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佐藤順一の昔から今まで(28) 『カレイドスター』の すごい 思い出・2

小黒 『カレイドスター』が佐藤さんの歴史の中でもちょっと異色なのはですね、TVシリーズなのに、動かさないと成立しない作品だという事ですね。

佐藤 ああ。

小黒 『プリンセスチュチュ』も、ちゃんとバレエをやらないといけない企画なので近しいところはありますね。『カレイドスター』は肉感を出す感じの演技が必要なシリーズでした。

佐藤 はいはい。

小黒 1話とか、顕著ですよね。

佐藤 そうですね。1話はそんなに枚数をかけるコンテではなかったんだけど、和田高明さんとかが鬼のように動かして(笑)、ああなっているんだと思います。

小黒 なるほど。

佐藤 それはね、『ゲートキーパーズ』の時に思ったんですよ。『ゲートキーパーズ』で自分がコンテを描いた回で、コンテだと自動車がスライドで入ってくる想定のカットが、スピンして止まるみたいな画になってるんです。それで、オッケーになってて。誰か怒るわけでもないし、制作が困るわけでもない(笑)。

小黒 演出家が始末書を書かなきゃいけないわけでもない。

佐藤 わけでもないし、むしろ、それを評価してる感じもあって、「なんか住む世界が違うな」と思って(笑)。だから、「ガリガリと止めるみたいな事は求められてないんじゃないかな」とは思ってやってるかも。

小黒 今、和田さんの名前が出ましたね。他の方の回も動いていましたけど、和田さんはちょっと特殊でしたね。

佐藤 和田さんは別枠感がありましたね(笑)。色々勉強にもなりましたけど。原画1枚だけ見ると全く分からないんだけど、動くと「こういう動きなんだ」って分かるんです。全然画は違うんだけど、動かさないと分からないという意味では、尾鷲(英俊)さんとかと似ていたかもしれない。

小黒 ここで佐藤順一、生まれて初めてのスランプがあったわけですね?

佐藤 ええ、そうですね(笑)。正確には『カレイド』の後です。

小黒 まず、『カレイド』で物凄い量のコンテを描かれた。7週連続、佐藤順一コンテみたいな事があったわけですね。

佐藤 うん。やらざるをえなくなった。

小黒 前も聞きましたけど、何故なんですか。

佐藤 そうね。2期ですね。時期は迫ってくるんだけれども、2期をやるという正式なゴーが出なくて。流石にこれ以上待てなくなったので、「駄目だったらそん時に言ってくれればいいから、今はとにかくゴーと言ってくれ」という事でスタートしたけど、やっぱり時間が足りなくて、コンテを発注するのに必要な期間が取れない。「コンテを1週間で上げて」という感じだった。とりあえず頭のほうは自分でやるしかないな、となって。

小黒 他の方にコンテを描いてもらうよりも、自分で描いたほうが早いと判断したんですね。

佐藤 そうです。その頃になると、上がってきた他の人のコンテに多めに手を入れて全体の調整をするかたちになっていたので、なんだかんだで凄く作業本数が多くなってしまった。

小黒 第1期の2クール目、14話から26話までも、ほぼ毎週佐藤さんの名前が出ていますね。

佐藤 そこもスケジュールが詰まってきてて。ちょうどその頃だと、「流石にこの動きまくってるコンテだと間に合わないよね。内容から見直して、動かないコンテにしないと」と言って、直した話数も何話かあるんですよ。少しでもカロリーの低いコンテにするために、話の構造から変えた回が何回かあります。

小黒 なるほど。コンテの段階で、話を変えて動きを減らした、という事ですね。

佐藤 そうですね。

小黒 コンテマンが2人連名で出ている場合は、他の方が描いた絵コンテを半分ぐらい描き直したという事でしょうか。

佐藤 そういうケースもあるし、AパートとBパートで担当を割ったケースも混ざってます。それとは別に、さっき言ったように1回上げていただいたものを、制作上の都合で内容を変えなきゃならない時があって「そういう事情でコンテ直すんです。申し訳ないです」という話をして、直させてもらって連名にしたものもあります。

小黒 なるほど。

佐藤 修羅場が続く作品ではあったので、色んな事がありました(笑)。

小黒 佐藤さんが監督した作品で、こんなにご自身で絵コンテを描いたものはないですよ。

佐藤 ないでしょうねえ。大体、そんなに自分でコンテをやらないと気が済まないタイプではないので(笑)。前にも言ったように『チュチュ』でも上がったコンテに、相当手を入れてはいるんです。それは伊藤郁子さんのイメージが後から膨らんで、内容を修正した結果、次の話数も修正しなきゃなんなくなっちゃった、みたいな事があって。手を入れている物量は多いですけど、『カレイド』とはちょっと事情が違う感じなんですね。

小黒 なるほど。キャラクターについてもうかがいます。子安(武人)さんのやったフールのコミカルな感じは、佐藤さんの持ち味が出ていると思ってよろしいんでしょうか。

佐藤 そうですね。ああいうのは、やっぱり楽しいので。『チュチュ』の猫先生と同じ立ち位置ですよね(笑)。なんか膨らませやすいというか。

小黒 あと、ケンですね。延々と引っ張る、ケンのがっかりギャグ。

佐藤 (笑)。そうそう。ああいうの好きなので。弄られキャラがいると、ほっとするじゃないですか。

小黒 お話に関しても、キャラクターに関しても、なんの違和感もなく気持ちよく作れた、と。

佐藤 『カレイド』は、そうですねえ。「没頭するってこういう事かな?」と思うくらいにやっていました。あまり自覚していないけど、奥さんに「『カレイドスター』の頃は全然、家に帰ってこなかった」と言われたので、そうなんだよね(笑)。

小黒 なるほど。

佐藤 スタジオでコンテ中に痛風に襲われたので、近くのコンビニで1キロの氷を買ってきて足を冷やしながらやったりとか。

小黒 痛風対策で足を冷やした?

佐藤 そうそう。医者に行く時間がなかったので、とりあえず足を冷やしてなんとか乗りきる、みたいな。

小黒 ああ~。

佐藤 歯が痛い時に新宿の24時間開いてる薬屋を探して、そこで「新今治水」という歯痛の薬を買ってきたのも、『カレイド』の間の出来事なので。確かにずっとスタジオにいた可能性ありますね(笑)。

小黒 スランプの話に戻りますが、その後、コンテが描けなくなっても不思議はないぐらい、熱中してやっていたんですね。

佐藤 そう。『魔法使いTai!』の時も似た感情があったんだけど、『カレイドスター』が終わった時に「あっ、そらの演技がもう描けない」と思ってしまって。「そらが描けない」っていうのが、結構大きかった。

小黒 喪失感があったんですね。

佐藤 そうそう。

小黒 佐藤さんにとっては、キャラクターの芝居を描く事が、一番大事な事なんですね。

佐藤 そう。芝居というよりも、そのキャラクターを描いてる事が、なんかね、喜びになってるんですよ(笑)。「もっともっと描きたいな」っていう感じになってるんですね。

 それが終わったのと同時に、別の喪失感も沸いてきたんですよ。「俺って、周りから必要とされてないんではないだろうか?」みたいなものがゴソッて出てきて。

小黒 ええっ!?(笑) 「俺って、そんなに大した奴ではないのでは?」みたいな?

佐藤 「大した奴」というか「自分なんて、いてもいなくても同じじゃない?」みたいな感じというか。なんだろうね? ちょっと適切な言葉が出ないんだけど。

小黒 それが佐藤さんのスランプだったんですね。立ち直るまでに1年くらいかかったんでしたっけ。

佐藤 そう。飲み会に行ってみたり、色々やってみたりしながら(笑)。

小黒 ありましたねえ! あの頃、僕も、佐藤さんに飲みに誘われました。

佐藤 そうそう。駄目な飲み会を繰り返す、みたいなやつ(笑)。

小黒 佐藤竜雄さん達と順一さんとで飲みました。

佐藤 竜雄さんと凄く飲む機会が多かったの、あの頃ですからね。

小黒 なるほど、なるほど。

佐藤 みんなが心配してくれたのか、分かんないけど……。


●佐藤順一の昔から今まで (29)『カレイドスター』の すごい 思い出・3 に続く


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