COLUMN

第809回 最終話納品待機中~『いせれべ』の話(1)

今『いせれべ』最終話納品(V編)の撮影上り待ち時間に、この原稿を書いています!

“いせれべ”とはもちろん、正式タイトル『異世界でチート能力(スキル)を手にした俺は、現実世界をも無双する~レベルアップは人生を変えた~』の公式略称。“いせれべ”と決まったのはアニメ化決定告知が発表される直前? 脚本開発中は「異世界チート」から始まり、“それだと他の既存タイトルの略称と被る”との意見で「チート無双」に呼称変更。制作中、我々の社内スタッフは「異世界」とか「チート」と呼んでいて~からの結果『いせれべ』。正直、「あ、俺たち『いせれべ』作ってる」と略称がスタッフ間で定着したのは放映開始してからでした。
 という訳で、最終回放映を機に、ここから何回かに分けて『いせれべ』制作話を己の記憶を辿る形で語ってみるとします。『いせれべ』のアニメ化企画は、前作『蜘蛛ですが、なにか?』の終盤制作中、KADOKAWAさんから「次の企画を」とお話をいただきました。「内容を聞かせてください」と返し、プロデューサーさんらと顔合わせ。で、その際今回は“KADOKAWAとトムスエンタテインメントとの共同プロデュース”と知り、個人的には「縁だな」と。つまりトムスエンタテインメント(元・東京ムービー新社)と言えば、自分の出身——テレコム・アニメーションフィルムの親会社。トムスのプロデューサーさんと、自分の師匠・友永(和秀)さんやテレコムの話でひとしきり盛り上がって、「やらせていただきます」。実はその時、別タイトルを提示されて一旦はそちらの話を進めようとしたのですが、程なくして滑り込むように「こちらの原作でお願いします!」と決まったのが『いせれべ』でした。
 その別タイトルの時点で自分が総監督、監督/田辺慎吾とキャラデ・総作画監督/木村博美というメインスタッフは決まっていたので、『いせれべ』に変わった際もそのままスライド。個人的にも会社的にも“後進の育成”は必須で、次作での自分は“総監督”デビューと決めていました。キャラクターデザインの木村博美さんは『COP CRAFT』でキャラデ・総作監デビューをさせた、ウチの若手ホープ。誰よりも画が巧い彼女に“社内新人スタッフの目標となって欲しい”と、続けて指名。その期待に十分応える画が上がってきて、自分・スポンサー共々歓喜しました。
 キャラデ発注の際、俺の方から要望したのは「原作のカラーイラストがそのまま動くように!」で、情報量は減らさず“止めでも持つ画”を求めました。で、“画”全般に関して非常に真面目に考えて描く木村は、キャラデに限らず作監修正や原画1カットでも、パース・骨格・デッサン——つまり、ゼロから計って描き出すアニメーターです。例えば俺が「ごめん、これ直して」と彼女に原画修正を頼むと、キャラの芝居を直して欲しいだけだったのに、「原図のパースからオカシイから背景も直していいですか?」と返され、労力を倍にしてくるんです。でも、元のモノより3倍魅力的なカットに仕上げてくるので、逆らえない——という巧さです。今作のキャラデに関しても例外ではなく、原作数巻に渡る絵柄の変容を彼女なりに研究しつつ、平均値を図り出して描いていたようで、流石です。
 で、シリーズ構成に関しては───また、次回。