COLUMN

第221回 リンクの外で 〜ユーリ!!! on ICE〜

 腹巻猫です。コミックマーケット99に参加します。12月30日(木)東L-40a「劇伴倶楽部」です。新刊なし。既刊在庫分を頒布します。持ち込み数少なめですので早期撤収するかも。コミケ参加はこれで最後の予定です。なお、いつもと参加条件が異なりますので、参加される方は下記も参照ください。
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 ドラマをそんなにたくさん観ているわけではないが、今年放映されたドラマの中で特に面白かったのが坂元裕二脚本の「大豆田とわ子と三人の元夫」だった。音楽的にも、音楽担当の坂東祐大が自ら選曲と音楽演出を担当していたり、STUTSが担当したエンディング主題歌がエピソードごとにバージョンが変わったりと凝っていた。
 坂東祐大は今年話題になった劇場アニメ『竜とそばかすの姫』にも参加している。岩崎太整率いる作曲チームの一員として、竜の登場シーンに流れるチェロの曲「竜」や神秘的でエキゾチックな「竜の城」、クライマックスに流れるボーカリーズ曲「素顔」といった重要な曲を担当しているのだ。
 その坂東祐大が音楽を手がけたTVアニメがある。2016年に放送された『ユーリ!!! on ICE』である。同作の音楽担当には梅林太郎と松司馬拓の2人がクレジットされているのだが、その松司馬拓こそ、坂東祐大の別名義なのだった。今回はその音楽を聴いてみよう。
 『ユーリ!!! on ICE』はフィギュアスケートを題材にしたオリジナル作品。主人公の勝生勇利(ゆうり)は実力が発揮できず不審に悩む23歳のフィギュアスケーター。その勇利のコーチを申し出たのが世界トップクラスのフィギュア選手ヴィクトル・ニキフォロフだった。勇利はヴィクトルの指導で練習を重ね、世界の強豪選手と競いながらグランプリシリーズ戦に挑む。勇利をライバル視し、闘志を燃やすのが、ロシアの金メダリスト、ユーリ・プリセツキー。2人のユーリとヴィクトルの3人を中心に描かれるスポーツ青春アニメである。

 音楽は梅林太郎と松司馬拓(坂東祐大)の共作。ドラマの背景に流れる劇伴音楽だけでなく、フィギュアスケート競技のシーンに使われるオリジナル曲(スケートプログラム曲)も制作している。
 坂東祐大は1991年、大阪府出身。東京藝術大学作曲科を首席で卒業し、同修士課程作曲専攻を修了。現代音楽の作家として活躍する作曲家・音楽家だ。ドラマ「美食探偵 明智五郎」や劇場作品「来る」(共作)といった映像音楽作品もあるが、あくまで主戦場は純音楽、というより、映像音楽も現代音楽の一ジャンルとして取り組んでいる印象を受ける。
 梅林太郎もまた東京藝術大学音楽学部作曲科出身の作曲家で、TVアニメ『スペース☆ダンディ』や『キャロル&チューズデイ』の音楽に参加するなど、多方面で活躍中。本作では、梅林がポップミュージック系の楽曲、松司馬拓(坂東祐大)がクラシック系の楽曲を手がける形で分担している。
 音楽プロデューサーの冨永恵介の証言によれば、本作の音楽制作はスケートプログラム曲から始まった。曲に合わせて作画をするため、作画の前段階から制作に取りかかり、推敲に推敲を重ねて完成度を上げていったという(「Febri」VOL.40のインタビューより)。
 各選手のために書かれたスケートプログラム曲は一種のキャラクターソングであり、その選手のテーマ曲ととらえることもできる。曲調もバラエティに富んでおり、楽曲の構成や編曲も凝っている。本作におけるスケートプログラム曲は、音楽の主役。いわばミュージカルにおけるミュージカルナンバーのような位置づけなのだ。
 こうして作られたスケートプログラム曲は放映当時から話題になり、スケートプログラム曲だけを集めたアルバム「Oh! スケトラ!!! ユーリ!!! on ICE/オリジナル・スケートソングCOLLECTION」が2016年12月にエイベックス・ピクチャーズから発売された。本作の音楽に関するインタビューやコメントもスケートプログラム曲に関するものがほとんどだ。

 が、当コラムではあえて劇伴音楽のほうに注目してみたい。
 本作ではスケートプログラム曲も劇伴も同じ作家が手がけている。スケートプログラム曲のフレーズが使われた劇伴があったりして、スケートプログラム曲と劇伴がリンクしているのが面白いところだ。が、ほとんどの劇伴音楽はスケートプログラム曲とはまったく離れたコンセプトで作られている。
 緻密に作りこまれたスケートプログラム曲と比べると、劇伴音楽の多くはシンプルな編成とアレンジで書かれている。ピアノソロの曲やバンド編成の曲が多い。いくつかの楽曲では、坂東祐大が2016年に立ち上げた演奏家グループ「Ensemble FOVE」が演奏に参加している。
 音楽演出に目を向けると、曲を長く使う場面もあるが、数秒から数十秒程度に曲を短く切って流す演出が印象に残る。メロディを聴かせるというよりも、楽器の音色や短いフレーズを聴かせることで映像に感情の彩りを加えたり、テンポ感を与えたりする演出が多いと感じた。
 劇伴のシンプルな作りとストイックな使い方は、主役であるスケートプログラム曲を際立たせることにもなっている。が、スケートプログラム曲に対して劇伴が聴きごたえの面で劣るかというと、けしてそうではない。劇伴にはスケートプログラム曲とは異なる魅力と面白さがあるのだ。
 本作の劇伴音楽を収録したサウンドトラック・.アルバムは「ユートラ ユーリ!!! on ICE/オリジナルサウンドトラック COLLECTION」のタイトルで2017年7月にエイベックス・ピクチャーズから発売された(正式には「ユートラ」のあとに温泉マークが付く)。
 収録曲は以下のとおり。

  1. History Maker (TV size)/DEAN FUJIOKA
  2. Serenade for two (reprise)/松司馬拓
  3. Fanfare on ICE/松司馬拓
  4. Kiss and Sky/梅林太郎 & y0c1e & ハヤシベトモノリ
  5. Let’s Go Skatin’/梅林太郎
  6. Warming Up!/松司馬拓&ハヤシベトモノリ
  7. Right Next Door to A Tiger/松司馬拓
  8. 3+2/松司馬拓
  9. ゆ〜とら/梅林太郎
  10. Reverie/松司馬拓
  11. Memories on Ice/松司馬拓
  12. Tweeting/松司馬拓
  13. Showdown/松司馬拓
  14. 5+7/松司馬拓
  15. Garden of April/松司馬拓
  16. Gigue in St.Petersburg/松司馬拓
  17. Minako’s mood/松司馬拓
  18. Tense 1/松司馬拓
  19. Kamome/松司馬拓
  20. Drifter/松司馬拓
  21. Tiger Hole/梅林太郎
  22. Run & Run & Run/松司馬拓
  23. Hug Tight/松司馬拓
  24. ピアノ練習曲ロ短調 (Piano etude in h-moll)/松司馬拓
  25. Poppo/松司馬拓
  26. F.Chopin Prelude in E moll Op.28-4/梅林太郎
  27. Afternoon Waltz/松司馬拓
  28. Yuri on ICE (1st sketch)/梅林太郎
  29. Tense 2/松司馬拓
  30. Heartbeats/梅林太郎
  31. Passacaille in Barcelona/松司馬拓
  32. At The Airport /松司馬拓
  33. Prism/松司馬拓
  34. Circles/梅林太郎
  35. Yeah Yeah Yeah/ハヤシベトモノリ
  36. Piano Trio Appasionato/梅林太郎
  37. You Only Live Once (#7 TV size version)/YURI!!! on ICE feat. w. hatano

※「/」以降はアーチストまたは作家名(アルバム解説書のクレジットより)。

 1曲目はオープニング主題歌、最後の曲はエンディング主題歌。エンディング主題歌は第7話で使われた特別編集版だ。この回は本編ラストからイントロが流れ始め、そのままエンディングに突入していく。冨永恵介はインタビューの中で、この編集バージョンを自身のお気に入り曲のひとつとして挙げている。
 実は本作の劇伴では、こうした音楽の編集が多くの場面で行われている。冨永恵介は音楽プロデューサーとして楽曲制作を指揮するだけでなく、毎週ダビング現場に通って、各話の選曲と音楽の編集まで手がけていたという。
 そのため、サウンドトラックを聴くと「こんな曲だったのか」と思う曲も多い。シーンによってはリズム抜きやストリングスのみといったミックス違いが使われていて、本編とサントラとで印象が異なる曲がある。
 アルバムの構成は『ユーリ!!! on ICE』の世界と物語を音楽で再現するイメージサントラ風。同時に本アルバムは、スケートプログラム曲を集めたアルバム「スケトラ!!!」と対をなすアルバムにもなっている。
 2曲目の「Serenade for two (reprise)」からして意味深だ。「reprise」は「くり返し」のことで、音楽アルバムやミュージカルの中で前に演奏された曲がもう一度出てきたときに使われる表記。だから通常はアルバムやミュージカルの後半で使われることが多い。ところが2曲目から「reprise」である。なんの「reprise」かといえば、「スケトラ!!!」に収録されたスケートプログラム曲「Serenade for Two」の。「Serenade for Two」と同じメロディが「Serenade for two (reprise)」で使われているのである。本アルバムが「スケトラ!!!」の続編として作られていることが、こんなところからうかがえる。ちなみにこの曲はTV放送時の提供バックに使われた。
 3曲目「Fanfare on ICE」はフィギュアスケート大会のファンファーレとして使われた曲。
 続いて高揚感たっぷりの「Kiss and Sky」が登場する。第1話の冒頭、ヴィクトルが大会で優勝する場面に流れていた曲である。スケートプログラム曲として使えるような華やかな雰囲気があり、同時に第6話や第11話では大きな見せ場に向かっていく物語を盛り上げる劇伴としても機能している。アルバムの開幕を飾るにふさわしい勢いのある曲だ。
 次の曲からは勇利たちの日常を彩るユーモラスな曲や心情描写曲が並ぶ。
 本作の日常音楽で印象的なのがエレキギターを中心にしたバンド編成の曲。5曲目「Let’s Go Skatin’」はその代表で、第1話の勇利の自己紹介シーンをはじめ、エピソード冒頭の「これまでのあらすじ」のバックやフィギュアスケート競技の説明のバックなどに流れている。軽快なリズムが映像にほどよいテンポとユーモラスな空気を加えてくれる。
 オルガンとバンドによる「Warming Up!」(トラック6)、ピアノとバンドによる5拍子の曲「3+2」(トラック8)、予告音楽としても使われたピアノとパーカッションによる変拍子の曲「5+7」(トラック14)、バンドとブラスセクションによる「Run & Run & Run」(トラック22)なども同様だ。コミカルなシーンや楽しいシーンに使われているので印象に残っている人も多いだろう。
 同じバンド編成でもワイルドなサウンドを聴かせるのが「Right Next Door to A Tiger」(トラック7)と「Tiger Hole」(トラック21)。ギターの「キュイーン」という唸りが特徴的。これらはユーリの登場場面に使われることが多く、エレキギターで「キュイーン」とくればユーリの顔が浮かぶ。
 初期のエピソードで流れていい感じを出していたのがトラック9の「ゆ〜とら」(正式には曲名の最後に温泉マークが入る)。笛の音色でゆる〜く奏でられる、ちょっとトロピカルな、のんびりムードの曲である。日本に来たヴィクトルが温泉につかる場面やカツ丼を食べる場面などに使われていた。梅林太郎によれば、自身が手がけた曲の中で一番すぐにメロディができたのがこの曲だったという(『アニメディア』2019年3月号のインタビューより)。
 アコースティック・サウンドで爽やかに奏でられる曲もある。トラック10の「Reverie」だ。「Reverie」とは「夢想」を意味する英語。夢見心地のように心が揺れ動くシーン、くつろぎのシーンなどに使われている。ゆったりしたコードストロークから始まり、リズムが加わって心のさざめきを表現、後半はグラスハープの音色が重なり「夢想」のイメージが強く打ち出される。第1話でヴィクトルが勇利に「今日からお前のコーチになる」と宣言するシーンなどに使われた。
 クラリネットとストリングスによる「Garden of April」(トラック15)は古楽的雰囲気のある軽快な曲。劇中ではストリングスのパートのみが使われた(第6話)。トラック27の「Afternoon Waltz」はバイオリンとピアノによる優雅な曲で、リンクを離れた勇利たちのひとときを演出している。第10話で勇利とヴィクトルがバルセロナ観光を楽しむ場面の使用が印象的だ。同じく第10話で勇利がヴィクトルためにプレゼントを買う場面の「Kamome」(トラック19)もピアノとストリングスの穏やかな響きが耳に残る。こうしたクラシカルな曲は映像に上品な香りを添える役割を果たしているようだ。
 「Reverie」で使われたグラスハープはトラック11の「Memories on Ice」にも使われている。グラスハープとはガラス製のグラス(ワイングラス)に水を入れ、濡らした指でグラスの縁に触れることで音を出す楽器。シンセでは再現できないような神秘的・幻想的な音色が出る。演奏は日本では珍しいグラスハープ奏者・大橋エリ。この曲は勇利やユーリが過去を回想するシーンに流れていた。冨永恵介は「スケートとの親和性を考じて、グラスハープの録音を採り入れたことが個人的には新鮮でした」と語り、「その刹那的で、アナログなサウンドが回顧的な雰囲気、繊細な緊張感などを生んでいたとも思います」とふり返っている。
 本作の劇伴音楽でエレキギターの音とともに記憶に残るのがピアノの音である。繊細な心情曲からドラマティックな曲まで、幅広いピアノ曲が映像を彩ることになった。
 にぎやかなピアノ曲の代表が「Showdown」(トラック13)。強いアタックで奏でられるジャジーな曲だ。曲名の「Showdown」とは「対決」の意。ワイルドな曲調がユーモラスな効果を上げている。本編では第3話冒頭の「これまでのあらすじ」や第8話のロシア大会でユーリがリンクメイトたちと再会する場面などに流れていた。
 トラック16の「Gigue in St.Petersburg」はピアノと弦楽器が演奏するロマンティックかつドラマティックな曲。大げさな曲調がかえってユーモラスだ。第2話でヴィクトルがロシアから日本へ旅立つ場面、第4話のリリア・バラノフスカヤ登場場面などに流れ、強烈な印象を残した。
 同じくロマンティックなピアノ曲がトラック23「Hug Tight」。第3話でヴィクトルの演技を見た勇利が「男と女の物語」を妄想する場面、第5話で演技前に緊張している勇利をヴィクトルが抱きしめる場面に使用された。ユーモラスな感じもあるが、シリアスな空気もただよう。松司馬拓が演奏するピアノも情感たっぷり。聴いていてドキドキする曲である。
 いっぽうで軽いジャズタッチの「Minako’s mood」(トラック17)は心が華やぐような3拍子の曲。こちらもピアノ演奏は松司馬拓。浮き立つ気持ちが伝わってくる。
 ピアノ曲の変わり種に、トラック24の「ピアノ練習曲ロ短調 (Piano etude in h-moll)」とトラック28の「Yuri on ICE (1st sketch)」がある。前者は第4話でユーリが演技の練習に使っていた曲。「スケトラ!!!」に収録された「ピアノ協奏曲 ロ短調 アレグロ・アパッショナート」のピアノソロ・バージョンだ。後者は同じく「スケトラ!!!」収録の勇利のフリースケーティング用曲「Yuri on ICE」の原曲である。劇中でも勇利がこの曲を演技用にブラッシュアップしていく描写がある(第4話)。いわば「スケトラ!!!」の舞台裏が聴けるわけで、本アルバムと「スケトラ!!!」とのつながりを意識させる。
 演技前の緊張感もピアノで表現される。トラック29「Tense 2」はリンクインする前のユーリの心情表現などに使われた曲。ピアノの低音と中高音が交互に鳴らされるだけのシンプルな曲だが、そのシンプルさが張りつめた心情や決意を伝える。実に劇伴的で実に効果的な音楽だ。
 その次の「Heartbeats」もピアノソロによる心情描写曲。劇中では勇利の気持ちが動く場面にピアノソロの短いフレーズがしばしば使われているが、その多くがこの曲の一部をアレンジしたものである。ただ、曲がそのまま使われているのは、たぶん第10話だけ。ほかの場面では別ヴァージョンか、もしかしたらそのシーン用に演奏したテイクが使われているようだ。が、サントラでこの曲を聴くと、傷心の勇利、自身のネクストステージについて思いを巡らす勇利、ヴィクトルに決意を伝える勇利などが思い出される。
 サウンドトラックの終盤には重要な曲が集められている。トラック31「Passacaille in Barcelona」はピアノとストリングスによる、フランス映画音楽のような切なく美しい曲。第10話の終盤、バルセロナの海岸でヴィクトルがもの思うシーンに流れていた。勇利とヴィクトルの関係の変化を予感させる音楽だ。
 次の「At The Airport」(トラック32)は第9話のラスト、勇利とヴィクトルの再会シーンに1度だけ流れたピアノソロの曲。淡々と降る雪を思わせるピアノの旋律が、後半では恋人同士の邂逅を描くようなロマンティックなタッチに変化する。本作の中でも音楽とドラマが一体になった名場面のひとつ。
 トラック33「Prism」はEnsemble FOVEのストリングスをフィーチャーした曲。弦合奏が少しずつ響きを変えながら鳴り続け、終盤から入るピアノが光のきらめきにも似た鮮やかな音色を聴かせる。印象派音楽を思わせる現代音楽風の曲だ。本編では第4話で勇利がヴィクトルと出逢って以来すべてが新鮮に見え始めたと思う場面、第5話で首位を獲得した勇利が勝利をかみしめる場面、第9話のグランプリファイナル開幕直前で盛り上がる会場の場面など、「ここぞ」という場面に使われている。
 次のトラック34「Circles」はシンセとストリングス、ピアノ、パーカッションなどによる軽快な楽曲。キラキラした音色が奏でる、軽やかに踊るメロディが心地よい。第3話のラスト、勇利がグランプリファイナルでの優勝を誓う場面で使われた。最終話(第12話)のラスト、勇利がヴィクトルにコーチを続けてほしいと伝えるシーンにもこの曲のアレンジ、もしくはミックス違いが流れている。曲名の「Circles」は円の複数形だが、勇利たちが氷上で描く円と、勇利たちが作る友情のサークル、そして物語が一周まわってもう一度始まる円環の意味をかけている気がする。
 ここまでで物語は完結。次のトラック35「Yeah Yeah Yeah」はアンコールのような曲だ。バンドとヴォーカルが演奏する陽気なお祭り騒ぎの音楽。第10話の特殊エンディング曲として、バンケット(大会後の選手たちの交流パーティ)のダンス合戦で盛り上がる勇利たちのモンタージュをバックに流れた。インパクト抜群だったので、アニメをご覧になった方なら覚えているだろう。冨永恵介はこの曲もお気に入り曲のひとつに挙げている。
 そしてもう1曲、トラック36「Piano Trio Appasionato」はジャズのピアノトリオ編成で演奏されるエネルギッシュな曲。「Appasionato」は「激情的」という意味で、その通り熱量の高い演奏がくり広げられる。使用されたのは第5話のラスト、勇利が「愛を知って強くなった僕をグランプリファイナルの金メダルで証明します」と宣言する場面。「明日への挑戦」とでも呼ぶべき場面で、曲の熱さが勇利の心に燃える思いを表現している。この曲がサウンドトラックの締めくくりに置かれたのは、勇利の挑戦がまだまだ続くことを示唆しているのだろう。実際、本アルバムが発売される3ヵ月前の2017年4月、『ユーリ!!! on ICE』の完全新作劇場版の制作が発表された。劇場版はいまだ制作中である。

 華やかなスケートプログラム曲に彩られた『ユーリ!!! on ICE』の世界。その「B面」とも呼べる劇伴音楽は、スケートプログラム曲とは異なる魅力を放って輝いている。リンクの中は勇利たちが命を燃やす青春の舞台。しかし、リンクの外にも青春がある。リンクの中と違って、素顔のまま、ときには弱さを見せたり、ときには人とぶつかったり、ときには羽目をはずしてみたり。それも青春だ。「ユートラ」はそういう曲を集めたアルバムである。

ユートラ ユーリ!!! on ICE/オリジナルサウンドトラック COLLECTION
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