COLUMN

第190回『輪るピングドラム』色彩設計おぼえがき その17

「♪ロンドン、ロンドン、あなたのロンドン〜」あれ? 昔、そんなCMありましたよね? なんか耳に残っててつい書いちゃいましたが、あれは一体なんのCMでしたっけ?(汗) 全国区? 東京ローカル? う〜む……。
えっと、そんなこんなでロンドンオリンピックであります(笑)。
夏冬問わず、毎回オリンピックで僕が楽しみにしているのが開会式であります。いやあ、あれってすごいですよね。もうね、国の威信をかけて有名どこの芸術家、演出家に演出依頼して作り上げてる一大ショーであります。もうね、アニメ作ってる僕らは必見です。特に僕ら、色彩関係者は必見であります。あの広い空間で立体的に繰り広げられる、空間と色の演出の数々、いやあ毎回大変勉強になってます!
それぞれの競技にしても、会場のいろんなモノの配置、配色とか、美術デザインも見どころではあります。大会全体を通して貫かれてるデザインの統一感とかね。ニッポンがんばれ! だけじゃなく、そんな視線で割と僕はオリンピックを観るようにしてるんであります。
そうそう、前回の北京オリンピックに比べて今回のロンドン大会は、全体にシックに配色デザインがまとめられてる感じ。ああ、その辺はお国柄っていうか、地域差っていうか、うむうむ、面白いです。
あ、で、がんばれ! ニッポン!

さてさて。
やっぱり新しいオープニングを作ることになった僕ら『ピングドラム』の現場スタッフでありますが、スケジュール的にさすがに13話からとかはムリ! じゃ、内容的にどこからだったら新しくしても大丈夫なんだ? ということに。なんといってもオープニングは番組の顔。その顔を変えるには、やはりそれ相応のタイミングっていうのがあるんですよ。本来ならば前半から後半への切り替えとなる13話がひとつのタイミングになるワケなんですが、まあそこは間に合わなかったワケで、ならば次のそのタイミングはいつになるのか? と。
と、いうわけで、結局15話から新しいオープニングにする! と決定。そのタイミングがたぶん最後のタイミングかな? と。なのでそれに向かって僕ら大急ぎで作業へと入っていくわけなのでありました。
で、その前に14話。

第14話「嘘つき姫」 絵コンテ/幾原邦彦・山郫みつえ 演出/山郫みつえ 色指定/秋元由紀

晶馬との関係がギクシャクしてしまった苹果はなんとか関係を取り戻そうと思案するも晶馬の反応は冷たく、失意の底に沈んでいた。そこへ近づく時籠ゆり。自家用車に苹果を連れ込んでそのまま2人だけの温泉旅行を企てる。ゆりと苹果、だいぶ気持ちも打ち解けてきたその夜、ゆりは苹果を自分のモノにしようと妖しく苹果に迫る、そんな14話。
とにかく、毎週観てくださってた皆さんにはいろいろ衝撃的な14話であったことと思います(ニヤリ)。

この14話、まずいろいろ難しかったのは、ゆりの乗る車でありました。もちろん外車、Jaguarですね。これはすべて3DCGを使用。できあいの3Dモデルを購入しまして、それをベースにしていたと思います。「現状の原画の戦力でメカとか描ける人いないしムリだろ」ということで、はじめから作画で自動車描く予定はありませんでした。5話で雨中を疾走したトラックも3DCGでありましたが、これも基本は同じ考え。それに作画でやると大変なだけではなく実際いろんな失敗も多く、そう考えたとき、やはりこの手のものは3DCGだよね! ってことになっていくんであります。
その車、まず最初に気になるのはその質感。あまりにリアルに3Dしちゃったルックで画面に置くと、もうその瞬間に世界観が壊れちゃいます。なので「どのくらいの3Dっぽさなら大丈夫なのか?」というのを探るのが重要なポイントでした。どこまでの3Dっぽさならというのは、とにかく僕らの感覚のバランスの問題です。で、やっぱり、テラッテラな滑らか調3Dよりも、作画にフンイキを寄せたセル・シェーディングってことで最初から調整をお願いしておりました。あとはその度合いの調整をどれくらいにするのか、と。
で、その外観、車のボディの色味なのですが、この決め込みがなかなか大変でありました。実は僕はこの車を「シャンパンゴールド」の車にしたかったんですよ。僕の中で時籠ゆりのイメージがどうにも「シャンパンゴールド」だったので、なので、なんとかこの車は「シャンパンゴールド」の車にしたいなあ、と。「シャンパンゴールド」って普通に作画でやると結構難しく、ビミョウな色の反射とかがキレイに作れない、見せられないような気がしてて、ああ、3DCGでだったらちゃんとキレイにできるのではないか、と。
ところがこれがなかなか思ったように上手くいかなかったのです。
「シャンパンゴールド」感をちゃんと出すことに主眼置いて表面の質感を作り込んで行くと、どうしても画面の中で浮いた存在になっていく。また、作画とのバランスでシェーディングを強くすればするほど、今度は単なるクリーム色の塗りのボディにしか見えなくなる。そんな感じで、何度も何度も3D担当の金子さんにがんばって調整をお願いしてみたんですが、これだ! という決定打ができず、時間ばかりが過ぎていきます。それで万が一の予備策として準備してあった赤いボディに決定したのです。作業の時間が足りなくなる正直ギリギリの決断だったのでした。うう〜む、残念!

で、赤い車。
その車の首都高での夜の走りのシーンについては、首都高の照明の映り込みなど、3D表現を若干オーバーめにリアル系に振ってます。先にも書いたように、作画との親和性を考えて3Dはセル・シェーディングで、ってことだったのですが、むしろこのシーンについてはリアル系な方がむしろゆりの心情的な部分に合うってことで、あえてそうしています。
ちなみに外観は完全に3Dのモデルですが、車内は3Dでレイアウトを出していただいて、そのガイドに合わせて原画を描いてもらいました。つまりハイブリッド作画ですね。加えて特殊効果でイイ感じに作り込んでいただきました。

その首都高のシーンもそうですが、この話も基本は空間の明るさ色味に合わせてそれぞれのシーンを作っていってます。ホテルの客室も露天風呂も温泉卓球も客室での食事のシーンも、それぞれ背景の光線加減に合わせて色味明るさを作り込みました。
オープニング前の劇場のシーンは7話のカットと処理をベースにさらに盛ってます。もうこの辺りの話数になると、以前に使った同じ場所でのシーンも多くなってきて、そういうシーンではコンテ段階でできる限り前回登場させたカットのレイアウトを使って、可能なら同じ背景も使って省力化を目指しました。あれだけの内容の背景美術ですから、毎話その作業負担はかなりなモノで、しかも作画スケジュールの遅れから美術さんの持ち時間もジリジリ削られてきていたのです。でもこの省力化は、同時にシーンと場所の「刷り込み」に大変役に立つ手法でありました。

さて、問題の裸です(笑)。
今回の演出は「ピンドラのエロ担当」を自称されてる(実話です(笑))、助監督・山郫みつえさんでありました。Aパートのゆりさん、Bパートの温泉と部屋。いやはや、なんとも(笑)。特にBパートの温泉旅館は石井久美さん作監のパートだったと記憶してますが、もうホント、イイ感じで、画面作りながらなんともドキドキでありました(笑)。
フンイキはギリギリまで作るけど見せない。そんな暗黙の了解のもと、この話もギリギリ見せてません(笑)。それもあって、露天風呂でのタオル巻きでありました。確かにね、実際の温泉でタオル巻いて湯船に浸かったらダメですが、まあ、その辺はそういうことで。
ラストの妖しいフンイキになってからの寝室のくだりは、まず肌をキレイに見せること、そして、次の話への「引き」として、妖しい緊張感を画面に作っておくこと、このふたつを頭に置いて色を作っていきました。最初「肌をキレイに」と考えて割と肌色をそのまま見せるような色味を作って撮ってもらったのですが、なんともナマっぽくなりすぎて、シーンが上手く作れませんでした。で、オールラッシュ後にリテイクさせていただいて、カゲ色にムラサキが入った色を作りました。寝室の青みの空間にちょうどいいムラサキ感を探して、実際のカットで塗ってみて最終的に決め込み完了。それがあのシーンの色味です。
「画面の中でむしろ浮いちゃう感じに、ハッキリと赤、真っ赤な感じでバシッ! とやってね」これは色指定打ち合わせの時に僕が色指定の秋元さんに言った言葉。「これでこの話は決まるから(笑)」。裸のゆりさんが妖しく赤い紐を「バシッ!」とやるカットの説明でありました(笑)。