COLUMN

第746回 50代に向けて

やった!! 脚本(シナリオ)、一通り終わりました!!

 後は原作&クライアント・チェックを受けての微調整をするのみ。これまでの話数もそんなに修正指示はなかったので、まあ、すぐ終わるでしょう。つまり体感で全体95%の脚本が終わった感じ。でもすでにコンテ・チェックも同時進行に進めているし、さらにもうすぐ音響も始まるし~で、相変わらず暇になることはないのでしょうが。
 この連載を初期から読んで下さってる方は(ま、いないか)、板垣が40代に入ってからの仕事のやり方が変わったことに気付きませんか? はい、まあそんなに興味ないのは分かっているので、さっさと自分から話を進めます。先ずは、知人・友人と一緒に仕事するのをほぼ止めました。これはそんなに意識的に誰かと喧嘩したとか嫌いになったとかではなく、単純に会社(ミルパンセ)の新人育成が忙しくなって時間的に都合が合わなくなったからです。他意は全くありません。ただ、ご心配なく。連絡を取る必要がある時は取るし、今までどおり長電話になったりしてますから。そう。その友達付き合いの裏で、なるべく会社中心で作品作りをしたいと考えるようになりました。これは数年前にもここで語ったと思いますが、理由は簡単。

自分は30代でヒット作を生み出せなかったからです!

自覚がハッキリあります。20代は作画・コンテ・演出を中心に技術の修練。運よく29歳の時監督の仕事がいただけたので、30代は監督としてやれるとこまでやってみたんです。——で、ダメでした。ダメというのは、自分は業界の先達を統計的に見て、30代でそこそこ成果を出して、ピンのアニメ監督として認められない限り、40代以降でコンスタントに監督の仕事は貰えないのが分かっていたからです。そういうものです、業界は。その“30代の成果”がなかった人は自宅作業の“コンテ描き”になる40代の未来しか見えていませんでした。いや、その監督順番待ちコンテマンを否定する気は全くありません。その人の好き好きですから。どんなジャンルでも“個人単位のデスクワーク”は効率良く稼げるもので、そりゃあTVシリーズ月4本コンテ切れ(描け)ば、お金持ちになれます。俺も週1コンテくらいはできます(実際そんな時期ありました)が、やっぱ自分はどうしても制作現場が好きなので、稼ぎは二の次。スタジオ入って作画やら処理でギャーギャー喚きたいタチなんです。よって30代終わりにミルパンセで新人の育成からやる! に方向転換したと。
 それでも30終わり~40入口、つまりその過渡期はまだ大きな会社に出入りして監督してたんですが、所属するつもりはありませんでした。学生時代の同期が下請け会社で出来高(単価制)生活苦をおくっていた駆け出し時代、板垣はテレコム・アニメーションフィルムの社員だったため、大手の裕福さも分ってたし、逆に不自由さも心得ていました。例えば単純計算で監督が10人いる大手のスタジオは、自分に監督が回ってくるサイクルが4~5年に1本、下手すると体よく“監督待機中コンテ・演出マン”で10年とかになったりします(ヒットタイトルをモノにした方は別ですが)。だから、テレコム退社した時点で「次、社員になるなら自分達で作った会社で!」と決めていました。30代に通過した会社からも社員契約のお誘いはあったのですが、全部お断りして「フリーでやります」と。テレコムの先輩方を裏切った(恩返しできず辞めてしまった)ことに対する“禊”の気持ちでもありました。
 そんなこんなで自分の40代は個人事業主として、あちこちのスタジオで監督してはアニメーターの面倒すら見ず、作家気取りで自分の年収だけを上げて回るようなことだけはしたくなかったのです。そもそもそういう制作現場に対して無責任な人が「アニメーターの待遇改善を!」と謳う団体に加入して、国から助成金やらを貰ってアニメ制作費にしたとて、フリーランスのアニメーター自体が無責任な仕事(気が向いた時にラフ原描き逃げなど)を自ら見直さない限り、数千万円程度では焼け石に水。アニメーターもTwitterとかで「国が~」「政府が~」とか飛ばしていないで、己のワーク・スタイルを見直し、

タイム・カード押して毎日定時に出勤するからちゃんとした時給で貰える社員にして下さい!

くらい言ってからの話! いつ手を付けるのか? どこにどう使われるか? も分からない相手に銭払えないって、クライアントも。と、少なくとも現時点ではクライアント(スポンサー)側より、俺たちアニメ制作スタッフ(作り手)側の方の意識改革がまずもって急務かと! あくまで板垣個人はそう思って、行動しています。

 ちょっと熱く逸れましたが話を戻して、自分が目指そうとした40代とは、

“自分一人で”ではなく“自分も含む会社全体”で仕事がいただけて、そして作れるようになること!

なんです。地位も名誉も金も諦めれば、ただ一つ「監督として作品を作り続けたい!」くらいの願いは叶ってもバチは当たらないかと。ちなみに自分は少々調子に乗ってた30代よりギャラは半分に設定して社員にさせてもらいました。もちろん俺自身、後輩の見本になるため、タイムカードも毎日定時で押しています。
 数年前、俺から某プロデューサーに、

「板垣個人では“ヒット作一つ持ってない監督”だから、某Pさんが名前出しても(企画は)通らないだろうけど、“俺も含む会社単位”で、ならどう?」

って、訊いたことがあります。すると某Pからは、

「人材育成好きの板垣さんが育てたスタッフと板垣監督になら、仕事は作れます!」

と返されました。それがすべて。某Pは未だに俺のこと「賢い」と言ってくれてます。でも、俺に言わせると賢いとかいうより単なる生存本能とでも言いましょうか? 人間、謙虚に分をわきまえさえすれば「最後の一つ」くらいの願いは叶うものです。俺に言わせれば、自分の分をわきまえず「好きな仕事だけやり」「身の丈以上の金が欲しくて」「世界中から褒められて“俺だけ”有名になりたい」と思ってる人って、ムシが良過ぎます。

──皆さんの周りにそう言う人、居ませんか?(て、もし居ても一報は不要です。)