COLUMN

第821回 役職掛け持ち~『いせれべ』の話(12)

 まだ、『いせれべ』話の続きです。

8話の脚本・コンテ・演出は長谷川千夏さん!

 『蜘蛛ですが、なにか?』(2021)制作中に入社した、若手アニメーター。現在でも原画・動画・仕上げ・背景となんでもアグレッシブにこなしてもらっています。本人がもともと演出志望であると、面接時からそう言っていました。という訳で、今回は「脚本やってみる? 俺が面倒見ることが条件になるけど」と誘ったところ、「いいんですか!?」と。やりたいと言ってくれるのなら、ガッツリ最後まで付き合っていただこう! で、ちょっと背伸びさせるつもりで“脚本・コンテ・演出1本まるまる”任せてみました。
 ちなみにそれを言うと「アニメーター3年目で脚本・コンテ・演出なんてやらせ過ぎだろ!」と仰る業界人(特に我々同世代より上)が必ずいらっしゃいます。でも考えてみて下さい。我々が20代だった頃の数倍(小さいのを入れると10倍以上?)の本数のアニメが作られてる昨今、それに対し業界全体でアニメーターの人数は30年以上変わっていないと聞いています。ということは各制作チーム(会社)が業界全体の人材を互いで奪い合ってアニメ作ったって、現状付け焼き刃に過ぎません。なぜなら我々団塊ジュニアが早ければあと10年もすると使いものにならなくなるからです。さらにそれにオーバーラップして、2000年以降の出生数から計算しても“アニメーターを目指す人”自体が減り続けるのは間違いないと思います。加えて“働き方改革”による労働時間制限では、

40年は続いたであろう旧態依然とした“監督1人に脚本3〜4人、演出6人、以外作業者100人”のなだらかなピラミッド体制で作り続けられるハズがありません! 脚本家・演出家の権威どーのこーのなんて言ってる場合じゃない!

でしょう。よって、ウチは複数の役職を掛け持ちしてもらうのであり、全員時給換算の社員雇用であればこそ可能な作り方です。業務委託のアニメーターに作画以外の仕事を振るのはルール上NGなので。
 実作業の話に戻ります。脚本作業は初めてにしては順調でした。もちろん、シリーズ構成の立場からホン読み(脚本打ち)で少々揉ませてもらいましたが、長谷川さん自身賢い人なので特段問題なく普通にこなしてくれました。
 続いてコンテ。こちらは数回に割って、それぞれのブロックでラフ段階に修正・アドバイス入れて戻す。それを反映させた清書を彼女が上げて行く、な感じでチェックしました。基本、長谷川さんのやりたいことをベースに、俺の方が「こう見せたいならカット割った方が作画しやすい」とかの部分修から、「このシーンのカット割りはこう!」などと大きな流れから直したものまであったりしましたが、長谷川さんのは他話数のコンテに比べると比較的直しが少なかったように思います。どちらかと言うと、凝り過ぎている芝居内容を「ここ止めて」「ここBG ONLYのOFFで」などの整理してた感じの修正でした。
 レイアウト・原画のチェックは田辺(慎吾)監督が長谷川さんにアドバイスをしていたようです。自分、任せるところは大雑把に任せる性格です。
 が、任せっぱなしには絶対にしません! 納品前のリテイク作業は自分が仕切り、且つ手伝いました。例えば、“沢田先生の髪の毛クルクル”はラッシュ(撮影上がり)を見て、動画の(と言うより原画から)の上りが良くなかったので、俺の方が仕上げデータに直修正を入れて、長谷川さんに仕上げてもらいました。他ディティールの甘い部分の修正も同様に板垣修正・長谷川仕上げでやりました。最後は前回話題にした“撮影張り付き”も。
 あと印象的なのは、長谷川さん演出・作画の料理のシーンや食材のディティールの描き込み、大変良かったと思います!
 そして、3話でも見事な“投げアクション”を描いてくれた篠衿花さん、今回は“熊の投げ飛ばし”で大活躍!ありがとうございました!

 はい、また次週へ。