腹巻猫です。SOUNDTRACK PUBレーベル第29弾「ミラクルガール オリジナル・サウンドトラック」を3月30日に発売します。1980年に放映されたTVドラマ「ミラクルガール」の初のサウンドトラック・アルバムです。「ミラクルガール」は由美かおるが主演した女性探偵アクションドラマで、音楽は渡辺岳夫が担当。おしゃれで軽快なサウンドは、渡辺岳夫が手がけた『キューティーハニー』の音楽に通じるところがあります。ただいま予約受付中!
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もちろん、「ミラクルガール」と『ミラクル☆ガールズ』のあいだにはなんの関係もない。
とおことわりした上で、今回はTVアニメ『ミラクル☆ガールズ』の音楽を聴いてみたい。ネットで「ミラクルガール」を検索すると、高確率で永井真理子の歌う曲「ミラクル・ガール」とマンガ・アニメの『ミラクル☆ガールズ』がヒットする……というご縁である。
『ミラクル☆ガールズ』は1993年1月から12月まで放送されたTVアニメ。「なかよし」(講談社)に連載された秋元奈美の同名マンガをアニメ化した作品だ。
松永ともみと松永みかげは、性格も趣味も正反対の双子の姉妹。ふたりには秘密があった。姉妹が心を合わせるとテレパシーやテレポーテーションなどの超能力を使うことができるのだ。ふしぎなふたりの学校生活や恋や冒険を描くファンタジック・ストーリー。
「なかよし」誌上では「美少女戦士セーラームーン」と並ぶ2大連載だったという人気作品。その「セーラームーン」は1992年にアニメ化されている。
アニメ版『ミラクル☆ガールズ』は、『セーラームーン』との差別化を考えてか、異なるテイストをねらって作られたようである。
原作は中学生編からスタートするのに、アニメはいきなり高校生編から始まる。当初の監督は『魔法のスター マジカルエミ』などを手がけた安濃高志(第1話〜第17話まで担当)。『マジカルエミ』でも印象的だった、セリフに頼らず、細かい芝居や風景描写を重ねて心情を表現する演出が本作でも見られる。『セーラームーン』より対象年齢高めの「お姉さん向け」に作られている印象なのだ。
そんな作品だから、音楽もちょっと大人っぽい。
音楽を担当したのは大島ミチル。本作は大島ミチルが手がけたアニメ作品の中でも初期のもののひとつである。
大島ミチルといえば、オーケストラを使った華やかでスケール感豊かな音楽がイメージされる。が、本作の音楽は、シンセサイザーと少数の生楽器によるミニマムな編成での演奏。弦楽器がバイオリン1本しか使われていないのだから徹底している。
そのぶん、ミュージシャンは豪華だ。ピアノとシンセサイザーは大島ミチル自身。バイオリン・篠崎正嗣、パンフルート・旭孝、ギター・土方隆行、ベース・高水健司と、日本の映像音楽やポップスを支えてきたミュージシャンが集められている。
コーラスとコーラスアレンジに黒石ひとみが参加していることにも注目したい。黒石ひとみは、のちにTVアニメ『プラネテス』(2003)、『LAST EXILE』(2003)、『コードギアス 反逆のルルーシュ』(2006)などの音楽(楽曲提供や劇伴作曲)で活躍するアーティスト。『ミラクル☆ガールズ』はその10年前の作品になる。
音楽の内容もユニークだ。リズムは控えめで、しっとりしたメロディを聴かせる曲やサウンド重視の曲が多い。ピアノの音、シンセサイザーのふわっとした音やキラキラした音、民族楽器の音などが耳に残る。ヒーリングミュージックや環境音楽系のサウンドで編まれた音楽なのである。のちに大島ミチルが手がけた魔法少女アニメ『魔法のステージ ファンシーララ』(1998)、『リトルウィッチアカデミア』(2013)などと比べても、だいぶイメージが異なる。
クラシック系でも、ジャズでも、ロックでもない。そのサウンドをひと言で表現するなら、「ニューエイジ・ミュージック」と呼ぶのがぴったりくる。
ニューエイジ・ミュージックに明解な音楽的定義はないが、ウィンダム・ヒル・レコードのピアノ音楽や喜多郎などのシンセサイザー音楽が、この時期そう呼ばれていた。ヒーリング音楽や環境音楽に近いが、もっとポップス寄りの作家性の強い音楽である。
そこで思い出すのが、大島ミチルが1993年に発表した「ワーズワースの庭で」(1994年から「ワーズワースの冒険」に改題)のテーマ音楽「シャ・リオン」。これもニューエイジ・ミュージック的な曲だった。また、1990年に篠崎正嗣とのユニット「式部」で手がけたNHKスペシャル「大英博物館」の音楽もエスニカルなニューエイジ・ミュージックの趣がある。
『ミラクル☆ガールズ』もその系譜につらなる作品なのである。
本作のサウンドトラック・アルバムは「ミラクル☆ガールズ オリジナル・サウンドトラック」のタイトルで1993年3月にソニー・ミュージックレコーズから発売された。初回盤はデジパック仕様。1993年8月には2枚目のサントラと呼べるアルバム「ミラクル☆ガールズ リミックス」が発売されている。
「オリジナル・サウンドトラック」を聴いてみよう。収録内容は以下のとおり。
- キッスの途中で涙が(歌:GARDEN)
- ミラクル・ブレス -Wake Up-
- ミステリー —神秘の国—
- 伝説の花
- 夢
- クリスタル・ウェイヴ〜サスペンス
- Premonition(予感)
- グッド・モーニング!! ガールズ
- ハーフ・ムーン
- ミラクル・ブレス
- メモリー -Good Night-
- ふたりじゃなきゃだめなの(歌:Dio)
1曲目と12曲目がオープニング主題歌とエンディング主題歌。それぞれフルサイズで収録されている。残る10曲がBGMである。
アニメサントラとしては異色のアルバムだ。本編でたびたび使われているコミカルな曲や明るい日常曲はほとんど収録されず、神秘的な曲やエスニカルな曲が主に選ばれている。また、曲の頭にSEがミックスされていたり、2つの曲がクロスフェードする形で1トラックに編集されていたりする。アニメで流れていた音楽を楽しむというより、独立した音楽作品として聴くことを意識したアルバムになっている。
これは、いわば『ミラクル☆ガールズ』の「ミラクル」に着目して構成されたニューエイジ・ミュージック・アルバムなのである。
2曲目の「ミラクル・ブレス -Wake Up-」は時計と目覚ましのベルの音から始まる曲。超能力発動場面に流れるSE的なサウンドに続いて、バイオリンとシンセサイザーによる、ゆったりとした神秘的な音楽が聴こえてくる。曲名の「ミラクル・ブレス」とは、ともみとみかげが左手首に付けているブレスレットのこと。ふたりが超能力を使うとブレスレットの花の飾りが光る設定だ。10曲目の「ミラクル・ブレス」はこの曲の別アレンジ。超能力発動シーンや、第10話の雪の大樹が現れるシーン、第17話の過去の幼い自分と出逢うみかげなど、幻想的な場面に使われていた。
トラック3の「ミステリー —神秘の国—」はざわめく人の声から始まる。雑踏の中のイメージなのだろう。バグパイプ風の笛の音がエキゾティックな旋律を奏で、異国を旅している気分になる。曲の終盤は、ダルシマーかツインバロム風の弦の音が東欧風のメロディを演奏するパート。この部分は第1話の冒頭など、ミステリアスな場面にたびたび使われている。
トラック4「伝説の花」はパンフルートが哀愁を帯びたメロディを奏でるフォークロア風の曲。バイオリンとギター、ベース、シンセなどの音が重なり、ファンタジックな曲に仕上げられている。第1話では、あこがれの倉茂先輩の海外留学を知ったみかげの心情を表現する曲として選曲されていた。
トラック5「夢」はたゆたうようなバイオリンのメロディにパーカッションやベースがからむドリーミィな曲。第11話の太古の恋人たちの別れの場面や第18話のともみとみかげがユニコーンに乗って夜空を飛ぶ場面など、本作の中でもとりわけファンタジー色の強い場面に流れていた。
テクノっぽいシンセサウンドから始まるトラック6「クリスタル・ウェイヴ〜サスペンス」はサスペンスシーンによく流れた曲。後半のシンセがリズムを刻むパートは追っかけ場面の定番曲である。
トラック8「グッド・モーニング!! ガールズ」は本アルバムの中でもサントラらしい1曲。鍵盤ハーモニカのソロに続いて、軽快なリズムと女声コーラスによる伴奏が始まり、鍵盤ハーモニカが軽やかなメロディを演奏する。さわやかな朝の情景を思わせる曲である(この曲はあまりニューエイジっぽくない)。ともみとみかげの明るい日常のシーンによく使われていた。
トラック9「ハーフ・ムーン」は、大島ミチル自身の演奏によるピアノソロの曲。本編ではピアノソロの曲がたびたび使われており、明るい曲、悲しい曲、主題歌アレンジなど、さまざまな曲想のものが確認できる。このトラックは、その中から代表して1曲という感じなのだろう。月を見上げてもの思う少女の姿が目に浮かぶような、幻想的でロマンティックな曲である。第15話の桜の花びらが舞う中にたたずむみかげ(の分身)の場面などに使用された。
ねじを巻く音から始まるトラック11「メモリー -Good Night-」は、オルゴールの音色で奏でられるリリカルなワルツ。タイトルどおりのノスタルジックな曲である。同じメロディをシンセで演奏した曲もよく使われていた。
曲名を見ればわかるように、本アルバムは「Wake Up」で始まり、「Good Night」で終わる構成になっている。ふしぎな姉妹のミラクルな日常をニューエイジ風サウンドで綴った1枚——そんなコンセプトで作られたアルバムなのだろう。
本アルバムのサウンドプロデュース&ミックスとしてクレジットされているのが、シンセサイザープログラミングも担当した伊藤圭一。実は伊藤圭一は「大英博物館」のサウンドプロデュースも手がけており、大島ミチルが本作のあとに手がけた劇場アニメ『はじまりの冒険者たち レジェンド・オブ・クリスタニア』(1995)やTVアニメ『鋼の錬金術師』(2003)、黒石ひとみが手がけた『コードギアス 反逆のルルーシュ』などの音楽作りにも参加している。『ミラクル☆ガールズ』の独特なサウンドとアルバムを作り上げたキーパーソンは伊藤圭一ではないか、と筆者は推測している。
2枚目のアルバム「ミラクル☆ガールズ リミックス」もまた、伊藤圭一のサウンドプロデュース&ミックスによる作品。ブレイクビーツに乗せてBGMをメドレーで聴かせる、DJ向けを意識したようなアルバムだ。これまたアニメサントラのイメージを打ち破るコンセプトに驚かされる。サントラファンとしては、ふつうに聴かせてほしいと思うけれど……。
ただ、このアルバムの3曲目に収録された「Miracle Girls Medley」は、BGMを余計なミックスなしにメドレーで聴かせるトラック。後期のアバンタイトル音楽やサブタイトル曲、アイキャッチ曲、みかげのテーマ、ともみのテーマなど、劇中でなじみのある曲を聴くことができる。本作の音楽アルバムの中で、もっともサントラらしいトラックと言えるだろう。これを聴くと、「あれ、意外とファンキーな曲や軽快な曲も多いな」と思ってしまう。
そう考えると、「ミラクル☆ガールズ オリジナル・サウンドトラック」はプロデュースの力を強く感じるアルバムだ。ニューエイジ・ミュージックとして聴ける魅力的なアルバムであるが、それを成立させたのは、音楽自体もさることながら、ミックスとプロデュースの力によるところが大きい。ふつうにサウンドトラックとして作っていたら、まったく印象の異なるアルバムになっただろう。「ミラクルな仕事だなあ」と思わせる1枚である。
ミラクル☆ガールズ オリジナル・サウンドトラック
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