1991年は、少女アニメに新たな可能性を拓く意欲作『きんぎょ注意報！』が放映開始された年である。
　猫部ねこが講談社「なかよし」に連載中の作品を東映動画がアニメ化。シリーズディレクターの佐藤順一、キャラデザの入好さとる、美術デザの椋尾篁らは、原作のもつ画風や記号的ギャグ表現を、アニメ映像のなかに無理なく融合させることに成功した。それは例えば、サインペンで描いたような太い輪郭線、図案的なスクリーントーン効果、頭身を変化させるデフォルメなどであり、70年代後半より『はいからさんが通る』『パタリロ！』などを通じて追求されてきた“少女ギャグマンガ的表現”へのひとつの回答といえるものだった。特に、キャラクターの後頭部を大きな汗が滑り落ちる“焦り”の表現は、数多くの作品へと浸透、定着していくことになる。
　ヒロインたちはギャクの世界だけでなく、名作路線でも華やかに活躍した。日本アニメは『トラップ一家物語』、東京ムービー新社は『おちゃめなふたご　—クレア学院物語—』『わたしとわたし　—ふたりのロッテ—』、アウベックは『アニメ　ひみつの花園』を発表。ＮＨＫ衛星第２では、手塚プロ製作、出崎統監督による『おにいさまへ…』が登場した。女の園の愛憎を耽美的に描いた本作は、ＴＶアニメ初の“百合もの”でもあった。
　サンライズは、元気な小学生たちが教室ごとロボットに乗り込んで戦う『絶対無敵　ライジンオー』を製作。近未来のレースアニメ『新世紀ＧＰＸ　サイバーフォーミュラ』も、監督の福田已津央やキャラデザの吉松孝博らが作り出した魅力的な登場人物たちが、再燃し始めた声優人気との相乗効果で新たなファン層を開拓した。
　『魔法のプリンセス　ミンキーモモ［新］』『キン肉マン　キン肉星王位争奪編』『チエちゃん奮戦記　じゃりン子チエ』など、81〜83年にヒットしたシリーズの続編が相次いで製作されたのも本年の話題である。そのことは、アニメブームから10年の年月が経過し、復古路線の対象がついに80年代にまで及んだことを示していた。
　この年の春、１週間に放映される30分アニメの本数は42本となり、最高値を更新。一方、３月12日には、日本俳優連合所属の声優、アニメ事業者など約750名がＴＶ局や製作会社に対し制作費の改善を訴える銀座デモを行っている。世はバブル経済の終焉直前。アニメ業界もまた労働水準が横這いのまま、本数だけは泡沫景気と同様の状態にあった。

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