COLUMN

第187回 伝統を超えて 〜ULTRAMAN〜

 腹巻猫です。Netflixで配信されている劇場アニメ『泣きたい私は猫をかぶる』を観ました。音で織られたタペストリーのような窪田ミナさんの音楽が素敵。サウンドトラックは主要音楽配信サイトで配信中。CDアルバムはAmazon限定のようです。
https://www.amazon.co.jp/dp/B089M61JJG/


 昨年(2019年)、Netflixで配信されたアニメ『ULTRAMAN』のサウンドトラック・アルバムが7月8日に発売された。発売を待ち望んでいただけに、うれしいリリースだ。
 『ULTRAMAN』のテーマ曲には格別の思い出がある。今年(2020年)2月下旬、新型コロナウイルスの影響でコンサートやライブが次々と中止や延期になる前に、最後に足を運んだコンサートで聴いたのが『ULTRAMAN』のメインテーマだったのだ。
 コンサートのタイトルは「SUPER HEROES」。FILM SCORE PHILHARMONIC ORCHESTRA(通称フィルフィル)の演奏による、国内外のヒーロー劇場作品、ヒーロー番組の音楽を集めたコンサートだった。このフィルフィルこそ、『ULTRAMAN』の音楽を手がけた戸田信子が代表・音楽監督を務めるオーケストラ。『ULTRAMAN』の音楽録音にも参加している。
 今回は、その『ULTRAMAN』の音楽を取り上げたい。

 『ULTRAMAN』は2019年4月にNetflixで全世界同時配信された3DCGアニメ。2020年4月から7月にかけて、TOKYO MXとBS11でTV放映もされた。
 原作は清水栄一と下口智裕による漫画。1966年から放送された特撮TVドラマ「ウルトラマン」の40年後の世界を描く作品だ。
 ウルトラマンが去った後の地球では、さまざまな異星人が地球を訪れ、地球人と共存していた。が、異星人が関わる凶悪犯罪が勃発。科学特捜隊がひそかに開発を進めていた強化服・ウルトラマンスーツを装着した若者たちが、新たな“ウルトラマン”として地球を守る任務につく。
 主人公は「ウルトラマン」に登場する早田(ハヤタ)隊員の息子・早田進次郎。諸星弾(ウルトラセブン)、北斗星司(ウルトラマンエース)といった、ウルトラシリーズでおなじみのキャラクターも、本作独自のアレンジで登場するのが見どころだ。本作のウルトラマンは「変身」するのではなく、強化服をまとって戦う。異星人との戦いだけでなく、ヒーローの力を身に付けた若者たちの葛藤や対立が物語の軸になっている。劇場作品「アベンジャーズ」を思わせる、新時代のウルトラマンの物語である。
 音楽を手がけたのは、戸田信子×陣内一真。東京とロサンゼルスを拠点に活躍する作曲家ユニットだ。代表作は、ゲーム「メタルギアソリッド」シリーズ、「Halo 5: Guardians」(2015)、劇場作品「太秦ライムライト」(2014)、TVドラマ「タイムスクープハンター」(2009〜2014)など。戸田信子は、TVアニメ『一週間フレンズ。』(2014)、『宝石商リチャード氏の謎鑑定』(2020)などの音楽も手がけている。
 先に紹介したFILM SCORE PHILHARMONIC ORCHESTRA(フィルフィル)は、サウンドトラックを専門に演奏するオーケストラとして戸田信子が2016年に創設した管弦楽団だ。筆者は何度かコンサートに足を運んだが、楽団員もみな映画音楽ファンで、サントラ愛にあふれた演奏に胸が熱くなった。また、戸田信子は映画音楽作曲家の貴重な証言を集めた劇場作品「すばらしき映画音楽たち」(2017)の製作総指揮も務めている(マット・シュレーダーと共同)。
 戸田信子と陣内一真は、バークリー音楽大学の映画音楽作曲科とコンテンポラリーライティング&プロダクション科を卒業した作曲家。現代のハリウッド映画音楽の技術とノウハウを本格的に学び、作品に昇華させている。『ULTRAMAN』の音楽も、21世紀のハリウッド映画音楽の香りがする。演奏にはフィルフィルだけでなく、数々の映画音楽の演奏で知られるプラハ・シティ・フィルハーモニー管弦楽団(The City of Prague Philharmonic Orchestra)も参加。ミックスをアラン・マイヤーソンが手がけるなど、音作りも国際的だ。
 本作の音楽制作については、『ULTRAMAN』公式サイトで公開されているインタビューで詳しく語られている。
 それによれば、2人は過去のウルトラマンシリーズの音楽を参考にはしなかったという。むしろ監督から「聴かなくていい」と言われていた。『ULTRAMAN』の音楽からは「過去にとらわれず、新しいウルトラマンの音楽を作ろう」という意気込みが伝わってくる。
 楽器編成はオーケストラとシンセサイザーのハイブリッド。どちらが主でも、どちらが従でもなく、生楽器と電子楽器が混然となって響き合う。3DCGで作られた映像にフィットし、強化スーツをまとった新たなウルトラマンのイメージにもマッチする現代的なサウンドだ。
 本作の音楽は、映像に合わせたフィルムスコアリングで制作された。同時に、主要キャラクターごとにテーマを設定するライトモチーフの手法も採用されている。
 ウルトラマン、ウルトラセブン、ウルトラマンエース、それぞれに異なるテーマが用意されている。特徴は、メロディで差別化するだけでなく、音色から変えて色分けしていること。ウルトラマンは正統派のシンフォニックサウンド。ウルトラセブンはエレキギターとシンセがリードするクールな曲。ウルトラマンエースはシンセと弦楽器主体のロックバラード風。ヒーローそのものではなく、ヒーローになる(なろうとする)人間のキャラクターに合わせたサウンドが設定されている。そのため、音楽がドラマに直結している。
 また、異星人や怪獣にも、それぞれテーマが与えられている。キャラクターが異なるのだからあたりまえなのだが、溜め録り方式の音楽では、毎回登場する異星人や怪獣それぞれに異なるテーマを用意することは難しい。フィルムスコアリングならではのぜいたくな作り方である。

 本作のサウンドトラック・アルバムは2020年7月にバンダイナムコアーツ(ランティスレーベル)から発売された。CD2枚組。BGM53曲に加え、ボーナストラックとして主題歌・挿入歌4曲が収録されている。
 収録曲は下記を参照。
https://www.lantis.jp/release-item/LACA-9758.html
 完全収録ではなく、主要楽曲をセレクトし、ほぼ劇中使用順に沿って収録した構成である。ディスク1に第1話〜5話、ディスク2に第6話〜13話(最終話)の楽曲を収録している。
 印象深いトラックを紹介しよう。まずはディスク1から。
 1曲目は本作のメインテーマ「ULTRAMAN」。
 メインテーマは「変身」シーンをイメージして作られた。冒頭にキャッチーなフレーズを配し、1、2小節を聴いただけで印象に残る楽曲にしているのがさすがだ。この短いフレーズを聴いただけでウルトラマンのテーマであることがわかる。
 本編では、第2話で進次郎が初めてウルトラマンスーツを身に付ける場面をはじめ、必殺技スペシウム光線を放つ場面、ウルトラマンが初めて空を飛ぶ場面など、ここぞという見せ場に使用されている。まさしくメインテーマであり、ウルトラマンのテーマだ。
 第1話冒頭のプロローグ部分に流れるのがトラック2「光の巨人」。ホルンの響きが雄大なスケールを感じさせる曲で、ウルトラマンの世界への導入としてはこの上ない。冬木透らが作り上げた過去のウルトラマン音楽との共通性も感じられる。この曲を導入に、以降は本作独自のウルトラマン・サウンドが展開することになる。
 「科学特捜隊」(トラック4)は『ウルトラマン』に登場する地球防衛チーム・科学特捜隊のシーンに流れた曲。ウルトラマンが地球を去ったあと、科学特捜隊は解体されたが、記念館となった基地の地下には作戦室が設けられ、ひそかに活動を続けていた。高揚感を抑えたクールな曲調が本作の科学特捜隊像を示している。
 「早田進次郎」(トラック6)は主人公・進次郎の宿命を象徴する曲。高校生としてふつうの学園生活を送る進次郎は、自身がウルトラマンの因子を受け継いでいることをまだ知らない。本編では、進次郎の父・早田進が自分がウルトラマンであったことを思い出す場面から流れている。
 その早田進の戦いを描くのが「私がウルトラマンだ」(トラック11)と「ベムラー vs ウルトラマン」(トラック12)。弦の速いパッセージをバックに低音を強調したブラスセクションが重厚なフレーズを奏でる。危機感あふれるスリリングなバトル音楽である。
 そして、ついに進次郎がウルトラマンスーツをまとって戦うときが訪れる。「ウルトラマン・スーツ」(トラック13)は進次郎が父を助けるためにウルトラマンスーツを装着することを決意する場面の曲。進次郎の葛藤と決意を表現する弦楽器主体の曲だ。
 本編ではこのあとメインテーマが流れ、「ファースト・ミッション」(トラック14)が続く。
 「ファースト・ミッション」は4分近くに及ぶバトル曲。映像に沿った構成で進次郎=ウルトラマンの初めての戦いを描写する。スピード感と緊迫感に富んだ曲調は、強化スーツをまとった等身大のウルトラマンの戦いにふさわしい。
 初めての敵を倒したあと力尽きて倒れるウルトラマン(進次郎)のシーンに流れたのが「避けられない運命」(トラック15)。曲の後半にメインテーマのモティーフが引用され、新たなウルトラマンとなった進次郎を待つ苦闘が暗示される。
 ここまでが、いわば「ウルトラマン誕生編」。第1話と第2話で使用された楽曲である。
 第3話からは異星人が関係する事件と、それを捜査する科学特捜隊およびウルトラマンの活躍が物語の中心になる。本アルバムも、トラック16以降は不気味な異星人のテーマや事件発生シーンに流れるミステリアスな曲、進次郎の日常を彩るポップな曲などが登場。バラエティに富んだ構成になってくる。
 トラック29「ライバル」は、第5話で進次郎と諸星弾が科特隊基地の屋上で話をする場面の曲。2人の意見の違いが明らかになる場面で、音楽もメロディを抑えた不穏なサウンドで作られている。曲の後半に、メインテーマのモティーフがそっと顔を出す。進次郎の心に芽生える迷いを表現する巧妙なアレンジである。

 続いてディスク2。
 1曲目は「SEVEN」。諸星弾がウルトラセブンのスーツを装着し、異星人を退治する場面の曲だ。特撮ヒーロー版のウルトラセブンとはまったくイメージの異なる曲調で本作のセブンのキャラクターを明確にする。
 次の「怪獣レッド」(トラック2)は正統派怪獣映画音楽風で筆者の好きな曲だ。ブラスとパーカッションを主体にした重厚な曲調。市街地で暴れる怪獣とウルトラマン(進次郎)との戦いをたっぷり5分近くにわたって描写する。バトルの展開に応じて曲調が変化するフィルムスコアリングの醍醐味が味わえる。
 物語が進むにつれて重要な役割を担うキャラクターが、進次郎が親しくなるアイドル歌手・レナである。
 トラック8「出発」は第8話ラストで使用されたレナの心情を表現する曲。ギターとストリングスを主体にしたぬくもりのあるサウンドでレナのモティーフが奏でられる。
 第11話で進次郎とレナが心を通わせるシーンに流れる「そのままの君でいてね」(トラック11)では、ピアノが同じフレーズを奏でる。曲の終盤にはメインテーマのフレーズが現れ、レナの想いを察した進次郎の気持ちを表現する。2人のライトモチーフが絡み合う映画音楽的な構成が聴きどころだ。
 トラック16「罠」からは、全編のクライマックスに向けての曲が並ぶ。ウルトラマン抹殺をめざすエースキラーとウルトラマンの死闘を描く楽曲群だ。
 強敵エースキラーの脅威を描写する「エースキラー」(トラック17)は5分を超える曲。エースキラーとウルトラマンエースの戦いを描く「エースキラー vs ウルトラマン」も6分を超える。アルバムのクライマックスとしても聴きごたえ満点だ。
 「エースキラー vs ウルトラマン」では、エレクトロニカ風のサウンドとパーカッションによるリズムが主体となって、息詰まる激闘が描写される。ここでピンチ感が盛り上がるおかげで、次の曲、ウルトラマンとセブンが反撃に転じる場面の「ウルトラマンの戦い」(トラック19)が高揚感たっぷりに迫って来る。
 アルバムを締めくくるのは、伝説の光の巨人の再来を暗示する「光の戦士」とエピローグに流れる「光の中へ」の2曲。「光の戦士」(トラック20)はディスク1の「光の巨人」に通じるイメージ。シンセ主体の幻想的な曲調で謎めいたヒーローの姿を描く。「光の中へ」(トラック21)はメインテーマのモティーフを変奏しながら、進次郎の決意をイメージさせる力強い曲調でコーダへ。ヒーローものの終わり方はこうでなくては、と思わせる終曲だ。
 ボーナストラックでは、劇中でレナが歌うアイドルソング「星の欠片」がフルサイズで聴けるのがうれしいところ。ほかにNetflix版主題歌1曲(ショートサイズ)とTVアニメ版主題歌2曲(アニメサイズ)が収録されている。
 欲を言えば、最終話の楽曲をもう少し手厚く収録してほしかった気がする。が、全体のバランスと聴きやすさを考えての構成だろう。
 ウルトラマンの物語に新しい解釈で挑んだ『ULTRAMAN』の音楽。半世紀を超えるウルトラマン・サウンドの伝統に新たなページを加える意欲作である。

 戸田信子×陣内一真の最新作は、2020年4月からNetflixで配信されているアニメ『攻殻機動隊 SAC_2045』の音楽。こちらも、過去の『攻殻機動隊』の音楽とは異なるアプローチで新たなサウンドを紡ぎ出している。さらに、『ULTRAMAN』のシーズン2の特報も公開された。今後の展開に注目したい。

ULTRAMAN ORIGINAL SOUNDTRACK
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攻殻機動隊 SAC_2045 O.S.T.
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