小黒 この頃に『スレイヤーズぷれみあむ』(劇場・2001年)もあります。『プリーティア』が2001年4月新番で、同じ年の暮れですね。
佐藤 『ぷれみあむ』ってもう少し先かと思ったけど、そんなもんだったかもね。
小黒 佐藤さんは『スレイヤーズ』のことをあまり知らずに手掛けたんですよね。それもあってか、リナが可愛いんですよ。ちょっと女の子っぽい。
佐藤 (笑)。そうしてるかもね。原作もアニメも凄い量があるじゃない。
小黒 ええ。
佐藤 自分に与えられた時間がなかったので、まず映画を全部観て、あとはファンジンとかファンサイトとかを漁るように読んで、みんなが何を楽しんでるのかを探って。
小黒 おお、若手監督みたいだ(笑)。
佐藤 原作も全部読んでる余裕はなかったんだよね。とにかく「みんなが何を楽しんでるか」が、まず知りたくて。そこで引っかかったのが、あんまりクローズアップされてないんだけど、「リナとガウリイの関係って、ちょっとよさげじゃない?」ということだったんです。このカップリングについて、ときめいてる人もいたようだったので、これかなと思って。
小黒 それで、ガウリイが「アイラブユー」と言ってリナがドキッとするんですね。
佐藤 そうそう。今回はこれかなと思ってやったんじゃないかな。
小黒 なるほど。あの当時、『スレイヤーズ』のアニメは既に沢山作られていましたが、その中で新鮮な感じはしましたよ。
佐藤 まあね、せっかくやるんで今回のトピックが何か欲しいなと。劇場版にTVのキャラクター達が出ることが、今回のトピックだって言われていたので、TVシリーズも色々観たんです。みんなが喜んでくれそうなものはこれかなと思ったのが、リナとガウリイやゼルガディスとアメリアのラブコメテイストですね。そう思って取り組んでいたかな。
小黒 脚本もお書きじゃないですか。
佐藤 はいはい。
小黒 脚本に関して、原作者の方とやりとりしたんですか。
佐藤 ショートの劇場作品をやるにあたって、どういう方向がよいのか分からなかったので、プロットを3本書いたんですよ。
小黒 ほお。
佐藤 凄いシリアスな方向のものと、シリアスなんだけどTVシリーズノリのコミカルなところもあるやつと、コミカル寄り一辺倒なタコの話を作って。タコの話だけは、流石にこれはないだろうと思ったんだけど、「これが面白いです」と言われたので、それになったというわけですね。
小黒 別に誰かがタコの話をやろうって言ったわけじゃないんですね。
佐藤 じゃない。いくつか書いた中で、原作者の神坂(一)先生とあらいずみ(るい)先生が「これが是非観たい」とおっしゃったので(笑)、じゃあこれでやりますと。脚本にもクレジットされてるけど、プロットの次がコンテだったので、シナリオそのものは書いてないんですよ。
小黒 なるほど。
佐藤 その後の『ARIA (The ANIMATION)』(TV・2005年)や『たまゆら』(OVA・2010年)とかもそうだけど、脚本はほぼ書いてなくって、プロットでOKをもらったらそれでいきなりコンテに入るっていうやり方なので。
小黒 手応えはいかがでしたか。
佐藤 いや、全然分かんなかったよね。それこそファンムービー的な、ファンが喜んでくるかどうかが勝負みたいなところがあるから、もうドキドキですよ(笑)。
小黒 なるほど。
佐藤 どれぐらい喜んでもらったのか、データでもらったわけじゃないので分かりませんけど、喜んでもらえたらいいなと思いました。
小黒 いや、喜んでもらえたんじゃないでしょうか。
佐藤 そしたら、ありがたいですよ(笑)。とりあえず神坂先生とあらいずみ先生には喜んでいただけたようなので、そこは一安心でしたね。
小黒 これも制作の現場がハルだったんですね。
佐藤 北海道にあった時のサテライトスタジオも結構入ってくれていたはず。
小黒 この前後だと『七人のナナ』(TV・2002年)の絵コンテ、『ゲートキーパーズ21』(OVA・2002年)の絵コンテがありますが。
佐藤 それはこれまでやってきた仕事の流れですね。『七人のナナ』は、『まる子』をやってたスタッフが作っていた作品で、オファーをもらってやりましたね。制作のA・C・G・Tはトラスタの制作連中が作ってた会社でもあったので。『ゲートキーパーズ21』は山口さんが監督としてGONZOとやってたので、1本引き受けてる感じですね。
小黒 『ゲートキーパーズ21』は、作画もハルで請けてるんですか。
佐藤 そうそう。1本グロスでまるっとやる感じで。熊谷(哲矢)さんが作監だったかな。
小黒 佐藤さんはこの頃、ハルに机があって、社内で作業をされていたんですか。
佐藤 この頃、ハルをベースにして作業してるよね。
小黒 『THE ビッグオー』(TV・2003年)は、最終回前の絵コンテだけを担当(25話「The War of the Paradigm City」)。
佐藤 『ビッグオー』も、『ウテナ』に続いて……。
小黒 「分からない」ですか。
佐藤 「どうやったらいいんだろう」って思いながらやった(笑)。メタフィクション的なところがあるから、言われたようにやるしかないかという感じでやってたかもしれないですけどね。
小黒 むしろ小中さんは、こっちが自分のフィールドな感じですよね。
佐藤 そうなんですよ。「小中さんのフィールドってこういうことか!」と思ってやってた気がするな。
小黒 じゃあ、割と手探りでやった感じですか。
佐藤 手探り。分かんないところは「とりあえず書いてあるとおりにちゃんとやっていこう」と思ってやってるはず。
小黒 そして、今日の取材のクライマックスが『プリンセスチュチュ』(TV・2002年)ですよ。
佐藤 はい。
小黒 どのぐらい前からやってるんですか。
佐藤 ハルフィルムで、次の作品を何にしようかという時に『プリンセスチュチュ』という企画があると提案したんです。これは伊藤郁子さんが企画としてずっと持っていたもので、『セーラームーン』をやってる頃から、ずっとスケッチをしてたと思うんだよね。それがオリジナルのバレエものであることまでは聞いてたけど、企画内容までは見せてもらってなかったので、「これはサトジュンでやる作品ではないんだな」と思って、あんまり触れないようにしてたんです。それから、結構時間が経っていたので、伊藤さんに声を掛けたら「じゃあやってみようかな」という気持ちになってくれたので、プレゼンして動かしてみましょうかといった感じかな。
小黒 なるほど。基本的には伊藤さんの中にあるものが、スタートラインにあるわけですよね。
佐藤 そう。伊藤さんのアニメを作るっていう企画ですからね。
小黒 『魔法使いTai!』では佐藤さんがやりたいことを伊藤さんが手伝ったので、『プリンセスチュチュ』では伊藤さんがやりたいことを佐藤さんが手伝うかたちだと、当時、うかがいました。
佐藤 そうですね。そういう感じで間違いない。
小黒 伊藤さんの中に、やりたいキャラクターや世界とかはあったと思うんですけど、物語のかたちもあったんですか。
佐藤 がっちりと櫓を組んだ状態ではないんだけど、伊藤さんの中にはやりたいパーツがいっぱいあって、ぐるぐるしてた状態だと思うんですよね。「これはこうですか?」って聞くと答えが返ってくるんだけど、それと一緒にあれもこれもと出てくる感じだったので、ディレクションをするにあたって、上手にやらないと散らかっていくなっていう印象があったんです。だから、全体像としては伊藤さんのやりたいものをリサーチして、それをフィルムに載っけていくっていう作業に近いかな。
小黒 『チュチュ』って、観ていてもどうなっていくのかが分かりづらいですよね。これは狙いなんですか。
佐藤 それが狙いってことではないんだけれど、伊藤郁子さんには「エンターテイメントでありたい」ということがベースにあるんですよ。だから、「ここでこんなキャラがこんなことしたら面白いな」といったパーツも沢山持ってるんだよね。伊藤さんはホン読みにも参加しているので、そのお持ちのものを出してもらって、組み立てていくから、そのテイストが出ているとは思うけどね。
小黒 足元がふわふわした道を歩いてるみたいでしたね。「物語の中の王子」ってどういうことだろう、と思ったりしました。
佐藤 (笑)。割と後半まで探り探りで、「これどうしたいの?」と考えるようなことはありましたね。例えば、「動物キャラが毎回何か出ます」と伊藤さんが言うので、まずアリクイ美さんを作ったんです。伊藤さん的にはワンカット出てくるぐらいのつもりで考えてたんだけど、(シリーズ構成の)横手さんが探り探りの中で、アリクイ美さんっていうキャラクターを凄く立ててくれたので、それはそれで面白くていいかとなって進んでいくような感じですね。その後「動物キャラはワンカット出ればいいくらいです」となって、アルマジロとかは、ちらっと一瞬だけ出る。
小黒 オンエアの途中にあった総集編で「ここに出ていたこの動物!」みたいなコーナーがあって、あれで初めて出ていることを知った動物もいましたね。
佐藤 (笑)。スタッフルームに「珍しい生きもの大辞典」みたいな本があって、ネタ本として使ってました。伊藤さんが思っていることをかたちにしていくと、ちょいちょい誤解が生まれるんだけど「それはそれで面白いかな」と活かしていく感じでしたね。
小黒 誤解というのは、今のアリクイ美さんのようなことですね。
佐藤 そう。アリクイ美さんはそんなに出すつもりじゃなかったけど、出してみたら面白かったのでそれでいこう、みたいな作り方。毎回バレエで着地するのに関しても、これはどう決着するんだろうと詰めながら作っていました。