COLUMN

第771回 動かす喜び

 現在制作中のシリーズ(2023年放映)の、アフレコが無事全話終了。まだ、画作り~ダビングは半分近く残ってはいますが一先ず、

キャスト・音響スタッフ・制作委員会の皆さんお疲れ様でした!

 昨今と言うか、ここ20年は“コンテ撮でのアフレコ”が当たり前になっています。自分が演出を始めた頃のアフレコ現場では、昭和の時代からご活躍の大御所声優様が「画がなくて演じられるか!」と仰られ、不機嫌を露わにされたものでした。が、それも徐々にコンテ撮でアフレコは当たり前になり、「画がなくて」の御不満もあまり聞かなくなりました。声優の皆様、

今も昔も、決してアニメーター側がサボっているのではありません! 昭和から増える一方の需要に応える品質・物量を生産するため、必死で描いているのだけはご理解頂きたいのです!

 そして、音響スタッフの皆様、

“画の出来が悪い、画が揃わない(コンテ撮)”なのは、もう制作会社・制作プロデューサーの責任だ! 責めるのも控えて頂けないでしょうか?

 とあるプロデューサーさんに聞いた説では、日本にアニメーターは8千~1万人いるらしいです。某作画ツールの営業の方が調べたところでは7千~8千人とのことでした。そして、去年制作されたアニメの本数は大小(シリーズ・単発)含めて400作越えと聞きました(こちらも某プロデューサー談)。その数字を信じるならば、(掛け持ちを勘定に入れず)単純計算で、

アニメ1作に割り当てられるアニメーターは、20数人ほど!

となります。海外も自国のアニメ生産に人手を割くようになり、日本の下請けの割合はぐんと減って、10年前のように“安かろう悪かろうを覚悟して海外に撒けばとにかく上がる!”戦略も通用しなくなってきました。
 つまり、下手すると日本中の声優の数より少ない(んじゃない?)人数のアニメーターたちが、人並みに家も車も買えず汗水たらして描いている現実を鑑みてください。これ以上は言いません。

あ、今回のアフレコは至って和気あいあいと終わりましたよ! 本当に楽しかったです!!

 まあ、作品制作中でも節目節目で自分は、“アニメーションとは、本当に何なんだ?”と初心に帰って、テレコム(・アニメーションフィルム)時代に思いを馳せてしまうのです。
 この間、久しぶりに

『大塚康生の動かす喜び
(ジブリがいっぱいCOLLECTIONスペシャル)』!

のDVD“大塚さんの描く五右エ門の抜刀”を観返しました。あれは、自分が新入社員のド新人だった頃、大塚さんの傍らに立って指導を受けていた時(今から28年前)と同じアングルなんです! 当時、俺が自宅で夜中に描いた原画の習作をあんな感じの優しい口調で、「あ、これは気持ち良く動くね~」と言ってサラサラ~と修正を入れてくださった大塚さん! 思い出します。製作費やスケジュール、スタッフの引き抜き合い(馬鹿の所業)、そして、自分で画を描かないくせに作品の手柄を我が物顔で語りたがる監督を作家扱いで紹介するアニメジャーナリズムと、それに毒されて作家の振りだけ一人前の実務作業不能アニメ監督などの業界暗部を一瞬でも忘れたい時、本当に“アニメーターの矜持”を思い出したくなり、俺に“画を動かすとは?”という純粋なアニメーション(アニメ―ト)を教えてくださった師匠と先生方のことを考えると気が落ち着くのです。

俺、富だ名声だは手にできていないけど、“画を動かせる面白さ”は教えて貰ったんだった!

と。気持ちいいアクションや雰囲気の出た芝居が描けて、架空の人物やその他の物が、あたかもここに存在するかのように己で感じることができた時の快感! これは、一生遊べるおもちゃを手にしたような幸せ(?)で、お金じゃ買えないもののはず。そんな素晴らしい技術を我々アニメーターは持っているのだという誇りを忘れずに、未だに「アニメーターの冷遇・低収入は当たり前。もう、しようがない」と言っては自分らの稼ぎだけ天然で確保している“上の人”たちに対して、決して拗ねることなく、しっかり大人のルール内で丁寧に交渉するようにしましょう! ここ数年は我々も会社として“作画スタッフ皆が週休2日の普通の生活ができる製作費”を条件に入れています。作品によっては非常に難しい交渉ですが、頑張るしかないです。アニメーター自身も“低賃金でも自由人”を気取ってないで、会社側からの“インボイス制”の説明はちゃんと聞きましょう。某アニメ会社社長より聞いた話では、「社内でインボイス制の説明会を開いても、はなから聞く耳を持たないフリーのアニメーターは多い」とのことでした。アニメーター自身も時代に合わせて「動き」ましょう。