COLUMN

第729回 懐かしいアングル

 そういえば、何かYouTubeで友永和秀師匠がルパン描いてるムービーが上がってました。素晴らしい! やや高めの筆圧でグリグリとねちっこく描かれる、板垣が25年前、原画を習ってた時に見つめた友永さんの筆致! 懐かしいアングルでした。欲を言えば、早送りでなくリアルスピードで観たかったですが、それだと一般向けではなくなりますね。まだまだ友永さんには原画を描き続けて欲しいものです。
 ところで、原画の先生ってどんな感じで教えるの? と思われる方、いらっしゃるかと思います。ま、単純に言うと人それぞれです。
 この連載で何回か紹介したと思うのですが、自分には原画の先生が3人いました。ただ、大塚康生さんに関しては、自分が動画マンの頃から勝手に原画の習作を見て頂いてた訳で、言わば「押し掛け」。それは、学生時代の恩師・小田部羊一先生より自分がテレコム入社の際「大塚さんには描いたもの何でも見てもらいなさい」とのアドバイスがあったし、自分からも毎日スタジオ内をうろついている巨匠がいるなら見て頂かなければ損、と進んで見せに行ってただけ。大塚さんの場合、“大塚さんの気が向いた所”に関しては「ここはこーゆーポーズの方が良い」とか「この間には外回りの画が要るんだよ」とかその場でササっと達筆に描かれました。その他“気の向かない”のは「ここ目線こっち向けなきゃ」と部分的アドバイス程度。でも、その時の目線やポーズの一工夫で、一枚の画にどれだけ躍動感を与える事ができるのかを大塚さんから教わりました。後に『ベルセルク』(2016・2017年)の制作の際、原作者・三浦建太郎先生に自分が大塚さんからポージングを学んだことを話すと、「あ、だからコンテの画に躍動感があるんですね!」と納得されてました。
 で、原画試験合格して直ぐ正式に先生に付いて下さったのは、スタジオ・ジブリ作品参加多数・宮﨑駿監督のお気に入りのアニメーター・田中敦子さん。『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)のルパンと次元がスパゲティを食らうシーンや『じゃりン子チエ』(1981年)のお好み焼きのシーンなどで有名。その田中さんが『もののけ姫』(1997年)を終えてジブリから帰ってきた日、板垣的には例のサンの胸揺らした動画を徹夜で上げた日の、朝11時から二人一緒に演出の富沢信雄さんと作画打ち合わせ(完徹で眠かった)。『SUPERMAN』(1996〜2000年)を1本だけ(2本はやってないはず)面倒見て頂きました。田中さんの場合は「アクションやりたいでしょ? とにかく原画描いて!」と大胆に任せてくれて、上がったラフを持って行くとまず一笑。こちとら初原画なのに“戦闘ヘリからの爆撃を躱すスーパーマン”って言う高難易度なシーンを振られ、「こんなに走って~(笑)」「前のカットとスピードが違うぅ~(苦笑)」といった感じ。でも、アクションのポーズや“つけPAN”などのカメラ・ワークポイントとかはちゃんと押さえて指導して下さり、素人目には普通に見える位までの調整をして下さり、「後は失敗を画面で見て反省しなさい」と、全体的に大雑把。その1本目を見て頂いてる最中に田中さんのアメリカ出張が決まり、俺の指導は次の友永さんへと引き継がれたのです。
 何度も話題にしているとおり、友永さんこそ自分にとっての本当の原画の師匠と言えるでしょう。友永さん御自身が板垣を金田伊功さんに紹介する際、「こいつ、俺の弟子!」と仰ったのですから。
 友永さんは田中さんと対照的でかなり細かく丁寧! それこそ原画1枚1枚に黄色い修正用紙を重ね、今回のYouTubeみたいに筆圧高くカッコ良い画をバンバン入れ、めくって見せて下さるだけでなく、「あーでもない、こーでもない」とその場で迷い考えることもしばしば。決して達筆に天才を見せつけるような描き方はせず、当時ド新人原画マンだった自分と同じ目線で、

目の前のコンテから最大限面白いカットを描き上げるにはどうしたらいいか?

だけを考える! 小手先のテクニックよりそれを俺にいちばん教えたかったのかと思います。例えばコンテに描かれたパネル数分をそれぞれ拡大してデッサン整えて、その間に画を足した程度(現在はそれを原画だと勘違いしている人が非常に多い)のを見せると、1枚残らず全修正され、さらに何枚も原画を足されて「もっと、グリグリと考えて描けよ!」と返されました。ところが、『BATMAN』(1992〜1999年)でバットガールが階段の踊り場を駆けて来るカットを、原画時のアドリブで途中で足を滑らせて転ぶアクションにして持って行くと、その原画をパラパラめくった友永さん、ニヤリと笑って「ま、これはこれでやってみろ」とノー・チェックで通して下さいました。要は、「何も考えずつまんない原画を描くな!」と。そういう意味で言えば、演出・監督志望でアニメーターはあくまで通過点と思っていた俺に、“職業としての原画マンの面白さ”を教示して下さったのは友永さんに違いなく、自分が今ミルパンセの若手に指導する時、友永さんを真似させて頂いています。パースやデッサンより、コンテを貰ってどんなカットを仕上げようとしたいのか? そのプランを訊いた上で「そう見せたいなら、この画とその画が必要」と作画のコツを説明するようにしています。結局、画なんて描いてりゃ巧くなるもんですが、“原画という仕事に対する取り組み方”は新人の時から教え込んでおかないと、後になってなかなか軌道修正が効きませんから。つまり、

仕事を教えるとは技術だけでなく、身をもってその姿勢を見せる事が最優先!

特に昨今はアニメの作画・コンテ・演出まで、スマホ擦ればなんでもマニュアルが出てくるし、巨匠方のインタビューや対談も山と出てます。有料のアニメ関連の塾や講義を開く側も受ける側も、別に悪いとは言いませんが、そんなことせずとも本気でやる気あるなら直にアニメの現場に来た方が早いし、運が良ければ自分みたいに本格的な先輩方に教わることができると思います。少なくとも板垣はテレコムという現場で、お金では買えないほどのことを教わりました(しかも給料を貰って)。