小黒 そして、『夢のクレヨン王国』制作中に『どれみ』の準備が始まると。
佐藤 そうだね。
小黒 これは、企画段階で相当練り込んだ作品ということになるんでしょうか。
佐藤 『どれみ』に関してはそうだね。僕が入った時に決まっているのは「次はオリジナルで魔法少女ものをやることになったのよ」ということだけでした。だから、どういう魔法少女ものにするか、というところから関わっています。東映の作品は、プロデューサーとライター、あとはTV局のプロデューサー、おもちゃメーカーで大枠を決め込んでからディレクターが参加することが多かったけど、『どれみ』は、その大枠を決める段階から参加できたんです。
小黒 準備期間は長かったんですか。
佐藤 関さんとしては「オリジナルを作ることができる」というところにたどり着くまでに長い闘いがあったんだろうと思うけど、自分や(シリーズ構成の)山田隆司さんが呼ばれてからの期間は、そんなには長くなかったと思います。
小黒 「主人公達は魔女見習い」という基本の部分は、佐藤さん達のアイデアも入ってるんですね。
佐藤 そう。当然議論はしながらだけどね。魔法少女ものにするんだけど、主人公を幼稚園児にするか小中学生にするかという辺りから色々議論しています。最初の段階で、カラーリングとか性格が被らないようにするために、人数は3人くらいがいいよねと話しています。魔法のギミックに関して僕のほうから出したのは「魔法のエネルギー源みたいなものをスティックに入れると魔法が使える、それが無くなったら使えなくなる。そのエネルギー源を得るためにお店をやっている」といったところかな。
小黒 馬越(嘉彦)さんをキャラクターデザイナーに推したのは佐藤さんですか。
佐藤 それは関さんでしょうね。オーディションしたかどうかは覚えてないけど。馬越君は、俺よりも関さんのほうが付き合いが長いので。
小黒 関さんと馬越さんはかなり長いですよね。
佐藤 うん。関さんは、オリジナルをやるんだったら馬ちゃんで勝負したいと思ってたんじゃないかな。
小黒 佐藤さんが「手足を棒のようにしたい」とか「誰でも描けるキャラクターにしたい」というふうに提案したんですね。
佐藤 そうそう。東映で、しかも、TVシリーズでやるんだったら、描きやすいキャラクターがいい。悪い言い方になるけれど、巧いアニメーターばかりが参加するわけではないですから。最初に馬ちゃんが描いた画は当然上手だし、元気なキャラクターになっていたんだけど、少しリアルだったんだよね。体、腕とか足の凹凸がきっちりあって、これをみんなに「元気な女の子らしく描け」って言うのは難しいものだったんです。誰が描いても間違いなく元気一杯なキャラクターになるように「棒にしてください」とお願いをした記憶がある。
小黒 どれみちゃんがステーキが好きだけど、毎回食べられないというのは佐藤さんっぽいですけど、どうなんですか。
佐藤 あれは山田さんでしょうね。
小黒 そうなんですか。
佐藤 でも、その辺は定番じゃない? 好きなものと嫌いなものを何にするっていう話は、主人公を設定を決める時、議題に上がったかもしれないね。じゃあ、ステーキにしようか。それともたこ焼きにする? とか色々あるじゃない。
小黒 それを延々と引っ張るのが佐藤さんらしいと思っていました。
佐藤 山田さんもそうなんじゃない(笑)。だって、好きなものを1話で出したら、ずっと食べれないのが鉄則じゃん。
小黒 『魔女見習いをさがして』でも、ステーキを食べそうになって、結局食べれなかったから「あ、まだ引っ張ってる!」と思いました。
佐藤 (笑)。飛騨牛寿司は食べたから、今回はなんとか食べることができたけどね。
小黒 一応、肉は食べたと。
佐藤 1回は食べそこなってもらわないと。だから、そこはお約束かな。魔女界の女王様のクレジットを「?」にしておくのは、最初にアイデアとしては出てたんだけど、最後まで引っ張ることになるとは、当時は誰も思ってなかったと思うんだけどね(編注:キャストが誰なのかが分かると、魔女界の女王様とあるキャラクターが同一人物だと分かってしまうため、第4シリーズ『おジャ魔女どれみドッカ~ン!』50話まで配役が「?」と表示されていた)。
小黒 あの「?」だって東映だと初ですよね。要するに「月光仮面」とか、ああいった番組のネタですよね。
佐藤 そうそう、そういうやつですよ。
小黒 これは前にも聞いた時に「違う」と言われたんですけど、最初の『魔法使いサリー』や『ひみつのアッコちゃん』には悲劇的な話や感動的な話があったじゃないですか。『どれみ』で、ああいう感じを取り入れようという意図はあったんですか。
佐藤 それはなかったけど、多分、山田さんのほうにやりたいものがあった。これは僕の記憶であって、正確ではないかもしれないんだけど、教育テレビか何かで児童向けのドラマを書いてる時に、例えば「片親の家庭の話はやめてくれ」と言われたことがあったらしくて。山田さん的にはそういった話をきちんと子供達に観せたいという意識があったんだと思っていた。僕のほうでは、いい話が沢山書かれるだろうと思ったけれども、子供達は「いい話が観られるからアニメを観る」わけではないじゃない。つまり「楽しいから」「面白いから」「笑えるから」観るんだよね。「観たら、いい話だった」はアリなんだけど、いい話だけだと観てくれないから、笑いとか楽しさをこちらサイドで補強していきたかった。シナリオ会議でも、笑えるネタをなるべく出していくように意識的にやっていたけどね。
小黒 ああ、そうか。佐藤さんがお笑い回をやることが多かったのは、偶然じゃないんですね。
佐藤 そうなんだよね。いい話は、ちゃんと演出すればいい話になるんだけど、ギャグ回を笑わせるようにするのはなかなかハードルも高いので。
小黒 佐藤さんは、八太郎とスルメ子さんの話をやることが多かったですよね。
佐藤 そうね(笑)。あれはシナリオにもあった話だと思うけど。
小黒 放映当時、佐藤さんに「ある作品を意識している」と言われたことを、この前のイベント(編注:2019年11月9日(土)に開催された「第163回アニメスタイルイベント 馬越嘉彦の仕事を語る!3」)で改めて確認したら「それは意識してない」と言われたんですよ。
佐藤 そんなことがあったのね(笑)。
小黒 ええ。放映当時に矢田君のトランペットはドラマ「飛び出せ!青春」の高木を意識している。だから、埠頭でトランペット吹くんだ、と言われたんですよ。「飛び出せ!青春」の高木はトランペットは吹かなかったと思いますが、それを聞いた時、昔のドラマ風という意味だと思いました(編注:高木がギターを弾く場面はある)。
佐藤 記憶にないなあ。そんなことを意識したかなあ(笑)。
小黒 佐藤さんの演出回ではないですが、元祖MAHO堂と本家MAHO堂の話があったんですが(20話「ライバル登場!MAHO堂大ピ~ンチ!!」)、これも「飛び出せ!青春」ネタだよねと。
佐藤 「飛び出せ!青春」と思ってやった記憶はないけど、スタッフのみんなに刷り込まれてるんじゃないの?
小黒 『おジャ魔女どれみナ・イ・ショ』(OVA・2004年)のタイヤキの回(7話「タイヤキダイスキ!~親子のないしょ~」)でも、本家と元祖の話が出てくるので「佐藤さん、またやってる」と思ったんですが。
佐藤 それも定番ネタのつもりで書いてるんじゃないかな。シナリオライターさんが書いたネタである可能性も高いし(笑)。