小黒 次が『魔女見習いをさがして』(劇場・2020年)です。こちらは佐藤さんが取材で話をされた回数も多いと思います。
佐藤 『魔女見習い』ですね。
小黒 僕のほうで説明をすると、最初に『どれみ』の新作を作るという話があって、小説版『おジャ魔女どれみ16』や『おジャ魔女どれみ17』を映像にする可能性もあった。でも、そうではないということで、かつて『どれみ』を観ていた女の子達の話になった。ということで間違いないですね。
佐藤 そうですそうです。
小黒 佐藤さん自身は、『どれみ』の新作を作るということ自体についてはどうだったんですか。
佐藤 「20周年なので映画やりたいんです」って聞いた時には、やっぱり「誰がどんな『どれみ』の映画を観たいんだろう」ということが掴めなくって、ぼんやりと返してたんですよ。小説が展開していることも知らなかったんですよね。だから、小説の映画化をやるのかなと思ったけど、それが求められているかどうかを自分では判断しきれずにいたんです。そうしたら『どれみ』ファンだけじゃなくて、もうちょっと裾野を広げてほしいっていうオーダーが上のほう(東映アニメーションの髙木勝裕社長)から来て、「『どれみ』を子供の頃に観ていた大人、アニメーションに背中を押されている大人の話」という切り口が出てきた。それで「あ、それならやれそうだな」と思ったのは覚えてるね。
小黒 新文芸坐のレイトショーでトークしてもらった時も聞きましたけど、もうちょっとリアル寄りの世界観なり演出なりで作る可能性もあったわけですね。
佐藤 あった。あったし、コンテに入る前になっても、どうしようかなあと思ってた。最初に上がってきた谷(東)さんのコンテは若干リアル寄りではあったんですよね。その後、五十嵐のコンテが上がってきたのを見て、谷さんも「ああ、こっちだった」とコンテを修正してね。僕も含めてみんなで「そうだな。こっちだな」って思って、腹が決まりましたね。
小黒 補足すると、五十嵐さんはTVの『どれみ』と同じような、ちょっとギャグがあったりする楽しい感じの絵コンテを上げてきたわけですね。
佐藤 そうですそうです。『どれみ』でよくやっていた「崩し」を大量に使う演出になっていた。
小黒 どれみちゃん達に憧れた人達がいる世界は、もっと現実に近い世界を作るのが定石なんだけど、彼女達がいる世界も、マンガ的な楽しい雰囲気の、ちょっと理想化された世界である。その世界の挫折や悩みはややリアルなものなんだけど、テイストとしては楽しい感じでいいんではないかとなっていったわけですね。
佐藤 『どれみ』の世界観と、空気が繋がってる感じにしていこうということだね。
小黒 正しいかどうか僕にはまだ分かんないんですけど、確かに映画を観てる間に『どれみ』を観てる気分にはなりましたね。
佐藤 最終的には、そうなってもらえばいいんじゃないのっていう感じでいるので(笑)。
小黒 最後、どれみちゃん達が出る必要性はあったんですか。
佐藤 店の中にいるやつね。でも、あそこしか、どれみの出る場所はないんだよね。
小黒 そうですね。
佐藤 僕は「魔法は現実にはなかったよ。なかったけれども明日から生きていけるよね、君達」という文脈を考えていたんです。だけど、それだと最後のどれみのシーンはあっちゃダメなんです。
小黒 あっちゃダメですよね。
佐藤 でも、イベントに行くと、最前線の席に座っている大人の女性達の目が凄くキラキラしてるわけですよ。それは『プリンセスチュチュ』のイベントの時もそうでした。この気持ちは肯定してあげるべきものだと思ったんですよ。
だから「魔法なんかない」じゃなくて「魔法はなかった。でもね、あるかもしれないよ」という映画にしていくわけですよ。そうすると『どれみ』が好きだった子供の時の自分を肯定することになるんでね。そういう流れだと、どれみ達が空を飛んでいくっていうビジュアルが力を持つことになる。この映画を観ることが、明日も生きる力に繋がるはずだ、という感じ。
小黒 3人の悩みが一段落した時に、どれみ達の姿を見るからいいわけですね。「つらい現実の中で私達は生きていて、魔法なんかなかったんだ」と思っている時に、どれみ達に会うとつらいじゃないですか。
佐藤 つらいし、もう見たくないになっちゃう。
小黒 彼女達も自分達の理想に一歩近づいて、現実世界の中で自分達の魔法を手に入れた上で、どれみちゃん達に会うと、そんなにおかしくはない。
佐藤 あそこにいる3人の子供の姿は視聴者、観客の一人一人というつもりなので、一緒に会ってる感じなんですよね。「映画のスクリーンにいるどれみ達に、観客の私も3人と一緒に会っている」。そして、飛んでいく気分で終われるんじゃないのかなって。ただ、映画館から出た後も余韻として残ってて、明日会社を辞めようって思われるかもしれないけど (笑)。自分の未来を信じてみたい気持ちになる人だっているかもしれないじゃんということですね。
小黒 ところで、『どれみ』を好きな人達をご自身で描くのは、照れ臭くなかったですか。
佐藤 それは最初からずっとそうなんだけど(笑)。「君達は『どれみ』が好きなんだろう」という映画を自分で作るのはやっぱ難しいよね。でも、そう信じないと描けないから。
小黒 最新作が『ワッチャプリマジ!』(TV・2021年)ですね。これはどういった取り組みなんですか。
佐藤 筐体ゲームのアニメなので、新しいビジネススタイルに取り組むのが面白い作品ではあります。これを楽しむ女の子達の年齢は『プリキュア』を観ている子達と同じくらいないんだけれども、遊び方が大きく違うからね。「おもちゃを買って遊ぶ」じゃないところが、難しくもあり、面白くもあり、ですね。
小黒 なるほど。
佐藤 『HUG』の時と同じように、脚本の坪田(文)さんが、お話の軸を作ってくれていて、個人的にも好きな話なので、演出的には楽しめるかなと思っています。
小黒 佐藤さんは、これから映画ばっかり作っていくのかと思いました。
佐藤 いや、映画が続いたのはたまたまだから。ビジネスのスタイルがそうなっていて、TVよりも映画のほうが制作をスタートさせるハードルが低かったから。これから、配信物ばかりやってるという時代になるかもしれないけど。
小黒 いやいや、もうなってますよ。配信される作品ばかり作ってる人もきっといますよ。
佐藤 その時代その時代の中でやってるだけなので。まあ、相変わらず映画は苦手だなと思ってる感じがありますけどね(笑)。
小黒 今でも映画は苦手なんですね。
佐藤 映画のスクリーンでなにかやるのは難しいと思ってます。やっぱりTVが一番自分に合ってるなっていうのは、今回『プリマジ』をやりながら思っていますね。