COLUMN

第233回 人の命は尽きるとも 〜最強ロボ ダイオージャ〜

 腹巻猫です。『マジンガーZ』「秘密戦隊ゴレンジャー」等で知られる作曲家の渡辺宙明先生が6月23日に亡くなりました。その音楽に勇気づけられ、取材や音源発掘、資料提供等でお世話になり、イベントにも何度もご出演いただきました。ただただ、感謝しかありません。ありがとうございました。


 以前にも当コラムでお知らせしたが、2014年にCDで発売された「最強ロボ ダイオージャ 総音楽集」が、今年3月より配信(ストリーミング&ダウンロード)で聴けるようになった。タイトルは「最強ロボ ダイオージャ オリジナルサウンドトラック」となっているが、内容は「総音楽集」と同一である。
 今回は、渡辺宙明追悼の意を込めて、この作品を紹介したい。
 『最強ロボ ダイオージャ』は1981年1月から1982年1月まで放映された日本サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)制作のTVアニメ。
 イプロン星系51の星々を支配するエドン国のミト王子は、王宮での堅苦しい生活がいやになり、身分を隠して領地の星をめぐる旅を始める。旅のおともをするのが教育係のスケードと剣術指南役のカークス。ミト王子は訪れた星々で庶民が悪政に苦しめられていることを知り、王家に伝わる巨大ロボット・ダイオージャを操縦して支配者を懲らしめるのだ。
 とあらすじを紹介すればわかるとおり、「水戸黄門」のロボットアニメ版である。
 『機動戦士ガンダム』の人気が盛り上がっていた時代に現れた、明るく楽しく痛快なロボットアニメだった。
 その音楽担当に選ばれたのが渡辺宙明。まさに適任! と言いたいところだが、本作は渡辺宙明がそれまで手がけてきたロボットアニメとはひと味違う。シリアス寄りのドラマもたまにあるが、基本的に明朗でユーモラスな作品。悲壮感や悲劇的な要素は薄い。渡辺宙明が手がけてきたロボットアニメや特撮ヒーロー作品でも、こういうテイストはあまりなかった。
 しかし、それがストレートで勢いのある音楽を生み出す結果になった。カッコいい曲は文句なしにカッコよく、ロマンティックな曲はうっとりするほどロマンティック。コミカルな曲やほのぼのした曲も多い。のびのびと書いていることが伝わってくるような爽快な音楽だ。

 配信中の「最強ロボ ダイオージャ オリジナルサウンドトラック」は、CD版の「総音楽集」とまったく同じ構成。主題歌も挿入歌もカラオケもCDと同じ並びで配信されている。ありがたいことである。
 アルバムは全51曲(51トラック)。配信元によって、トラックリストをCDと同様にディスク1とディスク2に分けて表記しているケースとディスクを分けずに表記しているケースがある(Amazon Musicなどが後者)。便宜上、以下ではディスク分けなしの表記を基本にしよう。
 トラックリストだけからはわかりづらいが、アルバムは大きく4つのブロックに分かれている。
 トラック1〜13は、放映当時発売されたアルバム「最強ロボ ダイオージャ BGM集」の復刻。トラック14〜29はこれが初蔵出しとなった「未収録BGMコレクション」。トラック30〜39(ディスク2のトラック1〜10)は、放映当時発売されたアルバム「スペース ファンタジー ダイオージャ」の復刻。トラック40(ディスク2のトラック11)以降は主題歌・挿入歌のレコードサイズとカラオケなどを集めた「ソングコレクション&ボーナストラック」だ。
 最初のブロックの「最強ロボ ダイオージャ BGM集」は氷川竜介による構成。都合によりオリジナル盤ではフルサイズで収録されていた主題歌をTVサイズに差し替え、挿入歌を割愛している(これらはアルバムの後半に収録している)が、BGMの構成はそのままである。
 収録曲は以下のとおり。

  1. 最強ロボ ダイオージャ(TVサイズ)(歌:たいらいさお)
  2. 胸に輝く王者の印
  3. 広い宇宙を一直線に
  4. 星から星への旅ぐらし
  5. 苦しみの人びと
  6. 敵地へ急げ
  7. 幸せの星空
  8. 乙女の涙
  9. ズッコケ珍道中
  10. 悪領主の逆襲
  11. 正義の刃を受けてみよ
  12. 平和の祈り
  13. ヨカッタネ宇宙(TVサイズ)(歌:たいらいさお)

 オープニング主題歌「最強ロボ ダイオージャ」は、合いの手コーラスが楽しい人気曲。コンサートで歌われると、必ず観客の合唱が入って盛り上がる。渡辺宙明はこういう「一緒に歌いたくなる曲」を書くのがとてもうまかった。
 トラック2「胸に輝く王者の印」はサブタイトル音楽に続けて戦闘BGMを2曲続けている。ノリノリのアクション音楽から始まるのが燃えるところだ。アクション系作品のサントラの構成は、頭から「来た来た!」と思わせるのが大切なのである。
 軽快な曲調のトラック3「広い宇宙を一直線に」、ほのぼのムードのトラック4「星から星への旅ぐらし」が続く。軽妙なリズムやシンセサイザーのユーモラスな音色が印象的だ。
 トラック5「苦しみの人びと」は、哀愁や悲哀を表現する音楽。ここでもシンセサイザーの音色が効果的に使われている。シンセサイザーの全面的な導入が本作の音楽的特徴のひとつなのである。
 トラック7「幸せの星空」は筆者の気に入っている曲。前半部分のリリカルなメロディは、ほかの宙明作品であまり聴けない曲調。ノスタルジックでもあり、淡い恋心のような甘酸っぱい香りもある。胸がキュンとなる旋律だ。後半部分はトランペットとストリングスが奏でる清々しいメロディ。こういう曲が聴けるのが本作の魅力である。
 次のトラック8「乙女の涙」も情感たっぷりの美しい音楽だ。前半はストリングスやビブラフォンによるロマンティックな曲。後半はアコースティックギターとストリングスが奏でる哀しみのテーマ。本作の抒情的な一面が表現されている。
 トラック10「悪領主の逆襲」とトラック11「正義の刃を受けてみろ」は「BGM集」のクライマックスとなる部分。サスペンス〜ピンチ〜ダイオージャ登場〜戦闘〜勝利という流れになる。ロボットアニメの高揚感が凝縮された聴きごたえ抜群のトラックだ。
 平和描写音楽を集めたトラック12「平和の祈り」がBGMパートを締めくくる。事件が解決してミト王子たちが星を去っていく、ちょっぴり感傷的な場面が目に浮かぶ。
 トラック13はエンディング主題歌「ヨカッタネ宇宙」。これまた、ほかの渡辺宙明ロボットアニメ作品ではあまり聴けない、ほのぼのとやさしい味わいの名曲である。
 ここまでが放映当時のBGM集を再現した内容。BGMの聴きどころを集め、メリハリの効いた構成にまとめた名盤だった。
 トラック14〜29の「未収録BGMコレクション」は、「BGM集」に未収録曲の中からステレオ音源が残っていたものをまとめた。もし、放映当時「BGM集Vol.2」が発売されていたら……というイメージだ。構成は筆者が担当した。
 筆者のお気に入りはトラック16の「人恋し旅の空」。ハーモニカをフィーチャーした2曲を1トラックに編集した。ハーモニカは渡辺宙明の音楽人生の原点となった楽器でもある。哀愁を帯びた音色と旋律がしみじみと胸にしみる。この原稿を書くために聴き返しながら、渡辺宙明がイベントに出演した際に持参したハーモニカを吹いてくれたことを思い出した。
 トラック30〜39(ディスク2のトラック1〜10)の「スペース ファンタジー ダイオージャ」は、劇中での使用を想定せず、鑑賞用の組曲として録音されたアルバム。それまで作られた主題歌・挿入歌・BGMのモティーフをもとにアレンジされている。特徴は生楽器とシンセサイザーサウンドの濃密な融合。宇宙刑事シリーズ以降の宙明サウンドにつながる音楽的試みが、この段階でなされている。70年代宙明サウンドと80年代宙明サウンドをつなぐ重要アルバムなのだ。
 筆者のおすすめは、宇宙刑事サウンドをほうふつさせるトラック36「ファイト アンド ビクトリー」と、ミト王子役の古川登志夫が歌った挿入歌「HEARTへようこそ」をアレンジしたトラック37「ウエルカム トゥ マイハート」。渡辺宙明自身も気に入っているというこのアルバム、もっと聴かれ、評価されてほしいと思う。
 トラック40(ディスク2のトラック11)以降には主題歌・挿入歌のレコードサイズとそのカラオケ、前半部分に収録しきれなかったBGM(モノラル音源)を収録した。「終わったかと思ったら、まだおまけがあった」みたいなお得感をねらった構成だ。ガイドメロディが入っていないオリジナル・カラオケは初商品化。これをバックに歌ってみるのもよいが、ぜひ、アレンジの巧みさにも耳を傾けていただきたい。

 元のCDアルバム「最強ロボ ダイオージャ 総音楽集」発売の際(2014年)に、オリジナル盤に関わった渡辺宙明、藤田純二、氷川竜介の3人をゲストを迎えてトークイベントを行ったのも懐かしい思い出である。ステージ上に3人が並ぶ姿は胸が熱くなるものがあった。そういう意味でも、筆者にとって深く印象に残る作品だ。
 ところで『最強ロボ ダイオージャ』の音源はこれで全部と思っていたのだが、「総音楽集」の発売後、キングレコードで未収録の音源が見つかった。主題歌「最強ロボ ダイオージャ」のメロオケと挿入歌「HEARTへようこそ」のアコースティックギターによるインストゥルメンタルである。どうやら、BGM録音とは別に、レコード用の録音の際にスタジオで録られたインスト曲があったらしいのだ。2曲とも劇中では未使用。まったくの未発表音源だった。
 この2曲は2015年に発売されたCD「渡辺宙明コレクション CHUMEI RARE TREASURES 1957-2015」に収録されている。
 こうして作品を聴き返していると、人の命は尽きるとも音楽は不滅なのだとあらためて感じる。聴く人、演奏する人がいる限り、音楽は死なない。筆者がいなくなっても、渡辺宙明の音楽は残り続けるだろう。音楽という命を後世に伝えるお手伝いができたことを光栄に思う。

最強ロボ ダイオージャ オリジナルサウンドトラック[Amazon Music]
https://www.amazon.co.jp/music/player/albums/B09SYJR5KR

各種配信サイトへのリンク
https://lnk.to/aFk3aZbJ

渡辺宙明コレクション CHUMEI RARE TREASURES 1957-2015
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