小黒 『ケロロ』は劇場版も沢山作られてますけど、佐藤さんの役職は常に総監督です。実際にはどういう関わりだったんでしょうか。
佐藤 映画に関しては、シナリオ打ち合わせから参加して、コンテチェックもやっていますね。
小黒 なるほど。
佐藤 どういうネタにするかは、吉崎さんからアイデアが出てきていて、それを「どう映画にする?」っていうところからスタートします。それで、シナリオの打ち合わせを進めていくという感じですかねえ。
小黒 ご自身的に苦労された映画とか、印象的だった映画はありますか。
佐藤 現場的な事は何も関わってないので、画作りに関しては、苦労も何もしてないんです(笑)。ただ、探り探りではありました。『ケロロ』を映画にするっていうのが、「何を求められてるのか」っていうところからなんですけど。吉崎さんのほうから出てくるネタを、どうアレンジしてターゲットを広くしていくかという事かなあ。最初の映画に出てくるキルルっていうキャラクターは、吉崎さんの中では、設定含めて物凄くしっかりと柱が立ってるんですよね。キルルってこういう存在であって、この映画だけじゃなくて、色々膨らませたいという事をお話されたんだけど、全部を拾う事はできない。「この映画の中だけでそれを扱うなら、どういうかたちで着地させればいいんだろう?」と考えましたね。でも、映画を作る時はそれぞれ各作品の監督のカラーの事も考えて、どうやってきちんとかたちにするか、みたいな事のほうが大きかったかな。僕は半分プロデューサーみたいな感じですよね(笑)。
小黒 各映画の監督はシナリオ打ちに参加するんですか。
佐藤 します、します。監督にも演出的なプランを出してもらうし、それに対して修正の意見を出したりとか、別なアイデアを出したりして。監督がやろうと思ってるところになるべく近づけていくように、周りを整理していくっていうのかな。「じゃあ、こんな音楽はどうだろう?」という提案もしていましたね。
小黒 1本目の監督が近藤(信宏)さんで、2本目以降の監督は山口(晋)さんですね。
佐藤 そう。山口さんは凄く合ってるなって思っていました。山口さんのコンテを見ると、「ガンダム好きというところも含めて、色んな意味で『ケロロ』に合ってるんだなあ」というか……。
小黒 あのシャープな絵柄も。
佐藤 そうなんですよね。そういうところも『ケロロ』に凄く合ってると思いましたよね。
小黒 ちょっと画がマニアックなんですね。山口さん本人が、多分巧い絵描きなんだと思うんですが、カッコいいフォルムの取り方をするというか。
佐藤 そうですね。山口さんの描いたラフ原、めっちゃ動いてますからね。見ると「巧いっ!」って思いますよ。
小黒 今年の映画『ドラえもん』の監督ですよ(編注:『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』は公開が2022年に延期となった)。
佐藤 あっ、そうなんですねえ。いや、優秀な方でした。『ケロロ軍曹』の劇場版に関しては用意されたネタが大きかったり、多かったりするのを尺の中に収める事が、一番難しかったかもしれないですね。
小黒 『ケロロ』は、また機会があったら作りたいですか。
佐藤 そうですね。面白かったので、なんか機会があれば。
小黒 好きだったキャラクターはいますか。
佐藤 えっ、『ケロロ』の中で?(笑)。ケロロですね。ケロロが楽しかったですね。
小黒 『ケロロ軍曹』と並行して手掛けていたのが『ふしぎ星の☆ふたご姫』(TV・2005年)ですね(編注:『ケロロ軍曹』の放映2年目に『ふしぎ星の☆ふたご姫』の放映がスタートする)。
佐藤 はい。
小黒 『ふたご姫』は雑味のない、非常にまっすぐな作品ですね。
佐藤 そうですね。玩具ベースの企画自体が、なかなかなかった。東映以外ではあまり成立しない中で珍しくそういう話が来たので、手の中でやってる感がありますよね。
小黒 バースデイが原作でクレジットされてますけど、原作に当たるものが既にあったんですか。
佐藤 あります、あります。基本的にはバースデイのスタッフが作り上げているものなんです。星の設定や、ほとんどのキャラクターの設定がありました。
小黒 なるほど。
佐藤 お話だけがない状態。なくもないんですけど、1年走るだけのお話は用意されてなくて、キャラクターと設定がどっさりあった感じなんですよね。
小黒 キャラクターの設定は、そのままアニメに置き換えられるようなものだったんですか。
佐藤 割とそのまんまアニメに翻案してますね。元々、バースデイさんがバンダイに女児向け玩具を展開させる作品について、何年もプレゼンしてるんですよね。それでようやくゴーが出てやる事になって、制作の話がハルフィルムに来た感じだったので、元々は玩具ベースからスタートしてるんです。
小黒 じゃあ、東映で作っていた時のように普通に子供向けに作ったと。
佐藤 そうですね。
小黒 見どころといえば、ダンスだったと思いますけど、ダンスはどなたのアイデアですか。
佐藤 イヤイヤダンスとかは、僕ですね。子供に真似してほしいと思って入れました。
小黒 ダンスはシリーズ中に増えていきますが、シナリオ打ちの時に入れたんですか。
佐藤 シナリオの時に色々なダンスを入れてもらってましたね。新しいダンスをやる時は、どんな動きにするかは演出さんに任せて、セリフもキャストの2人に任せて、といった感じでやってますね。
小黒 キャストの2人に任せるのは、言い方とかですか。
佐藤 そう。「節回しとかは2人で相談して」と言ってやってもらう感じ。
小黒 「ハルフィルムにしては」と言うと凄く失礼なんですけど、めちゃめちゃ作画が安定してますよ。
佐藤 そうですね。優秀な人がいた時期なんでしょうねえ。この時は西位(輝実)さんとかが普通に作画で入ってますからね。ただ、キャラクターデザイナーが数井(浩子)さんなんですけど、制作体制の不備で、相当に苦労掛けてます(苦笑)。
小黒 クレジットだと、キャラクターデザインは数井さんと小林明美さんの連名ですね。
佐藤 はい。メインは数井さんなんです。ハルフィルムが玩具もののアニメをやった事がなくて、全然対応ができていなくてご苦労を掛けたんですよ。
小黒 対応というのは、どういうものですか。
佐藤 例えば、バンダイから商品化に向けて「キャラクターの画を描いてくれ」という版権のオーダーが来るんです。ハルフィルムも版権管理のスタッフを1人入れたんですけど、経験値が足らなくて上手く回らなかったんですよ。結局、数井さんの負担が大きくなってしまって。凄いご迷惑を掛けたし、制作上も色々不備があって、キャラクターの数も多い中で、大変ご苦労をお掛けしました。
小黒 これは2年間のシリーズになりましたけど、延長だったんですか。
佐藤 これはそうですね。元々は、1年走る予定だったんですけど。
小黒 好評だった?
佐藤 そこは難しいところですよね。何をもってよしとするかなんだけれど。これは記事にしづらいかもしれないけど、例えば『ケロロ軍曹』も視聴率的にはよかったんですよ。だけど、玩具展開はあまりできなかった。元々、玩具を売るのがメインの企画だったので、その意味ではすぐに終わってもおかしくなかったんだけど、ビデオパッケージはかなり売れていたんです。視聴率もいいし、パッケージは売れているし、原作元の角川書店も続けたいという事で、ずっと続いていたんです。どうして番組が続くかという事については、一言では言えないんですよね。
小黒 なるほど。
佐藤 『ふたご姫』も「玩具が凄く売れたか」というと、期待されたほどではなかったはずです。視聴率は取れてるので、続けてみようかという事だったのかな。「続けたい」という意志がどこかにはあって、それが働いてるんでしょうけど、具体的にそれがなんだったのかは、現場の我々には分かんない事ですね。
小黒 『ふたご姫』では、キャスティング的な冒険はしてない?
佐藤 オーディションを凄くやってますね。ほとんどのキャラクターはオーディションの結果で決めているはずですね。誰が聴いても知ってる人以外は、その中から振り分けてキャスティングしてる感じです。
小黒 先ほどの話と重複しますが、『ふたご姫』は佐藤さんとしては、自分の守備範囲のものとして作る事ができた感じでしょうか。
佐藤 そうかもしれない。それから、軸の企画だったバースデイから「こういう物語にしたい」というオーダーが来て、それを落とし込む作業も多かった印象ですね。当時は『プリキュア』が動いてる事もあって、「戦うお姫様にしたい」という意志がバースデイ側にあったんです。「どう戦わせるか?」っていう事をずっとホン読みの時に言っていて、2年目の時にも「もっと戦いをシリアスにやったほうが、いいのではないか?」「敵をちゃんと設定して戦いを軸にしたい」という意見が出ていました。それで悪役の王子みたいなキャラクター(トーマ)を出したんですけど、何か効果があったかっていうと実感はなくて、でも、結局「もっとハードな戦いにしなくては」という話が出て。こちらも「戦いじゃないんじゃないですか?」「もうちょっと可愛い敵を出したほうが」と言って、敵を王子から白鳥(由里)さんの演じるビビンっていう魔法使いの女の子に変えてもらったりもしましたね。原作側からこうしたいという意向が出てくる作品だったから、「それをどう料理するの?」っていうところが、なかなか難しかったんです。