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佐藤順一の昔から今まで(27) 『カレイドスター』の すごい 思い出・1

小黒 「佐藤順一の昔から今まで」の取材は今回で4回目です。『カレイドスター』(TV・2003年)からうかがいますね。佐藤順一ヒストリーの中でも、大きな1本ではないかと思いますが。

佐藤 そうですね。

小黒 そもそも、どうしてGONZOで監督をする事に?

佐藤 この前にGONZOの『ゲートキーパーズ』(TV・2000年)というTVシリーズがあったんですよ。オファーをもらって『ゲートキーパーズ』をやっている時に、池田東陽がアシスタントプロデューサーとして入っていて。「次は1本、一緒にやりたいよね」と話をしてる中で「こんなんあるんだけど」と言って出した企画が、『カレイドスター』のペライチの企画書。

小黒 じゃあ、元々の企画案は佐藤さんから出されたんですね。

佐藤 そうですね。僕のほうから「こんなTVシリーズやってみたいな」という企画を提出して、それを池田東陽が成立させたっていうのが、大まかな流れですかね。

小黒 佐藤さんの出した案は、元々はどういった内容だったんですか。

佐藤 基本的には、そんなに変わってないです。ターゲット的には子供向けで、女の子がサーカスをやるという。『(おジャ魔女)どれみ』とかよりも、少し上のターゲットっていうイメージの企画ではありました。

小黒 佐藤さんがやりたかったポイントはどこなんですか。

佐藤 サーカスですね。

小黒 サーカス。熱血じゃないんですか。

佐藤 自分が好きなので、そういう方向にしましたけど、そもそものきっかけとしては、サーカスもののアニメがあんまりない。だけれども、子供達はサーカスに凄く興味を持ってるなという体感があったんです。そう思ったきっかけは『ダンボ』なんですね。子供の頃にディズニー作品の『ダンボ』等でサーカスの存在は知ってるけど、実際には観た事がないという人が相当いる、と。そういう子達は、サーカスもので女の子が頑張る話があったら、興味を持つんじゃないかなっていうところが、スタートではあるんですね。

小黒 なるほど。

佐藤 だったら日本人が好きなスポ根の構造で作ろうか、という流れになったわけだから、そんなに大きなズレはないですよ。

小黒 で、そのままスポンサーも付いて、作れるようになったという事なんでしょうか。

佐藤 そこはやっぱり時間がかかっていて。池田東陽が生きていたら、彼に詳しく聞きたいところだけど、韓国の出資を使えば作れるんじゃないかな? っていうところにたどり着いたんです。韓国のスタッフを使う条件で、韓国の出資が決まるというシステムになったんだと思います。それで作ろうと。

小黒 その韓国のスタッフが、G&G ENTERTAINMENTというプロダクションなんですね。ゴンゾ・ディジメーションとG&G ENTERTAINMENTと、二つの会社がアニメーション制作でクレジットされています。

佐藤 ゴンゾ・ディジメーションについてはよく覚えていないけど、ゴンゾ・ディジメーション・ホールディングス(GDH)というトップの会社があって、その傘下にゴンゾ・ディジメーションがあったのかな。

小黒 話を戻すと、久々に佐藤さんが自分から動いた企画という事ですね。

佐藤 そうそう。軸になって動かそうと思った企画ではありましたかねえ。

小黒 シリーズ構成が吉田玲子さんなのは、どうしてなんですか。

佐藤 玲子さんには、色々無理もお願いしやすいのもありますし。僕が知ってる中で、長物の構成をする事について、一番信頼できる人でした。それで、玲子さんにお願いをした感じですね。

小黒 大きいお話の流れには、佐藤さんも関わっているわけですよね?

佐藤 そうそう。僕が大まかな縦のラインをダーッて作って、それを玲子さんに渡して構成にしてもらうんです。玲子さんの構成の時点で大分変わるんですけど、軸は変わらないっていうか。中盤にあるサーカスフェスティバルでの挫折のくだりは、僕はそんなに書いてないと思うので、あれは玲子さんじゃなかったかな。

小黒 その辺りは、吉田さんが膨らませたという事ですね。

佐藤 うん。

小黒 画作りに関しては、いかがですか。

佐藤 基本的には、池田東陽のチームで考えていたので、渡辺はじめさんとかも含めて、池田東陽が「この人とやりたい」という人を集めてきてる感じですね。

小黒 話は前後しますけど、池田さんが熱烈な『セーラームーン』ファンだという事を、僕達は『カレイドスター』をきっかけにして知るわけですが……。

佐藤 そうです(笑)。

小黒 その事を、佐藤さんには表明してたんですか。

佐藤 してたと思う、多分(笑)。でも、『セーラームーン』が好きだという事は分かってたと思うんだけど、どのぐらい好きかっていうのはね。人によって温度差があるじゃないですか。

小黒 ちょっと好きだったぐらいとかね。

佐藤 なんかの拍子に『セーラームーン』の話をしていて「大人が観て、本気で感動する話じゃないから」と言ったら、池田東陽に「(力強く)しますよ!」と言われた記憶がある(笑)。

小黒 (爆笑)。

佐藤 「ああ、ごめんごめん」って思いました(笑)。

小黒 池田さんの話が先になっちゃいますけど、池田さんの要望は、声優さんのキャスティングには反映されているんですか。

佐藤 まあまあ入ってるというか。「こういうところに『セーラームーン』のキャストを入れたいな」という空気感はあったので。

小黒 レギュラーにもいますし、シリーズ後半になると「ここで深見梨加さんか!」とか(笑)。

佐藤 そうそう(笑)。

小黒 打ち合わせで「俺はセーラー戦士全員を出すんだ」と言ってたわけではないんですね?(笑)

佐藤 言ってたわけじゃないけど、そういう空気感はありましたね。

小黒 確かOVAで富沢(美智恵)さんが出て、内部太陽系戦士がコンプリートされたんですよ。

佐藤 全制覇みたいな(笑)。

小黒 自分の事で言うと、放映中に「『セーラームーン』っぽい気がするのは、俺が『セーラームーン』のファンだからなのか?」と思っていて、「いや、違う違う。ここで深見梨加さんをキャスティングしたのは意図があるだろう」と途中で気づいたんだと思います。

佐藤 その意図は確かにあって、気がついたらセーラー戦士キャストが揃ったというわけではない。

小黒 シリーズ後半になって、久川(綾)さんと三石(琴乃)さんが会話すると、セーラームーンファンとしては、ちょっと楽しい気持ちになったり。

佐藤 そうそう(笑)。

小黒 佐藤さん的には、キャストはどうだったんですか。

佐藤 広橋(涼)さんはオーディションですね。櫻井(孝宏)君もオーディションだな。他は割とオファーで呼んでるはず。

小黒 後々、このカレイドチームのキャストの方々がですね、佐藤順一チームを形成していく事になると思うんですが、それは間違いないでしょうか?

佐藤 そんなつもりは別になかったけど、『カレイドスター』の頃に声優さんとの距離感が近くなったんです。それまでは「なあなあ」にならないように、ディスタンスを取るようにしてたんですけど。

小黒 佐藤さんはアフレコ後の飲み会も、あまり行く感じではなかったんですね。

佐藤 行かない。誘われても基本行かなかったんです。「そういうのもありかな?」って思ったのが、『カレイドスター』だったんですよね。そっから「作品を作る仲間」的な感じが、声優さんにも持てるようになったかな?

小黒 この「佐藤順一の昔から今まで」のインタビューで、初めて佐藤さんが照れていますね(笑)。

佐藤 そう、そうです(笑)。

小黒 (笑)。

佐藤 ずっと東映でやってると、アフレコでの演技指導を自分でやるじゃないですか。だからこそ、あまり関係が近くならないようにしておかないといけなくて。「友達みたいになると甘さが出るな」というのは、ずっと感じていた。だから、『セーラームーン』の時もそうだったけど、プロデューサー達は終わったら役者と飲み会に行ったけども、自分は「それには行ってはならん」と思ってたわけです。演技とかについての話は、基本的にはアフレコの時間の中でやるべきである、という考えだったので……。

小黒 で、それ以降は役者さんのパーソナリティをキャラクターに取り入れていくような事も。

佐藤 そう。「素はこんななんだな」と分かったら、その素も活かしていく。そういうやり方を覚えたのが『カレイドスター』だったと思います。

小黒 なるほど。例えば「レイラさんだって、全てにおいて立派なわけではない」といったかたちで掘り下げていくわけですね。

佐藤 そうですね。コーヒーを淹れられなかったりするのは、大原(さやか)さんの属性を拾ってきてる気がするし(笑)。

小黒 なるほど。

佐藤 だから、ラジオにも何回か行ってるんですよね。『カレイドスター』の「すごラジ(インターネットラジオ カレイドスター そらとレイラの すごい ○○)」といって、広橋さんと大原さんの素が出てるラジオがあって。キャラがちゃんと立ってて面白いなって凄く感じたので、「これを活かさない手はないな」と思ったんじゃないかなあ。

小黒 『カレイドスター』は飲む機会が多かったんじゃないですか。僕はスタッフでも関係者でもないけど、何度か『カレイドスター』の関係者と飲んだ記憶があります。当然そこには必ず池P(池田東陽プロデューサー)がいたわけですけど(笑)。

佐藤 (笑)。ただ、現場をやってる間は実はそうでもなかったんです。その辺の距離感が変わってきたのって、本編が終わって、ラジオをやってるぐらいからだと思うんですね。その後の作品で、キャストのキャラを活かすようになるんだけど、 『カレイドスター』の現場をやってる間は、『セーラームーン』の感じとそんなに変わってないです。池田が声優さんと仲良くして、声優さんの家でホームパーティーをやったりしてたのも、知らなかった。

小黒 そんな事をしてたんですね(笑)。

佐藤 僕が痛風で、ヒーヒー言いながらコンテの修正をしてる時に、あいつはホームパーティーに行ってやがりましたからね(笑)。


●佐藤順一の昔から今まで (28)『カレイドスター』の すごい 思い出・2 に続く


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