腹巻猫です。新年あけましておめでとうございます。ありがたいことに年末年始も仕事漬けでした。本年もよろしくお願いします。
今年はねずみ年。ねずみのアニメといえば、誰もが思い浮かべる名作がある。出崎統監督の『ガンバの冒険』だ。
しかし、今回は同じ出崎監督の別の作品を取り上げたい。劇場版『とっとこハム太郎』だ。ハムスター(キヌゲネズミ科)が主人公のアニメである。
『とっとこハム太郎』は河井リツ子の同名マンガを原作にトムス・エンタテインメントが映像化したアニメ作品。TVアニメが2000年7月からスタートした。2期、3期と続く人気シリーズとなり、第5期が2013年3月まで放送されている。TVアニメ版の監督は鍋島修。劇場版が4作作られ、4作すべてを出崎統が監督した。
筆者は第1作から第3作まで、公開当時劇場で観た。ゴジラと併映だったからだ。ハム太郎の劇場版を出崎統が監督する話も聞いていた。ゴジラと出崎アニメが一緒に劇場で観られるのか! とわくわくしたことを覚えている。
劇場版『とっとこハム太郎』は期待にたがわぬ出来だった。『あしたのジョー』や『エースをねらえ!』のような作品を期待する出崎ファンには物足りなかったかもしれない。しかし、筆者はすごく満足した。その証拠に、DVDもサントラ盤も買ってしまったのだ。
『とっとこハム太郎』は、ハム太郎を中心にハムスターたちの日常や小さな冒険を描くほのぼのアニメ。ハム太郎の飼い主は小学5年生の女の子・ロコちゃんだ。TVアニメではロコちゃんの日常も描かれている。
しかし、劇場版は少し趣が違う。ハム太郎たちが日常を離れた世界でスケールの大きな冒険をするファンタジー作品になっている。といっても、楽しく可愛い冒険だ。
その映像が、どこを切りとっても出崎アニメなのがたまらない。ハム太郎はガンバみたいな走り方をするし、随所に出崎統らしい絵作りや演出が観られる。子ども向きと思わず、ぜひ観てほしい作品なのだ(特に海賊ハムクックが登場する3作目がいい)。
音楽はTV版、劇場版ともに岩崎元是が担当している。
岩崎元是は1986年にポップバンド・岩崎元是&WINDYでデビューした音楽家。バンド解散後、作・編曲家、スタジオミュージシャンとして活動を開始した。音楽を担当したアニメ作品には、劇場版『キン肉マンII世』(2001)、『まめうしくん』(2007)、『そらのおとしもの』(2009)などがある。主題歌・挿入歌等の楽曲提供も多い。『機甲警察メタルジャック』(1991)、『勇者警察ジェイデッカー』(1994)等の音楽を手がけた作曲家・岩崎文紀は実兄である。
今回は劇場版第1作『劇場版 とっとこハム太郎 ハムハムランド大冒険』(2001)の音楽を紹介しよう。
タイトルにある「ハムハムランド」とはハムスターだけが住む夢の国。ハムスターのユートピアだ。ハム太郎たちは偶然ハムハムランドにつながる扉を開いてしまい、大冒険を繰り広げることになる。
劇場版の公開は2001年12月。サントラ盤は2002年3月に日本コロムビアから発売された。
収録曲は以下のとおり。
- ハム太郎とっとこうた(歌:ハムちゃんず)
- ここは楽しいハムハムランド
- とっとこほじほじ、やけほじりなのだ!
- ハッピーロコちゃんバースデイ(歌:ロコちゃん、ハム太郎、パーティに来たみんな)
- おとめちっく!ロコちゃん
- ひまわりタネ寿司、ネタはタネ!(歌:板前ハム&すっし〜ず)
- 舞い降りた妖精
- ここでもさすらう?トンガリくん
- とっとこ参上、ニンハムず!
- 魔王ハムだハ〜ム〜!
- 幸せならハムスター(ラップ:DJハム/スクラッチ:ピストン西沢)
- とっとこ集合、ハムちゃんず
- タネはどこなのだ?(歌:ハム太郎)
- ハムハム大学へ進路を取れ!
- とっとこ授業だ、ハムハム大学
- 歓びの歌 〜向日葵交響曲第86番〜(コーラス:ジャンガリアン聖歌隊)
- 逃がすもんか、ドラゴン!
- 魔王さまはコレクター!?
- ハムハムランド、またあした
- 時空を越えろ、ドラゴンゴーン!
- 再会の時
- ロコちゃんの日記
- HAMUTARO THE MOVIE
歌いっぱいの楽しいサントラだ。
この劇場版自体が、全編歌に彩られた楽しい作品である。出崎アニメで、これほどたくさんの歌が流れる作品は珍しい。
劇中には、ハロプロ(ハロー!プロジェクト)とのタイアップで「ミニハムず」なるハムスターのアイドルグループが登場する。演じたのはハロプロのアイドルグループ「ミニモニ。」の4人(矢口真里、辻希美、加護亜依、ミカ)。ミニハムずは劇中で「ミニハムず愛の唄」という歌も披露している(作詞・作曲はミニモニ。のプロデューサー・つんく♂が担当)。残念ながらミニモニ。の所属レーベルの関係でミニハムずの歌はサントラ盤には収録されなかった。代わりにマキシシングル盤がゼティマ(現・アップフロントワークス)から発売された。もちろん、筆者はそちらも買っている。
劇場版らしく、音楽は絵に合わせたフィルムスコアリングで作られている。50分ほどの長さだが、サントラ盤は全曲収録ではない。曲順も劇中使用順ではなく、いくつかの曲の順序を入れ替え、モティーフが同じ複数の曲を1トラックにまとめたりしている。
しかし、これはこれでよい構成である。おそらく、子どもたちが聴いても楽しめるようにと配慮した結果なのだろう。
たとえば1曲目に収録された主題歌「ハム太郎とっとこうた」は、劇場版では冒頭には流れない。ハム太郎たちがハムハムランドへの扉を開くまでの導入部分——サントラ盤の曲目で言えば、トラック5「おとめちっくロコちゃん」のあとにタイトルが出て、主題歌が流れるのだ。けれど、1曲目に主題歌が流れるほうが、子どもたちには「ハム太郎のアルバムだ」とわかりやすい。
また、2曲目の「ここは楽しいハムハムランド」は、いくつかの場面に登場するハムハムランドの曲を1トラックにまとめたものだ。これも、開幕の長い曲として収録ことで「ハムハムランドの劇場版(のアルバム)なんだよ」とアピールしている。
アルバムの構成を担当したのは本作の音楽プロデューサーである吉田隆。作品と音楽を熟知したスタッフならではの構成である。劇中使用順と違っていても、通して聴けば「こういう作品なんだ」と伝わるアルバムになっている。
それに曲名がいい。「とっとこほじほじ、やけほじりなのだ!」「ここでもさすらう?トンガリくん」など、本編の楽しさとキャラクターの魅力が表現された、すてきなタイトルなのだ。なかなかこういうタイトルは思いつかない。
岩崎元是はTVシリーズのBGMのモティーフも散りばめながら、バラエティに富んだ音楽で劇場版をにぎやかに盛り上げている。耳に残るメロディが多く、聴いていて飽きない。飽きないどころか、思わず耳をそばだてたり、曲を口ずさんだりしてしまう。
TVシリーズでも使われている主題歌「ハム太郎とっとこうた」は、原作者・河井リツ子が口ずさんだ歌をそのまま採用したもの。編曲を岩崎元是が手がけた。一度聴いたらぐるぐると脳内ループしてしまうメロディと歌詞もすごいが、岩崎元是のアレンジもワクワク感を2倍にも3倍にもする手練れの技である。
トラック2「ここは楽しいハムハムランド」は、ハム太郎たちの冒険の舞台となるハムハムランドの曲。しっとりした曲調からスケールの大きなファンタジックな曲調、躍動的な曲調など、ひとつのモティーフをさまざまにアレンジし、組曲風にまとめたトラックになっている。
トラック3の「とっとこほじほじ、やけほじりなのだ!」は、ロコちゃんの誕生日を祝おうとしたハム太郎が仲間はずれにされてすねてしまう場面の曲。主題歌「ハム太郎とっとこうた」のアレンジだ。オルガンの音色でバロック風に聞かせて、ハム太郎の悲嘆を強調する。
トラック4「ハッピーロコちゃんバースデイ」はロコちゃんの誕生日を祝う歌。いくつかの場面で歌われた歌が1曲にまとめられている。最初からこういう構成の曲だったかのように自然に聞けてしまうのがすごい。曲はOVA『ハム太郎のおたんじょうび 〜ママをたずねて三千てちてち〜』の主題歌「ハッピーハムハムバースデイ」の流用だ。
トラック5「おとめちっく!ロコちゃん」は、ボーイフレンドを気にするロコちゃんの乙女心を表現する曲。TVシリーズのBGM「ごきげんロコちゃん」を劇場用にアレンジした曲である。
TVシリーズのBGMをアレンジした曲はほかにも見られる。トラック8の「ここでもさすらう?トンガリくん」は「さすらいの旅ハム、とんがりくん」という曲のアレンジ。トラック12の「とっとこ集合、ハムちゃんず」はTVシリーズの同じ曲名のBGMのアレンジである。TVで使われた曲と同じメロディが劇場に流れることで、TVシリーズのファンもスムーズに劇場版の世界に入っていくことができる。
トラック6「ひまわりタネ寿司、ネタはタネ!」はハムハムランドの寿司屋の場面で歌われるラップ風の劇中歌。この曲とトラック11のラップ曲「幸せならハムスター」の作詞は出崎統監督が自ら手がけている。きっと、コンテを書きながら自然に言葉が出てきたのだろう。本作をはじめ、劇場版『とっとこハム太郎』4作品には出崎統作詞の劇中歌が必ず登場する。これも出崎統ファンには見逃せない(聴き逃せない)ポイントなのだ。
トラック7「舞い降りた妖精」はハム太郎たちをハムハムランドに導いた妖精ハムのテーマ。ときには小さな空飛ぶハムスターの姿で、ときには美しいお姉さんの姿で登場する妖精ハムは、映画の中で重要な役割を担うキャラクターだ。やさしく美しいメロディがファンタジックな音色のシンセやピアノ、ストリングスなどで奏でられる。登場場面は少ないが、耳に残る旋律である。
妖精ハムのテーマとともに重要なのが魔王ハムのテーマ。魔王ハムはハム太郎たちが探す魔法のタネをねらう憎めない仇役である。
サントラではトラック10「魔王ハムだハ〜ム〜!」で初登場。重厚で恐怖感をあおる曲調だが、どこか愛嬌があり、本気で怖くはない。
その魔王ハムの手先となって活動するのが4人組の忍者ハム、通称・ニンハムず。トラック9「とっとこ参上、ニンハムず!」はニンハムずのテーマだ。ミニハムずが歌う「ミニハムずの愛の唄」のメロディが引用されている。
ミニハムずは4人組。ニンハムずも4人組。ニンハムずの行動場面にはたびたび「ミニハムずの愛の唄」のメロディが流れて、「ニンハムずの正体はミニハムずでは?」と思わせる。これは音楽によるミスリードで、最後まで観ていくと、ミニハムずとニンハムずは別人(別ハム)だとがわかる。ちょっと変わった音楽演出だ。
中盤、ハム太郎たちは魔法のタネの情報を求めてハムハム大学へ行く。この描写が面白い。ハム太郎たちは大学の授業を受けることになり、ユニークな授業のようすが、クラシック風、ロック風、中国風など次々と曲調が変わる音楽とともに描かれる。授業は本筋と関係ないのだが、音楽も手伝って楽しめる場面になっている。その場面の曲がトラック15の「とっとこ授業だ、ハムハム大学」。
きわめつきは次の「歓びの歌 〜向日葵交響曲第86番〜」。ハムハム大学の卒業式で歌われる混声合唱の曲である。ハム太郎たちはハムハム大学の卒業生になったのだ。タイショーくん(ハム太郎の仲間のハムスター)ならずとも、「え!? もう卒業?」と突っ込みたくなる展開である。その場面に「向日葵交響曲第86番」と副題がついた格調高い曲が流れて、ハム太郎たちを祝福する。これまた、頭の中でループしてしまいそうな中毒性のある曲。
終盤は魔法のタネを奪った魔王ハム(ドラゴン)とハム太郎たちとの追っかけで盛り上がる。音楽もテンポの速い緊迫感のある曲が続く。サントラ盤では終盤の曲をいくつか省いて、よりテンポ感を出している。
ハムハムランドを訪れたハムスターたちが元の世界に帰る時間がやってきた。トラック19「ハムハムランド、またあした」は、ハム太郎たちが妖精ハムたちに見守られて旅立つ場面に流れた、ちょっぴり切ない別れの曲である。短い曲だが、このメロディも心に残る。
本当のクライマックスは、夜になってもハム太郎を探すロコちゃんとハムハムランドから帰還したハム太郎との再会のシーン。まさに出崎演出と呼びたくなる再会場面に、なんとも美しく感動的な「再会の時」が流れる。これも、ずっと聴いていたくなるようないい曲だ。
劇場版は、TVシリーズにならって、ロコちゃんが日記を書く場面で締めくくられる。いなくなったハム太郎との再会を日記に綴るロコちゃん。その場面に流れるトラック22「ロコちゃんの日記」は、TVシリーズの同じ曲名のBGMのアレンジ曲。オルゴール風の音色でドリーミィに奏でられる、エピローグにふさわしいやさしい曲である。
トラック22は2つの曲に分かれている。ラストシーンに使われたのは後半部分。前半にはピアノ・ソロによる「ロコちゃんの日記」のアレンジ曲が収録されている。これは本作の中盤、ハムハムランドに上がる花火を見たハム太郎がロコちゃんのことを思い出す切ない場面に流れた曲。2つの場面の曲がつながることで、ハム太郎とロコちゃんの心が通い合ったことが示唆される。サントラ盤でしか味わえない感動がじわじわと胸にこみ上げてくる。秀逸な構成だ。
最後に収録された「HAMUTARO THE MOVIE」は「ハム太郎とっとこうた」をアレンジした短いファンファーレ風の曲。本編では流れていないと思う(違っていたらすみません)。エンディングには「ミニハムずの愛の唄」が流れるが、それは収録できない。「ロコちゃんの日記」で終わると少ししんみりしてしまう。サントラ盤は、元気なこの曲で終わるのが正解だろう。
『とっとこハム太郎』の音楽は、魅力的なメロディの宝庫。楽しく、幸せな気分になれるサントラである。お正月はこういうサントラを聴いて一年を始めたい。
『とっとこハム太郎』は今もキャラクターグッズが売られ、公式サイトや公式Twitterアカウントも活動している。ねずみ年の今年は『とっとこハム太郎』の新作アニメも観られるのじゃないかとちょっと期待している。
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