小黒 そして『カレイドスター』が終わって『ケロロ軍曹』が始まる。
佐藤 はいはい。
小黒 『カレイドスター』の放映が2004年3月までで、『ケロロ軍曹』が4月にスタート。『カレイド』の作業を引っ張ったので、佐藤さんが『ケロロ』に本格的に入るのが遅れた、と聞いた記憶があります。
佐藤 そう……だったです? 並行してやっている時期があるのか。『ケロロ』とか『(ふしぎ星の☆)ふたご姫』(TV・2005年)とか、その頃の記憶は、色々ごちゃごちゃになってるんですよね。
小黒 並行してやっていたのは間違いないですね。『カレイド』が遅れていなかったとしても、『カレイド』の制作中に『ケロロ』の仕込みをやっていたわけですよね。
佐藤 そうだね。気分がダウンになった頃の具体的な記憶はないんですけど、例えば『ふたご姫』の主題歌を聴くと、その時の気分がよみがえるんですよ。
小黒 つらかった時の気分ですか?
佐藤 そうそう。「あっ、この時、つらい気分だったな」って。
小黒 分かります、分かります。僕もそういう曲があります。
佐藤 (笑)。何があったかは覚えてないんだけど、その時期なんですよね。『ケロロ』もね、2年目の主題歌なんかを聴くと、その気分がよみがえってくるんですよ。
小黒 じゃあ、精神的につらい時に作ったんですね?
佐藤 そうそう(笑)。
小黒 つらい時期の話で申しわけないですが、『ケロロ』の事を聞いてもいいですか。
佐藤 はいはい。
小黒 どうして総監督をやる事になったんですか。
佐藤 オファーはサンライズからもらったんだったかな。あの原作を「ファミリーコンテンツ」にしたかったそうなんだけど、その時、サンライズでやってる人の中には、そういったものが得意な人が見当たらなかったと。それと、あまり予算を使わないのが前提だったんです。「枚数を少なくしても面白いものを作れるのは、やっぱり東映の人じゃないか。佐藤さんなら、なんとかしてくれるんじゃないか?」という感じで呼ばれた(笑)。その2点が大きかったんじゃないかな。
小黒 ファミリーコンテンツにするというのは、原作にあるマニアックな味付けや、色っぽいところを薄味にしていくという事ですね。
佐藤 そうですね。そういう意図でオファーをもらいました。ただ、現場的な作業をガチではできないと思うので、例によって「総監督ならできると思います」とお話して、監督として山本(裕介)さんに入ってもらう事になった。山本さんはサンライズからのオファーだったはずで、僕は初対面だったと思いますね。
小黒 脚本打ちやコンテチェックは佐藤さんの役割なんですね?
佐藤 いや、1年目のホン打ちは全部、立ち会ったんですけど、コンテチェックは基本的に山本さんですね。
小黒 そうなんですね。
佐藤 最初の頃は、山本さんのチェックの後に僕が見るやり方を考えていたんだけど、早い段階で「大丈夫だ」と感じたので、山本さんにお任せしてるはずです。
小黒 なるほど。途中から総監督じゃなくて、監修になるんですが、これはどういう経緯だったんですか。
佐藤 他の作業もあったりしたので、アフレコとダビングのところだけ立ち会うぐらいの関わり方にさせてもらおうと思って、そうしたんだったかな。ホン読みは全然出なかった。コンテ、内容も含めて、それは全部お任せするとなったんだけど、後半はアフレコも問題なく進むので、立ち会うのはダビングだけになってましたね。
小黒 ダビング立ち会いではどういった事をするんですか。
佐藤 特に何をするという事もないんですけどね。完成形ができるのがダビングなので、そこは一応、観ておくと。稀に、音楽について意見を出したりしたぐらいですね。
小黒 じゃあ、主にお仕事されたのは、1年目ですか。
佐藤 そうですね。シリーズ構成の池田眞美子さんも「じゃあ、構成を辞めようかな」という感じだったので、一緒に外れたんですよね。
小黒 いや、2年目もやってるんじゃないですか。総監督としてクレジットされているのが2年目の最後までなので(編注:3年目からの役職は監修。池田眞美子がシリーズ構成でクレジットされているのも、2年目の最後まで)。
佐藤 えっ、2年目もやったかな? そうだそうだ。2年目はオリジナルの話をやんなきゃいけなくなってるので、やってますね。その後、僕が総監督を外れた時に池田さんも一緒に辞めたんだった。
小黒 作品コンセプトの話に戻りますが、原作をちょっと子供向けにして、日曜の朝に観られるようなものにしたい。
佐藤 そうですね。「ファミリー向けにしたい」っていうオーダーだったので。
小黒 キャラクターデザインを誰にするのかについては、佐藤さんも関わってるんですか。
佐藤 キャラクターデザインを追ちゃん(追崎史敏)にオファーしたのは、僕なんですよね。「誰がいい?」みたいな話になって、僕から「追崎君がいいんじゃないか」と言って。「とりあえずラフでいいので、描いて」ってお願いしたんだけど、そん時の追ちゃんが凄く忙しかったんじゃなかったかな。これは、追ちゃんに聞かないと分かんないけど。
小黒 なるほど。佐藤さん的に「『ケロロ』はこういうふうに作るべき」と思った事は他にありますか。
佐藤 子供向けだったので、「どうしようかな?」と色々考えた。最初に思ったのは、冬樹が割とニュートラルなので、もうちょっと駄目っ子にしたほうがいいかなと。のび太的なテイストを出すのが、視聴者の年齢層を下げるにはいいかなと思ったんだけど、原作の吉崎(観音)さんに提案したら、「冬樹はそういう方向ではない」という話だったので、それはやめましたね。ただ、ファミリー向けにするなら、夏美やママがグラマラスなところは避けたいなと思いました。小学校高学年ぐらいになってくると、女の子がセクシャルなものについて、ちょっと嫌悪を示したりする事もあるので。そのぐらいの年齢の子が読む少女マンガって、ほんとに胸がペタンとしてるのが普通じゃないですか。「そういうテイストに変えたいです」って話をして、吉崎さんにもオッケーいただきました。最初はママもそうするつもりだったんだけど、それをやるとキャラが全然変わっちゃうので、「ママはグラマーなままでいいか」と、元に戻してるんですけど(笑)。内容的な事を含めていくつか提案して、オッケーもらって進めていましたね。吉崎さんは「ホン読みに参加したい」という事だったので、シナリオ打ち合わせには吉崎さんも参加してますね。ただ、最初の打ち合わせに入る時に「アニメーションの最終的なジャッジは僕のほうでするので、吉崎さんの意見を却下する事もあります」という了解をもらってます。そういうルール作りをしてから、スタートしたんですよね。
小黒 別の取材でもうかがいましたけど、他には「ケロロがいい奴で、冬樹との友情に厚い」事を重視すると。
佐藤 そうですね。そこは、とにかく死守しようと(笑)。それがズレると好感度が下がって、アニメだと笑えなくなるんじゃないかという気がしたので。「2人の友情に関しては揺るぎないほうがよいはずだ」と思っていました。
小黒 視聴者が観てて安心できるものにするという事ですね。
佐藤 うん。