ! 非常に感慨深いものです。演出面ではまだ俺の方が色々アドバイスする立場にありますが、正直、作画面では木村さんの拘りに付いていくのがやっと、てとこでなんとかやっています。
という訳で、
『キミ越え』の新たなPV——メインPVが上がっていますゆえ、是非ご覧ください!
第310回 漫画映画音楽の本流 〜トンデモネズミ大活躍〜
腹巻猫です。今回は、7月1日から配信開始された日本アニメーション作品の音楽集「NICHI-ANI Classics」を紹介するシリーズの第3弾。『トンデモネズミ大活躍』を取り上げます。筆者の大好きな作品です。
配信については下記を参照ください。
NICHI-ANI Classics公式サイト
https://sites.google.com/view/nichi-aniclassics
『トンデモネズミ大活躍』は1979年6月にフジテレビ系「日生ファミリースペシャル」の1本として放映された日本アニメーション制作のアニメスペシャル(単発TVアニメ)である。
陶芸職人のマイヤーじいさんは酔っぱらった勢いで1体のネズミの人形を作り出す。それは、耳が長く、尻尾が短く、体が青い、できそこないのネズミだった。目覚めて「トンデモないネズミを作ってしまった」とがっかりするマイヤーじいさん。しかし、そのネズミの人形に命が宿って動き出し、「トンデモネズミ」と名乗って家を飛び出した。冒険の旅を続けるトンデモネズミは、ある日、自分がトンデモネコに食べられる運命にあることを知ってしまう。
70年代末から80年代に数多く作られたアニメスペシャルの中でも、筆者が最高傑作ではないかと思っている作品。原作はポール・ギャリコがモナコ公妃となったグレース・ケリーのために書いた愛らしい児童文学。アニメ版スタッフは、演出/斎藤博、脚本/雪室俊一・斎藤博、キャラクターデザイン/森やすじ・百瀬義行、作画監督/百瀬義行という、そうそうたるメンバー。声の出演がまた豪華で、トンデモネズミ役の野沢雅子を筆頭に、槐柳二、永井一郎、杉山佳寿子、井上和彦、雨森雅司、大木民夫、熊倉一雄、石坂浩二(ナレーター)と聴いているだけで楽しくなる。お話もよくまとまっているし、劇場で上映してもいいくらいの快作だ。
音楽は中川昌が担当。アニメファンにはあまりなじみのない名前だが、トランペット奏者から作曲家に転身し、宝塚歌劇団、OSK日本歌劇団等の音楽監督を務め、CM音楽やポップスのアレンジ等でも活躍した音楽家である。
本作の音楽は古典的なミュージカルを思わせるシンフォニック・ジャズ・スタイルの編成で書かれている。ストリングスが奏でる流麗な曲もいいし、楽しいビッグバンド風の曲や思い切りはじけたジャズファンク風の曲もいい。全編フィルムスコアリングで作曲され、アニメーションのテンポやリズム感と一体となった、すばらしい「漫画映画音楽」になっている。
配信中の「トンデモネズミ大活躍音楽集」には、本作の劇伴音楽が完全収録されている。収録曲は以下のとおり。
- プロローグ〜マイヤーじいさんの陶芸工房
- マイヤーじいさん、ネズミの人形を作る
- とんでもないネズミを作ったぞ
- トンデモネズミ旅に出る
- オバケのドロロン
- トンデモネズミとオバケたち
- トンデモネズミ、タカに襲われる
- タカの背に乗って
- 空から落ちたトンデモネズミ
- ウェンディとの出会い
- 友だちの約束
- 悲しい別れ
- トラに気をつけろ
- 犬の包囲網
- 夜のサーカス
- トラの帰還大作戦
- 涙の再会
- トンデモネコの恐怖
- トンデモネズミがさらわれた!
- トンデモネズミを救え!
- トンデモネズミ、また旅に出る
- トンデモネコとの対面
- 対決!トンデモネコ対トンデモネズミ
- 勇気の勝利〜エピローグ
構成は筆者が担当した。NICHI-ANI Classics公式サイトに構成意図と聴きどころを掲載しているので、概要はそちらを参照いただきたい。
https://sites.google.com/view/nichi-aniclassics/home/tondemonezumi-daikatsuyaku
ここからは筆者のお気に入りの曲を紹介しよう。
トラック1「プロローグ〜マイヤーじいさんの陶芸工房」は、石坂浩二の語りとともに始まる物語のプロローグとマイヤーじいさんの紹介パートに流れる音楽。ロマンティックな曲調は、まるでミュージカルの序曲のよう。中間部からはマイヤーじいさんのキャラクターを描写する、ユーモラスな、でも品のよい音楽になる。1曲の中で次々と表情が変わって、これからの展開を期待させ、視聴者をわくわくさせる音楽である。
トラック4「トンデモネズミ旅に出る」は、トンデモネズミの旅立ちのテーマ。愛らしい導入部はトンデモネズミが夜中に動き出すシーン。リズミカルな曲調に転じて、トンデモネズミのお茶目なキャラクターが印象づけられる。旅立ちの場面になると、紙ふうせんが歌う主題歌「僕は生まれて」のメロディがストリングスで奏でられる。フィルムスコアリングならではの動きと展開のある曲調が楽しめる1曲だ。
トラック5「オバケのドロロン」はビッグバンドジャズ風に書かれた、オバケのドロロンのテーマ。永井一郎の快演と音楽が組み合わさって、インパクト抜群のキャラクターになった。次のトラック6「トンデモネズミとオバケたち」は、ドロロンの仲間が現れてトンデモネズミを怖がらせようと奮闘するシーン流れた、ドロロンのテーマのバリエーション。本作の音楽は、スタジオにミュージシャンを集めてセッション形式で一斉に録音したのだろう。現場のノリが伝わってくる演奏だ。
トラック7「トンデモネズミ、タカに襲われる」は、カエルの夫婦と話していたトンデモネズミが、突然飛来したタカ(キャプテン・ホーク)に捕らえられ、空へ運ばれていくシーンの曲。緊迫した曲調でトンデモネズミの驚きととまどいを描写している。始まりは危機感のある曲調だが、途中から主題歌の変奏が入ってきて、楽しい曲調に変化していく。タカはトンデモネズミを傷つけるつもりはなく、トンデモネズミは束の間、タカの背に乗って旅を続けることになるのだ。続くトラック8「タカの背に乗って」とトラック9「空から落ちたトンデモネズミ」では、空の旅の爽快感やスリルが、ストリングスと軽快なリズムによる音楽で表現されている。
トラック10「ウェンディとの出会い」とトラック11「友だちの約束」は、人間の少女ウェンディとトンデモネズミが出会うエピソードのために書かれた曲。紙ふうせんが歌う挿入歌「ウェンディ・ラブソング」のメロディが使用されている。うっとりするようないいメロディで、ウェンディ役の杉山佳寿子の芝居とともに、心に残るシーンになった。
公式サイトの解説にも書いたが、「友だちの約束」は実は未使用曲。本編では「ウェンディ・ラブソング」の歌入りが流れた。「友だちの約束」は音楽集だけで聴けるスペシャルトラックである。
トンデモネズミとウェンディとのシーンは音楽も含めて素敵なのだけれど、せっかく挿入歌まで作ったのに、すぐにウェンディとのお別れが来てしまうのが残念だった。
トンデモネズミはサーカスから逃げ出してきた気の弱いトラと出会う。トラはサーカスに帰ろうとするが、トラを捕らえようと犬の警官たちが包囲網を敷いていた。
トラック15「夜のサーカス」は、トラをサーカスに帰そうとするトンデモネズミが、夜中にサーカスのようすをうかがう場面に流れた2分あまりの曲。フランス犯罪映画やアメリカのフィルムノワールを思わせるミステリアスな雰囲気のジャズである。中間部はフルートが入って、劇場作品「ピンクの豹(ピンクパンサー)」みたいな小粋な演奏になる。大人っぽくてカッコいい曲だ。
トラック19「トンデモネズミがさらわれた!」とトラック20「トンデモネズミを救え!」の2曲は、本作の音楽の中でもきわめつけのスピード感のある曲。トンデモネズミを商売に利用しようとするペッテン氏にトンデモネズミが誘拐され、トラのブーラカーンがそれを追跡するシーンに流れた。ブラスサウンドを効かせたジャズファンク、あるいはフュージョン風の曲調が『ルパン三世』みたいで最高だ。可愛らしい印象の『トンデモネズミ大活躍』にこんな音楽が流れるのか? と意外に思った人も多いのではないだろうか。
ついにトンデモネコと出会い、対決するトンデモネズミ。トラック23「対決!トンデモネコ対トンデモネズミ」は、2人の対決を描写する緊張感のある曲。ヨーロッパ史劇映画のような重厚な雰囲気が感じられる。中川昌はミュージカルや舞台劇で歴史ものの音楽を書いた経験があるのかもしれない。そんなことを考えさせられる曲である。
トラック24「勇気の勝利〜エピローグ」は大団円とエピローグの曲。主題歌「僕は生まれた」のメロディをアレンジした躍動感たっぷりの華やかな曲である。しみじみと「いいお話だったなあ」と思わせてくれる音楽だ。公式サイトの解説にも書いたが、後半のエピローグの曲は本編未使用。本編では代わりに主題歌「僕は生まれた」が流れた。映像が観られる方は、本編のラストにエピローグの曲を重ねて、幻のバージョンを再現してみても面白いと思う。
『トンデモネズミ大活躍』は、難しい理屈や解説は不要な、無心に楽しめる作品である。音楽もしかり。映像とともに音楽を楽しみ、音楽を聴いて本編をイメージするのが最良の聴き方だろう。これぞ漫画映画音楽の本流だ。中川昌は舞台やポップスのジャンルを中心に活躍した人で、映像音楽はあまり手がけていないようだが、もっとたくさんアニメの音楽を担当していたら、きっと楽しい音楽を残してくれていただろうと思う。
残念ながら『トンデモネズミ大活躍』は、過去にビデオカセットやLDでリリースされたことはあるものの、現在は配信や映像ソフトで観ることができない。それでも、もしチャンスがあれば、ぜひご覧になっていただきたい名作だ。せめて音楽だけでも楽しんでもらいたいと考えて、筆者はこの音楽集を提案し、構成した。これを機会に『トンデモネズミ大活躍』に興味を持つ人が増えてくれたら、こんなうれしいことはない。
トンデモネズミ大活躍音楽集
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第551回 NetflixのWWEドキュメンタリー
第913回 『沖ツラ』制作話~7話 沖縄の台風とコンテ修正
7話、折り返しです。6話の続きで台風話。こちらから撮影チームにリクエストした“暴風雨”が、巧くいってて個人的に嬉しかった——って、(傍らのコンテを改めて見て)この話数もコンテ直しまくってますね。ご当地スーパー“ユニオン”が閉まってて、安寧が崩壊する喜屋武さん比嘉さんは、もちろん原作から面白かった件ですが、比嘉役・ファイルーズあいさんの狼狽した芝居「すすすすす……」とか聴いた時、より面白くなっててスタジオで爆笑してました。さらに沖メモシーサーのザワつきも良いです。
ところで今さらですが、直した~修正した~といちいち言うけど、
で、板垣はコンテをどういうふうにチェックしているのか?
と、思われる方もいらっしゃると思うので、この辺で少し。
前作『いせれべ』も今作『沖ツラ』も、下に監督がいようとコンテの主導権は板垣の方にあると思っていただいて結構です。ここは前々からこの連載で語っているとおり、
自分にとって監督とは、コンテを自在に描く・操る立場にある人のこと!
であると思っているからです。「じゃ、何でコンテチェックも監督にやらせてやらないんだ?」と仰る方も多いと思います。で、その疑問に答えると、ハッキリ言ってウチ(ミルパンセ)で、野放しで流せるコンテを描けるスタッフがまだ育っていないということです。未熟な人のコンテをなんでも個性~個性~で流すと、ただでさえ限りある作画リソースを不用意に痛め付けることになりかねないし、下手をすると製作委員会の方から「このコンテで大丈夫?」とその後の制作自体に不安がられることにもなります。これは実際あった話なのですが、とある10年以上前、自分の監督作品の隣の班で準備していた某タイトル(俺の監督作品ではありません)は、総監督・監督のダブル監督で進んでいました。ちょっと遅れ気味で上がってきた監督のコンテ第1稿に対して製作委員会側から「原作とだいぶ印象が違うんですが、総監督さんがしっかり直してくれるんですよね?」と言ったやり取りがありました。その際、総監督は「直します」と言っておきながら、ほとんど手を付けずそのまま“総監督チェック済み”として提出したのです。当然それに委員会が激怒。で結局、総監督は解雇。その後、新監督で制作され、その第1稿を上げた元監督は一演出処理に降格。コンテは新監督が全修したのでした。
つまり、監督が居ての総監督だったとしてもコンテの全責任を取れなければならない! ということになります。よって、取り敢えず今は社内スタッフのコンテを大幅に直しつつ、「ここはこう~」と本人に教えながらやっていくしかないと覚悟を決めたのが『いせれべ』でした(その前の『蜘蛛ですが、なにか?』まではほぼ全話自分でコンテ切ってましたから)。そんな中「コンテやりたい人~」と募って、集まったのが今作『沖ツラ』のコンテマンという訳です。その際「俺にどれだけ直されても処理(演出)までやる」というのが条件。
と、もう時間です。コンテ修正の話は次回へ! 『キミ越え』に戻ります(汗)!
第244回アニメスタイルイベント
ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』14 平安時代の女性たちはなぜ出産して亡くなったのか 編
片渕須直監督が制作中の次回作のタイトルは『つるばみ色のなぎ子たち』。平安時代を舞台にした作品のようです。
『つるばみ色のなぎ子たち』の制作にあたって、片渕監督はスタッフと共に平安時代の生活などについての調査研究を進めています。その調査研究の結果を披露していただくのが、トークイベント「ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』」シリーズです(以前は「ここまで調べた片渕須直監督次回作」のタイトルで開催していました)。
9月6日(土)昼に「ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』14」を開催します。サブタイトルは「平安時代の女性たちはなぜ出産して亡くなったのか 編」です。
過去の「ここまで調べた」イベントでもお産で女性が亡くなることが多かったという話題は出ていましたが、今回はその発展形です。より深く、さらに別の事柄と絡めたかたちで語られます。
出演は今回も片渕監督、前野秀俊さん。聞き手はアニメスタイルの小黒編集長が務めます。会場は阿佐ヶ谷ロフトA。今回のイベントも「メインパート」の後に、短めの「アフタートーク」をやるという構成になります。配信もありますが、配信するのはメインパートのみです。アフタートークは会場にいらしたお客様のみが見ることができます。
配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。また、今までの「ここまで調べた~」イベントもアニメスタイルチャンネルで視聴できます。
チケットは2025年8月2日(土)正午12時から発売となります。チケットについては、以下のロフトグループのページをご覧になってください。
■関連リンク
告知(LOFT) https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/327669
会場&配信チケット https://t.livepocket.jp/e/r9xci
配信チケット(ツイキャス) https://premier.twitcasting.tv/asagayalofta/shopcart/387934
なお、会場では「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」上巻、下巻を片渕監督のサイン入りで販売する予定です。「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」についてはこちらの記事をどうぞ→ https://x.gd/57ICr
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第244回アニメスタイルイベント | |
開催日 |
2025年9月6日(土) |
会場 |
阿佐ヶ谷ロフトA | 出演 |
片渕須直、前野秀俊、小黒祐一郎 |
チケット |
会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,800円、当日 2,000円(税込·飲食代別) |
アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。
第550回 満員電車で涼しい風が……!?
第912回 『沖ツラ』制作話~6話 蕎麦と草履
6話の続き~「沖縄そば」。冒頭の昔話から現代の蕎麦屋店内まで、演出もアニメーターも“室内のレイアウト”が巧く描けないのには参りました。で、コンテもレイアウトも大直し。いつもどおり、お手本を見せないと! しかも、昔話編での“●原●山”、もちろん原作どおりのネタなのですが、若手スタッフの上げた原画が思った以上、いや原作以上に●原●山で来て、慌てて直しました!
ところで沖縄そばは自分も大好き! 昔、友人らと仲良く沖縄料理屋で飲んだものですが、その際友人の一人がトイレで席を立った隙に、その友人のどんぶりにコーレーグースを山ほど入れて、トイレから帰って来た友人が一口食って噴いた! のを思い出します。その時は他愛のない悪戯したが、辛いだけでなく結構アルコールも入ってたんですね~。
「島ぞうり焼け」編。この話を観ても純粋に“沖縄県民っぽく”なりたがってるてーるー、“ペカー”と満面の笑みで島ぞうり焼けを自慢する喜屋武さん、共に微笑ましいです。それと「子供の頃に(島ぞうり焼けの)見せ合いっこしてケンカしたさー!」と熱くなっている喜屋武さんに、「しょうもな!!」と呆れる上間・下地に(アフレコ時)爆笑しました! もちろん原作のネタまんまですが、声が入って一段と笑えるやり取りになったと思います。
放り投げられた比嘉さんの靴下が、愕然となった喜屋武さんの頭に乗っかるのは、田辺(慎吾)君のコンテ時アドリブです(これは、良くできました!)。
で、「沖縄の台風」編。こちらもTUTAYAでDVD借りて~とか大変勉強になる話ですが、実はその本編内容よりも制作現場の話の方が深刻で、
作画の直しがあまりに多くて、本音を言うと途中挫けそうになりました!
作画だけでなく背景も、「どうしてこうなった……!?」って上がりの連続。色が着いた(完成した)ラッシュを観てリテイクだらけ。それは、レイアウト上のアイレベルが間違ってるとか、キャラが似てない云々の「今回はゴメンナサイ……」程度の話ではありません。少なくとも、総監督からの贅沢リテイクとは程遠い、このままでは視聴者にお見せできないレベルだったってこと。
でも、人のせいにする気はありません。だからこそ自分が率先して黙々と直しまくったって話です。メインアニメーターに直しを指示した上で、その内半分は俺自身で作監修正する訳ですが、その自分のラフを拾って動画・仕上げしてくれるのが、社内スタッフのいる強み。ぶっちゃけ、良くない画を上げた張本人スタッフだったとしても、リテイクが終わるまで(自らのカットも含めて)大直しに付き合ってくれるのですから。
ただそんな中ラスト辺り、てーるーの宴シーンは森(亮太)君の原画で、流石の上り。“調整”程度のキャラ修正で済ませることができて、とても感謝でした。
でもやっぱり、
6話もコンテ、直したなあ——改めて見ると!
と、言う訳で、『キミ越え』に戻ります(汗)!
【新文芸坐×アニメスタイル vol.192】
アニメーション作家 望月智充
8月9日(土)にお届けする上映プログラムは「【新文芸坐×アニメスタイル vol.192】アニメーション作家 望月智充」。演出家の望月智充さんにスポットを当てたプログラムです。
望月さんは監督として『海がきこえる』『きまぐれオレンジ☆ロード あの日にかえりたい』『めぞん一刻 完結篇』等を手がけています。今回の上映作品である『魔法の天使 クリィミーマミ 永遠のワンスモア』と『魔法の天使 クリィミーマミ ロング・グッドバイ』は彼の初期の代表作と言えるものです。
『永遠のワンスモア』と『ロング・グッドバイ』はTVアニメ『魔法の天使 クリィミーマミ』の続編として作られたOVAですが、『永遠のワンスモア』の前半はTVシリーズの総集編となっています。TVシリーズを未見の方でも、作品の内容がある程度はつかめるはずです。
今回のプログラムでもトークのコーナーを予定しています。トークのゲストは望月智充さん、映画プロデューサーの高橋望さん。高橋さんは『海がきこえる』のプロデューサーも務めています。トークでは上映作品の『永遠のワンスモア』と『ロング・グッドバイ』についてだけでなく、望月さんの仕事について、アニメーションに対する考えについてもうかがいたいと考えています。
なお、このプログラムと別に、新文芸坐は8月に『海がきこえる』の上映を予定しており、8月9日(土)は『永遠のワンスモア』と『ロング・グッドバイ』の前に『海がきこえる』の上映があります。そちらのチケットも購入していただければ、同じ日に連続して望月さんの作品を鑑賞することができます。
チケットは8月2日(土)から発売。チケットの発売方法については新文芸坐のサイトで確認してください。
●関連リンク
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/
新文芸坐オフィシャルサイト(「新文芸坐×アニメスタイル vol.192 アニメーション作家 望月智充」情報ページ)
https://www.shin-bungeiza.com/schedule#d2025-08-09-1
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【新文芸坐×アニメスタイル vol.192】 |
開催日 |
2025年8月9日(土)17時50分~21時30分予定(トーク込みの時間となります) |
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会場 |
新文芸坐 |
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料金 |
2800円均一 |
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上映タイトル |
『魔法の天使 クリィミーマミ 永遠のワンスモア』(1984/85分/BD) |
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トーク出演 |
望月智充(演出)、高橋望(映画プロデューサー)、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長) |
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備考 |
※トークショーの撮影・録音は禁止 |
第309回 にじみ出る「歌心」 〜ピコリーノの冒険〜
腹巻猫です。前回に続いて、7月1日から配信開始された日本アニメーション作品の劇伴音楽を紹介します。今回は『ピコリーノの冒険』です。配信については下記を参照ください。
NICHI-ANI Classics公式サイト
https://sites.google.com/view/nichi-aniclassics
『ピコリーノの冒険』は、1976年4月から1977年5月まで放映された日本アニメーション制作のTVアニメ。イタリアの作家カルロ・コルローディによる児童文学「ピノキオの冒険」を原作に、遠藤政治と斉藤博が共同で監督を務めて映像化した作品だ。
ある日、ゼペットじいさんが作った木彫りのあやつり人形に心が宿り、動き出した。ゼペットは人形をピコリーノと名づけて愛情を注ぐが、生まれたばかりのピコリーノは何をやっても失敗ばかり。しかも、ずる賢いぼろ狐とどら猫の2人組が、ピコリーノをだまして金貨を奪ったり、泥棒の手伝いをさせたりする。森に住む仙女は、だまされて泣いているピコリーノを助け、善悪のわかるいい子になってもらおうとするのだが……。
はせさん治と永井一郎が演じるぼろ狐とどら猫のキャラクターが強烈。あの手この手でなんどもピコリーノをだまそうとし、ピコリーノもそのたびにだまされてしまう。それでもぼろ狐とどら猫が憎めないのは、声優2人のアドリブ満載の演技のおかげだった。隠れた人気キャラである。なにせ「どら猫とぼろ狐」というキャラクターソングまで作られたのだから。
また、占いをするカエル、夜の館に現れる大カタツムリ、子どもをロバにしてしまうおもちゃの国、ピコリーノを飲み込むクジラなど、ちょっと不気味なファンタジー要素が散りばめられているのも本作の魅力。毒気のないおとぎ話とはひと味違う作品なのである。
音楽は歌謡界のヒットメーカー・中村泰士が担当。ちあきなおみの「喝采」、細川たかしの「心がわり」など、昭和歌謡の名曲を生んだ作曲家である。アニメソングでは本作の主題歌や劇場版『銀河鉄道999』の挿入歌「やさしくしないで」などが代表作だ。
『ピコリーノの冒険』のオープニングでは「音楽・中村泰士」に続いて「編曲・京建輔」のクレジットがある。京建輔は本作の主題歌の編曲を担当した作・編曲家。特撮ファンには「快傑ズバット」「科学戦隊ダイナマン」の主題歌と音楽を手がけた作曲家として知られている。
おそらく『ピコリーノの冒険』の音楽は、中村泰士が書いたメロディを京建輔が編曲する共同作業で制作されたのだろう。同時期に放映されていたTV時代劇「必殺シリーズ」の音楽が平尾昌晃と竜崎孝路の共同で作られていたのと同様のケースと思われる。中村泰士と京建輔は、TVアニメ『野球狂の詩』の1エピソード「北の狼・南の虎」でも共同で音楽を担当している。
本作の音楽のいちばんの魅力は、中村泰士が作曲したメロディだ。歌謡曲的な哀愁があり、しかも耳に残るキャッチーな曲が多い。また、本作では中村泰士作曲による挿入歌が5曲作られていて、そのうち4曲が劇伴にアレンジされている。オープニング主題歌とエンディング主題歌をアレンジした曲もあるから、中村泰士節がたっぷり聴ける。そのメロディを生楽器中心のシンプルな編成で聴かせる京建輔のアレンジもよかった。
「ピコリーノの冒険音楽集」では、約145曲の劇伴の中から98曲を選び、全60トラックに編集・構成した。1曲1トラックになっていないのは、1トラックを長めにしたいという要望があったから。音楽集の概略と構成意図などは下記の配信作品紹介ページを参照していただきたい。
「ピコリーノの冒険音楽集」紹介ページ
https://sites.google.com/view/nichi-aniclassics/home/piccolino-no-boken
ここからは、筆者が気に入っている曲や注目の曲を紹介しよう。
1曲目の「口笛と人形」は口笛とチェレスタによるさわやかな曲。実は本編では使われていない。何らかのシーンを想定して作曲されたのだと思うが、音楽メニューが残っていないので、それを知ることができないのが残念だ。
トラック2「ぼくの名前はピコリーノ」はオープニング主題歌のアレンジ曲。中村泰士らしいペーソスのあるメロディをリコーダーとアコースティックギターが奏でて、牧歌的な雰囲気をかもしだしている。
トラック6の「よろこびのワルツ」は、第2話でゼペットに服を買ってもらったピコリーノがよろこぶシーンに使われていた。イタリア的な優雅な愛らしさがあって、1分足らずで終わってしまうのがもったいない。
トラック9「出ました!どら猫とぼろ狐」は挿入歌「どら猫とぼろ狐」のアレンジ曲。とぼけた曲調ながら、悪だくみのためには手間を惜しまない苦労者(?)の雰囲気も出ているのが、うまいなあと思う。はせさん治と永井一郎が歌う原曲も傑作なので、機会があれば、ぜひ聴いていただきたい。
本作のヒロインとも呼べる仙女の登場シーンに流れたのがトラック13の「ルリ色の髪の少女」。少女の姿をした仙女は声優デビュー間もない小山茉美が演じていて、とても印象的だった。この曲は仙女のテーマというわけではなく、美しい心情を描くシーンにたびたび使われている。
仙女のテーマとして書かれたと思われるのが、トラック18「仙女さまが見ている」のメロディである。同じメロディでもう1曲「仙女さまの想い」という曲をトラック57に収録した。筆者のお気に入りの曲のひとつだ。
トラック15の「心を持った人形」は、音楽テープでは演奏の前に「人間ピコリーノ」という指揮者(たぶん)の声が入っていた。音楽メニューに書かれていたタイトルではないかと思う。劇中ではピコリーノが夢を見る場面や花畑を見て感動する場面などに流れている。ギターと薄いストリングスをメインにしたシンプルな構成ながら、味わいのある曲である。
トラック28「きっといい子になるよ」は、ゼペットとピコリーノの親子愛にも似た心情を描写する曲として、第1話から使用されている。第7話や第9話でピコリーノが仙女に「いい子になるよ」と約束する場面に流れているが、それもピコリーノがゼペットの気持ちを知ったからだった。ストリングスに木琴のトレモロが重なり、後半はギターがメロディを引き継ぐ。しみじみとした、とてもいい曲だ。
次のトラック29「ふるさとは遠く」も、哀愁を帯びたリコーダーの旋律が胸にしみる曲。70年代歌謡曲の香りがただよう、昭和世代にはぐっとくる曲想である。
次回予告に使われた「マリオネットの夢」(トラック30)は、海外ドラマ「ヒッチコック劇場」のテーマとしても知られるグノー作曲の「マリオネットの葬送行進曲」をオマージュした曲……というか、ほぼそのまんま(笑)。マリオネットをテーマにした曲だから、スタッフのお遊びなのだろう。
トラック31「空の旅」は、第17話でピコリーノが大きな鳩に乗って空を飛ぶ場面に流れた爽快感あふれる曲。オープニング主題歌のメロディが織り込まれているのが、昔ながらの劇伴らしくていい感じだ。
トラック37「愛をさがす旅」はピコリーノの旅の描写によく使われていた曲。フルートとピアノ、チェンバロなどが奏でる素朴で古風な曲想が、イタリアの田園風景にマッチしていた。後半はさみしげな曲調に変わる。前半と後半は同じMナンバーのAタイプとBタイプなので、1曲に編集して収録した次第。
トラック38「月夜のふしぎ」からミステリアスな雰囲気になる。
「月夜のふしぎ」は第32話で、仙女の館の長いらせん階段を大カタツムリが降りてくる場面に流れていた幻想的な曲。その後、おもちゃの国のエピソードでも使われている。
トラック39「おもちゃの国」とトラック40「ロバになったピコリーノ」は、本作の中でも強烈な印象を残すエピソード、ピコリーノがおもちゃの国へ行く第38話〜第40話で使われていた曲である。フリージャズや現代音楽を思わせるサイケデリックな曲調は、本作の音楽の中でも異色。こういう曲がぴったりのシーンが登場するのが、『ピコリーノの冒険』のあなどれないところだ。おもちゃの国は、子どもが夢中で遊んでいるうちにロバに変身してしまう国で、変身したロバはサーカスに売られてしまう。原作にも出てくるダークなエピソードである。
トラック41「ジーナの宝物」は、アヒルのジーナがピコリーノがロバになったことを知って泣くシーンで一度だけ使われた。ジーナの切ない気持ちを伝えるメロディが胸を打つ。
トラック47「おじいさんの面影」は、挿入歌「ごめんねおじいさん」のアレンジ曲。トラック16に収録した「おじいさんごめんなさい」も同じ曲のアレンジである。このメロディはピコリーノのゼペットへの想いを表現する曲として、たびたび使われていた。
トラック51「さめない悪夢」は、クジラの腹の中にピコリーノがのみこまれるエピソード、第50話と第51話で流れた曲。「おもちゃの国」と同じ系統の曲で、後半のロック的なエレキギターが妙にカッコいい。その次のトラック52「クジラの腹の中で」は、ピコリーノとゼペットがクジラの腹の中で語らう場面に流れたリリカルな曲。「さめない悪夢」から一転して美しい曲調に変わる展開の妙をねらった構成である。
最終回、ゼペットと一緒に家に帰りついたピコリーノは、仙女の力で人間の少年になることができた。ピコリーノのよろこびのシーンに流れたのが、トラック58「願いがかなう日」。ギターのあたたかい響きにほっとする。これも昭和歌謡的な愛すべき曲だ。
トラック59にはエンディング主題歌をアレンジした「おやすみピコリーノ」を収録。最後のトラック60は、オープニング主題歌の希望的なアレンジ「新しい旅立ち」で締めくくった。
前回の『みつばちマーヤの冒険』と同様、筆者は『ピコリーノの冒険』の劇伴をあまり意識したことはなかった。大杉久美子が歌う主題歌や挿入歌は70年代から聴いていて大好きだったのだが、劇伴にまでは注目していなかったのだ。
今回、音楽集を構成するために本編を改めて全話観て、劇伴をじっくり聴いて、予想していた以上にいい曲が多いなあと感じた。そのまま歌にできるようなメロディの曲がたくさんある。
現在のアニメでは、これほど印象に残るメロディが豊富に使われた劇伴はなかなかない。いっぽうで、こういうメロディは古いと思われるかもしれない。いかにも70年代の音楽である。けれど、それがいい。『宇宙戦艦ヤマト』だってそうだが、歌謡曲のヒットメーカーが作る劇伴には、いわくいいがたい魅力がある。にじみ出る「歌心(うたごころ)」とでも言おうか。最近はメロディを抑えたサウンド志向の劇伴が増えてきたが、こういう「歌心」のある劇伴が復活してもいいなと思う。
ピコリーノの冒険音楽集
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第549回 なつかしきラジオ体操
第911回 『沖ツラ』制作話~6話「旧盆」と具志堅さん
6話も沖縄知識満載で楽しい話数でした。こちらは大人数のキャラを巧くカットを割って、作画のカロリーを抑える工夫をと、これまたコンテで、結構手を入れさせてもらいました。
思い出されるのは冒頭、ファーストテイク(TAKE 1)では、なぜか比嘉・すず姉妹が門の前で出迎えていたので、「ここ玄関でしょう?」と俺の方でレイアウト(背景原図)を描き直して、演出・背景スタッフに指示、“玄関でのお出迎え”に変更しました。本当にコンテでも“玄関”と記してあったのになぜ、いつの間に門前に変更したのでしょう? だってその前にすでに居間に比嘉一族が集まっているってことは、“勝手知ったる”云々で門は開けっぱで通過して~の玄関では?
親戚一同でテーブルを囲んでいるカットも、TAKE 2でかなり調整した記憶があります。たとえ“止め画”でも、こういうシーンで日常感のある画が描ける人ってアニメーターの中でも限られているモノで、失敗したら俺が見本を見せるしかないのです。
個人的に“沖メモシーサー”解説での「ひざまずきしとけ~」が好き!ハライチ・岩井さんも仰ってたとおり、小桜エツ子さん最高です!「反省中……」の小シーサーは正座の足が失敗していたので、こちらも自分で直しました。
喜屋武さん・比嘉さんの「マドモアゼルんちゅ」はよく分からないけど笑いました。
比嘉のおじぃ役は(2話のご自身役)から引き続き、具志堅用高さん! めっちゃ良い!
何度聴いても笑えます。頭に荷物をのせたお姉さんは、音響監督・納谷僚介さんより「イメージ画だけど、おじいさん(具志堅さん)に入ってるなら、この女の人にも欲しい~」と提案されて、その場にいらっしゃった、方言指導の譜久村(帆高)さんに「やりません?」と、俺が振った気がします(笑)。
『沖ツラ』は、こういうムチャ振りをサラッと提案できるくらい和やかで楽しい、そして、リラックスしたアフレコ現場で本当に楽しかったのです!
で、また短くてすみません。そろそろ『キミ越え』に戻ります。
第548回 アニメーターえんぴつ(シャーペン)講義
第910回 『沖ツラ』制作話~5話続き……どやんちゅ!
たしか、5話Bパートからだったような。サンエー具志川メインシティで比嘉さんとてーるーのデート(?)話。これ、まず作画云々より純粋に、
てーるーってやっぱイイ奴だよな~
と。いきなりアロハシャツ(実はかりゆしウェア)買ったり、無邪気に沖縄に溶け込もうとしてて、本当に可愛いキャラです。「かりゆしウェア!(どやんちゅ!)」から「……ごめん(しょぼんちゅ)」の比嘉さんも可愛い、篠(衿花)さんカットです。で、「こここここここここここここここここここここここここここ、恋人に~」の比嘉さんは市川(真琴)さん。表情が良かったので、お二人の作画はそのまま活かしてます。店内の利用客モブはまた森(亮太)君に助けられました。サンエーデートで「なんか得したね」、その帰路(バス内)でも「~一緒に行こうね」だと、天然で女たらしなてーるーがイヤミじゃなく、ちゃんと“笑いのネタ”でオチているのが、この原作の良いところだと思います。5話に限らず『沖ツラ』って、コンテ~作画~アフレコ~ダビング~と何度も観聴きしてるはずなのに、何度もスタッフ皆で笑いながら作らせてもらえた幸せな現場でした。
で、5話最後は“ラジオ体操”! うちなーぐちバージョンのラジオ体操には驚き、爆笑しました! だって、
マジで何言ってるのかわからないんだもん(笑)!
この話で特筆すべきは、長谷川(千夏)さんのコンテがいちばん活かされているパートだということです。元々の長谷川さんコンテが、時間経過(ラジオ体操の初日~1週間後)を、同ポジ(同じレイアウトの使い回し)で巧く表現できていて非常に良かった上、さらに全体カット数が抑えめであったため、自身による原図チェックもスムーズに流れた印象でした。こういうキメの細かい演出って、納品前のリテイク数でその成果が発揮されるもので、実はこの5話が全話数の中で作画・美術・撮影含めいちばんリテイクが少なかったのではないか?(なぜか1話より……)と思います。
で、そろそろ『キミ越え』に戻ります。
第243回アニメスタイルイベント
北久保弘之の仕事3
監督やアニメーターとして活躍し、様々な作品を手がけてきた北久保弘之さん。8月24日(日)にその北久保さんのトークイベントの第3弾「北久保弘之の仕事3」を開催します。会場は前回と同じ、阿佐ヶ谷ロフトAです。
「北久保弘之の仕事3」では北久保さんの監督作品である『ブラックマジック M-66』『老人Z』『BLOOD THE LAST VAMPIRE』を中心にお話を伺います。トークの聞き手は小黒編集長が務めます。
前々回、前回の北久保さんのイベントでは、トーク中に関係者席の方からコメントをいただきました。今回も同様のかたちで進める予定です。関係者席に座っていただく方が決まりましたら、改めてお伝えします。
配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。
チケットは2025年7月12日(土)正午12時から発売となります。チケットについては、以下のロフトグループのページをご覧になってください。
■関連リンク
告知(LOFT) https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/325377
会場(LivePocket) https://t.livepocket.jp/e/imza0
配信(ツイキャス) https://twitcasting.tv/asagayalofta/shopcart/384761
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第243回アニメスタイルイベント | |
開催日 |
2025年8月24日(日) |
会場 |
阿佐ヶ谷ロフトA | 出演 |
北久保弘之、小黒祐一郎 |
チケット |
会場での観覧+ツイキャス配信/前売 2,300円、当日 2,500円(税込·飲食代別) |
アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。
第308回 野心的な試み 〜みつばちマーヤの冒険〜
腹巻猫です。今年はアニメ制作会社・日本アニメーションの創業50周年。それを記念して、さまざまな企画が動いています。
7月8日、日本アニメーション作品の劇伴音楽を紹介するWebサイト「NICHI-ANI Classics」が開設され、サウンドトラック音源を配信でリリースする企画が発表されました(配信自体は7月1日から始まっています)。
NICHI-ANI Classics公式サイト
https://sites.google.com/view/nichi-aniclassics
劇伴音楽配信の第1弾として選ばれたのは、『みつばちマーヤの冒険』(1975)、『ピコリーノの冒険』(1976)、『トンデモネズミ大活躍』(1979)の3タイトル。いずれも劇伴は初商品化となる作品ばかりです。
注目すべきは、これがレコードメーカーからの配信ではなく、日本アニメーション主体の配信であること。アニメ制作会社が自主的に過去作品のサントラ音源を配信しようという意欲的な試みなのです(一種の自主レーベルですね)。主要配信プラットフォームで聴けるので、ぜひアクセスしてみてください。
筆者はこのプロジェクトに、配信タイトルの選定、音楽集の構成・解説などで協力しています。「NICHI-ANI Classics」の開設を記念して、当コラムでは配信第1弾の3タイトルを順に取り上げていきたいと思います。
今回取り上げるのは、1975年に放送されたTVアニメ『みつばちマーヤの冒険』。ドイツの作家ワルデマル・ボンゼルスの児童文学をアニメ化した作品だ。
古城の下にあるみつばちの国に生まれたマーヤは、好奇心旺盛で活発な女の子。城の周囲の花畑の外には出てはいけないと言われていたが、未知の世界へのあこがれを抑えることができないマーヤは、ある日、掟を破って外の世界へ飛び出していく。旅の仲間はのんびり屋のみつばちの男の子ウィリーとマーヤを心配してついていくバッタのフィリップ。マーヤたちの行く手には広大な自然と、さまざまな生きものたちが待っていた。困っている昆虫を助けたり、逆に凶暴な生き物に襲われたりしながら、マーヤは冒険の旅を続けて行く。
マーヤとウィリーとフィリップのユーモラスなやりとりが楽しい作品である。現在のTVアニメではほとんど見られなくなった、やわらかい描線の作画がいいし、瑞々しい自然を水彩画風に描いた井岡雅宏の美術がまたいい。しかし、ほのぼのしたメルヘンタッチの作品というわけでもない。厳しい弱肉強食の世界が描かれたり、種の違いを超越した友情の物語があったり、神秘的な花の妖精が登場したりと、バラエティに富んだエピソードが展開する。たまに深く考えさせるエピソードもある。子ども向けとあなどれない、多様な魅力にあふれた作品なのだ(それは原作も同じ)。
音楽は大柿隆が担当。大柿は1960年代にいずみたくが設立したオールスタッフ・プロダクションに所属し、いずみたくが作曲した歌謡曲の編曲などを手がけていた。TVアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』第1期・2期の主題歌のアレンジも大柿隆によるものである。
筆者の勉強不足で大柿隆の詳しいプロフィールはわからなかったが、彼が作・編曲した作品から、ジャズと管弦楽を学んだ人であることが推測できる。1972年にビクターから発売されたイージーリスニング・アルバム「いそしぎ/ファンタジック・サウンドへの誘い」で、大柿が片面6曲を編曲している(ちなみにもう片面は『空手バカ一代』の音楽を手がけた小谷充が担当)。それを聴くと、大柿隆が『宇宙戦艦ヤマト』の宮川泰サウンドに通じるような、カラフルでムーディなポップ・オーケストラのスタイルを得意としていたことがわかる。
『みつばちマーヤの冒険』の音楽にも、そのポップ&ジャジーな持ち味が生かされている。短い曲でも耳に残るキャッチーなメロディ、そのメロディを生かすシンプルで効果的なアレンジ。これは60〜70年代の歌謡曲で活躍した作・編曲家に共通して見られる特徴だ。ジャズ、ロック、クラシカルと多彩な曲調を操る、当時の歌謡曲のアレンジャーの技量おそるべしである。
『みつばちマーヤの冒険』では2回に分けて約140曲もの音楽(劇伴)が作られた。その中には主題歌のメロディ(「みつばちマーヤの冒険」「おやすみマーヤ」)をアレンジした曲もいくつか(6曲)あるが、大半はオリジナルのメロディで書かれている。そのメロディの豊富さも驚くべきところである。
今回配信された「音楽集」では、約140曲の劇伴の中から85曲を選んで構成した。
「NICHI-ANI Classics」の作品紹介ページ(下記)では、配信音楽集の簡単な解説が掲載されている。配信アルバムでも解説が付いているのがこのプロジェクトの特徴(売り)なのだ。構成意図や曲の流れはその解説に書かれている(筆者が書いた)ので、ここでは解説に書ききれなかったことを補足しながら、聴きどころを紹介しよう。
「みつばちマーヤの冒険音楽集」紹介ページ
https://sites.google.com/view/nichi-aniclassics/home/mitsubachi_maya_no_boken
トラック1「さわやかな風」はリコーダーのメロディによる短い曲。1曲目に『マーヤ』を知らない人にも興味を持ってもらうようなフックになる曲を入れたいと考え、この曲を選んだ。本作にはリコーダーを使った曲が10曲くらいあり、その素朴で愛らしい音色が『マーヤ』の世界観を象徴しているようだ。
トラック2に収録した「みつばちの国」は、第1話でみつばちが蜜を集める場面に流れた曲。軽やかに動くストリングスのメロディが元気に働くみつばちの様子を表現する。アルバムの序盤に勢いのある曲を入れようという意図で収録した。
続いてオープニング主題歌をアレンジした「マーヤの誕生」(トラック3)。タイトルどおり、第1話のマーヤ誕生シーンに流れた曲である。前半のおだやかな雰囲気から、後半は軽快な曲調に転じ、マーヤが元気に飛び立つイメージが広がる。なお、本作に限らず、今回配信開始したアルバムには主題歌の歌入りは収録されていない。劇伴とは権利が異なるためなのでご容赦いただきたい。
トラック13「旅立ち」は第4話のラスト、マーヤの旅立ちの場面に流れた曲。ストリングスのメロディが大空を飛ぶ心地よさを表現し、聴いている方も爽快な気分になる。中盤で故郷を思い出すようなリリカルなメロディが登場するところもいい。
次のトラック14「大空を自由に」も「飛翔」をイメージした曲。花畑や草原の上をくるくると飛び回るマーヤの姿が目に浮かぶようだ。
アルバム後半に収録したトラック44「知らない世界へ」、トラック45「希望の空」、トラック82「よろこびの飛翔」なども、未知の世界へ羽ばたくマーヤを応援するような躍動感のある曲である。
本作の音楽の魅力のひとつが、個性的な昆虫や生き物を描写する音楽。第5話のフンコロガシのシーンに使われた「葉っぱの下の力持ち」(トラック18)、第11話のミミズのシーンに流れた「ゆかいな仲間」(トラック19)、第14話のハサミムシの子どもたちのシーンをかわいく彩る「元気な子どもたち」(トラック21)、第5話や第13話などのアリの行進シーンに流れるファンキーな「アリの行進」(トラック22)など。聴いていて「なるほどなー」と思ってしまうユーモラスな表現が楽しい。
「マーヤのマーチ」(トラック33)、「進めや進め」(トラック34)、「意気揚々」(トラック35)の3曲は、第22話「マーヤの一日隊長」のために書かれた曲。ほかのBGMとはMナンバーの体系が分けられている。おそらく映像か絵コンテを見て書かれたのだろう。これらの曲は、その後のほかのエピソードでも使用された。
大柿隆が『ゲゲゲの鬼太郎』の主題歌アレンジを手がけたことはすでに紹介したが、その『鬼太郎』のBGMを思わせるようなサスペンス曲もある。
「忍びよる影」(トラック23)、「つのる不安」(トラック24)、「危ない!マーヤ」(トラック25)などは、『鬼太郎』の妖怪出現シーンの音楽を思わせる不気味な緊迫曲。アルバムの後半にも、「物陰からドッキリ」(トラック50)、「こわいものが出た!」(トラック51)など、同様のサスペンス曲を収録している。「『マーヤ』にはこんな曲もあるんだ!?」と驚き、感激してもらえたらうれしい。
また、本作にはヒーローもの的な勇ましい曲もある。
トラック26「草原の風来坊」はトランペットのメロディがカッコいいマカロニウエスタン風の曲。残念ながら本編では未使用。
アルバム終盤に収録したトラック76「勇気の槍を手に」は、力強いリズムとエレキギターのメロディによる勇壮な曲。これも本編未使用曲。
次のトラック77「スズメバチをやっつけろ」は、最終回(第52話)のスズメバチ対蜜蜂の決戦場面に流れた、強い決意と勇気をイメージさせる曲。曲調が変わる中間部のピアノのバッキングがクールだ。
最後に筆者好みの美しい曲、抒情的な曲をまとめて紹介しよう。
トラック15の「あこがれ」はリコーダーやストリングス、ピアノなどが奏でる曲。可愛らしい前半から後半は大きくうねるストリングスのメロディになる。外の世界を知りたいと願うマーヤの気持ちを表現する曲である。
トラック28「マーヤのやさしさ」も途中で表情が変わる曲。始めはオーボエのやさしいメロディ、中間部はフルートによる情感豊かな曲調に変化する。ふたたびオーボエのメロディに戻ってコーダとなる。第18話でマーヤが自分を食べようとしたカエルの無事をよろこぶ場面に流れた曲だ。同様の曲調は、トラック40の「夕暮れの空」でも聴くことができる。
トラック56「すてきな花畑」は第24話でセミたちが奏でる音楽として使用された弦合奏の曲。第40話で春を夢見ながら眠るマーヤの場面にも使われた優雅な曲だ。
素朴なメロディがフォークソングを思わせるトラック64「枯れ葉の季節」、哀愁たっぷりの歌謡曲風のトラック65「冬を前に」とトラック66「雪景色」、フランス恋愛映画を思わせるトラック67「センチメンタル」。このあたりは、たぶん大柿隆が歌謡曲やポップスのアレンジで慣れ親しんだ曲調なのだろう。『マーヤ』にはこんな曲が似合うシーンもあるのである。
トラック69「花の妖精」は女声コーラスを使ったファンタジックな曲。花の妖精が登場するエピソードである第30話で使用された。実は花の妖精のテーマとして女声コーラスの曲がもう1曲流れるのだが、その曲は音楽テープに見つからず、収録できなかった。
トラック79「マーヤもの想い」は、ストリングスとビブラフォン、フルートなどによる抒情的な曲。夜、葉っぱの中で休むマーヤの場面などに使われている。
トラック80「美しい心」は、マーヤと大自然の生きものたちとのあいだに芽生えた友情や感謝の気持ちを表現する曲。チェロがリードする弦楽器のメロディが心に沁みる。
次のトラック81「仲間たちといっしょに」はマーヤと昆虫たちとの交流の場面によく流れた曲。リコーダーとオーボエの音色が印象的な味わいのある曲だ。
トラック84「愛のぬくもり」はストリングスとギターによる、しっとりとしたエンディング曲。第30話でマーヤが人間の少年たちの愛情あふれる行動を目撃する場面に流れており、曲名はそのシーンにちなんでつけた。
ラストに収録したのはエンディング主題歌アレンジの「マーヤの夢」。ドリーミィなサウンドはエンディングにぴったりだ。
実のところ、筆者は『みつばちマーヤの冒険』の音楽をそれほど意識したことはなかった。が、今回、音楽集を構成するために本編を通して観て、音楽の豊かさに驚いた。現代のアニメ音楽のような緻密で洗練されたサウンドではないかもしれないが、70年代ならではの親しみやすさと、素朴なあたたかさがある。その背景にはきっと「子どもたちに良質の音楽を」という想いがあったのだろう。筆者もその意を汲んで構成したつもりである。
「みつばちマーヤの冒険音楽集」はサブスクでも聴けるので、ほかの用事をしながらでもいいから、ぜひお聴きいただきたい。そして、「NICHI-ANI Classics」という野心的な試みをぜひ応援してほしい。次の作品の配信につなげるためにも。
みつばちマーヤの冒険音楽集
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第547回 そんな日曜日。
第909回 『沖ツラ』制作話〜箸休め(2)(スイマセン……)
監督、会社に“シーサー”送らせていただいていいですか?
アニメ『沖ツラ』の打ち上げにて、空えぐみ先生より声を掛けられた俺。
是非~!
そして先日届きました、立派なシーサーが! 喜屋武さん、比嘉さんのシーサー解説とかも思い出し、改めて見ると趣があって、3話のてーるーじゃないけど確かに「シーサーって可愛いよね!」と、思いました。
スタジオに大切に飾らせていただきます!
今回も短く、大変申し訳ありません……。仕事に戻ります。
第546回 早く秋よ来たれ
第908回 『沖ツラ』制作話〜箸休め
先日放送された「岩井 狩野 えびちゅうの推しかるちゃー」(MBS)の話!
自分、テレビ出演とかステージ登壇とか、とにかく極度に緊張する体質なので本来なるべくならお断りさせていただくのです。初監督『BLACK CAT』のDVD映像特典ですらパペット人形に“声のみ”出演にさせていただいたくらい……。
今回はハピネットのプロデューサーさんより「出て欲しい」と言われました。
ハライチ・岩井勇気さんが『沖ツラ』をとても気に入ってくださってて、是非に~!
と。それは光栄なことだし、単純に嬉しい話だと思ったし、こちらの会社(ミルパンセ)にカメラを入れてのインタビュー取材と聞いていたので、「まあそれくらいなら対応可能かなぁ?」とお受けしてしまったのです。以前、『沖ツラ』制作中に2回ほどミルパンセに、沖縄のTV局の取材クルーが入ったことがあり、その際も社内スタッフたちがインタビュー受けてたり——があったので、「また、その手のかな~」と高を括っていた上での承諾でした。
ところが“こちらの会社に取材が入ったは入った”のですが、その時は制作現場代表スタッフのインタビューで撮影監督のみ。その際いらっしゃったディレクターさんから、
「監督の収録は別日、岩井さんとスタジオ収録で宜しく!」と!
そう、最初っから「監督はスタジオのゲストで~」とミルパンセ側には伝えていたそうで、完全に俺の聞き違いの勘違い。今さらお断りもできず、5月某日~会社で仕事を終えてから(都内某所の)スタジオへ向かいました。
緊張で控え室弁当も食えず、ディレクターさんより段取りの説明をされ、間もなくスタジオ入り。せめてもの救いは、方言指導の譜久村帆高さんが一緒だったこと。ちょっとだけリラックスできました。
で、スタジオ収録直前、忙しくて伸び放題の髪をネックウォーマーに放り込み帽子状にした板垣の頭に気付いたスタッフさんが「はみ出た髪、入れちゃいましょうか?」「お願いします」と。
MCの岩井さんも巧く俺をのせてくださって、周りのアイドルの方たちや譜久村さんとも楽しくお話できて、結果とても楽しかったです。カメラが回っていないとこでも「二期やってくださいよ」ととても気さくな岩井さんでした。——が!
大変申し訳ありません! 収録~放送された番組本編、自分は観ていません! ごめんなさい!
これは今回の番組に限らずのことで、自分が映った番組など、とても恥ずかしくて観ることができないのです。完パケ(白箱)をいただいた場合でも、本棚に置いてはありますが、自分は観ることはないでしょう。
とにかく作った作品はスタッフ皆の力の結集なので、多くの方々に観ていただきたいのですが、板垣個人は承認欲求が大変低い人間なのです(汗)。プロデューサーの皆さん、今後もいろんな企画を持ってきていただきたくとは思いますが、番組出演や登壇などの依頼はお断りさせていただくとは思いますが、御容赦ください。そもそも、俺の話を聞いたって為にもならなきゃ、面白くも何ともないですから。
はい、本来の仕事に戻ります。
第307回 羊の下の狼 〜小市民シリーズ〜
腹巻猫です。前回取り上げた『天久鷹央の推理カルテ』に続いて、今回も探偵が活躍するミステリー作品を取り上げたいと思います。6月末で最終回を迎える「小市民シリーズ」です。こちらは高校生探偵が活躍する青春ミステリー。一風変わった音楽と音楽演出が特徴です。
「小市民シリーズ」は米澤穂信のミステリー小説を原作に、監督・神戸守、アニメーション制作・ラパントラックのスタッフで制作されたTVアニメ。第1期(第1話〜第10話)が2024年7月から9月まで、第2期(第11話〜第22話)が2025年4月から6月まで放映された。
小鳩常悟朗と小佐内ゆきは、人並はずれた推理力と洞察力を持ちながら、平凡な日常にあこがれて「小市民」をめざす高校生。2人は中学時代に関わった事件の苦い体験から、探偵のようにふるまうことをやめ、「小市民」として生きることを選んだのだ。しかし、2人は新たな事件に巻き込まれ、謎を解かざるをえなくなってしまう。
小鳩と小佐内は、恋人とも友人とも異なる「互恵関係」を結んでいる。2人は協力しあうこともあれば、互いに秘密で行動することもある。その微妙な関係が緊張感を生む。事件を通して2人の関係が徐々に変化していくのが、青春ミステリーらしい味わいになっている。
アニメ版では小説ではできない独特の演出が見られる。小鳩と小佐内が話をしていると、突然背景が変わり、2人のいる場所が移動したように見えることがある。しかし、それは一種の心象風景で、実際は移動していないのだ。視覚的な変化をつけることでセリフの多いシーンを飽きさせずに見せ、同時に言葉の裏にある感情を表現しているのだろう。
音楽演出にも特徴がある。前回取り上げた『天久鷹央の推理カルテ』で1話あたりの使用曲数が少ないという話をしたが、本作はそれに輪をかけて少ない。1話あたり2〜6曲くらい。音楽が少ないぶんセリフと画面に集中することになる。そして音楽が流れると、特にドラマティックなシーンでなくても「何かが起こっている」という気分になる。これも小説ではできない演出である。
音楽(劇伴)はTVアニメ『約束のネバーランド』『ニンジャラ』等の劇伴を手がける小畑貴裕が担当。『約束のネバーランド』も「小市民シリーズ」と同じ神戸守監督作品だった。
月刊Newtypeの2024年9月号に神戸監督と小畑貴裕が本作について語るインタビューが掲載されている。以下、そのインタビューを参考に本作の音楽を読み解いてみよう。
神戸監督から小畑には「舞台は岐阜の郊外ののどかなイメージだけど、音楽には少しとがった要素がほしい」とオーダーがあったという。そこで小畑は、日常感を重視しつつも、特徴のある音を取り入れて音楽を作っていった。
具体的には、さまざまな民族楽器が使われている。アイルランドのティン・ホイッスル、フィドル、イタリアのオカリナ、マンドリン、12弦ギターなど。ファンタジー系の作品で使われるような楽器が日常描写や情景描写に使われ、地方都市の素朴な風景にふしぎな味わいを加えている。作曲にあたり、小畑は物語の舞台になった土地(岐阜)まで足を運んで、現地の空気感を参考にしたそうだ。
女声ボーカルが入る曲も印象的だ。その代表が本作のメインテーマである「小市民シリーズMain Theme」という曲。神戸監督はもともと、歌詞のついた曲をいくつか作り、それを推理シーンに流すことを考えていたという。しかし、小畑が作った最初のデモがすごくよかったので、それ1曲でいこうということになったそうだ。
ほかにも、曲によっては変拍子を入れたり、あるべき拍子を1拍抜いたりといった、すぐには気づかないけれどなんとなく違和感を感じるような工夫がほどこされている。
音楽演出の特徴としては、先述したとおり、1話あたりの曲数が少ないことが挙げられる。神戸監督から小畑には「この作品ではあまり音楽を使わない。だけど、使いたいシーンではフル尺で使いたい」と話があったそうだ。神戸監督は第1話のクライマックスにメインテーマを流そうと決め、そこから逆算して絵コンテを切っていったという。音楽を限定して使うことで最大限の効果を上げようとしたことがうかがえるエピソードである。
もうひとつ、スイーツを食べるシーンが多い本作ならではの試みがある。カフェやレストランで流れるBGM、つまり現実音楽を演出に取り入れていることだ。小鳩と小佐内がスイーツを食べながら話をするシーンでは店内のBGMがずっと流れている。それらはすべて小畑貴裕のオリジナル曲で、場面に合わせて選曲されている。目立たないように流れている店内BGMだけど、シーンの雰囲気をコントロールし、2人の会話にほのかな色づけをする役割を果たしているのだ。
本作のサウンドトラック・アルバムは、2025年6月18日に「TVアニメ『小市民シリーズ』オリジナル・サウンドトラック」のタイトルでバップからリリースされた。CDと配信があり、CDは2枚組。
収録曲は以下のとおり。
ディスク1
1-01.小市民シリーズMain Theme
1-02.キュートな小佐内さん
1-03.復讐
1-04.ミステリアス
1-05.捜査
1-06.推理する小鳩常悟朗
1-07.謎解き
1-08.おいしいココアの作り方
1-09.推察
1-10.二人の日常
1-11.フラッシュバック
1-12.スイート・メモリー
1-13.静かな景色
1-14.のどかな街並み
1-15.さて、ケーキを食べよう
1-16.忍び寄る不安
1-17.緊迫
1-18.約束のいちごタルト
1-19.ハンプティ・ダンプティ
1-20.Bittersweet
1-21.泣きながら、タンメン
1-22.泣きながら、タンメン (No Vocal ver.)
1-23.トロピカルパフェ
1-24.スイーツ巡り
1-25.Race Against The Clock
1-26.小市民シリーズMain Theme (pf ver.)
ディスク2
2-01.小市民シリーズMain Theme (inst ver.)
2-02.不審火
2-03.夜のパトロール
2-04.瓜野のプライド
2-05.瓜野の決意
2-06.小市民シリーズMain Theme (Major ver.)
2-07.My Home Town
2-08.メイルシュトロム
2-09.Four Season
2-10.逃避
2-11.独白
2-12.小市民シリーズMain Theme (Gt ver.)
2枚に分けて劇伴38曲を収録。主題歌は収録していない。
ディスク1が第1期で作られた曲、ディスク2が第2期用に作られた曲(メインテーマを除く)という構成。おそらくこれで全曲である。通常のTVアニメの曲数(40〜50曲)と比べて極端に少ないことがわかる。しかも、この中には劇伴として使われた曲だけでなく、店内BGMとして使われた曲も10曲くらい含まれている。
ディスク1から紹介しよう。
1曲目「小市民シリーズMain Theme」は本作のメインテーマ。アコースティックギターとフィドルによる前奏から始まり、ユリカリパブリックが歌うメロディに展開する。劇伴でありながら、歌詞のついた歌でもあるという曲。第1話のクライマックス、といっても小鳩と小佐内が会話するだけのシーンに流れて、2人の関係を印象づけていた。1期の最終回(第10話)で2人が互恵関係を解消しようと話し合うシーンに流れたのもこの曲。第2期の最終回(第22話)のラストシーンも同じ曲で締めくくられた。
メインテーマのバリエーションには、ボーカルを笛に置き換えたインスト・バージョン(inst ver.)、ピアノ・バージョン(pf ver.)、ギター・バージョン(Gt ver.)、メジャー・バージョン(Major ver.)がある。インスト・バージョンは第8話と第10話で、ピアノ・バージョンは第10話と第21話で、ギター・バージョンは第15話で、メジャー・バージョンは第17話で使用された。メインテーマのフレーズは変形されて、ほかの曲にも引用されている。
2曲目「キュートな小佐内さん」と3曲目「復讐」は小佐内ゆきのテーマ。どちらもメインテーマの変形だ。小佐内の少女っぽい風貌を表現するのがピチカートやビブラフォンの音色を使った「キュートな小佐内さん」。心の内にある狼のような一面を表現するのが「復讐」。「復讐」は2本のチェロの旋律を重ねて小佐内の2面性を表現した曲だ。第9話で小佐内が誘拐事件の背景を小鳩に話す場面に流れていた。
「ミステリアス」(トラック4)、「捜査」(トラック5)、「おいしいココアの作り方」(トラック8)、「推察」(トラック9)などは、小鳩と小佐内が謎を解こうとする場面によく使われた曲。シンプルな構成ながら、ゆれるリズムと民族楽器の音色などでミステリーっぽい雰囲気をかもし出している。「おいしいココアの作り方」は、第2話で小鳩がココアの作り方をシミュレーションする場面に流れていた。
「推理する小鳩常悟朗」(トラック6)と「謎解き」(トラック7)は小鳩常悟朗のテーマ。これもメインテーマの変形だ。曲名通り、小鳩が推理する場面などに使われている。
笛の音がさわやかな「二人の日常」(トラック10)を挟んで、「フラッシュバック」(トラック11)と「スイート・メモリー」(トラック12)は小鳩と小佐内の心情を描写する重要曲。メランコリックなチェロのメロディによる「フラッシュバック」は第1期後半のエピソード『夏期限定トロピカルパフェ事件』で小鳩と小佐内が事件をふり返るシーン(第9話、10話)に使われた。第2期では2人が中学生のときに関わった事件を回想する場面でも流れている。女声ボーカルがしっとり歌う「スイート・メモリー」は第10話で2人が互恵関係を解消したあと、小佐内が雨の中を赤い傘をさして帰っていく切ない場面に使用。メインテーマの変奏である。憂いをたたえた曲調が2人の胸に秘めた想いを代弁しているようだ。
ほっとひと息つく日常シーンに流れた3曲(「静かな景色」「のどかな街並み」「さて、ケーキを食べよう」)を挟んで、サスペンス描写曲が登場する。
「忍び寄る不安」(トラック16)と「緊迫」(トラック17)は小鳩と小佐内の動揺や憤りを表現する曲としてしばしば使われた前衛ジャズ風の曲。第1期後半で描かれる誘拐事件にからんで使用されたのが記憶に残る。「緊迫」では、低くうなるようなバスクラリネットの音が効果を上げている。
収録位置は離れるが、トラック25の「Race Against The Clock(時間との競争)」もサスペンス描写曲のひとつ。本作には珍しい、ストレートに焦燥感や緊迫感をあおるタイプの曲である。第4話で小佐内と連絡が取れないことを心配した小鳩がバスに乗って駆けつけようとする場面が唯一の使用だった。
ディスク1で残った7曲、トラック18「約束のいちこタルト」〜トラック24「スイーツ巡り」は、いずれも飲食店や商店街などで流れるBGMとして使用された曲である。ピアノ、ドラムス、ウッドベースのピアノトリオのスタイルで作られた「Bittersweet」はジャズ出身の小畑らしい曲。ピアノも小畑が弾いている。堤田ともこが歌う演歌「泣きながら、タンメン」が異色だが、これは商店街やラーメン屋で流れている曲。街ではおなじみのヒット曲らしく、いろんな場所でこの歌が聴こえてくる。
ディスク2も簡単に紹介しよう。
トラック2「不審火」〜トラック5「瓜野の決意」は、第2期前半の『秋期限定栗きんとん事件』のエピソードで使われた曲。小佐内にいいところを見せようとする新聞部の1年生・瓜野のための曲が作られているのが特徴だ。
トラック6の「小市民シリーズMain Theme (Major ver.)」は、第17話で小鳩と小佐内が一度解消した互恵関係を復活させる場面に使用。主旋律をメジャーに転調して使うアイデアが効いている。
続いて収録された3曲、「My Home Town」(トラック7)、「メイルシュトロム」(トラック8)、「Four Season」(トラック9)は、いずれも飲食店やホテルのラウンジで流れるBGMとして使われた曲。ちなみに「ハンプティ・ダンプティ」も「メイルシュトロム」も店の名前なのだ。
「逃避」(トラック10)と「独白」(トラック11)の2曲は、第2期後半のエピソード「冬期限定ボンボンショコラ事件」のために用意された曲。前衛ジャズ風の「逃避」ではバスクラリネットと弦が不穏な調べを奏で、「独白」は弦楽器と笛が哀感を帯びたメロディを聴かせる。物語の大詰めとなる第21話と第22話で使用された。
『小市民シリーズ』の音楽の大半は、一聴すると、そんなに変わった音楽には聞こえない。けれど、よく聴くと使われている楽器や演奏法、リズムやメロディの崩し方などに独特の工夫がある。日常に溶け込みながら、じわじわと日常を異化していくような、スリリングな要素を秘めた音楽である。そんな音楽の中で憩いとなるのが、店内BGM用に書かれた軽快な曲や優雅な曲なのだが、劇中では、その曲をバックにおだやかでない会話が交わされる。小市民にあこがれても小市民になりきれない小鳩と小佐内の屈折が、音楽と音楽演出にも反映されているのだ。劇中の小佐内ゆきは羊の着ぐるみで狼の本性を隠した少女のように描かれているが、このサントラも、羊のような親しみやすさの裏にとがった牙を隠した音楽である。
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