COLUMN

第739回 出﨑監督の表現

究極、俺——
出﨑監督以外のアニメがなくなっても、全く困りません!

 板垣がちょくちょく周りに言ってる言葉です。つまり、そのくらいだってこと、自分にとっての出﨑統監督作品は!
 『あしたのジョー2』を初めて観た時の衝撃と観た後の自分の人生については、光栄なことにBlu-ray BOX2の特典ブックレットの寄稿文にも書かせていただけたし、この連載でも何度も語ったかと思います。繰り返し言いますが、

“止めハーモニー”や“入射光”・“3回PAN”・“分割画面”とかは、どうでも良いんです!

 出﨑作品を語る時、画作りの技法についてしか語れないやつは所詮“にわか”です! いくつかあった追悼本の中でもそんな記事ばっかで、心底ウンザリしたんですから。これも何度かはっきり言ってますが、止めも光も3回うんちゃらも分割も、むしろ板垣は嫌いです! 自作でコンテ発注打ちをする際、「それだけは止めてくれ!」と言ってるくらい。ギャグ表現とかで敢えて使ったり、演出処理の人が良かれと思ってやった止め画をそのまま使ったりはありますが、自分発で真似はしたことは一切ありません。嫌いだから! そもそも

出﨑監督作品の最大の魅力は画コンテで「人間」を描くところ!

にあります。そんなアニメ作家、現在いらっしゃいますかね? オリジナリティあるデザインや世界観、練りに練って凝ったストーリーを売りにしている作家気質アニメ監督が多い中、出﨑監督の創作スタイルは、

オリジナルか原作かなんてどうでもいい! それらは所詮「器」で描くべきはあくまで人間!

で一貫してました(何作か「ネズミ」が混じってますが)。「俺にとっての現場は“コンテ”だよね」と仰るくらい、コンテに全てを懸けた出﨑監督。アニメにおける画コンテとは画と尺のトリミングであり、フィルムの完成予想図。各キャラクターの人生をドラマチックに覗く窓みたいなのがコンテのフレームな訳で、原作があろうが、オリジナルだろうがそこは変わりません。その辺のコンテ作業の面白さにハマると、10年間で2〜3本の劇場オリジナル作品を監督する寡作では満足できるはずありません。だって、10年で5〜6時間分のコンテしか切れないんだもの。ところが「コンテ切る(描く)のが好き」を公言してはばからない出﨑監督は、毎年1本の原作ありのTVシリーズ+たまにOVAや劇場作品も加わる、といった多作っぷりを、晩年まで通し切りました。Wikipediaとかで数えてみてください。テレビ・劇場・OVA合わせて何作手がけられているか? これだけ多くの作品、さらにそのすべてが超個性的な「出﨑アニメ」に仕上がっている。ファンからすると、そりゃあ、他要らないでしょう! 出﨑ライブラリーさえあれば、死ぬまで何度も楽しめるのですから!!
 と、いうわけで前回の続き。『ベルサイユのばら』・出﨑編。実は板垣は単に「コンテ」という単位で言うと、『あしたのジョー』や『エースをねらえ!』より『ベルばら』がいちばん好きかも知れません。
 急な監督交代劇による、準備期間不足での後半スタートを余儀なくされたからか、『ジョー』におけるボクシングや『エース』のテニスのような、アニメーション的に魅せるアクション・サービスシーンがほとんどなく、動きを極力少なくした体脂肪率ゼロ、本当に無駄を排した滅茶苦茶クールな、究極の“演出”コンテで、実はこれこそが熱心なファンなら周知の出﨑アニメの真骨頂! 実際、自分が新人だった頃、テレコムの先輩に『エースをねらえ!2』のコンテ(もちろんコピー)を見せてもらったことがあるのですが、他人の描いたコンテに入っていた“出﨑修正”はアクション・パートはそのまま放置。その代わり、キャラクターの感情線を追ったドラマのシーンは全修正されていたのです——それこそ台詞ごとゴッソリ! つまり、出﨑監督にとって、「アクションなんてアニメーターが見せ場とするサービス」に過ぎず、「ドラマを描くことこそ“演出”の仕事」でしょうし、監督自身がドラマの方が好きなのだと思います。
 で、『ベルばら』第21〜24話はジャンヌと「首飾り事件」。このエピソード、出﨑監督はジャンヌのことをかなり好きになって描いてたと思います(何処かのインタビューでも監督自身語られてましたよね?)。結局、ジャンヌは貧困から這い上がろうと足掻いて、貴族に紛れ込み悪の限りを尽くし、法廷でも口から出まかせ——全て嘘。遂には両肩に“V”の焼き印を押し終身禁固の刑。そして更に脱走~逃亡、最後は夫・ニコラスと共に自爆。碌でもない悪女な訳だけど、最後道連れに殺される前、ニコラスがジャンヌに言った台詞「それにしても、お前え最高の女だったぜ」は恥ずかしながら何度見ても号泣! これコンテ切ってる時の出﨑監督の圧倒的ハイ・テンションがフィルムから滲み出てますよね! 悪事を重ねて破滅に突き進むジャンヌに、観てるこちらも一緒になってゾクゾクして見入ってしまう。これはもう視聴ではなく「体験」です! そんな観る者を疑似体験に巻き込む力を持っているのが出﨑アニメで、そんなコンテが自分の永遠の目標です! 3回繰り返すとかではなく——。