COLUMN

第301回 きっと魔法のせい 〜魔法つかいプリキュア!!〜MIRAI DAYS〜〜

 腹巻猫です。西武渋谷店で開催中の「宇宙戦艦ヤマト 全記録展」に行ってきました。膨大な数の資料がぎゅっと濃縮された展示。原画(複製含む)から伝わる作り手の熱気に打たれます。そして展示の背景にある、資料を散逸から救い、現在まで守り通したファンの熱意にも想像をめぐらせたい。筆者も50年前、同じ思いを胸にその活動を見守っていました。開催は3月31日までなので、気になる方はお早めに。
http://tfc-chara.net/yamato50th/exhibition/


 今回取り上げるのは、今年(2025年)1月から放映中のTVアニメ『魔法つかいプリキュア!!〜MIRAI DAYS〜』の音楽。
 本作は2016年に放映されたTVアニメ『魔法つかいプリキュア!』(通称「まほプリ」)のストレートな続編である。
 『魔法つかいプリキュア!』は、中学2年生の朝比奈みらい(キュアミラクル)と魔法界から来た少女・十六夜リコ(キュアマジカル)、妖精の赤ちゃんから成長した花海ことは(キュアフェリーチェ)の3人が伝説の魔法つかい「プリキュア」に変身し、邪悪な闇の魔法使いや世界に災厄をもたらす「終わりなき混沌」と戦って世界を救う物語。
 続編となる『魔法つかいプリキュア!!〜MIRAI DAYS〜』では、成長したみらいとリコが、刻の魔法をあやつる少年アイルの謎を追い、黒幕である刻の魔獣クロノウストと戦う姿が描かれる。
 前作(『魔法つかいプリキュア!』)の第49話、物語の後日談となるパートに、大学生になったみらいと魔法学校の先生になったリコが登場する。『MIRAI DAYS』はその時間線の延長で展開する作品だ。「2人のその後が知りたい」と思いながら待っていたファンにとって、まさに待望の続編である。

 音楽は前作も手がけた高木洋が担当。本作のために37曲の新曲を制作している。
 そのうちわけは、新たに登場するキャラクターの音楽、敵があやつる「刻の魔法」の音楽、プリキュアの戦いを描写するアクション曲、成長したみらいたちの日常や心情を描く音楽、といった構成だ。
 こうした新曲とともに前作の音楽も劇中ではふんだんに使われている。たとえばサブタイトル曲、プリキュアの変身BGMや浄化技の曲、心情描写曲や状況描写曲、アクション曲など。耳になじんだ音楽を聴いていると、放映当時の思い出がよみがえり、「あの世界に戻ってきた!」と思わせてくれる。
 本作のために新曲を作るにあたり、高木洋は、みらいやリコが「成長した感じ」を音楽で表現しようとは特に意識しなかったという。というのも、前作の放映は8年前。それから現在まで、高木自身も経験を積み、スキルアップしている。8年のあいだに自身が身につけたことを自然に音楽に落とし込めば、意識せずとも成長した2人にふさわしい音楽ができるはずだと考えたのだ。
 だから、本作のために書かれた音楽は、特に大人びた音楽にはなっていない。前作からシームレスにつながるような音楽である。それがいい。大学生になったみらいも先生になったリコも、「大人になった」という印象はなく、中学生の頃の無邪気さやノリを残している。筆者の経験から言っても、大学生って中学時代に思っていたほど大人ではないのだ。結果的に新作の音楽は前作の音楽と自然にまじりあい、ふたつの作品を隔てる時間を感じさせない。『まほプリ』という作品にとっては、それがよかったと思う。
 特筆すべきは、新曲の中に前作の曲をアレンジした曲やモチーフを引用した曲があること。音楽発注の段階でそうした指定がされた曲もあるが、高木洋が自らアイデアを出して作った曲もある。高木は、前作で自分の音楽がどのように使われたかを熱心な『まほプリ』ファン並みに把握しており、「こういうテーマの曲なら、前作のあのモチーフを引用したほうが効果的だろう」と判断して作曲に臨んだのである。
 また、前作の音楽制作のときに高木がこだわったのが、コーラスにプリキュア主題歌シンガーの五條真由美とうちやえゆかを起用することと、リズム(ドラム、ベース)に打ち込みを使わずに生楽器で録音することだった。本作でもそのふたつは継承され、『まほプリ』サウンドが再現されている。
 こうした仕事ぶりからは高木洋の熱い「まほプリ愛」が伝わってくる。
 本作のサウンドトラック・アルバムは2025年3月5日に「魔法つかいプリキュア!!〜MIRAI DAYS〜 オリジナル・サウンドトラック」のタイトルで、マーベラスからCDと配信でリリースされた。
 収録曲は以下のとおり。

  1. ミラクル・マジカル・ジュエリーレ!〈ピンクダイヤ〉
  2. Dokkin◇魔法つかいプリキュア!!Part3〜MIRAI DAYS〜(TVサイズ)
  3. 助けて!魔法つかい
  4. キャンパスライフはワクワクもんだぁ!
  5. ひすいのテーマ
  6. 刻の魔法
  7. フラッシュバック
  8. アイルのテーマ
  9. 大きくなってる!?
  10. みらいとリコの新生活
  11. 懐かしき思い出
  12. 不安な未来
  13. あやしい影
  14. 闇に潜む脅威
  15. 大切なものを守るために
  16. 巨大モンスター出現
  17. 襲い来る強敵
  18. 砂嵐の中に
  19. アイルの過去
  20. 悪夢の序章
  21. 刻の魔獣クロノウスト
  22. 魔獣との対決
  23. めざめる力
  24. K’s レポート
  25. 闇の魔法つかい集結!
  26. 永遠への誘惑
  27. あらがえない現実
  28. 猛攻迫る
  29. 魔法大激突
  30. 宇宙終焉の危機
  31. 未来をこの手で
  32. 止まる時間
  33. 刻の迷宮
  34. あなたがここにいてほしい —オルゴールversion—
  35. 魔法がつなぐ未来
  36. 四人の魔法
  37. プリキュア・エクストリーム・レインボー! —MIRAI DAYS version—
  38. 歩みゆく日々
  39. キセキラリンク(TVサイズ)

 収録曲はすべて本作のために制作された新曲。前作の曲は収録されていない。
 構成は筆者が担当した。本作では脚本をベースに「どこにどんな曲を流す」という音楽プランが練られ、それをもとに音楽発注が行われている。つまり、多くの曲が具体的なシーンを想定して書かれている。いくつかの曲では絵コンテをもとに絵に合わせたフィルムスコアリングが行われた。本アルバムはその音楽プランに沿った構成でまとめている。ただし、完成作品では音楽プランとは異なる曲が流れているケースもあり、必ずしも本アルバムどおりの順で曲が使われているわけではない。
 以下、ポイントとなる曲を紹介しよう。
 1曲目「ミラクル・マジカル・ジュエリーレ!〈ピンクダイヤ〉」はプリキュアの変身BGM。前作の変身BGM「ミラクル・マジカル・ジュエリーレ!〈ダイヤ〉」をアレンジした曲である。変身に使う宝石が「ダイヤ」から「ピンクダイヤ」に変わっているのが物語の上でも伏線になっている。
 実はもともと変身BGMを新録する予定はなく、前作の「ダイヤ」の曲を使う予定だったという。が、高木洋が第1話のアフレコを見学した際に「ダイヤ」ではなく「ピンクダイヤ」と言っているのを聴いて、「宝石が違うなら曲も新しくしたほうがよい」と考え、新曲を作ることを提案したそうだ。コーラスの歌詞も前作とは異なるものが作られ、五條真由美とうちやえゆかの歌唱で録音されている。
 トラック5「ひすいのテーマ」は、みらいとリコの前に現れる謎の少女ひすいのテーマ。ひすいは新キャラクターではあるが、本作の冒頭で行方不明になった花海ことは(キュアフェリーチェ)と深い縁があり、風貌も似ている。そのため、「ひすいのテーマ」は前作のことはのテーマ「はーちゃん」の音型を受け継いだ曲になっている。
 第8話ではひすいの秘密が明かされ、ことはが再登場する。そのときに流れる曲「めざめる力」(トラック23)も注目だ。前作のキュアフェリーチェの変身BGM「フェリーチェ・ファンファン・フラワーレ!」をアレンジした曲になっているのである。第8話では「めざめる力」と「フェリーチェ・ファンファン・フラワーレ!」の2曲が続けて流れ、新作・旧作の音楽リレーでキュアフェリーチェ復活シーンを演出していた。
 ほかに新キャラクターのテーマとしては、プリキュアの前に立ちふさがる新たな敵アイルとクロノウストの曲がある。
 「アイルのテーマ」(トラック8)は刻の魔法をあやつる少年アイルのテーマ。「刻の魔法」(トラック6)、「巨大モンスター出現」(トラック16)、「砂嵐の中に」(トラック18)、「アイルの過去」(トラック19)、「悪夢の序章」(トラック20)はそのヴァリエーションである。アイルは刻の魔法でみらいとリコを翻弄するが、実は心に悲しみを抱いたミステリアスなキャラクターだ。そのため、音楽も邪悪なイメージではなく、謎めいた面が強調されている。なかでも「アイルの過去」は哀感ただようリリカルなアレンジになっているのが聴きどころ。
 「刻の魔獣クロノウスト」(トラック21)は第6話で姿をあらわす刻の魔獣クロノウストのテーマ。「魔獣との対決」(トラック22)、「永遠への誘惑」(トラック26)、「宇宙終焉の危機」(トラック30)は、そのバリエーションだ。いずれも強敵らしい、重厚で威圧感のある曲調で作られている。
 バトル系の曲ではヒロイックな「未来をこの手で」(トラック31)のカッコよさにしびれる。いっぽう「闇の魔法つかい集結!」(トラック25)は変化球とも言えるユニークな曲だ。クロノウストの魔手が魔法界に迫ったとき、前作では悪役だった闇の魔法つかいたちも魔法界を守るために立ち上がる。第9話のそんなシーンに流れるのがこの曲。前作の闇の魔法つかいのテーマ曲「闇の魔法つかい」をロック調にリアレンジしたものだ。これも時をへだてた音楽リレーと呼べる、うれしい演出である。
 前作の第49話で、みらい、リコ、ことはの3人が離れ離れになっていく、涙なしに観られないシーンに流れたのが、ピアノとストリングスによる「あなたがここにいてほしい」という曲だった。本作ではその曲をオルゴール風にアレンジした「あなたがここにいてほしい —オルゴールversion—」(トラック34)が作られている。実はこの曲も当初の音楽発注になく、高木洋が「こんな曲もあるとよいのでは」と考えて自主的に追加した曲だ。本編では第8話の終盤に流れたほか、第11話のみらいとリコが離れ離れになるシーンに、オリジナルの「あなたがここにいてほしい」につながる形で使用されている。高木洋の「まほプリ愛」あふれる音楽作りと、それを受け止めた音楽演出が生んだ、新たな名シーンである。

 さて、この原稿を書いている現在、本作の放映は最終回(第12話)を残すのみ。「魔法がつなぐ未来」(トラック35)、「四人の魔法」(トラック36)、「プリキュア・エクストリーム・レインボー! —MIRAI DAYS version—」(トラック37)の3曲は、最終回用に、絵コンテに合わせたフィルムスコアリングで書かれた曲である。なので詳しく解説すると最終回の内容を明かしてしまう。それでは申し訳ないので、ここでは簡単な音楽解説にとどめることにしよう。
 「魔法がつなぐ未来」には前作の「月夜のめぐりあい」という曲が引用されている。「月夜のめぐりあい」は前作で印象深い、重要なシーンに流れた曲。それを引用する趣向は発注によるものではなく、高木洋のアイデアである。
 「四人の魔法」は最終決戦用の曲。ピアノ主体のやさしい曲調で始まり、後半からアップテンポに転じる。後半に引用されているのが2016年公開の劇場版『まほプリ』のために作られた挿入歌「キラメク誓い」(作曲・高木洋)のメロディ。これも高木のアイデアによるものだ。
 「プリキュア・エクストリーム・レインボー! —MIRAI DAYS version—」は前作の3人合体技の曲「プリキュア・エクストリーム・レインボー!」をアレンジした曲。シーンの長さに合わせてリアレンジされているが、高木はここでも独自のアイデアを盛り込んだ。曲の終盤に『魔法つかいプリキュア!』のメインテーマ「魔法がひらく未来」のモチーフが登場するのだ。新作にはメインテーマをそのままアレンジした曲はない。最終回に流れるこの曲にメインテーマのモティーフが登場すれば、『まほプリ』の音楽としても完成するし、ファンもぐっとくるだろう。そんな発想で高木が作り上げた曲である。
 『魔法つかいプリキュア!!〜MIRAI DAYS〜』の音楽は、懐かしい『まほプリ』サウンドを継承した上で、8年間の音楽的な進化も感じさせてくれる、前作ファンも納得の作品である。単純に新曲として聴いても楽しめるが、前作のサントラを聴きこんでいる人なら、楽曲のそこここに、前作へのオマージュやリスペクトを感じ取ることができるだろう。
 特にアルバムの終盤にまとめられた最終回用の音楽を聴くと、前作にハマった人ほど、最終回がどうなるのか想像がふくらむと思う。想像と期待を胸に最終回を観れば、「こうくるか!」「やっぱりそうなるよね!」と楽しめるはず。そしてきっと、もう一度サントラ・アルバムを聴きたくなる。
 それを「音楽がかけた魔法のせい」と言うことはたやすい。しかし、その魔法はなんとなく発動したわけではない。前作モチーフの計算された引用、演奏・録音手法の再現など、ファンを感動させるだけの理由がある。それが魔法なのだ。

魔法つかいプリキュア!!〜MIRAI DAYS〜 オリジナル・サウンドトラック
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