COLUMN

第166回 10年を支えた力 〜FAIRYTAIL〜

 腹巻猫です。まもなく終了する「高畑勲展」(東京国立近代美術館)にようやく足を運びました。展示資料の物量に圧倒されます。『風の谷のナウシカ』の音楽イメージを記したメモや、『太陽の王子ホルスの大冒険』の大量のメモ、資料、譜面、『セロ弾きのゴーシュ』の音楽設計を記したノートなど、興味深いものばかり。図録に載ってない資料があるので、もう一度行きたい。10月6日まで。まだの方はお見逃しなく。


 2019年9月29日、TVアニメ『FAIRYTAIL』ファイナルシリーズ(第3期)の放送が最終回を迎えた。
 『FAIRYTAIL』は、真島ヒロが「週刊少年マガジン」(講談社)に連載した同名マンガを原作にしたファンタジーアニメである。TVアニメは2009年10月にスタート。それから、足かけ10年にわたって(中断を挟みながら)放映されてきた。ファイナルシリーズは原作の最終話までを描くシリーズで、これで物語は完結。10年間見続けてきたファンにとっても感慨深い最終回になった。
 長期にわたるTVアニメシリーズでは、途中でメインスタッフやキャストが変更になる場合もあるが、本作は監督の石平信司、シリーズ構成・脚本の十川誠志、音響監督のはたしょう二、音楽の高梨康治らのメインスタッフとメインキャストは変更がなく、番組の雰囲気は一貫している。第1期第1話からファイナルシリーズ最終話まで、全328話がほぼ理想的な形で作られたTVアニメだった。
 筆者にとっても、本作は思い出に残る作品である。第1期からずっと、サウンドトラック・アルバムの構成を担当させていただいたからだ。今回は、『FAIRYTAIL』の音楽の魅力とサントラの聴きどころについて語ってみたい。

 『FAIRYTAIL』の音楽を担当したのは高梨康治。『ゲゲゲの鬼太郎[第6期]』(2018〜)や『ゾンビランドサガ』(2018)、『BORUTO -NARUTO NEXT GENERATIONS-』(2017〜)等の音楽を手がける、アニメ音楽では超売れっ子の作曲家の1人だ。
 高梨康治の音楽的原点はロックである。それもヘビーメタル。という話は、当コラムでも一度書いたことがある(『ハートキャッチプリキュア!』の回)。
『FAIRYTAIL』の音楽もその例にもれず、ロックサウンドを基調に作られている。
 『FAIRYTAIL』は魔法を操る魔導士たちを主人公にした作品である。魔法使いのギルド「フェアリーテイル(妖精の尻尾)」に属するナツ、ルーシー、グレイ、エルザたちが、魔法の力を駆使してさまざまな事件に挑む、冒険ファンタジーアクションとも呼ぶべき作品。ファンタジーであれば、「ハリー・ポッター」シリーズのようにクラシカルでシンフォニックな音楽がつきそうなところに、ロックを持ってきたところがユニークだ。
 筆者が聞いたところによれば、高梨康治とは旧知の音楽ディレクターが本作の音楽制作にかかわっていて、その人物から声がかかったのだという。原作を読んだ高梨康治の頭に、すぐに音楽のイメージが浮かんできた。それはケルト音楽とロックを融合したケルティックメタル。ファンタジーの世界にふさわしい、斬新なロックサウンドだった。
 高梨康治とケルト音楽との出逢いは、『FAIRYTAIL』の少し前に手がけたTVアニメ『こんにちはアン Before Green Gables』(2009)にさかのぼる。世界名作劇場の第26作として制作された本作で、高梨は舞台となるプリンスエドワード島の空気感を表現するためにケルト音楽を採用(カナダ東部にはヨーロッパからの移民が伝えたケルト音楽が盛んな地域がある)。本物のフィドルやアイリッシュフルート、ティン・ホイッスルなどを用いて音楽を制作した。その経験が『FAIRYTAIL』の音楽作りに生かされている。『FAIRYTAIL』の音楽録音には、『こんにちはアン』のミュージシャンも何人か参加しているのだ。
 『FAIRYTAIL』の音楽を代表する曲といえば、「FAIRY TAIL メインテーマ」だ。弦が奏でる印象的なリフから始まり、アップテンポのリズムに乗って、ストリングスによるゆったりしたメロディが展開する。リズムは激しいのに、曲の印象は悠々としていて、どこか懐かしい。高梨康治は細かい音楽発注が来る前にこの曲の原型を書き上げ、スタッフにデモを聴かせて自分のやりたいことを納得させたという。
 『FAIRYTAIL』の初期の音楽は、このメインテーマのバリエーションとメインキャラクターそれぞれのテーマ、のどかな日常描写曲、魔法発動の曲、そして勢いのあるアクション曲などが中心になっている。
 特に力が入っているのがアクション曲で、竜の力を持つ滅竜魔導士ナツのバトル曲「ドラゴンスレイヤー」、魔法の鎧を操る女魔導士エルザのバトル曲「エルザのテーマ」、氷の魔導士グレイのバトル曲「氷刃舞う」など、燃える名曲が多数作られた(いずれもオリジナル・サウンドトラック1枚目に収録)。
 高梨康治は『FAIRYTAIL』と同時期にプリキュアシリーズの音楽も手がけている。キラキラ感とヘビーメタルを合体させたプリキュアの音楽を作る一方で、ダークな味わいもあるパワフルな『FAIRYTAIL』の音楽を作っていたのが、なかなか面白い。
 第1期から10年にわたって作られてきた『FAIRYTAIL』の音楽には、ケルティックメタル以外にもいくつかの特徴がある。
 ひとつは、楽曲に年々、新しい要素が加わって進化していること。初期はケルトの香りが強いが、追加録音では強力な敵魔導士の登場に合わせて、金属がぶつかり合うようなサウンドを盛り込んだ、重厚で緊迫感に富んだ楽曲を制作。高梨康治はこれを「インダストリアルメタル」と呼んでいた。サントラ2枚目に収録した「邪悪の槌音」「魔道の挑戦者」などがそれである。
 また、さらなる追加録音ではプログレ風の曲やデジロック風の曲などを導入。物語の展開に合わせて、音楽に変化をつけている。同時に繊細な情感を表現するシリアスな心情曲が増えてきた。サントラ盤を1枚目、2枚目、3枚目と続けて聴いていくと、その変化の過程がわかって興味深い。
 第2の特徴は、音楽を演奏するミュージシャンがほとんど変わってないこと。一般的なアニメのBGMでは、録音の都度、スタジオミュージシャンが集められるため、同じシリーズでも演奏家が変わることが多い。しかし、『FAIRY TAIL』では高梨康治を中心に、10年間、ほぼ固定したメンバーで録音が行われている。
 もともと、高梨康治はロックバンド出身の音楽家で、自身もプレイヤー(キーボード奏者)である。アニメの音楽制作でも、おなじみのメンバーを集めて、バンドのアルバムを録音するようなノリでレコーディングを進めているのだ。そのため、サウンドに統一感が出るとともに、バンドとしてのまとまりと成長が音楽にも反映し、『FAIRYTAIL』の音楽を演奏・サウンドの面で進化させている。
 『FAIRYTAIL』の第2期、3期では、第1期に作られた音楽をアレンジ、もしくはリメイクした曲がいくつか作られている。新旧の録音を聴き比べると、サウンドがより先鋭化し、深みが増しているのがわかる。同じメンバーでひとつの作品に取り組み続けているからこその味わいが感じられるのだ。

 さて、本作のために作られた音楽は第1期だけで200曲以上(劇場版を除く)。サウンドトラック・アルバムはポニーキャニオンから「FAIRY TAIL ORIGINAL SOUNDTRACK」VOL.1〜VOL.4の4タイトルが発売された。そのうち、VOL.4だけは2枚組なので、CD枚数にして5枚分がリリースされたことになる。それでも、全曲は収録されていない。
 実はサウンドトラック・アルバムを構成するとき、高梨康治の希望もあり、これまでと違う作り方をした。ストーリーに沿った選曲・曲順をやめ、音楽重視で、ロックのアルバムのような構成を試みたのだ。
 そのため、のんびりした日常曲やコミカルな曲をはずし、アップテンポのノリのよい曲を中心に選曲した。曲順も、一気にヒートアップする曲から始め、最後も盛り上がる曲で締める、コンサートのセットリストのような並びを意識している。参考にするために、名盤と呼ばれるロックのアルバムを何枚か聴いたりした。筆者にとっても勉強になった仕事である。
 およそ1年の中断をはさんで2014年4月からスタートした第2期では、アニメーション制作のスタッフが一部変わり、サウンドトラック盤の発売元もポニーキャニオンからエイベックス・エンタテインメントに変更になっている。しかし、サントラ盤の構成は引き続き、筆者が担当させていただいた。メーカーをまたがって同じ作品のサントラを作らせていただくのは、なかなかない経験で、大変ありがたかった。
 第2期では、第1期のメインテーマのテイストを受け継ぎながら異なるメロディを持つ新たなメインテーマ「FAIRY TAIL メインテーマ 2014」が作られている。
 そのメインテーマのバリエーションを中心に、メインキャラクターのテーマ、バトル曲、日常曲、心情曲、その他のストーリーに必要な曲を盛り込んだ音楽設計は、第1期と同様。追加録音と合わせて総曲数は100曲余りになる。激しいバトル曲や怪獣映画音楽的なドラゴンの曲があるいっぽうで、胸にじんわりと沁みる泣けるバラード曲が充実しているのが特徴だ。第2期のサントラ盤「FAIRY TAIL ORIGINAL SOUND COLLECTION」および「同VOL.2」(いずれも2枚組)に収録した「星霜の雫」「エルザの道」「想い出のフェアリーテイル」などは、物語を思い出しながら聴くと落涙必至の名曲である。
 第2期以降の音楽は、サントラ盤の発売元が変わったため、基本的に新作で用意されている。いわば、仕切り直しての新規制作になったわけだが、音楽の方向性はまったくブレていない。ケルトの香りがするロック・サウンドである。これも驚くべきことだ。
 いや、同じ作曲家と同じ演奏メンバーで作られているのだから、驚くことではないかもしれない。けれど、他にもたくさんの仕事をこなしながら、『FAIRYTAIL』の音楽を作るときには、そのサウンドが再現できるのは、本作の音楽イメージがしっかりと確立され、ミュージシャンの中にも染み込んでいるからだろう。
 10年間にわたって音楽的進化と変化を遂げてきても、『FAIRYTAIL』の音楽のコアはまったく変わってない。だからこそ、ファンはシリーズが変わっても違和感なく『FAIRYTAIL』の世界に入っていけるし、第1期からファイナルシリーズまでをひとつの作品として楽しむことができる。『FAIRYTAIL』の音楽は、『宇宙戦艦ヤマト』や『スター・ウォーズ』の音楽のように、音楽の一片を聴いただけで「あ、『FAIRYTAIL』だ」と思わせるくらい、作品の象徴になっている。アニメ音楽史に残る作品として聴き継がれ、演奏され続けていくに違いない。
 音響監督のはたしょう二は、最初に作られた「FAIRY TAIL メインテーマ」のメロディをフィイナルシリーズまで大切に使い続けている。ファイナルシリーズ終盤のクライマックスで「FAIRY TAIL メインテーマ」が流れてくる場面。「これは反則だよ」と思いながらも、胸の奥から熱いものがこみ上げてきて、どうしようもなかった。アニメ『FAIRYTAIL』を観続けてきたファンなら同じ思いを抱いたのではないか。10年にわたって作品を支え続けてきた音楽の力である。

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