SPECIAL

佐藤順一の昔から今まで(35)メイキング・オブ・ARIA〈後篇〉

小黒 佐藤さんの『ARIA』におけるシリーズ構成というのは、実際の作業としてはどういったかたちだったのですか。

佐藤 構成はシリーズの13本をどういうふうに組み立てるか、原作をどう配置するかを考える。「この話とこの話を組み合わせて、こういう軸の話を作ります」みたいな事はざっくり決めて、それでシナリオ書いてもらうっていう感じです。

小黒 佐藤さんがシナリオとしてクレジットされてる回は、いきなり絵コンテを描いているんですよね。

佐藤 そうですね。大体プロットからそのままコンテに入る。

小黒 プロットは綿密に書いていたんですか。

佐藤 書かないですね。自分で綿密に書いても、結局は変わっちゃうんです。だから、「大体こんな流れでお話が展開します」という事で了解をもらって、絵コンテに入るって感じかな。

小黒 佐藤さんは『ARIA』の世界について肯定的であり、1シリーズ目が終わった時には「今後も作っていきたいなあ」と思われたわけですね。

佐藤 そうですね。最初は凄く探り探りだったし、周りのスタッフから「えっ、この何もない物語で30分、大丈夫なんですか?」と聞かれる事もあったんだけど。やってみたら、自分でもいい感触だったんでしょうね。「あっ、なんかやれてる。イケてる。いいかも」と思っているところで「2期をやりたいんですけど」と言われたんです。それで、すぐに「やりましょう」と言ったはずだし、「やるんだったら、原作をしっかり拾っていけるように長めにやりたいですね」という話もしてると思うんですよね。次は2クールでやる事になるんですけど、そういう流れだから、凄く前向きですよ。

小黒 1期が2005年の10月から12月で、2期(『ARIA The NATURAL』)が翌年の4月からなので、連続して作っているはずですよね。

佐藤 そうなんですよね。どの時点で第2期をやろうっていうジャッジが下されたのかは覚えてないです。

小黒 1期の1話が放映された時には、2期を作ってるんでしょうか。

佐藤 どうかなあ。でも、なんらかのリアクションがないと、「2期やろう」とは言わないはずなので。

小黒 やっぱり放映が始まってから?

佐藤 だとは思うんですよね。そこはプロデューサーに聞かないと分かんないかもしれないですけど。ただ、2期はそんなにたっぷりとした時間はなかったような気もするので、結構バタバタと決まったかもしれないですね。

小黒 第3期は原作の終了と合わせて作ったんですか。

佐藤 そこはそうですね。原作も終わるので、「じゃあ作りますか」という感じでスタートしたはず。ただ、3期(ARIA The ORIGINATION)はちょっと時間があったんじゃないかな?

小黒 2期と3期の間は、随分空いてるんです。

佐藤 ですよね。間に『ARIETTA』 (『ARIA The OVA ~ARIETTA~』・2007年)が作られてますもんね。TVシリーズの期間が空くので、それでOVAを入れた気がする。

小黒 2006年に2期をやって、2007年はOVA。2008年が3期ですね。そして、第3期はマンガの最終回がどうなるかを踏まえて作られたと。

佐藤 そうですね。

小黒 まるで、それまでの全てが第3期最終回に向けて積み重ねてきたかのようですよね。

佐藤 そうでしたね(笑)。天野(こずえ)先生はもうちょっとじっくりと描けるスケジュールだったのに、こちらのスケジュールを間に合わせるために「ラストのネームを早めにください」とお願いするような事はあったかもしれない(笑)。

小黒 じゃあ、ネームいただいて、それを元にコンテを描いたんですね?

佐藤 そうですね。だから原作の同じ画を本編にも使えているんですよ。原作といえば、2期で「海との結婚」の話があるじゃないですか(編注:『ARIA The NATURAL』23話「その 海と恋と想いと…」。なお、「海との結婚」は実際にベネチアで開催されている伝統行事だ)。その時は「海との結婚」についての話をやるという事だけ聞いていたんですよ。原作が来る前にアニメは動く事になって「こういう話なのかな?」と思って作ったら、全然違っていたという事はありましたね(笑)。

小黒 (笑)。『ARIA』は、キャラクターの画が本当にどんどん変わっていくんですけど、第3期の井上英紀さんの回(4話「その 明日を目指すものたちは…」)が、びっくりするぐらいハイクオリティというか、まるで違うアニメみたいですよね。

佐藤 そうそう(笑)。しかも、1人で作画やってるじゃないですか、あれ。びっくりしますよ。

小黒 この取材の前に『ARIA』の第1期から第3期までを通して観たんですが、4話が始まった時の衝撃たるや。

佐藤 (笑)。

小黒 「何が始まったんだ!?」と思いました。

佐藤 そうなんですよね。『カレイドスター』の和田高明さんのような衝撃感がありますよね。

小黒 衝撃感ありますね。『Ζガンダム』のオープニングの梅津(泰臣)さんのような鮮烈さで、画が巧いだけじゃなくて、妙にリアルなんですよね。みなさん、あれに引っ張られたりはしなかったんですか。

佐藤 引っ張られてますね。ただ、『ORIGINATION』は、他の話数も同時に動いてるので、そんなに画面には出てないはずです。最後のところで、アリシアさんの前髪の細かくばらついた描き方に、影響が出てますよね。後年の『ARIA The AVVENIRE』(劇場・2015年)をやる時には、あの感じがベースになって描いてる感じはありましたね。


●佐藤順一の昔から今まで(36)『ロミオ×ジュリエット』から『シックスハートプリンセス』まで に続く


●イントロダクション&目次