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佐藤順一の昔から今まで (14)『魔法使いTai!』と「ぶらり信兵衛 道場破り」

小黒 ここから、コアなアニメファン向け作品の話題が続きます。まずは『魔法使いTai!』です。これはどういうかたちで企画が始まったんですか。

佐藤 これはトライアングルスタッフの浅利(義美)さんから「オリジナル企画なあい?」と言われたところから始まっています。セルビデオについてあまり知らなくて、どういうものがどう売れるのかっていうことも分かっていなかった。バンダイビジュアルでやる企画だったので、プロデューサーの寺田(将人)さんに色々話を聞いたら「メカと美少女」というキーワードがあったので、そこから考えました。

小黒 売れるものにしようというところから始まっているわけですね。

佐藤 そうですね。「パッケージで売れるものはこうである」という情報をもらって、それをヒントに作っていくプロジェクトでしたね。伊藤郁子さんのオリジナルキャラクターでやりたかったので、口説いて。

小黒 『ユンカース』の時は東映の社員として外の仕事をやったっていうことですよね。

佐藤 そうですね。

小黒 でも、『魔法使いTai!』は違うんですよね。 

佐藤 そうです。でも、仕事の受け方はどうだったかなあ。

小黒 クレジットでの役職は原案・絵コンテ・総指揮ですね。

佐藤 『ユンカース』の終わり頃には、東映制作部の部長が元の人に戻ってるんですよ。なので、東映の人間として外の仕事をやって、ギャラを東映経由でもらうかたちにはしてないと思います。単純に「外でこういう仕事をやりますけど、東映の仕事もやります。迷惑かけないようにやります」という交渉の仕方をしたかな。

小黒 そして、籍は東映にあるので、やってることは監督だけど、役職は総指揮にしたということですね。

佐藤 そうですそうです。

小黒 板野(一郎)さんがアバンに参加していたり、メカニックデザインが前田真宏さんだったりと、佐藤さんの普段の作品とは顔触れが違うというか。

佐藤 そう(笑)。知らない人だらけですからね。

小黒 脚本の小中(千昭)さんも、この時点では佐藤さんとはあまり縁のない、マニアックな作風の方ですよね。

佐藤 そうです。本当に全然知らない人ばっかりですが、それは僕が東映にいたから知らないだけで、外の人達は皆さんで繋がりがあって。この作品に合う人を、ちゃんと連れてきてくれているので、特に文句を言ったりはしない(笑)。

小黒 夢のあるチームでしたね。

佐藤 そうですよねえ。

小黒 『魔法使いTai!』が佐藤さんの仕事歴の中でちょっと変わってるのは、肉感的というか、ちょっとエロいこと。

佐藤 はいはい。

小黒 どこまでが佐藤さんの趣味性か分からないけど、オタク心を掴みに行ってる作品なわけですよ。

佐藤 (苦笑)。

小黒 普段は職業人として作品を作っている佐藤さんが「自分の好きなのはこれだよ」というかたちで作ったように見えるんですがどうでしょう。

佐藤 いや、好きなものをやってるのは確かなんですけど、オタク心を掴みに行ってるのは伊藤郁子さんかもしれないですよね(笑)。
 伊藤さんと僕で一番違っていたのは沙絵の描写でした。個人的には沙絵が大好きなタイプの子なんですけど(笑)。『ステップジュン』の高田先生とかに通じる、得体の知れない、よく分からないことを考えてる女の子って凄くいいなと。

小黒 そうなんですか!? そこで繋がるの?(笑)

佐藤 そうそう。マイワールドにいて、オタオタすることもあって、見ていて飽きないみたいな。そして何かにつけて一生懸命でぶれないところも大事なんだろうと思います。そこに伊藤郁子さんが「どうして沙絵が高倉先輩を好きなのか全く分からない」って言いながら、納得できる要素を足していってくれるような。

小黒  なるほど。

佐藤 『キャンディ・キャンディ』の「丘の上の王子様」みたいなものがないと、伊藤さんは沙絵が描けない感じだったので、ジェフ君という魔法使いを出すことになったり。小中さんが伊藤さんと感覚が近かったので、お二人は意思疎通が早かったとは思いますけどね。

小黒 実作業として、佐藤さんは全話のコンテを描いて、レイアウトチェックをしてるんですね。

佐藤 一応しました。

小黒 で、原画チェックは演出さんがやってる。

佐藤 はい。

小黒 もの凄く、佐藤順一アニメになってるのは、伊藤さんの力ですか。

佐藤 そうですね。絵コンテにない動きを含め、画のコントロールは伊藤さんがやってくれています。ギャグや笑いも、伊藤さんのアイデアで入っていました。

小黒 レイアウトは、佐藤さんと伊藤さんと各話演出が見ていたんですか。

佐藤 そうです。各話演出が見た後に、僕のところに回ってきて、その後に伊藤さんがキャラクターの修正を入れて原画に戻すという流れだったと思いますけどね。

小黒 それで、佐藤さん自身はどのぐらい主人公に投影をしてたんですか。

佐藤 『魔法使いTai!』の沢野口沙絵は投影よりも、思い入れが強かったですね。終わってから感じるんですねえ。凄い喪失感が来るんですよ(苦笑)。なんかの錯覚なんだろうけど、「もうこの人の絵コンテを描けない」ということを、滅茶苦茶つらく感じる瞬間があって(苦笑)。どっちかというと、好きな人にもう会えなくなる切なさに近いものがあるのに、自分でもびっくりした。

小黒 アニメファンぽいなあ(笑)。

佐藤 そうそう。自分でも「なんでこんな気持ちになるの」みたいな部分が。その後だと『カレイドスター』の苗木野そらっていうキャラクターで、また同じことを思って。たまにこういうのくるよなと。好きすぎるとそうなる。

小黒 なるほど。高倉に、ご自身を投影してないんですか。

佐藤 そこは別に投影してないですね。

小黒 モデルになっているとしたら、外見だけですか。

佐藤 そうです。高倉成分はそんなに自分の中にはないはずなんですけど。

小黒 じゃあ、妹がいるのもたまたまなんですね。

佐藤 そうですね。妹キャラクターは使い勝手がいいので、どんな作品でも入れがちですけどね。

小黒 高倉は佐藤さんがモデルだと聞いていたので、そのつもりで妹を出しているのかと。

佐藤 その思いはなくはないかもしれない。だけど、高倉の妹に自分の妹そのものを投影しているわけではないんです。

小黒  当時のインタビューの話ですが、『魔法使いTai!』に毎回妄想シーンがあるのは「ぶらり信兵衛 道場破り」(TVドラマ・1973年)のおぶん(編注:同ドラマに登場する町娘)の妄想が元ネタだというのを見抜いたのは、多分、日本で僕だけだと思うんです。

佐藤 まさにその通りです。ヘヘヘ(笑)。

小黒 「ぶらり信兵衛 道場破り」は、お好きだったんですね。

佐藤 そう、好きですね。ドラマは刑事もの、青春ものや時代劇も見てましたし。「信兵衛」は面白かったですよね。

小黒 他にはない感じの作品でしたねえ。

佐藤 ないですね。しかも、作劇上、おぶんの妄想はないほうが尺的にも助かるにも関わらず、必ず入れているところがよかった。「TV番組でそういうことって大事だな」と思ったんです。そういうところでも勉強になってますからね(笑)。

小黒 『魔法使いTai!』の1話は行って戻るだけの話ですね。佐藤さんがやりたかったのは、お話がなくてもアニメは成立するんだということでしたね。

佐藤 「キャラクターで観れるはずである」ということですね。

小黒 脚本はどうなっていたんですか。

佐藤 プロットは僕で、1話のシナリオは遠藤明範さんに書いて頂いてるんです。それを補足、修正しながら絵コンテにしてましたね。それを小中さんが、「ちょっと1回文章にしてみる」と言って書いてくれたのが、世の中に出ている1話のシナリオかもしれないですね。

小黒 なるほど。

佐藤 通常は脚本段階で「こんな事件がこうあってこうなる」と進めていくんですけど、まずそこを求めないで、キャラクターに集中するだけで作っていくのが、遠藤さんはつらかったかもしれないなあと思います。

小黒 遠藤さんが書いた脚本も、事件らしい事件が起きない内容ではあるんですね。

佐藤 プロットがそうなので。

小黒 プロットは佐藤さんが全部を書いたんですか。

佐藤 そうですね。全6話分を書いています。言ってみれば構成ですけどね。

小黒 小中さんのシナリオはいかがでした。

佐藤 「女の子の描写がお上手」って言うと違うのかもしれないですけど、自分と求めるものが近くて、そういうところは助かったというか、勉強にはなりました。明確に言語化してたわけじゃないですけど、女の子の描写をする時に「分かりすぎると、なんか嘘っぽくなる」というのは、常々思っていたんですよ。「なんでここで泣いちゃうのか分からないんだけど、泣いちゃうな」という描写のほうが、本当っぽくなる。小中さんの書かれるホンはそうだったんですよね。小中さんも「分かるように書いちゃうと嘘っぽくなるんだよね」とおっしゃっていて、大変意見が一致するところでもありました。魔法とかに関しても、造詣が深かったので、小中さんの知識に頼って、色々と描写を入れていただいてます。魔法に関して、こちらからは何も出してないんですよね。あとは、参考に小中さんが書いたシナリオをもらったけど、全部ホラーだったんで怖くて読めなかった。

小黒 ハハハハ(笑)。

佐藤 ねえ。シナリオの段階で怖いんだから、大変なもんだって思いましたけど。

小黒 『魔法使いTai!』の反響はどうだったんですか。

佐藤 『魔法使いTai!』は観た方達に割と喜んでいただいたんですけど、後半の発売が相当遅れていきましてですね(苦笑)。毎月リリースのはずが、2ヶ月空き3ヶ月空きになったこともあってか、途中で「少し失速した」と言われてたね。

小黒 当時、「マニアの人に向けて作ったのに、親戚の子供が喜んでいた」と話されていましたね。

佐藤 そういうことはよくありますけれども(笑)。『魔法使いTai!』の時もありましたね。

小黒 ちゃんとお色気アニメになってたと思いますよ。

佐藤 頑張ってお色気を出しましたから。

小黒 それでいうと、佐藤さんにとっての女性のポイントは「太腿」なんですね。

佐藤 あとは膕(ひかがみ)辺りを使うことが多いかもしれない。

小黒 ひかがみ?

佐藤 膝の裏ですね。膝裏が多めです(笑)。

小黒 ちょっと話が戻りますけど、『セーラームーン』は、そんなに当たるとは思わないで始まったとして、その後の反響についてはいかがでしたか。

佐藤 日常的に実感できるぐらい人気が出たのは、驚きましたよね。一番驚いたのが、TV番組の最後に、次の番組の出演者が出てきて、「次の番組はこれ」と言うのがあるじゃないですか。

小黒 はいはい。

佐藤 「『ビートたけしのTVタックル』、このあとすぐ」と言うところで、ビートたけしが「このあとは『セーラームーン』」と言ったのが、衝撃でした(笑)。

小黒 別に『セーラームーン』やるわけじゃないのに。

佐藤 そう。次はビートたけしの番組なのに、ギャグとして『セーラームーン』と言ったのが衝撃でした。「おお、たけしも使ってる」と、嬉しいような驚くような気持ちになりました。

小黒 時代の番組でしたもんねえ。

佐藤 あとは、作品が動いていっちゃうと、どんどん手を離れていくので。ミュージカルとか色々展開していくと、「みんなが楽しんでくれていていいな」と思うぐらいですね。


●佐藤順一の昔から今まで (15)「レイ、心のむこうに」と「ネルフ、誕生」 に続く


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