COLUMN

第232回 一番私らしい曲 〜シートン動物記 くまの子ジャッキー〜

 腹巻猫です。SOUNDTRACK PUBレーベル第30弾「シートン動物記 くまの子ジャッキー/りすのバナー 音楽集」が6月22日に発売されます。「シートン動物記」を原作にしたTVアニメ2作品の初のサウンドトラック・アルバム。小森昭宏が作曲した主題歌・挿入歌・BGMをCD2枚に集大成しました。予約受付中!
https://www.amazon.co.jp/dp/B0B2JFQ666


 ということで、今回は『シートン動物記 くまの子ジャッキー』の音楽を紹介しよう。
 『シートン動物記 くまの子ジャッキー』(以下『くまの子ジャッキー』と表記)は1977年6月から12月まで放送されたTVアニメ作品。アーネスト・T・シートンが書いた動物文学「タラク山の熊王」を原作に日本アニメーションが映像化した。
 舞台は1870年頃(第1話で「今から100年ほど前」のナレーションが流れる)のアメリカ合衆国の南部、シェラネバダ山脈にそびえるタラク山のふもと。ネイティブ・アメリカンの少年ランと親をなくした子ぐまのジャッキーとの友情を描く物語である。瑞々しい大自然の描写や森やすじが手がけた愛らしいキャラクターが印象的で、同じく日本アニメーションが制作した「世界名作劇場」に通じる雰囲気がある。
 監督は『フランダースの犬』『家族ロビンソン漂流記 ふしぎな島のフローネ』などを手がけた黒田昌郎。本作の姉妹作品である『シートン動物記 りすのバナー』(以下、『りすのバナー』と表記)も黒田昌郎が監督を務めている。
 そして、『くまの子ジャッキー』と『りすのバナー』の両方の音楽を担当したのが小森昭宏だ。

 小森昭宏といえば、『勇者ライディーン』『超人戦隊バラタック』等のロボットアニメ作品や「忍者キャプター」「バトルホーク」等の特撮ヒーロー作品の音楽がよく知られているし、人気が高い。本作は日常描写中心の、どちらかといえば地味な作品。しかし、とても小森昭宏らしい作品だ。
 その理由のひとつは、本作が「動物もの」であること。
 小森昭宏の初期の代表作となったのがNHKで放送された「ブーフーウー」。3匹の子ブタを主人公にした着ぐるみ人形劇だ。また、編曲を担当した「黒ネコのタンゴ」は大ヒットし、小森昭宏が作編曲の仕事に専念するきっかけとなった。いまでも歌い継がれる童謡「げんこつやまのたぬきさん」も小森の作曲。ほかにもTVアニメ『名犬ジョリィ』、劇場アニメ『ほえろブンブン』、人形アニメーション『コラルの探検』(子ぐまのコラルが主人公)など、小森昭宏作品には「動物もの」が多い。
 また、小森昭宏は子どものための音楽に深い関心を持ち、力を入れた作曲家でもある。「げんこつやまのたぬきさん」のほかにも童謡や子ども向けの合唱曲を多数作曲し、日本童謡協会の理事を務めた。同協会が開催するコンサート「こどもコーラス展」の実行委員長も務めていた。
 子ぐまと少年の友情を描く『くまの子ジャッキー』は、まさに小森昭宏にぴったりの作品だったのだ。
 小森昭宏は外科医出身という珍しい経歴の持ち主である。少年時代から音楽に親しんだが、戦争で命を失いかけた体験から医者を志して慶應義塾大学医学部に進み、卒業して脳外科医になった。外科医として勤務しながら、ラジオやTVの音楽の仕事を続けていた。小森昭宏が作る音楽は、生きるよろこびや命の輝きと深く結びついている。

 そんな小森昭宏が手がけた『くまの子ジャッキー』の音楽。まず、大杉久美子が歌う主題歌が出色だ。小森はオープニング主題歌「おおきなくまになったら」について、「一番私らしい曲だといえます。自分でも気に入ってる曲です」とコメントしている。エンディング主題歌「ランとジャッキー」も一度聴いたら耳に残る楽しい曲だ。
 劇中音楽(BGM)は約100曲が録音されている。全26話のTVアニメにしては多めの曲数である。この音楽は『りすのバナー』でも引き続き使われた。
 アメリカの大自然を舞台にした作品らしく、アコースティックギターやアコーディオン、マリンバなどを使った素朴なサウンドの曲が多い。フルートなどの木管楽器や木琴(シロフォン、もしくはマリンバ)も活躍する。
 こういう題材であれば、弦楽器をたっぷり使ったスケール感豊かな音楽にする選択もありえたと思う。が、シンプルな編成で演奏される温かみのあるやさしい音楽が、この作品には合っている。予算の都合ではなく、小森昭宏があえて選んだサウンドだと思うのだ。
 本作の劇中に流れるのは、ほのぼのした音楽ばかりではない。
 物語の中で、ジャッキーは猟師に狙われたり、犬に追われたり、山火事に巻き込まれたりして、たびたびピンチに陥る。そういう場面では、アップテンポのアクション系の曲や緊迫感のあるサスペンス曲が流れる。『勇者ライディーン』なんかを思い出して、ニヤニヤしてしまうところだ。
 本作のBGMはこれまで一度もレコードやCDに収録されたことがなく、今回の「シートン動物記 くまの子ジャッキー/りすのバナー 音楽集」が初商品化になる。2枚組のうち、ディスク1が『くまの子ジャッキー』の音楽集、ディスク2が『りすのバナー』の音楽集という構成。
 ディスク1を聴いてみよう。
 詳しい収録曲は下記を参照。
https://www.soundtrack-lab.co.jp/products/cd/STLC046.html
 1曲目はオープニング主題歌「おおきなくまになったら」のTVサイズをステレオ音源で収録した(初商品化)。レコードサイズの編集ではなく、カラオケ、ボーカルとも別録音されたものだ。当時はレコードサイズとTVサイズを別に録ることが多かったのである。エンディング主題歌のTVサイズも同様だ。
 トラック2「タラク山のふもとで」は本作の世界観を象徴する、雄大な自然描写曲。ノスタルジックなメロディが「シートン動物記」の世界へ誘ってくれる。
 トラック3「森の中へ〜サブタイトル」は、第1話で子ぐま(ジャッキー)が森の中へ進んでいく場面に流れた短い曲とサブタイトル曲をつなげたもの。サブタイトル曲はほぼ毎回、本編の冒頭に使用されているので、聴くと「『くまの子ジャッキー』が始まる!」という気分になる。
 トラック4「くまの子ジャッキー」はオープニング主題歌のストレートアレンジ。ジャッキー初登場の場面に流れた。軽快に始まり、中盤で哀愁を帯びた曲調に変化、ふたたび軽快な曲調に戻って終わる。この展開が何度聴いても気持ちよく、引きこまれる。
 子ぐまの兄妹が仲よく遊ぶ場面に流れたトラック5「なかよく遊ぼう」に続いて、トラック6「ともだちになろうよ」は、森の中で子ぐまに出会ったランが「ともだちになろうよ」と子ぐまに語りかける場面のゆったりしたオープニング主題歌アレンジ。
 次の「きみの名はジャッキー」は、ランが子ぐまに「ジャッキー」と名前をつける場面のやさしく愛情あふれる曲である。
 ここまでが第1話で流れた曲。
 以降、ほぼストーリーの流れを追う形でBGMを収録している。
 聴きどころをいくつか紹介すると——。
 トラック10「追いつめられて」は、猟師にねらわれた母ぐまピントーが、森の中でしだいに追いつめられていく場面に流れた危機描写曲。スリリングな曲調は小森昭宏のロボットアニメや特撮ヒーローものの音楽に通じるところがある。トラック29「せまる危機」、トラック34「もえるタラク山」なども同様の曲調の楽曲。
 トラック15「森を走ろう」は、ジャッキーとランが森の中を駆ける場面などに流れる、ちょっとユーモラスなタッチの軽快な曲。木管楽器や木琴が奏でる元気いっぱいの音楽は小森昭宏が得意とするところである。トラック24「楽しい水あそび」も木琴やフルートの響きを生かした楽しい楽曲だ。こうしたユーモラスな音楽は『くまの子ジャッキー』よりも『りすのバナー』でよく使われている。
 トラック19「サクラメントの町へ」は、第15話「西部の町」でランとジャッキーたちが馬車に乗って西部の町サクラメントへ向かう場面に流れた曲。はずむようなウエスタン風の曲調に胸が躍る。使用回数は少ないが印象に残る曲のひとつだ。
 アルバム後半は、ランとジャッキーが離れ離れになり、ふたたび再会するまでのドラマをイメージした構成。
 トラック30「つらい別れ」、トラック35「ランの悲しみ」、トラック39「会いたい想い」などは、ランの悲しみやジャッキーを心配する気持ちを表現する哀感ただよう曲。もともと小森昭宏は舞台劇の音楽が認められてデビューした作曲家。朝の連続テレビ小説「いちばん星」や「音楽劇 窓際のトットちゃん」といった作品も手がけている。人間ドラマに寄り添った音楽も達者なのである。
 本作の音楽の中でとりわけ印象に残るのが、ジャッキーが辛い試練に立ち向かう場面に流れる、悲壮感のあるボレロ風の曲ではないだろうか。
 ジャッキーは猟師のボナミィに目をつけられ、猟犬の訓練の相手をさせられる。また、物語後半では、川を流され、ふるさとの山から遠く離れた土地に流れ着いてしまい、故郷をめざして長い旅をすることになる。そんな場面に流れたのが、トラック32「ジャッキーとジルの旅」とトラック33「ふるさとへの遠い道」。こうしたボレロ風の曲は『りすのバナー』の終盤でも、バナーたちが新天地を求めて旅をする場面に使用されている。
 アルバムの終盤は、最終回のラストに流れたトラック41「ジャッキーとの再会」とトラック42「さようならジャッキー」を続けて収録して、感動の名場面を再現した。
 続くトラック43「はるかなるタラク山」は、第5話でピントーとジャッキー、ジルの親子がタラク山の森の奥へと帰っていく場面に1度だけ流れた曲。さわやかで感動的な曲調がフィナーレにふさわしいと考えて、この位置に収録した。
 エンディング主題歌「ランとジャッキー」のTVサイズが物語を締めくくる。
 以降はレコード用音源コレクション。オープニング、エンディング主題歌のレコードサイズとそのカラオケを収録した。カラオケはガイドメロ入りの音源がレコードに収録されたことがあるが、ガイドメロの入らない純カラオケは初商品化である。
 最後に、小森昭宏自身が編曲したオープニング主題歌のマーチアレンジ「おおきなくまになったら 並足行進曲」を収録。放送当時レコードで発売された、アニメソングのマーチアレンジ・シリーズの1曲である。初CD化。

 ディスク2の『りすのバナー』の音楽についても触れておこう。
 先に書いたように、『りすのバナー』では『くまの子ジャッキー』の音楽が引き続き使用されている。『りすのバナー』のオリジナル曲もあるが、その数はおそらく40曲ほど。「おそらく」と書いたのは、『りすのバナー』の音楽テープが未発見で、その全貌がわからないためである。
 そういう事情もあって、ディスク2の収録曲の半分は、『りすのバナー』で使われた『くまの子ジャッキー』の音楽で構成した。特にユーモラスな曲やアクション系の曲が『りすのバナー』でよく使われている。
 ただ、それだけでは『りすのバナー』の世界を再現するには不足なので、『りすのバナー』のオリジナルBGMをMEテープ(本編音声からセリフを除いた効果音と音楽をミックスしたテープ)から採録・復元して収録した(編集に苦心しましたよ)。効果音が重なっている部分もあるが、貴重な音源ゆえにご容赦いただきたい。
 『りすのバナー』の主題歌2曲のTVサイズは、『くまの子ジャッキー』と同様に、ステレオ音源で収録した。こちらもレコードサイズとは別録音、初商品化である。
 ディスク2の終盤は「ソングコレクション」として主題歌・挿入歌のレコードサイズを収録。『りすのバナー』の挿入歌のCD化は今回が2回目。挿入歌のうち、大塚周夫とはせさん治が歌う「おれたちはいつも」は、過去に発売されたレコードやCDではナレーション入りで収録されていたが、このたびナレーションなしの音源が見つかり、初収録が実現した。本アルバムの目玉のひとつである。

 最後に本アルバムのブックレット(解説書)について。
 小森昭宏は残念ながら2016年に逝去している。ブックレットには2001年に取材したインタビューを再構成して掲載した。
 『くまの子ジャッキー』『りすのバナー』に共通する魅力のひとつが、森やすじがデザインを手がけた愛らしいキャラクター。森やすじは筆者が少年時代から敬愛するアニメーターのひとりである。その魅力を伝えたくて、ブックレット内にキャラクター設定を紹介するページを設けた。音楽ともども、お楽しみください。

シートン動物記 くまの子ジャッキー/りすのバナー 音楽集
Amazon

試聴用動画(期間限定公開)