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佐藤順一の昔から今まで(23) 女子高生リアリズムと戦争もの

小黒 『ストレンジドーン』は「佐藤順一的な女子高生リアリズム」の、1つのかたちなわけですね。

佐藤 そうだね。それをやろうと思ってやってるからね(笑)。

小黒 今でいうところの異世界転生ものですよ。

佐藤 そうそう。

小黒 でも、異世界転生ものでは、普通トイレは問題にならないんですよ。

佐藤 そうだね(笑)。

小黒 「異世界に召喚された女子高生はトイレをどうしているのだろうか」というアニメですから(笑)。

佐藤 野原でするしかないよね。

小黒 「それは人間として終わってるでしょう」と、登場人物が自分達でツッコミを入れると。

佐藤 作中では神のように扱われてるけど、ただの女の子達だから、何もできないし、戦争がなぜ起こってるかも全く理解できない。

小黒 パンツが替えられないということも引っ張っていましたね。

佐藤 シリーズ構成の横手(美智子)さんのお得意分野だと思うんです。パンツの話も含めてだけど、女子の綺麗じゃない部分を描くっていうか。

小黒 なるほど。今観ると、凄く真面目に作られていて。

佐藤 うん。真面目に作ってますよ(笑)。

小黒 異世界の小人達も、もの凄く地に足が着いていて、それぞれに葛藤があって、彼らの人間関係も描いている。身体が小さいだけで、ちゃんとした人間なんですよね。

佐藤 そうそう、限りなく大人達に近い。

小黒 今になって思うと、小人達はヘンテコで地に足が着かないほうがよかったんじゃないかと。

佐藤 (笑)。でも、あれは一応戦争もののカテゴリで考えているんですよ。

小黒 戦争を扱った作品でもあるんですね。

佐藤 そうそう。戦争もので難しいのは「終わらないこと」だと思うんですよ。物語上では戦闘の終結があったり、日常が戻ったりして、終わるじゃないですか。でも、現実では戦争って終わらないんですよ。ずっと引きずり続けて、ズルズルと残るんです。それが難しいから、戦争ものはできないなと思っていました。今回の物語は、主人公達が元の世界に帰るっていうことで、ひとまずは着地ができる。小人達の世界では戦争はそのまま続いてるんだけど、物語としては召喚された女子高生がいなくなった時点で終われるので、これだったらできるかなと思って取り組んだタイトルではあるね。

小黒 なるほど。

佐藤 戦争で軸にしたかったのは村人のあり方だったんだよね。自分達も戦争を肯定するというかたちで加担していたくせに、敵に攻め込まれて村が焼けてしまうと、村人は手のひらを返して守ってくれていた警備隊達に悪態をつくとかね。戦いそのものでないところが、『ストレンジドーン』でやりたかった戦争描写のコアなんだけど、伝わりにくかったなって思います。

小黒 佐藤さんが絵コンテを描いてる回は1話だけで、最終回は山下明彦さんが描いていますね。これはどんな狙いだったのでしょうか。

佐藤 今回はコンテをあまりやらないで進めたいなと思ってました。シナリオは横手さんに書いてもらって、物語はシナリオ段階で詰める。その後は役者の演技と音響で表現を詰めていくことができたらいいなあと思って取り組んでいたので、絵コンテにはあんまり手を入れないようにしようと思っていたんですよね。

小黒 この頃から、佐藤さんの作品づくりは音響重視になっていくわけですね。

佐藤 そうですね。1つの作品をやると、上手くいくところもあれば、反省すべき点もあって、次はこうしてみようという気持ちが膨らんでいくんだよね。

小黒 『ストレンジドーン』では音響監督もやっているんですか。

佐藤 ノンクレジットですがやってます。小人達は実力のある役者さん達でまとめて、そんなに演技指導しなくてもいいようになっているんですよ。で、清水香里さんと榎本祥子さんという、当時まだそんなにキャリアのない、役に年齢が近い2人に主演をやってもらって。なるべく2人が普段やってるような感じで、聞き覚えのある会話のテイストにしてほしい。特に清水さんのやってるキャラクターは。

小黒 宮部ユコですね。

佐藤 ユコのセリフには「てか」とか「つかつか」とか、台本には入っていない言葉がいっぱい入ってるはずです。アニメの台本って、生のテンションで喋ると、間が余るんです。言葉を足して、余った口パクを埋めていく。「だからさあ!」の前に「てか」を付けて「てか、だからさあ!」になるとかね。

小黒 なるほど。

佐藤 シナリオにない、女子高生的な言い回しを足すことで、リアルさをキープしていこうと思ってやっていました。そういうことをやりたいなと思って始めたシリーズでもありますね。どれぐらい、それっぽくできるかと。

小黒 エリとユコの会話がかなり重要だったんですね。

佐藤 それほどキャリアのない人達を音響監督としてハンドリングする経験が、自分にはまだそんなになかったので、そこは反省点として残りましたよね。もうちょっとうまくディレクションしてあげたら、彼女達はもっとよくできたはずだなっていう部分がいくつかある。

小黒 そういう意味では『プリーティア』のほうはどうだったんですか。

佐藤 『プリーティア』のほうは、もっと普通にターゲットを定めようと。『どれみ』だと3歳から7歳ぐらいまでなんだけど、『プリーティア』では6歳から10歳ぐらいの女子をターゲットにしたアニメをやろうと思ってたかな。できればもう少し上の高校生にも観てもらいたかったけども、まずはターゲットを上げたらどうなるかな、ということをやりたくてやったシリーズだったと思います。

小黒 この頃から佐藤さんは総監督で、別に監督を立てるかたちになっているわけですね。

佐藤 ハルフィルムに入った時に、この会社がずっとやっていくためには、監督として作品の柱になる人が必要になるはずと思ったんです。東映以外の会社だと、演出をやっていた人が監督になる時に、それまでに音響の作業等を経験していない場合が多いので、その辺を伝えておきたくて入ってもらってるところはあるね。佐山(聖子)さんも、この人は将来監督をやっていくだろうから、必要なことを伝えられたらと思って、『プリーティア』に監督として入ってもらいました。

小黒 和田薫さんの音楽はインパクトがありましたね。

佐藤 『ストレンジドーン』を和田さんにオファーしたのは、僕からだったかもしれない。厚みのある、ちゃんとしたオーケストレーションでやりたいなとは思っていたんです。その頃だったら「そういった楽曲なら、やっぱり和田さんだろう」と思ったのかもしれないな。

小黒 劇中でやってることはミニマムかもしれないけど、音楽は大スペクタクルですよね。

佐藤 劇伴って当時でもなかなかお金を掛けてもらえなかったので、企画を立てる時に、「今回は、できればフルオケでやりたい。少なくとも、ある程度はオーケストラでやりたいんです」と言って、製作委員会に考えてもらった。多分、元々の音楽予算以外に、制作予算から音楽制作費を出してもらったと思います。結構な大編成で音楽を録って、それはそれでかっこいい音楽ができた、と思ってますね。


●佐藤順一の昔から今まで(24)『スレイヤーズぷれみあむ』と『プリンセスチュチュ』 に続く


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